1話 いちばん異世界転移させてはいけない男が異世界きちゃったんだが?
この世で最も、異世界転移したらいけない人間って誰だと思う?
俺だよ!! どうも、俺です。
早乙女勇気、18歳、独身です!
臆病者の俺をどうして転移させたんですかーい。
異世界転移して、魔王と戦う展開とか、マジでムリだからな……。
辺境地で美少女とスローライフならまぁ、百歩譲って良いかな……って。
なんで転移してきたかわかるかって? さっきまでアキバでフィギュア見ていてさ、ゲームの魔方陣みたいなエフェクトに急に包まれて、おー、VRすげー。って。あれ、今VRコーナーにはいませんよ? って思ってたらさ、急に目の前が岩肌の山? なのね。
周りには滝があって、うっそうと茂る木々。ここは山っすよね? あと、酸素若干薄い?
これが決定的なんだけど、右側の遠くにものすごい大きな樹木が見える。天まで伸びてんじゃねえかっていうすさまじい高さと横幅ね。こんな木さぁ、地球には存在しなかったよね。俺が呆けているあいだに立派に大きく育ちましたって? どんな魔法だよっ!!
つまり。転移したよね。知らない世界へ。なんなの右側に生えた樹木は。デカすぎるでしょ。
「ここ、どこですかー!!!!! さっきまで、俺、ティンカとアキバでフィギュアみてたんすけどー。ティンカ? おーい!!!!!!」
ティンカとは俺のイマジナリー・フレンド。心の中に住んでいた妖精で、かれこれ赤ちゃんからの付き合いさ。
悩みもなんでも相談できる心の友。
しかし、話しかけるも応答してくれない。
日本にいたときはちゃんと答えてくれたのに。
1人ぼっちになっちまったよ。
まじか……。たったひとりっきりでこんなどこぞの山? 遭難確定だね……。
水は目の前の滝から確保できそうだな。
ひとまず、近くに村とかないのか? 探そう。
と、その前に。装備を確認だ。
貧相な猫背のオタクボディに働いたら負けTシャツを着て、エビリュックもそのまま日本から持ち越しか。
エビリュックとは俺のエビデンス(科学的根拠がある、行動や考え方のこと。瞑想とか、筋トレとかね)の師匠【Dai五郎】の有料チャンネル会員限定のエビの形の大型リュックのこと。抽選で2名様の超レアアイテム。
これ、当たった時泣いたんだ。うれしくて。
リュックの中にはスマホと財布のみ。
それが俺の全持ち物。
その時、俺の体が光り、心臓の辺りが温かくなる。
ですよね! 遅れても許すよ!
まだでしょ? ほらほら、あれあれー。そうそう!
チートやスキルとか、異世界転移や転生したらみんなくれるでしょ! 俺、まだ、もらってないよね。
こんなビビりを転移させたからにはとんでもないスキルやチート能力がないと野垂れ死んでしまいまっせ。
それか超絶美しくて、有能な女神みたいなのが旅に同行してくれるんだよね?
