18話 決死の包囲線
深夜の来訪者というのは、だいたい良くないものと相場が決まっている。
「私……」
ずぶ濡れのライラが洞窟の前で膝をついた。勇者が剣をしまって、抱きかかえた。
勇者が屈んだ際の水しぶきが俺にかかる。
俺、こういう役割ね。
手で水を払った。
「なぜ戻った? どうしてここがわかった?」
勇者が問いただした。
「私は勇者の仲間だから。ユーキがいい目印だったわ。大きな岩山が歩いているみたいだったから。
あと、みんなの後ろをゴブリンがつけていたから、始末してきたわ。やるもんでしょう」
「バカだなっ」
勇者は泣きそうな顔で、ライラに言った。
こんな表情も、できるんだ。
「私がいないと、だれが敵の攻撃を防ぐのよ。それに絶対に私の両親を見つけるわ」
ライラに暖をとらせた。
入り口では勇者とマエがなにかを話していた。
「ゴブリンは何体殺した?」
肌着になって、色々な凹凸に目のやり場がウワーォーなライラだったが、聞いておかないといけないことだった。
「1匹、だけど?」
「まずいな」
「あいつらは知恵がある。斥候は単独では動かないんだ。最低2匹で動く」
「もう1匹はいなかったわ」
「隠れたのかも。殺したのはいつ頃?」
「30分ぐらい前」
しかし、この大雨だ。足跡も匂いも消せる。明日の出発まで襲われることはないと思うが……。臆病な俺は念のため、入り口の様子を見に行った。
洞窟の入り口から外を見ると、豪雨でも隠せない、光うごめく獣の目が複数現れた。
【客観認知】を発動させると、カーソルが50~100ぐらい表示される。それだけ多くの敵がいるということだ。
こんなに多くの大群が一カ所に押しよせることなど、いままでなかった。
さらに不可解なのは、なぜ、犬猿の仲のゴブリンとハンターウルフが一緒にいるのか。
この1年みてきた、アンデス山脈のモンスターの動きとまるでちがう。
「囲まれています。ゴブリンとハンターウルフ。数は50から100」
「ごめん。私がドジふんだせいだね」
ライラは憔悴していた。
ほんとは手柄をあげて、パーティに戻りたかったのだろう。
ゴブリンは現れないと思って、斥候の特徴を伝えていない俺のミスでもあった。
「ライラだけのせいではない」と俺は言った。
「アンタ、この場を切り抜ける打開策があるか?」
勇者が言った。
「……ありません」
正直に話した。このメンバーで100ほどいる敵をどうこうできるとは思えない。
「それでも、やるしかない。アンタに抱えて逃げてもらう」
「でも……。全員を無事に逃がすことは……」
「大丈夫だ。そんなことを背負う必要はない。すべての責任はオレがとる。アンタはオレ達だけ背負えばいい」
勇者、真顔で言ったけど、いまのギャグなの? 俺の緊張をほぐそうと? まさかな。
心臓がばくばくだ。自らに【マインドフルネス】をかけ、気持ちを落ち着けた。
「では、作戦どおりに!!!! いくぞ」
勇者のかけ声で、洞窟の外に躍り出た。
強雨で足場は滑り、踏ん張れない。
視界も悪い。雨に煙っている。
「前方、弓兵。くるぞ!!!!!」
肩に乗せたライラが盾を構える。
洞窟の崖を背に、迂回する。そっちがいちばん敵が少ない。
するどい弓矢が数本飛んでくる。
ライラが防いだ。
「ハンターウルフだ! マエ!!!」
俺に背負われているマエが風魔法をハンターウルフにめがけて放つ。
外す。
しかし、ハンターウルフが回避の為に飛んだ。
そこだ!!!!
ハンターウルフが飛んだ下を、スライディングですり抜ける。
水しぶき!!!!!!!!!
