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16話 本当の臆病者

「勇者が死んだら……どうなるか知ってる?」

 マエは地中に埋まったまま、不穏なことを口にした。

 

 ティンカと俺は首をふった。

 

 

 おいおい! そんなシリアスそうな話。地中から首だけだしてする話じゃねーだろがよっっっ! ほらっ。悪かったよ。マエを引っ張りだそうとすると、断られた。

 

「ここがいいの。はまっちゃった……」

「ここがいいの、じゃねーよ! たしかにはまっているけどよ」

「落ち着く。まるで母のお腹のなかに帰ったみたい

  ……。あっしのお母さんの話、聞きたい?」

 

 ニックが鳴いた。

 

「……放っておこう」

 ティンカと俺はあきらめた。自分たちにペースをもどすことに。

 


「勇者が死んだら、また次の勇者を立てなければならない。なぜなら、勇者の不在は許されないから。勇者以外にいったいだれが、命を賭してヒム人を守るってんだ。言葉は悪いが、勇者は供物として命を差し出さなくてはいけないってわけだ。

 そして、勇者の村には百姓しかやってこず、剣なんて握ったことがない老人が17人しかいねー。

 他はみんな殺されたか、誘拐されたかだ。

 次の勇者はライラ、だろーね」

 

 

 ほんの1日程度しか一緒にいなかったのに、俺はライラに親しみを感じていた。両親を探す為に勇者とともに旅をしてきた。

 いまの勇者が死ねば、次はライラ。そして、その次は?

 

 火が弱まってきた。

 俺は新しい薪をくべる。

 燃やしていた薪が炭になっていく。

 ぼろぼろと崩れ、どんどんこまかく、黒ずんで消し炭になっていった。

 ひとつ、ひとつ。

 

 

「勇者とは、力、資質、勇気があるものが選別されるのではないのか?」

 俺もそれにより選ばれなかったはずだ。


「勇者はどなたであっても……だれでもいいー。ライラでも、あっしでも。なんなら、戦う前にぎっくり腰になってしまう勇者の村の老人たちでも。勇者とはヒム人をお守りする守護者……守る盾なんだよー」



「待て待て。聞き忘れてしまったが、なぜ、勇者の村の17人限定なんだ? ヒム人がそんなに少ないことはないだろう?アルゼン村にも100名近くはいる。王都だって人は多くいる」


「ご覧になりました……ユーキも見ただろー。アルゼン村の村人。酒を飲んでも怒らなかった。万引きしても見てるだけ。変だとは思わなかったかー」


 ティンカの具合が悪そうだった。声をかけたら、大丈夫、と返してきた。




「ヒム人は、一部の人をのぞいて、憎悪というか、戦う力をうしなっているんだ」




 マエが淡々と地中に埋まったまま、話していく。

 

「だから……勇者の村なのか」

「ご明察……よくわかったなー。勇者の村。その真意は、勇者になれるものがこの村にしかいない。つまり、ヒム人でだれかと戦えるのはこの村の人間だけってわけだー」


「だから、勇者になれた。勇者は勇者の村の出身だから?」

「そういうことだねー」


 ため息をついた。ティンカがだいぶ憔悴しているように見える。小さいからだで戦闘に巻き込んだからか、それともいまの話のなかでティンカに関わることがあったのだろうか。

 ティンカを肩にのせ、さらに話を聞く。


「なぜ、勇者の村だけなんだ?」

「それは判明しては……わかってねー。あっしが教えてほしいぐらいだね」


 ニックは思った以上にとんがりハットの居心地がよかったのか、もう梃子でも動かないと決めているようだ。

 

 

「ここまで勇者の話をあっしから聞いたうえで、お尋ね致し……聞くんだけどよー。ユーキ、すごい力をもっていると思うんだけどさ、ユーキは戦える? 戦えない? どっちなんだー?」

 

 

 ティンカとマエが、俺を見つめた。

 

 

 勇気がある者はここで立ち上がるのかも知れない。

 勇気がないものでも、ここで立ち上がるのかも知れない。

 百姓の純朴な勇者と可憐な乙女のライラが犠牲になろうとしている。

 

 あ、いや。別にだれかに殺されるってわけではないのか。

 ただ、アルゼン山脈の初級モンスターに勝てない腕であれば、誘拐犯がよほど弱くない限りは死ぬだろう。

 

 勇気があってもなくても、その悲劇を止めたい、と思うのだろう。

 

 しかし、勇気ステータスが1の場合は? 立ち上がりたい時も足がすくんで、心もからだも複雑骨折して立てない俺は?

 どうすれば?

 

 

 「たしかに聞いていて、勇者は大変だと思う。しかし、俺には、戦う理由がない」

 

 

 そして、俺は臆病者だ。勇者の従者になる? だれかと戦う? 敵はだれだ? ヒム人の誘拐犯? 戦えるはずが、ない。

 

 


「そっかー。そうだね。ユーキにとっては他人事だったね。あっしとライラは少なくとも一緒に戦ってくれて嬉しかったよ。

 ユーキの力を見てしまったから、期待しちゃったんだよ。

 もしかしたら、ユーキが加わることで、勇者の犠牲の連鎖が止められるんじゃねーかってさ。少々思案して……思ったんだよねー」

 



  歯ぎしりして、思わず、腕に力が入った。

「本当の臆病者の気持ちも知らないで……」

 

「えっ!?」

 

「選択する物、どれも間違いで、なにを選んでも俺はダメだった。そんな経験、マエにはあるか? 勇気すらも、決断すらも、すべてが無意味で。やることなすこと、ぜーんぶ。逆効果になってしまうんだ!!!!」

 

 知らず知らず、怒気を含んでいた。

 ティンカが気落ちしている。思い出させてしまったか。

 

 

「ユーキ。あっしもさぁ、いまやっていること。これからやること。正しいとか間違いとか、ほんと、ぜんっぜん。わかりかねてし……わっかんね-。ただね。いま、決めたことをあとで後悔したとしてもね。いいんだ。

  あっしはあっしに、後悔してもいいって許してる」

 

 

 なんだよ。すげぇセルフ・コンパッションじゃんか。

 自分を責めず、優しくできてるじゃないか。

 

 みんな自分に厳しいんだ。

 なかなか出来ることじゃないよ。

 立派なエビデンス魔法の使い手だよ。

 マエ。

 

 でもおまえ、そんな良いこと言っても、いま、地面にうまって首だけ出ているだけなん、だ、ぜ。

 

 頭にはかわいいニックが乗っているけどな。

 生首、マエさんよ。

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