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兄さんは私の嫁  作者: 揚羽常時
兄さんは私の嫁
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兄さん大好き!


「兄さん!」


 相も変わらず妹よ。朝日の差す中、満点の笑顔。


「呪詛は大丈夫か?」

「兄さんに施術して貰ったのでバッチリです」


 なら言うことはないが。それにしてもテンションが高いな。いや……まぁ……俺の責任ではあるにしても。


「うむ……」


 味噌汁をズズイと飲む。大豆の香りが芳醇だ。


「どうですか?」

「美味だ」


 パァッと華やぐ妹の表情。コレだけ観ると、愛らしい少女なんだが……生憎と俺とアリスは兄妹だ。今更言うことでも無いにしても。


「それで学内でも?」

「兄さんにベッタリしたいですよ~」


 そうなるよな。

 わかりきっていることでもある。


「実際にアリスは可愛いしな」

「えへへぇ。兄さんにそう思われることこそ不条理です」


 不条理の塊が何かを言った。たしかにその通りではあれども。


「他に興味を持つ異性は居ないのか?」

「兄さんはそれで良いので?」

「さてな」


 普通に考えて推奨するべきなのだろうけど……俺もアリスの事を好意的に想ってはいるので候ひて。


「ま、聞くだけ無駄か」

「その通りです!」




 ――兄さんは私の嫁です!




 それがアリスの根幹だった。


「さてそうなると……」


 学内での妬み嫉みが暴発する可能性まで把握せねばならないのだが。その点をアリスは把握していないだろう。俺とて普通に予想が付かないのだが。


「では兄さん。着替えを」

「ありがとな」


 謝辞を述べる。


「兄さんのためですから」


 ――それだけで世界が完結するのもどうよ?


 少しそう思う俺だった。




    *




「「「「「観柱さん!」」」」」


 学内でのこと。観柱アリスは人気者だ。美少女で欧人でパイオツもカイデーと来る。男子の性欲を刺激するに足る存在だ。


「失礼ながら、興味はありませんので」


 ――解散。


 そうアリスは述べる。


「ええぇ?」


 困惑する男子諸氏。アリスの魅力と、その対応について、齟齬が発生しているらしい。その点は俺がよく知っているにしても。


「兄さん?」


 機嫌良くアリスは俺に視線をやる。


「何か?」

「大好きです」

「「「「「――――――――ッ!」」」」」


 吹き出すのは愛すべきクラスメイト。それは確かに、妹が兄に対して好意を向ければ、それが現実とは認識しがたいにしても。


「頭は大丈夫か?」

「兄さん程度には」


 要するに俺ほど破綻していると。


「私のボインなら幾らでも享受差し上げますからね」

「有り難いことだな」


 他に述べようもない。実際に呪詛を取り除くときは、アリスの女体を把握はしていても、それが罪悪であるのは必然で。


「何だかな」


 嘆息も已む無し。


「兄さんは色々考えすぎです」

「考えないよりはマシだろう」

「普通に抱いてくださって構わないんですけど……」


 またしてもクラスメイトは吹き出した。中々ノリの良いことで。


「私のボインでは足りませんか?」

「そも何を思ってそんな結論に達したか。そこを問いたい気分ではあるな。あまり聞きたくない議論ではあれど」

「兄さんのことが大好きです!」


 ――他の男子に言ってやれ。


 正直なところ、そう思う。


「兄さんはツンデレです」


 否定はしない。アリスを想っている身では馬鹿正直に否定も出来なかった。何にせよ、アリスが可愛い妹であることに異論は無いのだから。


「だから好きですよ? 兄さん……」

「恐悦至極」


 肩をすくめる。


 周囲の男子生徒も毒気を抜かれていた。ブラコンのアリスに介入する余地が無いせいだろう。普通に考えて、アリスは俺に惚れすぎている。


「マジ有り得ないんだけど」


 男子の一人がそう云った。


 ――確かにな。


 俺は心中でそう答えた。実際に有り得ないのだ。アリスの御尊貌と、その異性価値において。普通なら幾らでも彼氏が造れる身分。その全てを捨て去って、アリスは俺に好意を向ける。


「兄さん?」

「何か?」

「大好き!」

「知ってるよ」


 ソレも今更だ。


 吹き出すクラスメイト。


「分かっててやってるだろ……お前……」

「それはまぁ兄さん大好きですから」


 其処に異論は無いらしい。


 ――ま、良いんだがな。


 妬み嫉みも今更。


 普通に考えてブラコンは病気だ。その重疾患者であるアリスは、普通という言葉から最も縁遠い。別段悪いことでは無いにしても、異常であることは確かで。


「結局俺が問題なんだよな」


 そう結論づけざるを得なかった。


「えへへぇ。兄さん大好き。有り得ないくらい……」


 ――それもどうだかな?


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