17話 来訪者
ゴブリンの洞窟では、生首が転がっていた。
火に照らされ、首の影が伸び、洞窟の壁を照らす。首は炎と共に、揺らいだり、震えたりしている。
あっ。違うっす。
マエっす。
マエが地中から埋まったまま、出てこようとしないだけなのでしたー。
「ライラはユーキに仲間になってもらいたかった」
「お前はどう思っているんだ?」
「あっしは……ユーキのことが知りたい。わからなかった事を1つでも知りてー」
えっ……。いま、なんか。俺、ドキッとした。間接的な告白とかじゃないっすよね。
わくわくしながらティンカに目配せすると、はぁ? みたいな表情されたので、さーせん、と会話にもどる。
地面から首だけ出ていて、表情が見えないマエの気持ちを推しはかるには、口元と声のトーンで感じ取るしかない。
ほんの少しだけ、楽しそうな気配があった。そうか。俺といて、楽しいと思ってくれていたのか。
「ライラが離脱してしまって、不安か?」
「全然。よかったよ。なんかあったら、あの子が真っ先に死ぬからね。そんなの見たくねーよ。ライラの両親はあっしが見つけて、村に返すよ」
とんがりハットで表情がわからないが、いろいろと悟っているのだなぁ、と感心する。
「勇者様はどう思っているんだ」
「さあね! 勇者様に直接たずねられては……聞いてみればいーよ」
マエは入り口の勇者に手のひらを向けた。
気は進まないが、確かに話すいい機会だな。
「あっしからひとつ勇者に対してお伝え致したい……話すことは、勇者は口下手で不器用。弱者。
農業やっていたときから、からきし弱くて、不器用。でも、すごい情熱もって農業やっていたから、勇者になるって言ったときはおどろいたよ。
それでも勇者なりに勇敢であろうとしている。
だからあっし達は尊敬してる。仲間なんだ。ユーキにもその良さが伝わるといいなー」
ニックがティンカを追いかけ回す。遊んでいるのだ。
「そうだな。悪い人だったら、ライラやマエがついてこないか」
俺は重い腰を上げて立ち上がった。
「ちょっと行ってくる。その……からだは地面のなかから出さなくていいか?」
「かまいませ……いいんだよ。もう兄弟みたいなもんだよ。この地面ともよー。今日はこのまま寝ることにするよ。ニックもここが気に入ったみたいだしな。ユーキも人を埋めるだけでなく、埋まってみると良い。極上とは地中のなかにあり。これこそが、真理」
まさかここまで、地面に埋まりつづける話を引っ張るとは思わなかった。恐れいるぜ。マエさんよ。
マエは口を閉じ、沈黙した。いや、そうしていると、ほんと首がころん、と転がっているみたいで不気味なので、やめてください!
そろーり。そろり、と勇者に近づいていく。
勇者は剣を振っていた。
修行だろうか?
話かけていいものか迷う。
勇者は俺に気づいて、あからさまに嫌な顔をした。
「なんだ?」
「いやーちょっと話ができればなと思いまして」
ティンカが、入り口から豪雨を見ている。
「話すことはなにもない」
勇者は壁にもたれかかって、視線をうつし、入り口の見張りにもどった。ティンカをちらちらと見ている。
オワター。会話、終わり。
いやー、すっごいわかり合えた。こんなにだれかと通じ合った経験あった人って、いる?
俺は手持ち無沙汰で、ティンカと一緒に外を見た。
豪雨で視界が歪み、ほとんど先を見ることができない。
しかし、強い雨が大地に落ちる力強い音、洞窟の入り口の水たまりに落ちる音。
どこまでもその自然の音色を聞いていることができた。
天然のマインドフルネスだ。
「この精霊は……どうやって手に入れた? 見たこともない種類だが……」
勇者がティンカを見ながら訪ねてきた
「精霊じゃない。ティンカだよ~。よろしく、勇者」
ティンカは勇者の目の高さまでとんで、ゴアテックスワンピースをつまんでお辞儀をした。
「……ああ」
また、無言でしばらく外を見ていた。雨がなければ気まずい空気だったかもしれないが、いつまでも口を開かずにいることができた。
気配がして後ろを振り返ると、生首が出てる!
炎の近くで、生首の影がうごめいている。
マエさん! 気持ち悪いっすよ!
「ライラは無事に帰れたでしょうか」
「来た道を帰るだけだ。問題ない」
無表情だった勇者が、ほんの少しだけ口角をあげた。
「そういえば、マエはどうして勇者様と同行したんですか?」
勇者は顎に手をあてた。鎧の軋む音がする。
「実は……」
俺とティンカは勇者の言葉を待っていたが、一向にやってこなかった。
ムカデに似た虫が足下をはっていた。
ひぃぃぃぃぃっっぅぅという声を出して、俺が飛び退くと、勇者はプレート・メイルの足先で潰した。
勇者はあたまを掻いた。
「実は……よく覚えてないんだ」
「ええっ?」
「まあ、腐れ縁だから。理由を忘れてしまった」
ふむ。ライラもマエに対して同じようなことをいっていたな。
「ライラと一緒にマエも村に返したいと思いませんでしたか?」
勇者ははじめて、感情の揺らぎを表情にだした。
「考えたこともなかった」
勇者は首をふった。
「しゃべりすぎたな」
勇者は虫の死骸を見ていた。
「臆病、なんだな?」
「勇者様は、こわくないんですか」
「こわいさ。この世はこわいものだらけだ」
「勇気ステータスが1で、勇気を出すコツはあるんですか?」
「さあ? オレが知りたいな」
「レベルアップしたら、ヒム人の誘拐犯を捕まえられますか? ライラの両親も?」
「刺しちがえてでも、やるよ」
勇者は諦めたような、半ばやけくそのような様子で言った。
勇者が戦えるのは、ライラから聞いた勇者の母の件があるからだと思う。
そうでなければ、勇気ステータスが1の俺と同じような状態で、まともに戦えるわけがない。
「勇者様には戦う理由があるんですか」
「勇者、だからだ」
強い口調で、言った。
「オレたちの村の名前は知っているか?」
「はい」
「言ってみてくれないか」
「勇者の村、です」
「その名前をどうか……忘れないでくれ」
勇者ははじめて、俺の目を見て、念を押した。
「わかりました」
「なにか……来る」
ティンカの声に勇者が剣を抜き、俺は勇者の背中に隠れた。
背中に触れられる気配があって、俺は悲鳴を上げた。
洞窟中にその悲鳴が轟いた。
マエだった。
オマエかよっ! まぁ、マエだよね。
マエが地中から自ら這いだしてきたのだ。
悲鳴にニックが驚いて、俺の耳を突く。ご、ごめん……。
「敵?」
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