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15話 マエの新しい性癖

 ゴブリンの洞窟は、いまだ悪臭が残る。

 マエの風魔法で空気を入れかえた。

 多少はましになったがそれでも残る、この嫌な感じはなんなのだろうか。

 

「ここに敵は来ないのか?」

 勇者が言った。

「わかりません……。正直こんな雨でなければ使いたくはなかった。しっかり見張りましょう」

 

 勇者は鎧についた雨粒を手で払い落としながら、うなずいた。

 相変わらず俺の目を見て話さない。そんなに嫌わないでくれよ。好かれようなんて思ってないけど、若干傷つくわ。

 

 

 

 洞窟で火を起こす準備をした。

 近くの木々から枝を取ってきたが、濡れていてなかなか火がつかない。

 

 

 なにおぅっっっ!! 俺の上腕二頭筋が火を噴くぜ! 脳筋よろしく。筋肉をモッコリさせて、摩擦熱で火を起こそうとしたら、マエが火の魔法を起こして、火がついた。

 

 まぁ、便利。

 

 明かりを頼りに、洞窟奥のすみずみまで調べたが特に身の危険を感じるものはなかった。

 

 

 

 今日の夜ご飯は雨が降る前に山でとっておいた、きのこや木の実だ。

 

 

「いただきます」

 炙ったキノコをマエが手づかみで食べる。

 えっ。熱くないの?

 指先に微量な魔力反応を感じる。

 魔力で痛覚を制御しているのかな。すごいね。

 

  みんなで食べる。

 

「おほぃひーい」

 マエの表情はとんがりハットによってわからないが、口元と声により美味しいことはわかった。

 肩に乗ったニックにも餌をあげていた。



「……。う……うん? あは、あははは。ふふ。ふふふ」


 勇者が急に笑った。あれ。もしかしてそれは捨てたはずの笑いキノコ……しかも恐ろしい副作用が……。


「おい……。アンタ。はは。ちょっ……ははははははは。なんかこの世のすべてが……おも、しろくて、ははははは」


 勇者が地面を叩いて、腹を抱えて笑っている。


 ティンカがニマニマーっといたずらっぽく笑った。


 ティンカのほっぺをぐりーんと回して、変顔をくりだした。

 ちょっ……なにそれ? はじめての変顔、こんにちは。キノコふきだしちゃったよ。なんでそんな変な顔なのに、真面目な態度貫けるの? 背負っているものの違い?


「ははは。やめ……。そんな顔したって、オレは……けっして……笑ったりなんて、ふはは。なんだ、その目は……どうやったら……そんなに高速に……移動できるんだ。ふは、ふはは」



「勇者はライラとユーキがしゃべっていると嫌なの?」


 ティンカが変顔のまま、質問する。


「そんな……こと。ふふ。あるわけ。ふふふははは。あるなぁ」


 この笑いキノコは、笑い続けると同時に力が抜けて、本音を言ってしまうキノコなのだ。


「勇者は、ライラのことが好きなの?」



「あふふ。はははは。そんな面白いこと聞いて……どうするんだ、ははは。だな。そうなるな、ははははは」

 これ以上は見ていられなくて勇者がキノコを吐き出すのを手伝った。


「もう二度と、アンタの出した物を食べない」

「すみません」


 勇者は入り口の見張りについた。


 ティンカは俺のデカメロン肩に乗ってうつら、うっっつら、とまぶたが重くなっていた。

 ふとももの上に乗せる。

 ちいさい毛布をかけてやった。

 しばらくして、寝息が聞こえてきた。




「ねぇ。そのユーキが使える魔法はなに? なんでユーキは使えるの? ティンカちゃんとは、なんの契約をしているの? あとティンカちゃんは大丈夫? キノコあたったの」

 マエは、詰問するように話す。


 

「俺もわかんねぇんだよなあ。生まれた時から魔法使えて、ティンカも一緒にいたからな。あと、契約ってなんのこと?」


 

 マエは口をゆがめ、首をかしげた。

「……おかしい……。ユーキのご両親はもしかして、特別魔力が強いとか? まさか……。

 マジュール人とヒム人と、ハーフとか……」

 

 

 

 火の粉が爆ぜる。マエが立ち上がり、俺を見下ろした。

 おおきな影ができ、俺を飲み込もうとする。

 

 

 とんがりハットのわずかなすき間から、彼女の瞳を初めて見た。そこには感情めいたものがなにも宿っていないような、無機質さを感じた。

 

 

 

「アナタにはおかしなことが多すぎる。でも、マジュール人とのハーフであれば、ある程度、納得はできる。それとも……あっしの予想どおりならば……」

 

 

 しゃべり方がブレまくっているのも厭わず、マエは屈んで、杖をとった。

 ニックがマエから離れ、洞窟の奥に着地する。

 俺の肩に手を伸ばそうとしてくる。

 その手には魔力が込められているようだ。

 

 

 背筋が総毛立ち、手を払わないといけないと頭ではわかっていても、なぜかからだが動かない。

 入り口を見張ってくれている勇者を呼ぼうとしたが、声も出ない。

 

 

 

 ふとももにはティンカがいる。今も寝息をたてて眠っていた。

 

 

 マエの手がティンカを覆っていた毛布をとった。

 ティンカが飛び、マエの目の前で両手をひらいた。

「ユーキになにしてくれてんだ。クソ魔法使い!」

 

 

 ティンカの大声によってか、俺のからだが動くようになった。

 

 肩にふれようしていたマエの手を思いっきり、はたいた。

 

 あれ? なんかデジャヴ!

 

 マエの腕の接触部分に強力な抵抗魔力を感じる。が、そのまま、突き抜けた。

 

 ずっぼーん。

 

 マエがまた、地中に埋まった。とんがりハットの先端と右手だけを残して。

 

 あいてて。マエを守ろうとして飛んできたニックに頭をつつかれる。

 

 俺、マッチョでござんした。何度も申し訳ござらん。

 

 そして,ゾンビのようにはいだしてきた。首だけ。

 

 そのハットの上にニックはサーフィンの荒波にのるかのごとく、無理矢理乗った。

 

 しかし、とんがりハットは脱げない。頭に接着剤でくっついてんのかよ。

 

「あったたたたた」

 

 首だけ出したマエに対し,ティンカが腕を組んで睨めつけた。

 

「いま、ユーキになにをしようとしたの」

「いやぁ、あっし、ユーキはマジュール人とのハーフかと思いましてね。ちょっとお調べしようか……体まさぐってやろうかって思ってねえ。うひひのひー」

 

 こわっ! 急にマッド・サイエンティストみたいにならないでくれよ。

 

 

「……ユーキはちがう。もう二度としないで」

「勝手に調べようとしたのは謝罪いたし……あやまるけどよー。でも質問に答えて欲しい」

 

 ティンカは俺の肩に止まって、首をふった。

「答えない。あなたには関係ないから」

 

 マエは口元を引きしめて堅い声でいった。

「答えてくれないと困る。あなたたちを信用して、託していいのかわからねーから」

 

 

 マエは居心地がいいのか、地中から出てこない。

 ニックもここが俺の居場所だ、と言わんばかりにハットから動かない。

 

 でも。真面目な話をしている。

 なんだ。この構図は!

 

 

 「勇者が死んだら……どうなるか知ってる?」

 マエはそう言って、腕を地中から出し、ニックになにかを与えていた。

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