23話 エビデンス魔法
残りの敵は槍、盾、小刀二刀流、剣二刀流の4人のみ。
勇者たちは離れた高台で様子を見ている。
ちょっと待ってね? 前回で俺、HP3になったんすよ。3ですよ! 虫が顔に這っても死にますからね!
【マインドフルネス】×9回となえた。
LV99 早乙女 勇気
HP:99961/99999
満タンにならなかった!!! 初の戦闘、なにがあるかわからなくて怖すぎるぜ!!!! 念には念を入れて、と。
【マインドフルネス】をとなえる。
LV99 早乙女 勇気
HP:99999/99999
ふー。これで一安心! 死ななくてすむぜー。
ティンカがあきれてため息をついた。
「ユーキ。攻撃系のエビデンス魔法って覚えている?」
「うーん。if-thenあたりか?」
「そのとおり! いいね。ユーキ、勘が鋭いよ」
ティンカが親指をグーの形にする。
「イフ・ゼンのエビデンス力は0、9。1に近いほどエビデンス魔法の能力が高い。【マインドフルネス】でも0、3~程度だから、約3倍の力。いかにすごいかわかる」
ティンカは胸を張りまくった。
「ユーキは攻撃する時って、ひとつひとつ考えているよね? フェイントかけて、こうして、こうやって、と」
「それが普通じゃないのか?」
「イフ・ゼンは違う。あらかじめ7つのスロットに攻撃や行動をセットしておくことで、自動的に次につなげるコンボを発動する。しかもランダムでシャッフルされる。攻め方が読まれないし、考える時間は0。ただ、敵を殲滅するだけ。試してみるのがはやいよ~」
「エビデンス魔法LV1【if-then】!!!!!!」
目の前に透明なコマンドのような板が出てきた。
「そこに今回は攻撃を当てはめてみてね。考えるだけでいい」
ティンカの言うまま、頭に思い浮かべた。
【【if-then】を登録しました~
1 掌底
2 上段回し蹴り
3 タックル
4 【マインドフルネス LV2 歩行瞑想】
5 ひじ打ち
6 足ばらい
7 拳突
ですね~。承りました~。ご利用、まことにありがとうございます~
アナタに、魔法と科学の叡智が与えられんことを切にねがう~】
なんともおとぼけな、ティンカ音声がながれる。
「よし。設定したら、対象を選んで発動するだけだよ」
さっそく、敵盾士がシールドアタックを放ってきたので試す。
その瞬間、からだが勝手に動く。この感じは、ジェットコースターに近いのかもしれない。
格闘ゲームの必殺技のように立て続けに拳や足技をぶちこみ、瞬殺する。
最後は一撃も喰らっていないのに、回復までする完璧なお仕事。
黒ローブはからだを岩肌に激しく打ち付けたあと、動かなくなった。
振り返るとティンカと目があった。
「すごいぜ。これはほんと使える。勝手にコンボ決めてくれるのがすごい」
「攻守ともに使えるし、最速で動ける。【if-then】はまさに科学と魔法の幸せな結婚なの~むふ~」
力の差を感じたのか、黒ローブ達が尻込みしている。
「いまだ、ユーキ。一気にたたみかけて撲殺じゃ~。うちらとエビデンス魔法があれば敵なんかいない~」
急にアドレナリンMAXになったティンカがけしかける。
「エビデンス魔法LV1【if-then】!」
「さっきのセット内容でよければ、そのまま継続。内容を変更したければ、再セットね~」
そのままでいく。
「このままだとやられる。本気を出すぜ」
叫んだ槍使いが乱れ突きをかましてくる。
それを、自動で見切って、【if-then】をたたき込む。
木に槍ローブが激突し、太い木が裂けて一緒に倒れた。
最後に【if-then】の【拳突】が飛んでいって、離れていた小刀二刀流を上空へすっ飛ばした。
ドグシャッッッッ。地面にたたきつけられた。
「おほ~。1回の【if-then】で2人倒したね。すごい。上腕二頭筋が良い仕事してる~」
エビデンス魔法を使った後のティンカは上機嫌だ。
残り1人。
あれ? 剣二刀流が……いない。
と、すでに懐に潜りこまれていた。
「【if-then】!!!」
――剣二刀流が俺の横を走り抜けた。
【if-then】が回避される。
剣二刀流が向かう先には、勇者たちが隠れている。
「ティンカ、勇者を頼む!」
「はいよ~」
ティンカが返事すると、急に引き返してきた、剣二刀流がティンカに切りかかった。
「あぶなっ~。だが、私のゴアテックスは鋼の心。固いぞ、強いぞ、水弾く~」
剣二刀流の刀をゴアテックスがはじき返す。色気も死に絶え、防御力も強い。女の子にとっての最強安全科学兵器。
間違いは起こりません。絶対にね。
しかし、急なことで体勢を崩したティンカに向かって、剣二刀流が腰のナイフを投げた。
「当たんないよ!私のゴアテックスは鋼の心。固いぞ、強いぞ、水弾く~。あっ!!!!」
ゴアテックスを狙ったように見せかけ、ティンカの羽の端を狙ったのだ。
木の幹に刺さって、動けなくなってしまった。
「ごめん~。こいつは強い。気をつけて、ユーキ」
「大丈夫。すぐ助けにいく」
剣二刀流に追いつくように全力で走った。
ティンカがピンチだと思って、そちらを見ていた。
「ライラ、あぶない! 下がれ!!」
勇者の声。
――ライラとマエの悲鳴があがった。
ニックがギャー、と上空で嫌な悲鳴をあげていた。
俺はその瞬間、助ける為にティンカを見ていた。
いやな予感がして、勇者たちを見る。
「……」
声にならなかった。
からだじゅうから、力が抜けた。
剣二刀流の剣が、胴を貫いて、背中から飛び出していた。
鮮血が腹から水をこぼしたように垂れてくる。
ぼとぼと、ぼと。
「がはっ……」
勇者のうめきが聞こえた。
剣二刀流が刀を勇者の腹から雑に抜いた。
勇者が、くずおれた。
「ああ、あああああ。ゆう……勇者あああああーーーーーー……」
俺の叫びはむなしく、木霊した。




