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救援要請

『・・・キヨシさん!・・・』

再び聞こえた、俺にのみ聞こえる声は先ほどよりもはっきり聞こえた。

俺にのみ会話が出来るなどと、出来る人間は限られる。

ルインが誰も喋ってないと言うからには、ルインからの念話でもない。一応、桜とオヒューカスにも聞いたが、二人とも違うといった。

残る人物は・・・アスナン!!

スプリウム帝国で出会った貴族で、俺は彼女にトランシーバー的な魔道具を渡した。

今まで、彼女から連絡がかかることなどなかったが、連絡が来たという事は、かなり緊急性の高い状況ということにある。

俺は、スプリウム帝国へ転移し、一直線にアスナンの元へ向かうため、俺の所持している風石に届く魔力を逆算し、座標を割り出す。

しかし、逆算で導き出した座標はスプリウム帝国ではなく、なんと足元・・・つまり、真下だった。

「ルイン!今すぐ俺をこの飛行船の外に出せ!!」

「ふぇ?」

アスナンから連絡をもらっていたことを伝えていなかった俺は怒鳴るような感じでルインへ命令してしまった。

突然のことに、ルインも含めた全員が呆気にとられている。

「ちょ、ちょっとどうしたの、おじさん?」

訝しんだ聖子が質問をしてきたが、俺は取り合わなかった。

今は一分一秒が惜しい。

「説明する時間は無い!早くしろ!!」

「え?わ、分かったわ。Zone(空間)・・・」

ルインによって外へ放り出された俺は、毒翼(ヴェノムウィング)を展開し、グライダーの様に逆算で割り出した方向へ向かった。



(く、またしてもこんな状況に!!)

後ろには幾体もの魔物が接近してきて、私たちを食べようとしてくる。

護衛に雇った冒険者たちは、既に逃げるか魔物の餌食となっていた。

背後から接近してくる魔物は5体の人型狼(ワーウルフ)に2体の犬人(コボルト)であった。

お互い犬同士故に群れでの狩りと息の合った連携を得意とする。

ここら辺の街道は最近冒険者達が魔物を間引いたばかりであったため、雇う護衛の数を少なくしたのが災いした。

馬車の中にいるアインお嬢様とアスナンお嬢様は恐怖で震えており、お互いに身を寄せ合っている。

魔物は人を襲うが、極端に人の通る場所は冒険者が巡回しているため危険だと本能的に知っている。

加えて、もう少しで大きな街道にたどり着くため、それまで何とか時間を稼がねば!!

「『大地よ、我が敵を捕らえよ』土鎖束縛(アースバインド)!!」

足元に土の鎖を出現させ、接近してくる人型狼(ワーウルフ)を転ばせて、他の個体も巻き込む。

魔物ゆえに大したケガはないだろうが、時間稼ぎ位は出来る。

しかし、またしても悲劇が襲った。

馬が小さな窪みに足を滑らせ、馬車が派手に傾く。

かの青年と出会った当時の様に、私は外へ放り出される。

「カハッ・・・」

馬車を操作していた私は、先に地面に叩きつけられ、切り株に激突した。

肺の空気が押し出されとても苦しい。

幸いにして馬車は私よりも奥に転がっていったため、人型狼(ワーウルフ)犬人(コボルト)はまず私をターゲットに定めた。

詠唱を始めようにも、肺に酸素が送れず、声が出ない。

私が口をパクパク動かしている内に、2体の人型狼(ワーウルフ)がその鋭い牙を私に向ける。

残りの人型狼(ワーウルフ)犬人(コボルト)はお嬢様たちののった馬車へと向かったのだろうか?

