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兄さんは私の嫁  作者: 揚羽常時
吸血鬼のお姉様
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二人と一人


「ではナイフを取り出したと」

「他に無いでしょう」


 場所は職員室。警察が来て、根掘り葉掘り聞かれた。別に俺が悪いわけでも無いので、平坦に答えを返す。事情そのものは簡潔だ。嫉妬に狂った男子生徒の未熟な殺意。それだけ。殊更に話を広げようとは思えない一件。


「……………………」


 差し出されたコーヒーを俺は飲んでいた。しばらく問答が続いて、解放される。


「宜しいので?」

「昇降口の監視カメラも同じ記録を持っていますし。あくまで当人の口から聞きたかっただけですよ」


 ――さいですか。


 そんなわけで俺は職員室を出た。そして魔術研究会へ。姫子が待っている。


「よ」

「あ、お兄様」

「待たせたか」

「待たせはされましたけど、お兄様のせいではございませんでしょう?」

「それも然りだな」


 苦笑も今さら。たしかに俺のせいじゃない。


「警察は何と?」

「ちょっと少年法に関係すると」

「うわ」


 そう云うよな。稚拙な殺意ではあったが、その手段はあまりに現実味を帯びすぎている。俺じゃなかったら刺されて終わりだ。その意味で、今回は刑法の勘案もあって退学処置を言い渡されたワケだが。


「まぁお兄様を害そうとしたのですから、コッチとしてもあらゆる処罰を容認出来ますけど……。退学ですか。そうですか」

「姫子にとって俺は邪魔じゃ無いのか?」

「恋敵ではありますけど、排除して終わりなら、それはお姉様への侮辱ですわ」


 なるほど公平を期しているわけか。その清浄な御心は賞賛に値する。って言うか普通に良い子だよな……姫子って。あるいは長い年月が精神を丸くさせたのか。君が代な年月を経ているのかも知れない……っていうか三桁って言っていたもんな。肉体年齢の話。


「じゃ、帰るか」

「ええ。そうしましょう」


 そして姫子は俺の腕に抱きついた。フニュン。乳圧で俺の腕が幸せ。だが確かに接触は必要だ。姫子にワンセルリザレクションを掛けるためには。こんな業の深い渡世を生きているのは日本で俺だけじゃないか? 少しそう思う。


「有栖川さんまで」

「観柱ヨハネ。弑すべし」


 とまぁ衆人環視の噂はそんなところ。


「嬉しいですか?」

「何がだよ」

「わたくしと仲を噂されて」

「アリスで散々味わった」

「えへへ」

「なんだよ。気味が悪い」

「お兄様はお姉様のことを良く思っていらっしゃるなと。そう思ったらとかく男女の仲を思惑する程度には、思い知らされます。お姉様はあまりに幸せ者で……その幸福を一寸も違えることなく理解なさっておりますね」

「あいつも病気だからな」


 疲れた声で反駁する。昇降口を抜け、校門へ。風紀委員が身だしなみのチェックをしていた。俺も姫子も違反はしていない。サラリとスルー。


「こんな風に殿方と歩くとは」


 俺の腕に巨乳を押し付けて姫子。


「基本百合百合なんだろ?」

「ええ……まぁ……」

「ま、気の違えとでも思って貰えれば」

「お兄様は丁寧語が皮肉ですね」

「然もありなん」


 サラリと躱す。実際にその通りでもあった。意識しているわけでは無いが、不遜不屈は俺の精神の拠り所だ。おかげで敵を作る毎日だが。


「大丈夫ですよ。お姉様はそんなことに不満を覚えませんので」

「よく覚っていらっしゃる」

「お姉様ですもの。分かりますよ」

「幸せ者だな」


 アリスは。姫子なんて美少女に惚れられて。俺は別に同性愛を否定しない。これは既述の如し。その上で姫子は誠実で、とてもアリスの観念に合っている。その意味で兄貴の一番長い日は……ある意味で有り得る風景だった。


「馬鹿なことを考えてますか?」

「かもな」

「お兄様はお姉様を理解しなさすぎです」

「一応見知ってるんだが」

「お姉様の恋慕はもはや呪いの一種ですよ?」

「まず、そこまで期待をさせた俺が悪いと?」

「言葉を選ばなければそう相成りますね」

「ふむ……」


 けれどなぁ。血が繋がっているんだから何ともはや。たしかに恋の全てが真っ当なら、ラブコメは有り得ないだろう。妹萌えの教義も無いはずだ。ただ現実論として考えた場合、どうしても不利な立ち位置にはなる。その辺をアリスがどう考えているにもよるが、


「お前は良いのか」

「何がです?」

「俺にアリスを取られて」

「お兄様になら……別に。3〇ーでも構いませんし」

「そっちは俺が構うな」


 まこともって率直な意見。


「では一緒にお姉様を攻略しましょう」

「俺の場合は既に攻略済みなんだが」

「わたくしを混ぜてのお話です♪」


 そこで音符がつくのが姫子の悪癖だよな。いや言わないけども。


「俺の血は吸わないんだろ?」

「趣味じゃ在りません由」

「何処まで行っても百合百合か」

「乙女の楽園ですわ」

「アリスの方にもそうだといいんだが。ぶっちゃけお前は勝率でどのくらいと算出しているんだ? アリスを振り向かせるという意味で」

「一割もありませんわね」

「えらくドライだな」

「お姉様がお兄様と経た年月は取り返しがつきませんもの。それに」

「それに?」


 ヒュッと姫子は首を傾げた。チュインと銃弾が奔る。それは先まで姫子の頭部があった残像を射貫いていた。


「この様に狙われる始末ですから」

「リエルか」

「然りですね。火焔と氷水の魔女が居ないんです。襲うには絶好でしょう」

「牡蠣フライは準備されてるかね?」

「お姉様なら大丈夫でしょう」


 じゃ、後は狙撃手と敵対するだけか。それにしても聖書って血を流すよなぁ。


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