さあ、こいやー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ぽわぽわ、と光が縦に伸びると、光より手や足のようなものが形成されて、少女の妖精の姿となり、ウィンクしてきた。例えがアレですまんが、2リットルのペットボトルぐらいの大きさだ。
「呼んだ~?」
妖精は眠たそうに目をこすりながら、まだ78%は眠りの中なんだけど~っと想定される声で言った。
なぜか、ぴん、ときた。長年一緒にいた勘、のようなものだろうか。
「オマエ、まさか、ティンカ? 18年も俺の心の中にいた、ティンカか?」
「そうだよ。やっとお披露目できました。ふぃー」
ティンカはあくびをして、背中から生えた羽をしゅっと伸ばした。
羽を使って軽く飛んで、俺の右肩にすわる。軽いが、たしかに重さを感じることができる。いいにおいがした。
自らの手足を点検している。
すげー。 ティンカってちゃんと存在していたのか。てっきり、俺の心の中の第2の人格だとばかり思っていたぜ。
ティンカが俺の目の前まで飛んで、お辞儀する。
俺もお辞儀を返した。
ドーモ、ハジメマシテ。
ずっと悩みを聞いてもらっていた。ずっと一緒に18年生きてきた俺の心の友が、目の前にいる。
互いにはじめて実体を見るので、もじもじする。
「ずっとメールしてた相手と初めて会うのってこんな感じなのかな。なんか照れますね。ユーキ殿」
「そそそ、そう、だ、、ねっ」
なんだこれ。初恋ってこんな感じなの? 教えて、だれか、分かる人。
2人で笑った。なんか照れる。よろしく、と握手する。
ティンカは驚くほどちいさな手だった。
おー。互いにふれられることに感動する。
何度も握りあって、笑って、を繰り返す。
「ここって日本とか地球じゃないんだよな? あのバカデカイ樹の異世界感の醸し出し方がすごいよ! なんで俺が転移してきたか、ティンカはなにか知ってるんじゃないのか」
秋葉原で魔法陣に包まれる前に、ティンカが「時間だ、ごめん。ユーキ」と心底申し訳なさそうに言っていたからだ。
ティンカは遠くの樹木を見て、あ~あれね~と、ゆるーくうなずき、考え込んで、首をひねって、眉間にシワを寄せ、うなって、寝転びながら、飛んで、くるくるーとその場でゆっくりと回った。俺もティンカに動きをものまねした。流石に飛ぶことはできなかったが。
「ごめん~。事情があって、いくつかの事柄を伝えることができないの。でもそれは、ユーキを騙そうとかそういうことではなくて、理由があるのね」
ティンカと一緒になって回っていたら、目線を合わせられないから、俺は止まった。ティンカと見つめ合った。
可愛らしい妖精だ。白い布のようなワンピースを纏っている。その瞳は青く、透き通っていて、嘘は言っていないように感じる。
「ティンカ、俺達は18年の付き合いだな?」
「だね。ユーキとは生まれてからずっと一緒にいる」
「じゃあ、俺のことはなんでも分かるな?」
ティンカがうなずく。親密な時間がゆっくりと、流れる。
ティンカの肩をがっし、と抱き、唇と唇が触れ合う直前まで近づいた。
ティンカが頬を染めて、目をそらす。
「ちょっと、ユーキ、え? ちょっ……」
俺は構わず、顔を近づけた。
「ふざけんじゃねーぞ! 俺が超臆病者なのは、お前が一番、よくわかってんだろうが!! なにか知ってんのに教えてくれないとかマジで意味わかんねーよ!! お・れ・はーーーー!
こ・わ・い・のー!! お・そ・ろ・し・い・のー!!!!こんな異世界に許可なく飛ばされてきてさー。なんでもいいから教えてくれ!!!!!!!!!」
ティンカの眉目美しい顔に俺のつばがほとばしる。地獄絵図と化した。
ティンカ白目。
ティンカ、白目。復旧の見込みなし。
ティンカさ。おもむろにハンカチだしてきて、あれ、それ、どこからだしたの? って俺が不思議そうに見てたら、それで、顔を拭き。だよねーって俺が何度もうなずいていると、拳をにぎって。にっこり笑って。ん? その手でなにすんのって顔、俺がするとさ。
そのまま、腰、思いっきり引いてさ、殴ってきたよね。
「あべしっ!!!」
グーで。
「がほっぺ!!!!」
ほっぺ。ばちこんっ、て。
「どわっふ!!!!!」
キュートな妖精なのにすさまじい腰の入れ方。えぐい、えぐみ。
「あいたーす!!!!!!」
岩肌の地面に転がってごーろごーろ。ティンカ、ゴキブリでも見つけたのかなって思っていたら、ほっぺをかばっている俺見てて。
「女の子が言えない事情があるって時は、言葉どおりの事情があるんだよ。察すること。そうすることでこの世に生きているだけで降りかかる、多くの不幸と理不尽が避けられるよ。覚えておいて。あと、乙女の純情をもてあそぶグズグズのクズは、私が一生分の熱量をもってサンドバックにしてあげるから、もうやらないでね」
ほっぺをおさえる俺はあっけにとられた。
つ、強い!
ティンカは手をぱんぱん、とはたきながら、眉間にシワを寄せた。
「とはいえ、戸惑ってるユーキのこともよくわかるから、簡単に伝えるよ。まずはユーキだけが使える!? エビデンス魔法(科学的根拠魔法)から」
とうとう、来た。俺のチート能力の初お披露目だ。
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