10話 女の子とキャンプできるってだけでファイヤーするよね? えっしない? うそ……でしょ?
3話の微修正を行いました。※この話(10話)ではありません。
わかりにくくてすみません。3話の前書きに詳細を記載してあります。
うっすら霧は出ていたが、月夜により、かすかにその姿をとらえることができた。
近づいてくる足音の正体は、兎だった。近くの茂みで様子をうかがっている。モンスターの影響か、足が異様に早く進化している。
夜食にするため走る準備をしていると、マエが立ち上がり、ニックを宙に放った。
ニックは翼をはためかせ、低空で飛んだ。気配に気がつき、逃げ出す兎を後ろからするどい爪でとらえた。
ニックが、何度も高く、鳴いた。
ライラが素早く近づき、腰のナイフで一刺しし、そのままさばいてくれた。
俺とティンカはニックの背中を触ると、もう一度、高く鳴いた。
「よくやった。よーしー」
マエはニックの口元にまたなにかをあげていた。
夜食に豪華な兎の肉が加わった喜びも収まり、静けさを取りもどした。
勇者はじっと火を見つめ、しゃべらない。マエはティンカとなにかをひそひそと話していた。
「あなたはすごい筋肉ですが、この山で道案内をして生計を立てているのですか」
鎧を来たまま体育座りをしているライラから話しかけられた。
あれ、いまの会話で筋肉と道案内、関連性がないのでは?
「ライラ。やめておけ。何度言わせるんだ。そいつと話をするな」
「あー。そういうつもりではなくて、その……。情報交換をしようかと……」
「勝手にしろっ!」
勇者は吐き捨てて、背中を向け毛布にくるまった。
いかんな。思った以上に敵視されている。俺が親の敵に似ているとか? それとも皆がいう、巨人族とやらに恨みをもっているのだろうか。
俺、巨人ちゃうからね。
ちょっとだけ、おっぱいとかが人よりも大きいだけだからねっっ。
でも、男の子だから、巨乳属性も、ないの。
生きてて、ごめんね……。
遅くなってしまったがライラの質問に答えないとな。
「ああ……。道案内は今回が初めてなんです――」
俺の話をさえぎり、ライラは手を振った。
「いいですよ。敬意を払う言葉など不要です。そんな大した人間ではないし」
「ありがとう。道案内はやったことがない。ずっと自給自足でティンカとこの山に住んでる」
「あんなに詳しいのに?」
ライラは酒場での登頂会議のことをいっているのだろう。
昨日。酒場の机にお手製の地図を広げ、アルゼン山脈登頂ルートを説明した。
「いちばん早くつきたいなら、中央ルートです。一日半で忘れずの森までいけます。ただ、敵が多い。ハンターウルフの縄張りでもあります。ただし、ゴブリンとハンターウルフは犬猿の仲なので、ゴブリンは出ません」
質問はなさそうだ。説明を続ける。
「次は左側の迂回ルート。こっちは約二日間かかります。足場が悪く、この時期は雨も降りやすい。絶壁を進まないといけない場所があるうえに、ゴブリンとハンターウルフが縄張り争いをしていて、巻き込まれるとやっかいです。
最後が右側を迂回するルートです。三日間かかりますが、モンスターが少ないルートです」
勇者が地図全体を指さした。
勇者の指は痩せていて、指先に土がこびりつき、擦り傷だらけだった。多くの死線を乗り越えてきたのだろうか。
「敵はその二種類だけか?」
「そうです。いまのところは……」
勇者は怪訝そうに聞いた。
「いまのところ?」
「いまは発見できていませんが、今後出てくる可能性もあるということです」
「……モンスターと遭遇したときの手立ては? 戦う以外にあるか?」
「考えてあります」
いくつかの案を、みんなに話した。
「これは全部アンタだけで調べたのか」
「いえいえ」
ティンカに両手を向けた。ティンカは誇らしげに腰に手を当てた。
「こちらのティンカにも手伝って頂きました」
「ふむ。個人的に聞きたいのだが、こんなに細かく調べるコツは?」
「自らの臆病さ、と、そうですね……観察と仮説と検証の繰り返しです」
勇者はあごに手を当てた。精悍な顔は黒く焼けており、いかにも戦闘力が高そうだった。
「観察と仮説と検証の繰り返し……とはあまり聞かない言葉だ。端的にいうと、どういうことだ」
「科学的に調べたってことです」
勇者はアルゼン山脈にヒム人をさらった何者かが、一足先に忘れずの森方向へ向かったという情報を得ていた。
急ぐため、最短の中央ルートを選択した。
野営地の奥から遠吠えが聞こえる。
ハンターウルフだろう。できれば遭遇したくない。
ティンカとマエは仲良くなったようで、ティンカの木彫りの人形を一緒に見ている。友達ができてよかったな。
俺は相変わらず、【世界中でひとりぼっち選手権】の優勝候補筆頭、でございますがね。
俺はライラに気になっていることを聞いてみた。
「どうして君は、勇者と共に、さらわれたヒム人の事件と関わろうと思ったんだ」
勇者の背中がピクッと動いたのを見逃さなかった。火がパチっとはね、影が生きているように動く。
それまで、穏やかな表情をしていたライラが突如、顔をゆがませた。
「――両親が2ヶ月前から行方不明で。私はこの事件に巻き込まれたと思っている。両親だけじゃなく、もっと多くの人が行方不明になっている。放ってはおけない」
野営地の近くから虫が鳴く声がし、獣たちがうごめく音が聞こえる。
「あれ? そういえば、マエはどうして勇者に同行したんだっけ?」
ライラが舌を出して、マエに聞いた。
マエはティンカと話し込んでいた。とんがりハットのつばをこちらに向ける。ニックはマエの肩に乗っかっている。
「お忘れになるんじゃございませんこと……よ……じゃねーよ! 大きく育ったボケたナスですこと!!! あっしだって大事な人がいなくなって、その人を探しているのですわ……いるんだよー!」
おー。ボケナスという言葉があるということは、このセカイには茄子があるのだ。食べたいなー。茄子の味噌漬け。
そういえば、アルゼン村でも行方不明なのか、どこかに移り住んだのかわからない人が数人いた。
ある日、急にいなくなって、家には服や家財が残されていた。
そんな事件があることを知る前は、失踪したのかと思っていたが。
ティンカがその事件に関わっているから、今回勇者と同行したということであっているのか?
