表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/27

18話 決死の包囲線

 深夜の来訪者というのは、だいたい良くないものと相場が決まっている。


「私……」


 ずぶ濡れのライラが洞窟の前で膝をついた。勇者が剣をしまって、抱きかかえた。

 勇者が屈んだ際の水しぶきが俺にかかる。

 

 俺、こういう役割ね。

 手で水を払った。

 

「なぜ戻った? どうしてここがわかった?」

 勇者が問いただした。


「私は勇者の仲間だから。ユーキがいい目印だったわ。大きな岩山が歩いているみたいだったから。

 あと、みんなの後ろをゴブリンがつけていたから、始末してきたわ。やるもんでしょう」

「バカだなっ」

 

 勇者は泣きそうな顔で、ライラに言った。

 こんな表情も、できるんだ。

 

「私がいないと、だれが敵の攻撃を防ぐのよ。それに絶対に私の両親を見つけるわ」

 ライラに暖をとらせた。

 

 入り口では勇者とマエがなにかを話していた。

 

 

「ゴブリンは何体殺した?」

 肌着になって、色々な凹凸に目のやり場がウワーォーなライラだったが、聞いておかないといけないことだった。

 

「1匹、だけど?」

「まずいな」


「あいつらは知恵がある。斥候せっこうは単独では動かないんだ。最低2匹で動く」

「もう1匹はいなかったわ」

「隠れたのかも。殺したのはいつ頃?」

「30分ぐらい前」

 しかし、この大雨だ。足跡も匂いも消せる。明日の出発まで襲われることはないと思うが……。臆病な俺は念のため、入り口の様子を見に行った。

 

 

 洞窟の入り口から外を見ると、豪雨でも隠せない、光うごめく獣の目が複数現れた。

 

 【客観認知】を発動させると、カーソルが50~100ぐらい表示される。それだけ多くの敵がいるということだ。

 

 こんなに多くの大群が一カ所に押しよせることなど、いままでなかった。

 さらに不可解なのは、なぜ、犬猿の仲のゴブリンとハンターウルフが一緒にいるのか。

 この1年みてきた、アンデス山脈のモンスターの動きとまるでちがう。

 

「囲まれています。ゴブリンとハンターウルフ。数は50から100」

 

「ごめん。私がドジふんだせいだね」

 ライラは憔悴していた。

 

 ほんとは手柄をあげて、パーティに戻りたかったのだろう。

 ゴブリンは現れないと思って、斥候の特徴を伝えていない俺のミスでもあった。


「ライラだけのせいではない」と俺は言った。


「アンタ、この場を切り抜ける打開策があるか?」

 勇者が言った。

 

「……ありません」

 

 正直に話した。このメンバーで100ほどいる敵をどうこうできるとは思えない。

 

「それでも、やるしかない。アンタに抱えて逃げてもらう」

「でも……。全員を無事に逃がすことは……」

「大丈夫だ。そんなことを背負う必要はない。すべての責任はオレがとる。アンタはオレ達だけ背負えばいい」


 勇者、真顔で言ったけど、いまのギャグなの? 俺の緊張をほぐそうと? まさかな。



 心臓がばくばくだ。自らに【マインドフルネス】をかけ、気持ちを落ち着けた。



「では、作戦どおりに!!!! いくぞ」

 勇者のかけ声で、洞窟の外に躍り出た。

 

 

 

 強雨で足場は滑り、踏ん張れない。

 視界も悪い。雨に煙っている。


「前方、弓兵。くるぞ!!!!!」

 肩に乗せたライラが盾を構える。


 洞窟の崖を背に、迂回する。そっちがいちばん敵が少ない。


 するどい弓矢が数本飛んでくる。

 ライラが防いだ。


「ハンターウルフだ! マエ!!!」

 俺に背負われているマエが風魔法をハンターウルフにめがけて放つ。


 外す。

 しかし、ハンターウルフが回避の為に飛んだ。


 そこだ!!!!

 ハンターウルフが飛んだ下を、スライディングですり抜ける。


 水しぶき!!!!!!!!!



