2話 ラブコメの覇道は唐突に
「この世界は『セラン』といって魔法が使えるの。火・水・土・風の精霊に対しMPを消費して使う。
エビデンス魔法(科学的根拠魔法)とは、私達が元いた地球の本や論文を元にMPを使って行う魔法のことだよ」
「つまり、
瞑想
マインドセット(やればできるの考え方)
if・then(ハミガキの後にフロスすると決めておくと、行動しやすくなるとか)
などを魔法に落とし込むってことか」
ティンカが自信満々に、うなずく。
「だ……だめだ……あ、足が勝手に……うわぁぁぁぁ」
ずっ……ズコーーーーーー。
俺は盛大にずっこけた。
「じ……地味じゃない? 他にないの? 絶対死なない魔法。欲しいものがポケットから無制限に湧き出てくる道具。嫌いな生物が一瞬で消えて、全部美少女になってかえってきて、なぜか好かれすぎて困るスイッチ、とか。
いや、困らないか。好きなだけくるがよい」
「たしかに……支援魔法としての特色が強いから、地味に見えるけど、成長していけばまちがいなく最強の魔法になる。エビデンス魔法にしかできないことはいっぱいあるの」
ティンカは胸をぱんぱんに、張った。
この子……ちいさい妖精なのになかなか、あるな。
「それにね、この世界でエビデンスを一番使いこなせるのはユーキに他ならない。ユーキのエビデンスへの知識や信頼、いままで努力してきたことがすべてプラスに働くよ」
「たしかに、いままで勉強、運動、行動など色んなものをエビデンスに助けてもらってきたもんな」
まぁ、このやりとりをしていても、先にすすまないだろう。一旦、矛をおさめるとしよう。
いやー。正直、めちゃくちゃ不満ですけどねー。
弱そうじゃない? エビデンス魔法? 欲しい? 自分が異世界転移したときにチート能力がエビデンス魔法っていわれたら、どんな気持ち? ねぇねぇ。
さて、本題切り込みますかー。
「それで。俺を異世界転移させたのはティンカなのか」
「そう、だね」
「なんのために?」
「この世界を、救ってもらうために」
ティンカをじっと見る。ティンカも俺を見つめていた。
滝の流れる清涼な音がした。
込み上げてくる感情を噛み殺そうとしたが、耐えきれず、口元から飛び出てしまった
「冗談はよしてくれよ。そんなものはどこその勇気ある勇者様がやることで間違いなく俺じゃないだろう。俺がド底辺の臆病のタマ無しだって、お前が一番よくわかってるよな?」
「昔のユーキはそうじゃなかった。いまは、申し訳ないと思っているよ」
ティンカがうつむいてしまった。
「俺が世界を救わず、元の日本に帰る方法はないのか?」
「――その方向で考えてみる。自分でなんとかするから、ユーキに迷惑はかけないようにするね」
ティンカは努めて強く、笑ったように感じた。
これまでずっと、心の中で相談にのってもらったティンカに対して、ここまで突き放しては居心地が悪い。
「その……日本に帰るまでは時間かかるんだろう? それまではティンカのいうとおりにするよ。ひとまず何をすればいい?」
ティンカがぱっと、瞳を輝かせた。
「筋トレしてレベルをあげよう! 強くなっておいて、全く損はないからね。 今のレベルを見てみよう」
ティンカにやり方を教わり、初めてエビデンス魔法を使ってみる。すごいぜ!! 俺だけのチート魔法、とくと見よ!!!
「エビデンス魔法! レベル1 客観認知!!」
これでステータスが見られるってよ!