前方にはゴブリンの弓兵と剣を持った奴らが10体ほど。
さらに迂回しようとするが、木陰に大量の弓兵がいるのが視認できる。
「ライラ、前方!!!!!」
ライラは軽く飛びながら、弓のほとんどを盾で払った。
ライラを肩にもどそうとすると、さきほどのハンターウルフがライラを狙った。
盾でなんとか、弾く。
「マエ!!!」
風魔法をハンターウルフに打ち込む。
素早く、よけられる。
「ライラ!! 右から弓矢!! 」
勇者の怒号はよく通った。
勇者も降りて、ライラの盾の隙間から噛もうとしたハンターウルフに一撃を加えた。
マエも魔法で応戦する。
戦っているうちに敵に囲まれた。
すこし離れた位置に弓ゴブリンがざっと40匹、ハンターウルフが40匹、あと20匹が槍や剣をもったゴブリンだ。
背中は崖。逃げ場がなく囲まれている。
業を煮やして、ティンカが胸から出てくる。
「ユーキが戦いの要。なんとかしないと全滅だよ」
いつものおとぼけティンカではなく、マジ・ティンカである。
「といいつつ、策が無い。ユーキに頼りっきり。ごめん」
ティンカが羽をへなっ、とさせた。
「気にするな。俺とおまえの仲だ」
「弓、来る!!!!!! 後ろに隠れて!!!!!」
弓の風を切る音、金属に弾かれる音がする。
後ろは崖だ。これ以上後退はできない。
ハンターウルフが泥水をかけ分けて、突進してくる。
ライラが盾で押し返す。が、ゴブリンとハンターウルフが上から乗って、盾を引き剥がそうとする。
「だめ、もう……もたない」
ライラの手から盾が離れた。
盾が滑って、ゴブリンの下敷きとなった。
ライラに向かって、ハンターウルフが牙をむく。
ライラはとっさに体勢を立て直せない。
マエがライラの前に出て、かばった。
「マエ!!!!!!!!!!!」
勇者が叫ぶ。
マエが襲われる――と思ったら、ハンターウルフがマエを素通りし、ライラに向かって牙を突き立てた。
ライラが腰の中型剣を抜いて、ハンターウルフを刺す。
高い悲鳴があがる。
勇者は他のハンターウルフに斬りかかる。
一瞬、間があいた。
両者、にらみ合いが続く。
勇者もライラも息が上がっている。
包囲されているのに変わりはない。
マエは魔力が尽きたのか、杖に寄りかかる。息が荒い。
「ここまで……か……」
勇者の無念の声を聞く。
「すみません。俺がふがいないばかりに」
勇者がはじめて、俺に笑った。
「君のせいじゃない。こちらこそ、守ることができなくてすまない」
弓を構えるゴブリンが見えた。
あの矢が到達すれば、みんな死ぬだろう。
こんな時に臆病ゆえに、なにもできない。
力は、あるのかもしれない。
その力さえも、信じられない。
自分自身、信じられない。
どうやって、力を出せばいい?
勇気とは、どうやって出すものだった?
もう、思い出せない。
もともと、そんなものがあったのかさえも。
だれか、教えてくれ。
勇者が、肩を叩いた。
「君とティンカだけなら、逃げられるな?」
「……はい」
「いまから君を逃がす――」
勇者が言い終わる前に、矢は無残にも複数、放たれ――なかった。
俺の目の前が、真っ暗になった。
そこだけ雨が降っていなかった。
弓兵が上空を見ている。
ハンターウルフも上を見た。
俺たちには豪雨がいまも降り注いでいる。
つられて、見上げる。
なんだ。あれは。
なにか巨大な物体が、空に浮いて、雨を弾いている。
かなり上空にいて、相当デカイ。なにやら、動いている。
翼、か? 超巨大な翼で、羽ばたいているのか?
危険を察知して、【客観認知】にて調べるも、ERRORと表示される。
それは、急速に、下へ降りてきた。
その衝撃によって突風となり、豪雨は強さを増した。局所的な台風を喰らっているみたいだ。
思わず目を閉じた。
からだの臓器すべてが上にもちあがるほどの衝撃と、地鳴りが、した。
恐る恐る、目を開けると、俺の目の前に、いた。
影が俺を覆っている。
でかすぎる。高さは、ビル10階ぐらいはあるだろうか。夜の豪雨のなかでも光る、白いウロコの竜が、目の前に立っていた。
つるんとした、アルビノの蛇を胴体だけ巨大化したような竜だった。
白いからだには紫で紋章のような模様が描かれている。
腰を抜かした。
後ろにさがろうとしたが、崖に手が当たる。
逃げられない。
「白竜だ……」
ティンカがつぶやいた。
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