ティンカも色々と事情があるって言っていたけど、こうも秘密主義だとなにもわからないから困ったものだ。
「なにか手がかりはないのか? 事件について」
「わからないわ。私の両親はある日突然、いなくなった。一緒に暮らしているあいだは特に悩みとかはなく、普段と同じように暮らしていた。
ふたりして急に失踪するのはおかしい。今回ようやく事件の糸口をつかんだ。早く助けてあげたい……」
炎は不吉に餌となる木々を炭へと変化させていく。
「サオトメは、ずっとアルゼン山脈を見てきたんだよね。不審な動きってなかった?」
ライラに俺のことはユーキと呼んでくれと言ってから、考えてみた。
そういえば、最近よく獣人族を見かける。前からいたが、最近は特に。
見た目が狼男、犬男みたいなやつで怖くて近寄ることはしなかったが。
しかし、獣人族はアルゼン村に行商に来るし、村人とも仲良くやっている。
「獣人族を最近よく見るな。ただ、前から山を歩きまわっていた。特にすごく怪しいというわけでは、ないな」
「獣人族、か。私のいた村にも行商や、冒険者として滞在したことがあるわ。強くて気の良い種族よね。獣人族が今回の誘拐に関わっているのか、はなんともわからないわ」
ティンカにこのセカイの種族のことはすでに聞いたが、間違いがないか、ライラにも聞いておこう。
「この世界には、竜人族 獣人族 マジュール人 ヒム人(人間)がいるんだよな?」
「そう。獣人族とマジュール人は、すごく友好的な種族ね。私も何度か酒場で意気投合したことがある。竜人族はあったことがないわ。竜になることができる珍しい種族よ。世界に数十人程度しかいないとか」
ライラが、弱ってきた火元に枝を投げた。
「ヒム人誘拐の犯人はまったく見当もつかないわ。一体だれが、私の両親を……」
すっ、と影が伸びた。ゾッ、として顔を上げると、勇者が俺をにらみつけていた。手には燃やすための枝を持って。
「しゃべるな、って何回目だ。ケンカ売っているのか。この枝を口に突っ込んで、二度とその口をひらけないようにしてやろうか」
ひぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ。
俺は口を両手で押さえると、首を何度もふった。
俺をにらみつけていた勇者はティンカを追い払って、マエとなにかを話している。
ティンカ、しょんぼりしてる。こっちに手招きしたら肩に乗ってきた。
マエと勇者からは、てき、味方、だれという言葉が聞こえてきたが、なにを話しているかはわからない。
蚊の鳴くような声でひそひそと、ライラに聞いた。
「勇者は俺のこと、嫌ってるよね? なんか失礼なことした? 俺……常識ないから」
常識もなにも、このセカイ来て1年ですからね! でも他に良い言い方が思いつかなかったんす。
ライラは首をかしげた。
「……。ああ……。ごめんね。そんなつもりはないと思うわ。……あの人は、人見知りだから」
いや。人見知りなんて言葉とは違うと思うぞい。俺、めちゃくちゃ嫌われているでしょうよ!
ニックがマエの肩から激しく首をうごかしている。マエの指を噛んだ。
遠くで雑草を踏む音が聞こえる。
焚き火が爆ぜる音と同時に、暗闇の奥で小枝が割れる音がした。
――なにかが、くる。
俺はライラの背中に隠れた。ライラがそこにはじめて、肥だめがあったことに気がついたような険しき表情をした。
彼女は肥だめを見ていなかった。
俺を、見ていた。




