21話 勇気ステータス1の俺には、恐れ以外なにもないんだ。
――勇者は、本当に、勇気ステータスが1で、怖くないフリをしているだけなのだ。
さきほどの勇者の手は震えていた。それに気がつかなければ、本当に勇敢な人だと勘違いしただろう。
ティンカと俺だけが高台に残された。
だから、俺にきつく当たってきたのか。
嫌われるために。
だから、俺としゃべらないようにしてたのか。
死んで、悲しませないために。
だから悪びれもなく、勇気のなさ、弱さを認めたのか。
ライラの代わりに、勇者になったのだから。
自分が弱いことを知りつつ、それを受け止め、強く、勇敢であろうとした。
それを俺と同じ勇気ステータスが、1、で。
それはいったいどれほどの勇気なのか。
いったいどれほどの臆病さと向き合えば、勇者のようになれるのか。
そして、最後は自信ないけど。俺を逃げやすくする為に作られた方便なんだろう。
勇者の村は生け贄の村。そこでしか戦士が集えない。
つまり、生け贄から税は徴収せず、保護されているはず。
お金は届けなくてもたぶん大丈夫。逃げる理由を作ってくれただけだ。
あの勇者なら、そこまで考えるはずだ。
あのときから、ずっとそうだ。決断から逃げ、選択そのものから逃げる。
逃げ続けるだけの、人生だ。
こんな時でさえ、勇者と共に戦えるのは心臓から毛の生えた映画やマンガのヒーローだけさ、と本気で思っている。
俺はちがう。臆病だ。いまだって怖い。
でも、その怖さはいま、ちがう怖さに変わっている。
エビリュックから【村長との不戦誓約書】を出して、ティンカに見せた。
「うん?」
「俺はこれにより戦うことができない。よって、勇者に言われたとおり、この金を勇者の村に届ける」
「ユーキ……」
「圧倒的に無様に逃げ出す。勇者、ライラ、マエがどんなに泣き叫ぼうが、助けを求めようが関係ない」
「ユーキ……」
「俺は、実は逃げることはぜんっぜん。臆病だとは思っていない。むしろ、戦うことこそ避けるべきだ」
声がかすれた。思った以上に語尾がか細くなった。
「……辛いの?」
「辛い? なぜ? それしかないのに? 俺には逃げることしかできないんだよ……」
くちびるを噛む。
ティンカがうつむいた。
【村長との不戦誓約書】を持って、アルゼン村、勇者たちには背を向けて、歩きだした。
「ユーキ。ほんとうにこれで、いいの?」
「なにしてんだ。ティンカ。いいに決まってんだろう?」
高台の下から金属がこすれる音が聞こえる、もう戦いがはじまっているのだろう。
振り返ると、ティンカの羽がへなっとしおれて見えた。だまってついてきた。
「ユーキ……。ほんとうに行ってしまうんだね……」
「もうなにも、言わないでくれ」
高台の反対側まで来た。ここからはアルゼン山脈の北側がよく見渡せた。
目の前も崖になっている。
すこしもどって、助走をつける。
高台の崖に向かっておもいっきり走った。
「ちょっと、ユーキ。そっちの崖からいったら危ないよ!」
崖から落ちる直前で、とまった。
「ここは景色が良い」
「……うん。だね~」
山の連峰が続く。見事な黄色がかった緑の山々が見えた。
【村長との不戦誓約書】を、ティンカの目の位置に掲げた。
それを、破り捨て、崖下に向けて、派手に投げ捨てた。
「そうこなくっちゃ」
「いまの俺には戦う力と、エビデンス魔法がある。全部、ティンカがくれたものだ」
「へへーんだ。すべてはユーキが頑張って獲得したことだよ」
胸と腰を張りまくって、親指を自分に向けまくるティンカ。
おいおい、セリフと言葉があってないぜ。照れ隠しかよ。
俺は。臆病だ。いまだって怖い。
でも、その怖さはいま、ちがう怖さに変わっている。
俺がいま、いちばん怖いことは勇者、ライラ、マエを失うことだ。
その怖さを武器にすることなら、できる。
すでに剣戟の響きと、絶叫が下から聞こえる。
心臓がばくばくとなっている。
エビデンス魔法【マインドフルネス】を発動し、心を落ち着けた――。
待っていろ、勇者。




