11話 作戦立案主任補佐官、と呼んでください。
暗闇の奥から足音は少しずつ、少しずつ……近づいてきた。
火の届かない、広大な闇から、獣特有の一定のリズムの呼吸と、物音が近づいてくる。
4~6匹か。
息を潜める。
――とがった爪が見えた。
野営地に入ってくる。
唸り声が聞こえてきた。
匂いを嗅ぐために鼻を鳴らす音。
顔をしかめたくなる、強烈な獣臭。
実は匂いは、ちょっと前からしてはいたんだが……。
1歩ずつ、注意深く歩く、足音。
それは、いつまでも続くかと思われた。
そのまま行ってくれ……と願う。
火の周りをぐるぐると回って、警戒している。
俺の近くで1匹が強く、吠えた。
――びっくりしたー。心臓が落としたトマトみたいに砕け散る所だったじゃねーか。
遠吠えに反応して、皆が一斉に吠えた。
1番最初に吠えた者の後ろに仲間がつき従う。
足音が遠くなる。おそらく元来た道へ戻っているのだろう。
よしよしっ。そのまま。そのままっ。見逃してくれ。
しかし、また、足音が近づいてきた。
俺は首をそっと、動かした。
1匹が俺のいる方を見ている気がする。
鳴いて、首をかしげた。
こちらに戻ってくる。
俺は声が出そうになるのを我慢した。
俺に向かって近づいてきた。ゆっくりと。警戒を怠らずに。
一度止まって、辺りを見回した。
俺を選んだのか、迷いなく近づいてきた。
――やられる!!!!!!!!
目を閉じていたら、鼻先を突っ込んできた。
そいつは頭にかぶっていたものの匂いを嗅いだ。
生暖かい息があたって非常に不快です。
「――ッヤ……」
女性の悲鳴が漏れた。
俺と対角線上にいるライラが、俺が噛まれると思ったのか、声が出てしまったのだろう。
ハンターウルフがうなり声をだし、ライラにゆっくりと、近づいていった。
勇者が起き上がったのを見計らって、俺も起きた。
俺たちはその場でからだに被っていた、ハンターウルフの死骸を脱ぎ捨てた。
――ハンターウルフの死体被ったよ。だから見逃して大作戦! 失敗!!!!!!!!
ハンターウルフが後ろに飛んで、下がる。
全部で6匹いる。
「ライラ。前へ。マエとおまえはオレの後ろに」
勇者の指示にライラはうなずき、金属盾を持って、突進していく。
ハンターウルフがライラの盾により、弾かれた。
4体はそのまま、ライラにまとわりつき、腕や足を獰猛な牙で喰らおうとしている。
いくら月が出ていて、火がついていても、夜の山で、木々に囲まれていては、視界が悪い。
勇者は背負った大型の剣を抜いた。
いよいよ……勇者の力の初お披露目だ。
さっさとやっつけてくれよな。
抜かれた立派な両手剣の刀身に炎が反射している。
ハンターウルフ2匹が、ライラの横を抜けて、勇者に向かっていく
勇者が構えた。
――勇者の体には大きすぎる剣を、ハンターウルフに向かって、振った。
風を切る、爽快な音が聞こえる。
しかしウルフには当たらず、ウルフは後方に下がった。
ふたたび、剣を振るうも、ウルフは横に回避する。
勇者は剣を振るというより、振られている。筋肉がない為か、剣を支えられていない。
剣が勇者を操っているようだ。
このセカイではゲームみたいに、体の細い人間が、大剣を振り回すようなことはなく、中肉中背でやせ型の勇者は、見たままの力しかなかった。
乱戦になって、マエがうろたえている。
俺にしがみついて、どうしよう、と呟いている。
こんなはずではなかった。俺がどうしよう、だよ。
しょうがない!!!!
「マエ。攻撃魔法って使える? 勇者の近くの2匹に放てるか?」
「ごめんなさい。わかりませんです。どうしたらいいでしょうか」
キャラブレも気にせず、マエは俺にしがみついて離れない。
「お前たち。いままでどうやって敵と戦ってきたんだ?」
ライラは1匹のウルフも追い払えず、盾で守るだけだった。
勇者は重すぎる剣に振りまわされ、素早いハンターウルフを捉えることはできない。
マエは泣き出しながら俺に言った。
「あっし達は今まで一度も戦闘したことがございません。3人とも辺境の村で作物を作っていただけなのでございます」
え?
俺はずっこけた。
こんな緊迫した場面でずっこけるとは思わないだろう? 俺もそう思っていたよ。
さっきまではね。
予想を超えた発言があると、ずっこけるんだよ。人ってやつは。
仲間がいた。
それを聞いたティンカも、盛大に空中をずっこけていた。
空飛んでても、ずっこけるときはこけるよなぁ。
俺たちは19年も一緒にいるんだ。ずっこける場所だって一緒だ。
さて、この状況、どうする?
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