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悪役令嬢はバッドエンドを知らない

作者: さばみそに

 物語の結末はハッピーエンドこそ至高だと思わないだろうか。少なくとも私はそう思う。むしろそうとしか思わない。

 かつて私が日本のOLだった頃、それはもう狂おしいまでにハッピーエンドを求めていた。特に乙女ゲームにおいて、その嗜好は顕著に現れた。

 求めるのはハッピーエンドだけ。バッドエンドなんて見たくない。そんな思いから、私はプレイした全てのゲームでバッドエンドを見ていない。バッドエンドまで見てこそ本当にそのゲームを楽しんだと言えるんだ、などと言う人もいるが、ゲームの楽しみ方なんて人それぞれでしょう。

 ところで私はゲームの悪役令嬢に転生する話も好んで読んだ。あれはいい、大抵はハッピーエンドが約束されているからだ。ざまあされるヒロイン側も結局ハッピーエンドなら尚いいのだけど。

 つまるところ私がお気に入りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのは、運命だったのかもしれないということだ。



「君との婚約は破棄する」



 静まり返った舞踏会の会場で、金髪碧眼のヒーローが私に向って言った。その隣にはヒロインが寄り添うように立っている。

 全てが小説の通りだ。悪役令嬢のハッピーエンドはここから始まる。

 目を伏せ、「承知しました」と言う。そして簡潔な捨て台詞を吐いた後、悪役令嬢は優雅に去っていくのだ。



「……君は、どうして」



 ん?



「どうして、嫌だと泣いて、縋ってくれないんだ」



 ん、んん?



「嫉妬の感情を煽れば僕を見てくれるかと思ってこんなことを仕組んではみたけれど、君はまだ僕を見てくれない」



 え、何なのこれ? 彼は冷たい侮蔑の目を向けるはずで、なのに目の前の彼はなぜだか切ない目をこちらに向けている。

 何で、どうして。だって彼はゲームのハッピーエンドの通りにヒロインと結ばれて、私は、小説のようにこれからハッピーエンドを迎えるはずで。

 彼の傍で何か動いた、と思うとヒロインが小さくガッツポーズをしている? ん? 『リアル当て馬体験キタコレ』?

 『やっぱりバッドエンド、マジ最高かよ』?



「ねえ、僕を見て」



 すぐ近くで声が聞こえたと思うと、碧眼が私の目を射抜く。思わず目を閉じると、強い力で手首を掴まれた。



「ここまでしても僕を見てくれないのならその次は、もう、君を閉じ込めてしまうしかないのかな」



 耳元で名前を囁かれる。吐息が触れると、ぞくりとして震えた。

 いやだから、こんな展開は、こんなセリフは、全部知らない。

 こんなバッドエンドなんて、知らないんだってば!







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