お嬢様を守れぬ無力さと、同じ轍を踏んでしまった自らの浅はかさを呪い涙を流す。

人型狼(ワーウルフ)の牙が私の喉元を食い千切ろうとした途端、強い衝撃が大地に響いた。

次の瞬間、私を狙っていた2体の人型狼(ワーウルフ)の影が消え・・・・

そこで私は意識を手放した。



逆算で割り出した座標へ向かっている時、見覚えのある馬車が人型狼(ワーウルフ)犬人(コボルト)に追いかけられていた。

ま~たあいつら魔物に追われているのか・・・

俺は空中で体制を操作しながら、馬車が向かうであろう方向を予測し、先回りする。

馬車の走る速度よりも、こっちの落下速度を加えたスピードの方が速い。

加えて、美味い具合に追い風に乗れたため、余裕で馬車に追いつくことが出来そうだ。

しかし、地上までの高さが残り数十mというところで、馬車が急に横転した。

おそらく、溝にはまった+急加速で車体が投げ出されたというところだろう。

結果として馬車の移動が終わったため、俺は馬車の目の前に着地することにした。

「ぐぎゃ!?」

俺は、馬車へ接近していた人型狼(ワーウルフ)をクッションにして地上へ着地した。しかし、上手く衝撃を吸収できなかったようで、辺り一面へ着地の際の轟音が響いた。

急に鳴った音に硬直した犬ころ共を無視して着地点よりも僅かに離れた場所へ投げ出されていたエマを助けることにした。

毒狙撃(ヴェノムライフル)でエマの細い首を食い千切ろうとする人型狼(ワーウルフ)を狙撃する。

着弾した人型狼(ワーウルフ)は吹き飛ばされた部位に引きずられ盛大に吹き飛んだ。

仕留めきれなくてもいずれ出血多量で死ぬだろうから放っておこう。

硬直から回復した2体の人型狼(ワーウルフ)が太い腕を俺に振りかぶるが、動きが単調なため余裕で躱せる。

上空へ跳躍し、人型狼(ワーウルフ)の胸元を蹴飛ばす。

後方へ下がった俺は新たな装備の試し斬りをすることにした。

「操蛇宮・オヒューカス!!」

俺がそう宣言した途端、鞘から出していたオヒューカスの刀身が幾つにも別れ、まるで鞭のように変化した。

接近してくる人型狼(ワーウルフ)に対し、横なぎに振るうだけで襲ってきた人型狼(ワーウルフ)は上半身と下半身がサヨナラした。

射程も威力もあるが、少し扱いずらいな。

「グオウ!!」

仲間が倒されたことにご立腹したのか、さきほど蹴飛ばした人型狼(ワーウルフ)が再び向かってくる。

俺は、ルインが魔改造の際に新たに付け加えた能力を使うことにした。

操蛇宮の名の通り、オヒューカスの刀身は鞭状態のときに蛇のように動かし、自在に刀身を操れるのだ。

勿論、自由自在な操作には膨大な魔力を有するが、今の俺は種族の中でも魔力の高いエルフ、そう簡単に魔力枯渇は起こらない。

俺が武器に魔力を注ぎ込んだ瞬間、本能で危険を察知したのか、後ろで気配を伺っていた犬人(コボルト)の一体が後方へ撤退を始め、残り一体は先に俺を排除しようと接近を始めた。