豪快に手を突き出し、どんな魔法エフェクトが出るかと楽しみにしていた。
のどかだ。蝶々が飛び、自然は豊かだ。空気が薄いが美味しい。
ティンカと目が合う。首をかしげる。
もう一度、唱えてみた。
「エビデンス魔法! レベル1 客観認知!!」
野鳥が空を飛び、日光が降りそそぐ。平和な世界がそこにあった。
【残念でした~MP不足です~修行して出直してこいやぁ】
あれ、頭のなかでティンカの声が響くぞ? ティンカを見るも、口は動いていない。
「MPが足りないんだね。エビデンス魔法はMP消費が少ない特徴があるんだけど……。あと頭にセリフが流れたでしょう? その声は私。一種のナビゲーションシステムだから、うまく使ってね」
しょうがないなぁ! 私が見せてあげると、ティンカはエビデンス魔法を使った。あれ、俺だけが使えるんじゃないの? と、抗議したら、私も使えた方がなにかと便利でしょ。この世界で2人しか使えないんだから気にしない、と言われ、ちょっと思うところがある俺であった。
ティンカに板状の出てきたものを見せてもらう。それは目の前に展開され、透明だった。文字は日本語で書かれ、どんな場所や環境下でも見やすく作られていた。
LV1 早乙女 勇気
HP:52/67
MP:2/851
力:12/9999
素早さ:21/9999
防御力:7/9999
魔力:912/9999
魔力耐性:527/9999
集中力:8/9999
勇気:1/9999
GRIT:11/100
ストレス:92/100
スキル -
ユニークアビリティ
「ティンカの加護」
「エビデンス魔法」
「マインドセット 経験値5倍」
「世界1便利な持ち運び倉庫【ユーキ・クラウド倉庫】」
「いちばん右の数値が上限値だよ。うーん。魔力はすごく高いけど、全体的にすごく……えっと……」
ティンカがぽりぽりと頭をかいた。
「能力値低すぎて、こんなんすぐ死んでしまいますやん!! あと勇気ステータスが1ってなんだよ!!ギャグかよ!!!!!」
「あはは……。うーん、想定してたのとちょっと違うなぁ。まあ、弱いってことはわかったから、ここから劇的にレベルを上げていこう」
「現状や問題点を認識できたら?」
ティンカが早口で言った。
「問題はほぼ解決している」
俺が即座に答える。
「さすが、ユーキ。私たちはこうじゃなくちゃね」
ティンカが笑う。
当たり前だ。俺たちはずっと何十年も一緒にいて、ずっと対話を続けてきたんだ。俺とティンカの絆は絶対だ。
ティンカがなぜ俺に世界を救ってほしいといったのか。一体それにどんな犠牲が伴うのか。いまはわからない。それでも、ティンカと一緒にこのセカイに来ただけで、俺は恐怖からずいぶん救われたんだ。
それだけは間違いが、ない。
このセカイに一体どんな危険があるのかわからないけれど、いまはティンカを信じよう。
俺たちは滝の裏に洞窟があるのを発見し、そこに住居を構えた。
俺に筋トレしろとアドバイスしてからなにも干渉してこず、岩に座って、ひたすら木の人形を掘っているティンカに聞いた。
「なー、他にどんな運動をすればいいと思う」
「運動には2種類あったのを覚えている?」
ティンカはよく質問形式で聞く。これが一番記憶に残る想起というやり方だ。暗記、記憶をしたいと思う時はテキストを何度も読むのではなく、質問形式にして自らの頭で思い出すことが大事だ。それにより重要なことなのだと脳が判断し、記憶が定着する。
「運動には無酸素運動と有酸素運動に分けられる。
無酸素運動は、筋トレや、ウェイト・トレーニングで、主に筋力を鍛えるものだ。
有酸素運動は、ジョギング、マラソン、HIIT(高強度トレーニング 20秒間下半身を中心に全力で動き、10秒休むを繰り返す×8セット)などで、主に最大酸素摂取量や持久力を鍛えるもの」
「正解! さすがだね。ユーキ。それでどっちの運動をすればいいの? もし戦う必要になった場合は?」
「え……。俺はだれかと戦う必要があるのか? 聞いてないんだが……」
ティンカは木彫りをやめて、水辺を飛んだ。水しぶきでティンカに虹がかかった。
「例えば、の話だよ。もし戦う必要があったらどんな運動が必要かな」
「両方だ。無酸素と有酸素運動をまんべんなくやる。そうすれば、筋肉で敵を圧倒できるし、逃げたり走ったりする時の持久力も高まるから、長時間戦闘していられる」
「そうだよ! ユーキ! 両方やろう」
「バーベルとかダンベルみたいなものは手に入らないよなぁ、どうしようか」
ティンカは俺に水をかけてきた。
俺もティンカに水を掛けかけした。
あはは~。うっふふ~。ばっか~。やめ、やめろよ。
「も~。私の方がからだ小さいのに、すごい水かけちゃって~」
あや、あやややや……。俺は手のひらで顔を覆う。ティンカの白いスカートが濡れて……。中が透けて……。
俺は恐る恐る、指先を広げ、そっと、ティンカを見た。
ティンカは服をおさえて、恥ずかしそうにしていた。
「ティンカがいけないんだぞ。俺に水を浴びせたりするから」
ティンカは見つめては、視線をそらすことを繰り返し、言った。
「み……みたいの?」
「え?」
「ユーキがその……。見たいのなら、見せてあげる――」
ティンカはおもむろに、胸を抑えていた腕をそっと、下ろした。
覇道を感じた。ラブコメの波動、ではない。
俺がラブコメの覇道を歩く、景色が見えた。
ブサイクな顔をこねくりまわして整え、鼻血が出ていないか確認するため、鼻をすすり、いざ、キメ顔でティンカに一歩近づいた。
これが、俺のラブコメ覇道の、第一歩だ。




