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20話 勇気の在処

 昨日の豪雨で足下がぬかるんではいたが、うって変わって晴天だ。

 朝日が強く刺す。野鳥の爽やかな鳴き声、梢の揺れる音、虫の鳴き声、すべてが昨日の恐怖を薄めてくれた。

 あくまでも薄まってくれただけだ。



 昨日の出来事が衝撃的すぎて、目的を忘れてしまいそうだが、俺の仕事は道案内。勇者たちを『忘れずの森』まで連れていくことだ。



 あの白竜はなんだったのだろうか。

 助けにきてくれたということだろうか。

 たまたま、気が向いて、俺たちを助けるような行動になってしまったのだろうか。



 ハンターウルフはなぜゴブリンと組んだ? 敬遠の仲のはずだ。しかも100匹近くの大軍を急に用意できるか?

 あんな大雨の中に。


 マエが俺の隣にやってきた。ニックが高く、鳴く。ニックの背中をなでると、胸を突き出して、気持ちよさそうにした。



 かわいい。いつまでもなでていられる猛禽かな。

 ティンカと一緒になでなで~して、顔がゆるみっぱなしだったのかな。

「ユーキ。その顔で歩いてると、即補導~だよ~。ユーキをはじめてテレビで見るの。そんな内容じゃあ、やだなぁ~。でも、そういうものだよね~。人生って」

「たーいほね! 逮捕! もう補導される年じゃないのよー。あと、そんなに顔ゆるんでる?」


 パッキンしめて、蛇口もしめて、顔を引き締めました。

 でも、ニックなでると、もとにもどるー。

「ゆるゆるだね~」

 ゆるっとティンカが言う。


 よかった。ほんとうに。昨日全滅したり、だれかが欠けてもこんな朝は迎えられなかった。

 感謝しなくてはいけない。

 白竜様にね。


「ユーキには逃げる男としての天性の素質を見いだしまし……見たよー。あっしにどのようにすれば、そんなに足がはやくなるのか教えてくれねーか?」


 マエはとんがりハットの位置を調整して、言った。

「訂正致しま……やっぱなし! ユーキ、昨日はほんと助けて頂いて、ほんとありがとな」


 マエが頭を下げた。絶対接着剤でくっついているとんがりハットは絶対に、脱げない。




「そうそう。本当に助かった。ユーキに助けてもらわなかったら絶対全滅してたわ。ありがとう、私たちを助けてくれて」

 横を歩いていたライラが言った。

 いやー。どう考えても、白竜のおかげなんすけどね。お礼はありがたくもらっておきます。感謝―。




 ニックがいつもみたく、ティンカに甘噛みしてくる。

 ティンカとニックは木に上って、追いかけっこをはじめた。



「ユーキはあの白い竜と知り合いなのかー。あっしはあんな竜はじめてみたぞ」

「いや。はじめてだ」

「すごいユーキのことご覧になって……見てたような気がするー」


 マエの問いかけに首をかしげる。

 本当に不思議だ。わからないものはわからないのでひとまず保留だ。



 会話も途切れ、小走りで進んだかいあって、1時間もかからず、忘れずの森の入り口まで到着した。


 坂を下りたところに広大な森があり、中央に人が1人入れるほどの獣道がある。そこが入り口だ。俺はこの先まで行ったことはない。



 目の前にはなんといっても天までそびえる横幅も超大な樹木ね。マエに聞いたら『ユグド霊木』っていうらしい。あれ、なんの為に生えているんだろうね。


 その手前に中央ルート、左、右の迂回ルートがあわさる広場がある。



 昨日の雨で足跡、匂いは流れてしまっているだろう。

 忘れずの森の獣道は、うっそうとした木々に覆われている為、そこまで足場が濡れていない。



「アルゼン村の住民に聞いた話だと、オレたちが出発する半日か一日前に誘拐犯はアルゼン山脈に入ったと推測する。すでに忘れずの森に入ったと思うか?」


 勇者の問いに考え込む。



「中央ルートを通って追いつけなかった。たぶんこの山で俺以上にはやく先に進める奴はいません。とすると、他のルートを通った可能性が高い。しかも、誘拐したヒム人を連れて歩いていますよね。歩くのも遅い。つまり、まもなく到着する可能性が高いのではないかと思います」


「途中で追いつくかと思ったら、逆に追い抜いていたかも知れないとは。君に頼んで正解だった。午前中まで待ってみて来なかったら、オレたちはそのまま忘れずの森に入る。君はそこで仕事完了だ。金を受け取って家に帰れる」


「では、あそこの坂の上の高台で見張りましょう」


 ティンカはこの後、どうするのだろうか。このまま、勇者たちについて行くとか言わないだろうな……。


 ティンカは鼻歌まじりでご機嫌みたいだ。


 全員で高台の地面に腹ばいになって、すべてのルートが合流する広場を見張る。


 1時間ぐらいたったか。そろそろみんな手持ち無沙汰になって、集中が切れたぐらいに動きがあった。


 左側のルートから数人の人影が出てきた。

 全員で目配せをする。


 黒いフードに全身黒ずくめの奴が8人。黒ずくめの格好からでもガタイがいいのがわかる。見るからに強そうだ。縄で縛られたヒム人が6人。


「間違いなくあいつらだな。あんなに大勢で堂々と誘拐やっていたのか」


 勇者の声にごくり、とつばを飲み込んだ。


「ライラ、あの中に両親はいるか?」

「いない。でも、許せない」

 ライラの語気に怒りを感じる。


 すっごい強そうなんですけど。なんで怪しすぎる黒いフードとか被っているの。身バレ防ぐ為? 

