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勇者育成計画  作者: しげる
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第0話「最終局面」


 何故こうなったのだろう、と椅子に座り、目を閉じながら考える。

 耳から伝わる情報は剣戟の音と爆発音、そして――同族の悲鳴だ。

 その事に胸を痛めながら、しかし目を開けず、時を待っていた。

「――来たか」

 部屋の扉が開かれる音を聞き、男は目を開く。

 扉の先には数人の人影があった。先頭に立つ剣士風の男が一歩、部屋へと足を踏み込みながら叫ぶ。

「魔王! ここで貴様を倒し、平和を取り戻す!」

 そう叫ぶと男は腰から剣を抜き、構える。後ろに続く彼の仲間もそれぞれの武器を構えるのを見、魔王と呼ばれた男は立ち上がり、

「貴様らが今の人の世の勇者、というやつか」

 静かに、だが部屋に響き渡る声で語る。

「我を倒したところで、人に平和なぞ訪れぬと思うが――まぁ、我の話なぞに耳を傾けるはずもなかろうな」

「当然だっ!」

 魔王がため息を吐いた一瞬、勇者が間合いを詰め切りかかっていた。

「何人もの罪なき民が貴様らに蹂躙されてきたと思っている!」

 迫る勇者の目は正義感で燃えていたが、その奥に憎悪と悲哀の感情を見ながら、なるほど、と魔王は感じつつ右手を宙にかざす。

 刹那、勇者の剣が見えない壁のようなものに阻まれ、体ごと大きく後ろに飛ぶ。

「――ッ」

「勇者よ。大義名分はよい。――貴様もこの戦いで大切な者を失った。そうであろう?」

 魔王は語りかけながら、かざした右手をゆっくりと握る。

 すると、何もなかったはずのそこには、禍々しい杖が握られていた。

「ああ、そうだ。両親を、友を殺した貴様らを許せない。そして――」

 勇者は再び剣を構え、叫ぶ。

「ここに辿り着くまでに多くの人々の願いを背負ってここまで来た! 俺の、俺達のような悲しみを無くすために!」

 その叫びを聞き、ふぅと魔王はため息を漏らす。

 ならば、と考える。

「ならば我も戦わねばなるまい。『罪なき魔族』が人間に、魔族であるというだけで滅ぼされるわけにはいかないのでな!」

「ふざけた事を!」

 再び切りかかってくる勇者とその仲間に対して杖を構えながら、魔王は思う。

 何故、と――

 何故こうなったのだろう、と。

 思いながら剣を杖で防ぎ、飛んでくる矢を魔法で撃ち落とし、反撃をする。

 勇者の仲間にも魔法使いがいる。火炎が飛んでくるが躱すと勇者の剣が再び迫る――を繰り返す。


 何故――

 何故こうなったのだろう――

 防ぎ、反撃し、避けて、防ぎ――を繰り返しながら魔王は考える。

 と、

「――お父様… ?」

 突然現れた声に一瞬、攻撃の嵐が止み、その場にいる全員が声の方を注視する。

 部屋の隅にある扉が少し開かれ、小さな女の子が恐る恐る顔を覗かせていた。

 白髪碧眼で幼いながら整った顔立ちの少女の顔には、目の前で行われていた戦闘に対して恐怖の色がある。

 だが、突然の乱入者に対して止まった空気は、止まった時と同様に一瞬で動き出す。

「――ひっ」

 少女の小さな悲鳴とほぼ同時、少女の目の前に肉薄する勇者と、それを防ぐ形で魔王が激突する。

「貴様はっ! 俺の家族を殺しながら! 貴様の家族はこんな安全なところに!」

「我の娘を安全な所で育てるのは当然であろう。――そして我は貴様の家族に手をかけてはいないのだがね!」

 勇者の叫びを一蹴し、杖で剣ごと勇者を弾く。

 そして出来た隙に杖で宙を薙ぐ。

【詠唱:自動迎撃型暗黒球】

 杖の軌跡に文字が生まれ、直後発生した多数の魔法陣が勇者達に向かって攻撃を行う。

 勇者達の足止めを出来ていることを確認し、魔王は腰を落とし少女の頭をなでる。

「大丈夫だとも。――ただ、ここも安全じゃなくなったからね。――転移魔法で先に避難させよう」

 勇者と語っていた時とは違う、優しい言葉に少女の表情は和らぐ。

「うん。…お父様も、ちゃんと来る?」

「勿論だとも」

 優しく微笑む魔王に、少女は頷く。

 その様子を見て、少女に転移魔法をかける。少女を中心に魔法陣が展開し、少女の身体を光が包み始めた。

「また…後で、な」

 少女にそう告げると魔王は立ち上がり、少女に背を向け勇者達へと対峙する。

 勇者達も、展開された魔法陣を破壊し終わるというタイミングだ。

 すぅ、と息を吸い、魔王は叫ぶ。

「――勇者よ! 雌雄を決しようではないか! 魔族と人間と、どちらが勝者となるか! 我も本気を出してゆく」

 言葉に呼応する様に魔王の纏う空気が一変する。

 禍々しいオーラと、あふれ出る魔力が彼の周囲に稲妻を走らせる。少女と同じ碧眼だったその瞳も、紅く光り勇者を睨み付ける。

「我をここで討たねば、人類に未来は無いと思え!」

「そんなこと――!」

 分かっている、と続けようとした勇者の言葉を遮り、魔王は両腕を広げ、不敵な笑みを浮かべた。

「さあ来い勇者よ! お互いの信念のため、死力を尽くして殺し合おうではないか!」




 何故こうなったのだろう――

 相互理解、不干渉を貫けば違ったのかもしれない、と後悔はある。だが、もう我にはどうしようも無いのだろう。

 嗚呼…

 願わくは――


願わくは我が子には平和な日々を過ごせるよう――


次から本編始めるよ

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