異常な新人
いくつか依頼をこなして分かったことがある。この親子、異常だ。薬草採取依頼をしたら、強い探知系魔法で本来は一本見つけるのに3時間以上かかる珍しい薬草を10分で籠いっぱいに見つけた。討伐系依頼を受ければ広範囲の技を使ってデミゴブリンとグレイウルフ15体を10秒で殲滅した。正直言って純粋な戦闘能力なら並の冒険者じゃかなわないのは目に見えている。そして、1週間後、
「彼らは危険です。」
私はギルドの会議室にいた。
「危険とは?」
「なにもかもです。」
彼は副ギルド長で私が報告したここ一週間の彼らの奇行を全て会議で話した。
実は新人研修は新人が無謀な依頼を受けて自滅しない為もあるが、一番の目的は新人の伸びしろと実力を測るためだ。それによって受ける依頼とランクの上がり具合を検討する。ギルドは自らの利益以外には関与しない。それが世界中にあるギルドの鉄則でありそれ故戦争などが起きてもギルドは一切関与しない。冒険者同士のいざこざにもこれが当てはまり、ギルドという「組織」は冒険者という「個人」には関与しないという事だ。しかし、何事にも例外は存在する。彼らのように異常な力を持った冒険者をギルドは贔屓にするのだ。後の利益のために。
「・・・」
話を聞いたギルド長が最初訝しむような眼で見てきた。そりゃそうだ。こんな異常な新人普通はめったに表れない。私も彼らの実力を見た時目がおかしくなったと思った位なのだから。
「信じられぬのも当然ですが、彼らの業績を見れば明白です。」
そう、彼らはその異常な能力であっという間に一人前とされる銅証までなってしまったのだ。というより、金証になるための条件の古代竜でさえ倒してしまいそうだ。
「確かに異常だ。でもよ、下手に干渉する必要はねぇんじゃねぇの?いつも通り貴族たちに目を付けられないように唾を付けとくくらいでいいんじゃね?」
発言した男は私が彼らを教える際に絡んできたほそっこい冒険者だ。口は悪いが根は良く実力は確かなので、彼らに絡んだのも100%善意なのだが、口のせいであまり評判はよろしくない。
「確かに、ですが正直言って私は彼らに危機感を抱いています。彼らの強すぎる力はいずれ脅威になるかもしれません。」
副ギルド長が危機感を持った目で報告書を見た。
「ぺヒ君、彼らを一週間研修してどう思ったんだい?」
ギルド長が私の意見を聞いて来た。
「確かに彼らの力は脅威でしょう。彼は突進犀を正面切って倒した後に冗談かもしれませんが『竜と比べたら覇気がねぇな』と言っていましたから。」
「ほら見ろ!上級冒険者が数人パーティで何とか倒せる突進犀を一人で倒していて覇気がないなどと言うぞ。彼らに挑まれたとしたら背筋が凍るわい!!」
副ギルド長が妙なテンションで喚き始めたが、私は話を続ける
「ですが、彼らは面白い人です。突進犀を倒す状況になったのも娘さんが悲鳴を聞いて急いで父親が悲鳴のしたという方向に消えてったんですよ。そのおかげで新人冒険者の一人の命が救われました。」
聞けば襲われてた冒険者は薬草採取に夢中になって突進犀の縄張りに入ってしまったらしいのだ。
「しかも、危ない事をするなっていった私にこう返したんですよ。」
『悲鳴が聞こえたらまず助けようと思うだろ?』
「って」
何のことはない。助けたいから助ける。口は悪いが正義感の強い男。それが私が1週間彼と触れて出した結論だ。娘の方は礼儀正しい子だった。父親と違って正義感の高いわけではないが人並み以上の道徳を持っているのだろうことは容易に想像できた。
「しかし、いつ何者かに騙されて我らに牙をむくか分かったもんではないぞ。」
「それはありません。」
「何故断言できるのだ?」
ギルド長が疑問符を付けて質問してきた。
「彼らの力は向こうから襲われた時か自らを守るとき以外は使用しません。それ以外ですと単なる固い父親と早い娘です。」
実際、なんども盗賊に襲われたことはあっても彼らは成り行きで仕留めただけで。自ら盗賊討伐を受けたこともなければ大規模討伐の依頼も受けず常設以来の薬草採取や道中に襲ってきたモンスターに指定されてた魔物の部位を渡しただけで。その力を無暗にふるわない意思表示がはっきりしていた。
「しかし・・・」
「それに、彼らは話せば分かります。認識の齟齬があっても話し合いで埋めればすぐに協力してくれますよ。」
こちらから何もしなければあちらも何もしない。余計なことをして無暗に虎の尾を踏む必要はないのだ。
「ふむ、では彼らはこちらからは必要以上の干渉は避け、いつも通り将来有望な冒険者扱いでいいのかね?」
ギルド長が彼らへの大まかな扱いを決めた。それで会議は終了したが新たな問題が発生した。
「大変です!清さんとルインさんが生きた生首を持ってきました!!」
慌てた受付員が会議室に入ってきたことによって。