 ティンカに肩を叩かれる。

 黒ローブの奴ら指さして、カメラのフォーカスのような形を指でつくって、もういちど黒ローブを指した。

 ああ、奴らのステータスを調べろってことね?

 俺は親指を立てた。グー。

 ティンカ、笑顔でうなずいた。


「客観認知!!!」

 すごい小声で唱える。


 黒ローブの一人を調べた。



ゾイ LV23

HP:3912/4780

MP:181/181

力:2562

素早さ:1012

防御力:3500

魔力:212

魔力耐性:516

集中力:2111

勇気:376

GRIT:38

ストレス:29/100

スキル:「風の加護」「大地の加護」「水の加護」「火の加護」

ユニークアビリティ:-



 強い。こんな高いステータス、俺以外ではじめてみた。


 ティンカも横からのぞき見る。

「これはヤバいね。簡単に戦いを仕掛けていい奴らじゃない。しかも8人いる」


 ひそひそとティンカが話す。

 先頭の黒いローブが、あたりを見回した。

 俺たちはさらに頭を下げて、高台の奥へ腹ばいのまま、すこし下がった。


 もしかして、俺の客観認知を気づかれたか?

 それとも、ティンカの小声が聞かれた?

 バカな。ここから奴らの場所まではかなり距離がある。

 気のせいであることを願う。



 隣でライラが震えていた。怒りではごまかせないのだ。強者をまえに人が感じる純粋な恐怖だ。


 黒いローブはあたりを見渡すことをやめない。

 軽々とヒム人では考えられない高さの跳躍を見せ、坂の上に一足で飛び、俺たちを指さした。




 見つかった!!!!!!!!!!!!



「何者だ? 降りてこい」

 黒いローブの男が低い声で言った。


 すぐにみんなを抱えて逃げられるように、勇者を見た。

 勇者がゆっくりと立ち上がって、首をふった。

「逃げるわけにはいかない。オレたちは、誘拐犯を捕まえに来た。いままで逃げてきたのは、戦う必要がなかったからだ」

 そういう、勇者の手がかすかに震えているのが見てとれた。

 ライラとマエも立ち上がり、戦う準備をしている。

 ライラは何度か盾を落とした。手に力が入っていない。


「ダメです。あいつらと戦っては。言いづらいのですが……。勇者様たちでは、死にます。敵の方が数も多い」


「なんとなく、雰囲気でわかるさ。まっ、ほとんどの敵がオレ達より強いのは事実だ。それははじめからわかっていた。わかりきっていたことさ」


 やけくそに勇者が言って、マエとライラと目配せして、うなずいた。いったいいまの目配せはなんだ?




 ティンカを見る。ティンカも俺を見ていた。

 加勢しろ、ということだろうか。

 たしかに俺はレベル99。勇者よりはるかに強い。

 しかし、先の戦闘でもそうだったように勇気が、ない。

 勇気のないものが、戦うことなんてできない。

 いったいどうやって、あんな戦闘慣れしてそうな、黒ローブと戦えばいいのか見当もつかない。




「オレたちがおとりになる。ユーキとティンカはその隙に逃げてくれ。

 本当に申し訳ないが、オレ達の雑嚢に金が入っている。

 それを勇者の村にいるオレの母に届けてくれ。

 ユーキ、君にしか頼めないことだ」

 


 はじめて、勇者に名前を呼ばれた。

 俺の目を見て、勇敢な表情で、言った。



 顔が、勇気であふれていた。

 




 俺の名前、知っていたんだ。




 これから、死ぬのがわかっているのに、どうしてそんな表情ができるんだ。


 


 勇者は俺の背中を叩き、握手した。

 うなずく。

 

 もういちど、うなずいた。





「ユーキ。君は全然、臆病者ではなかった。勇気ある、誇れる人だ」

  


 

 そして1人、崖を降りていった。





 だめだ。勇者、行ってはいけない。




 死んでしまう。




 勇者は振り向くこともしない。

 まっすぐに敵を見据えていた。





 はじめから、すべてを心に決めていたかのように。




 はじめから、このような場面で俺とティンカを逃がすことを決めていたのか。

 

  

 

 

「ごめんね。ユーキ。勇者はずっと言っていたわ。私たち以外の戦えない人間を巻き込んだらダメだって。

 私たちは弱いもの。

 すぐに死ぬ。弱いモンスター1匹さえ倒すのが難しいわ。

 死んで、だれかに悲しい思いをさせたらダメだって。

 だから,だれかと関わっても決して深く付き合おうとしなかったし、嫌われようとしていた。

 本当は勇者ね。ユーキに聞きたいこと、たくさんあったと思う。

 私が約束をやぶっちゃった。ユーキとなら、私たちはもっと戦えるって思ってしまった。

 でも、ヒム人のほとんどが戦う心を失ってしまっている。

 ユーキもそうなんでしょう?

 巻き込んで、ごめんね。

 荷物を持ってもらっていたのも、いざというとき、私たちを置いて、逃げてもらいたかったから。

 勇者が勇者になった理由も、私が両親を探す為になるって決めたからなの。そんなことはさせられないって身代わりに勇者になった。

 勇者は、そういう人なの」

 

 ライラは一息に言った。




 言葉を前から用意しているみたいに。






 俺はライラに、なにを聞かされたのだろうか。





 敵がせまっている。





 その恐怖以上に、いま言われている内容を理解するほうが大変だ。


「ユーキ。いままでありがとう。勇者の村までどうかご無事で」

「あっしはユーキと旅ができて、楽しかった。また、どこかでー」



 ニックがティンカの頬に甘噛みし、高く、鳴いて、マエの肩にもどった。  



 ライラとマエはうなずき合い、崖をくだって、勇者の後を追った。


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