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兄さんは私の嫁  作者: 揚羽常時
兄さんは私の嫁
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席替え


「はぁ……」


 アリスの嘆息。珍しくはないが、それにしても気に掛かる。


「何かあったか?」

「これですよ」


 メッセのIDの書かれた付箋だった。スマホでやり取りしようという干渉。たしかにアリスなら引く手数多だろう。あまり意味のない行為だとしても。


「兄さん♪」


 ルンと弾むアリスの声。彼女は俺の腕におっぱいを当てて抱きすくめる。フニョンとした柔らかさが俺の理性を蒸発させる。普通に考えて、あまりに破滅的だ。アリスのおっぱいは。それを受け入れている俺もまた……なにかしら人外の領域なのかもしれない。


「大好きです!」

「聞き飽きた」

「兄さんだって私が好きですよね?」

「ノーコメントで」


 他に言い様がない。


「えへへ」


 そのはにかみだけで悟られている印象でもあれども。でもさぁ……普通に考えてアリスなんて美少女に迫られて白旗上げない男子なんてホモくらいだろう。もちろん俺はソッチじゃないことを付与しておく。普通に女の子が好きだ。


 そんなこんなで腕を絡ませながら教室に入ると、


「――――――――」


 ザワッと教室がどよめいた。


「何か?」

「兄さんが格好良すぎるんですよ」


 その解答はどうだろう? いやまぁ、「顔だけ男」という自覚はあれども。普通に「顔だけがヨハネの良いところだよな」程度は言われる。反論出来ないのが悲しいところではあれども。まぁソレは良いんだが。


 ホームルーム。


「よし。じゃあ最初の席替えをするぞ」


 担任の教師がそう述べた。


「席替え」


 ポツリとつぶやく。


「それじゃくじ引きで決めて貰うが、先に前の席を確保しておきたい輩はいるか?」

「はい」


 と俺は挙手した。


「観柱ヨハネか」

「教壇前でお願いします」

「はい」


 とアリスの挙手。


「私は兄さんの隣に」


 そんなわけで俺とアリスは、最前列を確保した。


「――――――――」

「――――――――」

「――――――――」


 他の面々は普通に席替えを苦慮する。別に後ろの席にいたって眠れるわけでもあるまいに。とはいえ気持ちは分かる。普通に俺ことヨハネと……愛妹のアリスは異常だ。


「えへへ……。兄さんの隣……」


 アリスは嬉しそうで。それはまぁ愛すべき兄と隣同士の席になったら恋に生きる乙女の最終答案には違いなかろうが。


「アリスはソレで良いの?」

「はい。兄さんの隣以外は有り得ないので」


 ソレを言えるアリスが凄い。少なくとも俺は感銘していた。


「そうか」

「そうです」


 遠慮も無いアリスの声。普通に恋しうる乙女の声だった。それを弾くことが出来ないのも俺の罪の深さではあれども。南無八幡大菩薩。


「アリスさんは趣味が悪い」


 そう囁かれた。たしかに趣味は悪い。俺に惚れているくらいだから。普通ならもうちょっと別の人間を見繕う。それが正解でないにしても。


「えへへ。兄さん♪」


 軽やかに俺を呼ぶアリス。

 席を近づけて、接触。俺と完全に合身する愛妹だった。


「ちょ……アリス?」

「兄さん。大好きです。隣になれて嬉しいです」


 ソレはアリスの本音だった。曲解しようのない。ソレが全てでは無いにしても、ソレだけが唯一の解答でもある。アリスの慕情。その全て。


「兄さん。えへへ」


 春風のように爽やかな……それは宣戦布告。


「アリスはソレで良いのかな?」

「構いませんよ」

「本当にソレだよねぇ」


 嘆息……せざるを得ない。普通に考えてアリスの言動は有り得ない。けれどソレが彼女で。だから俺も愛妹を邪険に扱えなくて。


「臨める兵闘う者皆陣列れて前に在り」


 印を切って、煩悩を消し去る。


「――兄さんさえ望めばここで脱いでも良いんですよ?」


 ボソリ。囁くようにアリスの言う。


「ソレは自重して」

「承りました。兄さん」


 多分、本気が四割は混じっていただろうけども。とりあえずは、普通に学生生活を送って欲しいのも事実で。そのためになら俺は俺のことを後回しに出来たりして。別に誇ることでもないにしても。


 そんな感じで席替えは進む。


「えと、よろしく」


 とアリスの隣に成った男子生徒。


「えぇ。宜しくお願いします」


 アリスも普通に挨拶した。これが普遍的なら言うことは無いんだけど。そうでないのがアリスへの思うところ。別に否定したいわけでも無いけども。


「アリスさん有り得ねぇよな」

「マジおっぱい大きいし」

「普通に可愛いしな」

「それだよな」


 そんな感じで認められているようで。兄として喜ぶべきか。あるいは他者として不干渉を貫くべきか。あるいは想い人として反駁すべきか。


「兄さん?」

「何か?」

「大好きです」


 パァンと教室が破裂した。宜なるかな。それは目見麗しいアリスが兄に慕情を向ければそうはなるだろうけども。問題はそこで、ついでに把握も出来ている。普通に考えて、アリスの慕情はある種の異常ではあった。別段興味もないけれども。


「要するに、アリスは俺が好きなんだな」

「言われるまでも無く」


 そーゆーところだよな。結局。アリスが兄である観柱ヨハネを愛している。その事に齟齬はなくて、ついでに間違いもない。その点は把握できても、衆人環視のルサンチマンはヘドロのように漏れ出して。だからアリスは俺以外に好意を向けない。それが安全パイだと知っているからだ。南無阿弥陀仏。


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