 前方にはゴブリンの弓兵と剣を持った奴らが10体ほど。


 さらに迂回しようとするが、木陰に大量の弓兵がいるのが視認できる。


「ライラ、前方!!!!!」


 ライラは軽く飛びながら、弓のほとんどを盾で払った。


 ライラを肩にもどそうとすると、さきほどのハンターウルフがライラを狙った。

 盾でなんとか、弾く。


「マエ!!!」


 風魔法をハンターウルフに打ち込む。

 素早く、よけられる。


「ライラ!! 右から弓矢!! 」

勇者の怒号はよく通った。


 勇者も降りて、ライラの盾の隙間から噛もうとしたハンターウルフに一撃を加えた。


 マエも魔法で応戦する。


 戦っているうちに敵に囲まれた。


 すこし離れた位置に弓ゴブリンがざっと40匹、ハンターウルフが40匹、あと20匹が槍や剣をもったゴブリンだ。


 背中は崖。逃げ場がなく囲まれている。


 業を煮やして、ティンカが胸から出てくる。

「ユーキが戦いの要。なんとかしないと全滅だよ」


 いつものおとぼけティンカではなく、マジ・ティンカである。


「といいつつ、策が無い。ユーキに頼りっきり。ごめん」


 ティンカが羽をへなっ、とさせた。


「気にするな。俺とおまえの仲だ」



「弓、来る!!!!!! 後ろに隠れて!!!!!」

 弓の風を切る音、金属に弾かれる音がする。

 後ろは崖だ。これ以上後退はできない。


 ハンターウルフが泥水をかけ分けて、突進してくる。



 ライラが盾で押し返す。が、ゴブリンとハンターウルフが上から乗って、盾を引き剥がそうとする。




「だめ、もう……もたない」

 

 ライラの手から盾が離れた。

 

 

 

 盾が滑って、ゴブリンの下敷きとなった。

 


 ライラに向かって、ハンターウルフが牙をむく。

 ライラはとっさに体勢を立て直せない。

 マエがライラの前に出て、かばった。

「マエ!!!!!!!!!!!」


 勇者が叫ぶ。

 マエが襲われる――と思ったら、ハンターウルフがマエを素通りし、ライラに向かって牙を突き立てた。


 ライラが腰の中型剣を抜いて、ハンターウルフを刺す。

 高い悲鳴があがる。


 勇者は他のハンターウルフに斬りかかる。


 一瞬、間があいた。

 両者、にらみ合いが続く。

 勇者もライラも息が上がっている。

 包囲されているのに変わりはない。


 マエは魔力が尽きたのか、杖に寄りかかる。息が荒い。


「ここまで……か……」

 勇者の無念の声を聞く。

「すみません。俺がふがいないばかりに」


 勇者がはじめて、俺に笑った。

「君のせいじゃない。こちらこそ、守ることができなくてすまない」




 弓を構えるゴブリンが見えた。




 あの矢が到達すれば、みんな死ぬだろう。




 こんな時に臆病ゆえに、なにもできない。

 力は、あるのかもしれない。

 その力さえも、信じられない。

 自分自身、信じられない。

 どうやって、力を出せばいい?

 勇気とは、どうやって出すものだった?

 もう、思い出せない。

 もともと、そんなものがあったのかさえも。




 だれか、教えてくれ。




 勇者が、肩を叩いた。



「君とティンカだけなら、逃げられるな?」

「……はい」

「いまから君を逃がす――」



 勇者が言い終わる前に、矢は無残にも複数、放たれ――なかった。




 俺の目の前が、真っ暗になった。

 そこだけ雨が降っていなかった。



 弓兵が上空を見ている。

 ハンターウルフも上を見た。



 俺たちには豪雨がいまも降り注いでいる。




 つられて、見上げる。




 なんだ。あれは。





 なにか巨大な物体が、空に浮いて、雨を弾いている。


 かなり上空にいて、相当デカイ。なにやら、動いている。



 翼、か? 超巨大な翼で、羽ばたいているのか?



 危険を察知して、【客観認知】にて調べるも、ERRORと表示される。



 それは、急速に、下へ降りてきた。


 その衝撃によって突風となり、豪雨は強さを増した。局所的な台風を喰らっているみたいだ。

 思わず目を閉じた。




 からだの臓器すべてが上にもちあがるほどの衝撃と、地鳴りが、した。




 恐る恐る、目を開けると、俺の目の前に、いた。



 影が俺を覆っている。



 でかすぎる。高さは、ビル10階ぐらいはあるだろうか。夜の豪雨のなかでも光る、白いウロコの竜が、目の前に立っていた。


 つるんとした、アルビノの蛇を胴体だけ巨大化したような竜だった。

 白いからだには紫で紋章のような模様が描かれている。


 腰を抜かした。

 後ろにさがろうとしたが、崖に手が当たる。

 逃げられない。


「白竜だ……」

 ティンカがつぶやいた。

面白かった、続きが読みたいなと思ってくださいましたら、是非ブックマーク、評価をお願い致します。


更新する励みになりますので、ご協力頂けると嬉しいです☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