葬儀屋の二人⑦
お久しぶりです。
モチベーションが上がってきたので、続きをどうぞ。
「はっ、はっ、はっ………」
路地を縫いながら、白いスカートをはためかせて、ノトは地面を蹴っていた。事前にキアにこの町の地図を確認しておいてよかった、と心底思っていた。
(キア………無事よね?)
あのぶっきらぼうな青年が、あの老父に負けるなんてことは、ノトには想像ができなかった。いくら屍人を操る魔術を使えるからって、キアには勝つことができないはずなのだ。
(だって、キアは―――)
「あ、ぁああヴぁああっ」
「ああ、もう、鬱陶しい!」
思考を屍人のうめき声に邪魔され、思わず叫ぶ。横合いから伸ばされた手を躱して、曲がり角を曲がる。―――そのタイミングで、破裂音が耳を裂いた。
「―――――――――ッッ!?」
左の足首が、突然、異様な熱を持った。
体重を支え切れず、その場に崩れ落ちる。ぱたた、と血液がマンホールを濡らした。
見上げた視線の先には、手に握った拳銃から硝煙をたなびかせた神父がいた。
「さて、追いかけっこはもう仕舞いだ。私に従う気がないのなら、さっさと屍人になるがいい」
「いやよ。私には死ぬつもりなんてないわ」
「この状況でも虚勢を張れるとは、勇敢なお嬢さんだ。………しかし、君を守る騎士はいない。誰も君を助けてはくれないさ」
「―――それはどうかしらね?」
ノトはそう言い、カバンから石を掴んで引っ張り出した。神父はそれを訝し気に見る。
「また、石か。いい加減目くらましも意味がないと気付かないのか?」
「あら、あなたの方こそ、これの価値が分からないなんて、三流もいいところだわ」
ぼそぼそと、ノトが何事かを呟く。すると手に持っていた石が光を放ち、震える。
ノトの元に光が集まり、舞う。ノトは祈りを捧げ、祝詞を続ける。
そこに、火線が飛んだ。
「う、ぐ………!?」
「私の屍人を殺そうったって、そうはいかぬよ。それは既に見た。私の目の前でそれをやるのは、あまりにも愚かだ」
神父がノトを蹴り上げる。カバンが翻り、マンホールがわずかに動く。舞った血液が下水へ落ちたのを、ノトは見た。
地べたに這いつくばったノトを足で踏みつけにし、彼女の頭部に、神父は拳銃を突き付けた。
「これで終わりだ。屍人に関する知識は惜しいが、命の方が大事だからね」
「―――っ、来て、キア………!」
「まだそんな妄想をしているのか。しょうがない。後で地下に戻って二人仲良く屍人にしてやるさ」
引き金に指をかけ、引き絞る。銃口が跳ね、火線がノトの頭部を貫いた。
かのように、見えた。
「勝手に殺すなよ、神父様」
黒づくめの格好をした、白髪の青年が、拳銃を掴んであらぬ方向へ捻り上げていた。
見れば、マンホールが遠くで転がっている。地下を通じてこちらに出てきたのだ。幸い、ノトの血が垂れていることが目印となった。
「なっ!? 貴様………がっ!?」
「驚く暇があるのか?」
驚愕の表情を浮かべた神父の腹を思い切り殴りつけ、吹き飛ばす。よろめきながらもこちらを睨みつける神父を尻目に、キアはノトを抱き起こした。
「大丈夫か」
「………大丈夫じゃ、ないわ」
「悪いな、遅れて」
「本当よ。でも、来てくれたから許すわ」
「―――あとは任せろ」
「ええ」
ノトを改めて寝かせる。外套を上からかけ、キアは腰に提げた小剣を抜いた。
「………おや、そんな剣一本で私と戦う気か? 先ほどの刃はどうした?」
「お前には関係ないだろう。それに―――俺は小剣の方が慣れてる」
「そんなボロボロで? 今にも失血死しそうだが」
「無駄口叩いてどうした? びびってるのか?」
しばらくの静寂が場を包んだ。そして、二人はほぼ同時に動き出した。




