新神破壊神ルイン
「はぁ・・・」
ここは神界のカフェテリアの一角周りが華やかな中、一人の新神が落ち込んでいた。というのも、中々仕事が回されないのだ。本来破壊神は統合神様の管理(といっても放任主義だが)から離れた世界を破壊する存在だ。統合神様の管理を離れると何か起きた際に対応が遅れ他の世界への無用な悪影響が起きかねない。「神」という存在になってかなり経つルインだが、同僚は中には中級神に出世した者もいて、挙句の果てには自分よりも若い新神が先に正式な神になる始末。これでは、自分が出来損ないなのではないのかと思わずにはいられない。
「また落ち込んでいるのね」
顔を上げると中性的な優しい顔をした先輩のパージェさんがいた。
「そりゃぁ落ち込みますよ毎日毎日仕事がなくて。後輩には『やりました先輩!私、下級神になれました!!』とかキラキラした笑顔で言われるんですよ。こっちは未だに研修生のままなのに!!」
神界は位の低い順に精霊、付喪神、研修生、下級、中級、上級神と分かれていて下級神以上の役職には志望した役職の先輩に認められなくてはならない。彼女は元々は魔法を司る魔法神が志望だったのだが、タイミング悪く魔法神志望が大量にいる時期に志願し、最後の抽選という名のあみだくじで落ちてしまったのだ。とはいえ、落ちたとしても研修生の中ではトップクラスでさすがに不憫だと思った魔法神が進めた役職が誰も志望しなかった破壊神だったわけだ。だがいざ入ってみると仕事は何もなく、研修もいまだに出来ず後輩には追い抜かれ。踏んだり蹴ったりだったという訳だ。勿論神様たちの薄情ではない。彼女のために無理のない範囲で研修に使える世界を探しているが未だに見つかってはない。ならば破壊のための世界を作ればいいと思うかもしれないが、それは出来ない。世界を創造するのにも一つのの世界を創造する分のエネルギーが必要でそうそう簡単に作れないし、そもそも破壊神は破壊した世界を再構築するのにそのエネルギーを使う。そして神にとっての一瞬の出来事が地上では何十万年の月日として流れあっという間に一つの文明が出来るほどになるのだ。文明が出来てしまえば神たちはその世界に勝手に干渉できない。たとえ統合神でも不可能となる。そもそも、神が必要以上の地上への干渉をしないのは「神」という存在が強すぎることに原因する。たとえ力を抑えてもふとした気のゆるみで世界を消してしまいかねない。そこで統合神様は神たちの無用な地上への干渉を禁止しその世界を作った際に協力してもらった精霊・妖精たちにそれぞれの管理を任せている。結果としてそれは各世界の独自の進化へとつながった。しかし、彼女にとってはこの制度が完全に裏目に出てしまい研修に降りれる世界がないのだ。
「はぁ・・・」
再度深いため息をつくルイン。心なしか額に縦線が5本以上も現れている。
「その件なのですが、急ですがあなたの研修先が決まりました。」
「え?破壊してもいい世界が見つかったのですか!!」
つい先ほどまでの負のオーラを完全に消し去って一瞬で大輪の花となった。話の内容だけ聞いたら物騒極まりないが。
「いえ、破壊可能な世界が見つかるまではまだまだ時間がかかります。とりあえず仕事として地上観察を代理として組み込むことにしました。」
「地上観察?」
「地上に降りてその世界を知る仕事です。前に話しましたよね、転生後に善行しまくった人間の話を」
ルインも噂には聞いている。なんでも多くの神々が仕事を押し付けるのにぴったりな真面目人間がいるという噂だが。
「その人間が寿命を迎え、生前の善行を顧みてあまり地上に降りられない私たちの代わりに地上に降りて観察することになりました。」
「あの、その役目にどうして私が?」
「破壊神はむやみやたらに世界を破壊するだけが仕事ではありません。その世界が本当に破壊するべきか事前に調査する必要があります。今回は先にその研修ですね。」
前述の通り神はあまり地上に干渉できない。しかし、神の大後任とした存在なら多少の融通は効く。そういう意味ではいい駒を見つけたという感じだろう。世界が多すぎて調査員の数が圧倒的に少なくても何もしないよりはましだ。
「まぁ、地上の事を知るいい機会だと思いなさい。彼は面白い人間ですからきっとあなたも気に入りますよ。」
こちらの意見も聞かずに強引に話を進められた。
「・・・分かり・・・ました。それで、その人間はどこですか?」
「ついて来なさい。もう彼は準備が出来てます。言い忘れていましたが、地上では神の力を抑えて魔力を使ってくださいね。下手したら世界が壊れてしまいますので。」
ルインはパージェに連れられて清のもとへ向かう。この時、彼が彼女の良きパートナーとして互いを理解しあうことを彼女はまだ知らなかったし、統合神様ですら知らなかった。