13話 さよならは突然に
なんでだ? なんで、こんなに弱くて、勇気がない奴が、勇者なんて、人類の代表やってんだよ……。俺なんで、王にバカにされて、勇者になれなかったんだろう……。
俺はさりげなく、ライラとマエのLVを【客観認知】で見た。
ライラ LV2
HP:92/181
MP:9/9
力:9
素早さ:12
防御力:36
魔力:6
魔力耐性:6
集中力:12
勇気:57
GRIT:91
ストレス:34
スキル:-
ユニークアビリティ:-
マエのステータスはERRORが出て、見ることができない。魔法で相殺されたのだろうか。
やはり……。勇気は各人の初期ステータスに依存する。
憶測だが、勇気ステータスが1の者は、どれだけLVをあげても、勇気が成長することは、ない。
俺がそうであったように。
俺は勇者の腕をつかんだ。
勇者は何をすると言って、振りほどこうとしたが、非力な為にできない。
「答えてください! 勇気ステータスが1なのに、なぜ勇者なんかやっているんですか!!」
「離せ!」
勇者が腕を強く振って、手を離した。
「勇気ステータスがなんのことか知らないが、オレは自分の意思で勇者になった。それをとやかく言われる筋合いはない」
「貴方は自分が弱いこと。勇気がないこと。すべてわかった上で勇者になったのですか?」
「当たり前だ。自分が一番弱いことぐらいオレが一番よく知っている」
何の悪びれる様子もない。
恥とも思っていないようだ。
「その弱さに責任はないのか?
その臆病さが原因で、誰かを救えなかったとしてもいいのか。
勇敢なふりをして……。
そうではない自分自身の仮面が剥がれ、嫌悪したりしないのか?
絶望したり、しないのか?」
勇者にむかって言った事なのか、自分自身に対して言ったことなのか、もはやわからない。
勇者は口を開こうとするのを何度かためらったように見えた。
やがて、俺に背を向けて、言った。
「弱いことも臆病なことも全部自分のことだ。責任はオレにある。
勇敢なフリをし続ければ、もともと勇敢だった人とどう、違うのだろうか。最後まで演じきれば、それは勇敢となにが違うのだろう……」
勇者は独り言なのか、俺に問うたのかわからないほど、小さな声で言った。
「さっきのはすごい良い逃げっぷりだった。オマエもオレと同類だな」
勇者は一転して、冷酷に笑った気がした。
「全然、ちがいますよ。貴方とは」
なぜ,こうも違う。同じ勇気ステータスが1だというのに。
なぜ、アンタは勇者になることができるんだ。
戦うことができるんだ。
後悔の疼きがむくむくと立ち上がってくる。
今見ている勇者はまるで……。
俺が願っていた、自分の理想だった。
自分の想像の中だけで動く、無敵の自分だった。
想像のなかだからこそ、実現しえない、自分だった。
仲間のために剣を振るい、自分より強い敵が来ても、立ち向かう。
それができるから、勇者をやっているのだろうか。
――たとえ、勇気ステータスが1、であっても。
だとしたら、知りたい。
俺も勇者のようになれるのだろうか。
もういちど。だれかの為に、自らの勇気を振り絞ることができるだろうか。
勇者はライラとマエに怪我がなかったか、確認していた。
その様子をしばらく眺めていた。
ハンターウルフとの夜間戦闘も終わり、虚脱感が抜けない。
ティンカが俺の服から飛び出してきた。
「からだが汗臭い。あと、ワキの匂いは馬糞。三日間ねかせた、プレミアムな一品に仕上がっておりますよ~」
「しょーがないでしょー。恐怖におののきながらもがんばったんだから。
……え……それ、ほんと?」
ワキを嗅ぐも、汗のじっとりしたにおいがするだけだった。大げさダナ~。
「本人はいいよね。自分のワキが世界そのものを苦しめているなんて微塵も思わず、毎日平気でパフェとか食べてる」
ティンカが、鼻歌まじりに今までに見せたことがない抜群の笑顔を見せた。
えっ。これって。
俺がワキガ認定されたってこと?
断固、ちがいます! ちがうけど、こういうのって否定すれば否定するほど真実みが帯びるので、
私、気になりますが!
私、だまります!
戦いが終わって、皆、疲れて、黙ってしまった。
勇者たちは、交代で見張りをしてくれた。
俺はそのまま、疲れて眠ってしまった。
無事に夜があけた。
野鳥がさわやかに鳴き、太陽が大地を照らす。
不気味な闇に包まれていた山脈は、穏やかさをとり戻した。
すぐに出発し、歩いたまま簡単な食事をしていると。
ライラが声をかけてきた。
「ありがとう。昨日のユーキ。大活躍だったね」
「いや……。その。恥ずかしいよな。逃げるって」
「そんなことないわ。ユーキがいなかったら、どうなっていたか。逃げることだって立派な戦術のひとつよ。私たちの目的はヒム人の誘拐犯を見つけることなんだから。それにすごい筋肉。ほんとうのユーキは強いんでしょう」
ライラが一拍おいて、俺を見上げ、口を開いた。決意を秘めた面持ちで。
――嫌な予感が、した。
「ねぇ。私たちの仲間になってくれない――」
「だまれ!!!!」
勇者の怒号に会話をさえぎられた。
ライラに怒鳴りつけた。
「オレとの約束を忘れたか!」
勇者は俺を押しのけようとしたが、図体がでかくて、動かなかった。
すまん。マッチョなもんで。
俺の横をすり抜け、ライラの肩を強く押した。
ライラがのけぞる。
「約束が守れないのなら、ここで置いていく」
ライラが泣きそうになりながら反論する。
「ユーキが一緒なら、誘拐犯を捕まえられるわ。こんな体格の良いヒム人なんて見たことない。
さっきの動きも見ていたでしょう?
この人がいてくれなかったら、私たちは死んでいた」
勇者は首を振った。
何度も、振った。
何度も。
何度も。
なんだろう……。勇者の頑なさになぜか俺は泣きそうになった。
「本当にライラはなにも……なんっっにも。
わかっていない。ここでお別れだ。村に帰れ! 勇者から帰還命令があったと言え」
「そんな……。私はただ、仲間に誘っただけ。私たちはアルゼン山脈の通常モンスターにさえ、勝てないぐらい弱いのに。誘拐犯を捕まえることなんてできないわ。両親を助けることができず、ただ、犬死にするしかないってことなの?」
涙をこぼしながら、ライラは言った。
マエが間に入った。ニックは空を飛び、興奮している。
俺が勇者だったらどうするだろうか。きっと土下座してでも俺に頼むに違いない。
――共に戦って欲しいと。
きっと、そうできない理由があるのだろうな。どんな理由かはわからないが。俺も村長経由で戦わないって言っちゃったしなー。
勇者たちがこんなに弱いとは知らなかったけど。
マエが、指でライラの涙を拭っていた。
「マエ。ライラをおいて出発する。おい。また、道案内と荷物持ちを頼む」
マエはうなずき、勇者と共に歩き出した。
今度はおい、呼ばわりですか。はいはい。分かりましたよー勇者様。
ライラはその場にうずくまったまま、微動だにしない。
勇者は一度も振り返らなかった。
俺はライラの雑嚢を置いて、
頭を下げた。
こんな俺によくしてくれて、ありがとう。また、どこかで会えたらいいな。
ティンカは俺の肩にのって、ずっとライラを見ていた。
勇者がはやくしろっ! と怒鳴るので、急いであとを追った。