しかし、もうおそい。

次の瞬間には頭部を貫かれた3つの死体が出来上がっていた。



犬人(コボルト)2体と、人型狼(ワーウルフ)5体を退治した俺は、急いで投げ出されていたエマの元へ向かった。

「エマ、エマ、しっかりしろ。」

見た感じ、呼吸はしているため、木の幹に体をぶつけた際の衝撃で気絶しているだけだろう。

エマの無事を確認すると、今度は横転した馬車の元へ向かう。

勿論、エマを背負ってだ。

「お~い!アイン!アスナン!いるか!!」

俺はエマを近くの木の根元へ運び、中にいるであろう二人に声を掛ける。

すると、直ぐに返答が来た。

「き、キヨシさ~ん、あの~・・・出られないので手伝って頂いても宜しいでしょうか・・・?」

声からしてアインだろう。

あまり、深刻そうじゃない口調だったので、俺はホッと安堵し横転した馬車の二台へと乗り、扉を開けた。

「おっす、悪い、遅れた。」

扉を開ける際に努めて何でもないようにアインとアスナンへ声を掛ける。

ここで無闇に慌てても不安にさせるだけだ。

「あ、キヨシさん!」

真っ先にアインが俺を見つける。アスナンは俺の顏を見るなり深い溜息を何度もつき始めた。

馬車を元の状態に戻すために中に入り続けるのは危険なため、一度二人には馬車の外に出てもらうことにした。

「アイン、エマは今寝ているから、無闇に揺さぶらないようにな。それと、お姉ちゃんが不安そうだから、少し見といてくれ。何かあれば大声で叫ぶんだ。」

「うん、分かった!」

アインをエマの元へ運んだあと、アスナンは俺が抱えて運ぶことにした。

先ほどから一切話していないが、手は未だに震えているため余程怖かったのだろう。

運んだ後も、俺の服の裾を放そうとしなかったので、馬車を治すから一度放してくれと言い、何とか放してもらった。

「よっこらせっと・・・」

俺は横に横転した馬車を掴み、毒翼(ヴェノムウィング)を展開させなるべく車体へ衝撃の加わらないよう注意する。

『キヨシさん、あの女性は一体誰ですか?』

馬車を直している間、急に桜が呟きはじめた。

どことなく、怒っているような印象を受ける。

(桜に会う前にスプリウム帝国で助けた貴族だ。そして、アスナンは俺に気があるらしい。)

俺は車体を持ち上げながら、桜の相手をする。

アスナン達に聞かれると面倒なため、念話での会話だ。

『隠さないんですね。』

(隠したところで直ぐにバレる。後々関係がギクシャクするよりは、今のうちに全て話した方が最善だと判断しただけだ。悪い、そろそろアイン達に事情聴取をするから、一端この話は終わりだ。)

重要な話を色々とすっ飛ばしているため、未だに桜からは不満の感情が放たれているが、それ以上突っ込んでくることは無かった。

対するオヒューカスは何を言う訳でもなくずっと静観していた。

修羅場に介入して流れ弾を食らう気はないということだろうか?それとも単に無関心なのかは分らん。

「アイン、アスナン倒れていた馬車、起こしといたぞ。幸いにも車輪や車軸に致命的な傷は無かったからもう少し走らせることは出来るはずだ。」

俺は、周囲を警戒しながら、起こした馬車の状態を二人に伝えた。

「ありがとうございます、キヨシさん。」

「ありがとう!!」

真っ先にアスナンが礼を言い、アインがアスナンに続いた。

「良いってことよ。俺は、アスナンから助けを求められてルインに送ってもらっただけだ。」

前に会った時ならば、この程度のセリフを言えばアスナンを喜ばせられたであろう。

しかし、何故か今のアスナンはこの言葉を言われても喜ぶどころか笑顔を曇らせた。

「ところで、スプリウム帝国にいるはずのお前らがどうしてこんな場所にいるんだ?」

ここはスプリウム帝国から大分東に離れている。

スプリウム帝国の貴族であるはずの彼女がこのような場所へ来るなど、ただ事ではない。

「それについては私がお話いたしましょう。」

木の幹に体をぶつけ、気絶していたエマが目を覚ましたらしく、俺の質問に答え始めた。

「エマ!もう大丈夫なの!?」

「はい、お嬢様、この位どうって事・・・ゴホ!ゴホ!」

問題ないと言おうとした途端、エマがせき込み、吐血を始めたため、俺は直ぐにエマへ寄り添った。

「あまり無茶をするな。応急処置は施したが、無闇に動けばまた傷が開くぞ。」

俺は治癒毒を用いてエマの傷を治し始めた。

「は、はい・・・申し訳ございません。」

とりあえず、エマの症状が和らぐまでこの場から移動しないことにした。

治癒毒を用いたため、あと20分程で大方の傷が塞がるだろう。

「それで?お前らに一体何があったんだ?なぜこんなところに?」

俺は頃合いを見計らってエマに事の次第を聞く。

アスナンに聞くという事もあったが、本人が話したがりそうになかったため、エマに聞くことにした。

しかし、エマの口から語られたのは予想の斜め上の内容だった。

「はい、実は・・・アスナンお嬢様がフラブリー宗教国の公爵、ペルベーソ様とご結婚なさるのです。」


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