魔改造
「さて、俺達はそろそろイルペウに戻らせてもらうよ。」
ダンタリオンとの話し合いをある程度纏めて、契約内容を詳しく聖子達と議論してひと段落したころ、清がそう言った。
ガイアとハルキ、ナタリー、オリヴィアは満腹になったのか、近くの岩場で静かに昼寝を始めていた。よくあんなゴツゴツした岩場で寝れんなぁ・・・
「え?一緒に帰らないの?」
「いや、俺が出てきたら不自然だろ。それに、俺達は今イルペウの宿屋で半日以上寝ているんだ。そろそろ行かないと、宿の従業員に心配させて、身代わりを置いていることがバレちまう。そうなったら、色々と厄介だ。」
「ああそうだね。」
「じゃ、そういう訳だ。ルイン」
「Zo…」「あ、待って!」
ルインの能力で宿に帰ろうとした所、突然聖子に呼び止められた。
「あ?何だ?」
「いやね、まだ助けてもらったお礼言ってなかったから。ありがとう、おじさん。」
「おういいってことよ。それじゃ・・・」
「ちょっと待ってください。」
今度はセイリに呼び止められた。
「何だ?まだ何か?」
「いえ、キヨシ様というよりは、ルイン様に用があって・・・」
「私?」
呼ばれるとは思っていなかったルインが自分を指さしてキョトンとしている。
「はい、あれほど精巧なナタリーたちの人形をどうやって作って、操ったのかが気になって。それに、会話も出来ましたし・・・」
「ああ、人形に関してはお父さんが結界の外で狩った魔物を防腐状態にした後に加工したのよ。私は、Puppeteerで操っただけ。」
「パぺ?」
「パペティアー・・・パペットっていう腕に着ける手のひらサイズの布製の操り人形があるだろ?それを操る人をパペティアーっていうらしいぜ。ルイン曰く糸を出して操っているらしいからどちらかというとマリオネットな気がするけどな。」
「・・・『マニピュレーター』じゃないの?」
「俺も突っ込んだが、誰も答えてくれなかったよ。」
「補足すると、糸自体は壊れにくいけど力が弱いから抵抗は簡単。お父さんで実証済み」
ああ、そういえばスプリウム帝国でいくつか依頼受けているときに何かに縛られた感覚あったっけな?一瞬新手かと警戒したが、何もなくて肩透かしをくらったもんだった・・・
「声に関しては、Cycloneで空気の振動を操って全部私とお父さんのアフレコで対処した。お父さんはオリヴィアとナタリーをやってた。」
「何か今物凄いこと言われたような・・・え?空気の振動を操る?そんな魔法フラブリー宗教国の上級風魔法の魔導書にも載ってなかったけど?」
「気にするな。昔ダンジョンで手に入れたアイテムの効果だし、現代の魔法技術で解読できるかは分らん。俺は諦めた。」
とりあえず、ルインの能力は全部迷宮産のアーティファクトってことにした。
古代の魔道具って大分強力だったらしく、大半が価値が付けられないほど貴重な物らしい。
実際、大分端折った(かつ強引な)説明だったのに、セイリも聖子も突っ込まなかった。
ダンタリオンは何か気付いていそうだったが、俺達にとって不利になると思ったのか質問はしなかった。
「さて、そろそろ俺達は行くぜ。後はあんたらに押し付けるぜ。」
「ええ、これだけ手伝って頂いたのですから後はお任せください。むしろ、全部あなた方がやったので、手柄を横取りしている感じがしますがね・・・」
「気にすんな。ルイン、今度こそ頼んだ。」
「Zone!」
ルインが空間を捻じ曲げ、俺達は宿屋へ向かった。
「さて、俺達は俺たちの残業をしないとな。」
「ハイハイ」
周囲の人々への説明を聖子に押し付けた俺たちだが、実の所もう一つ仕事が残っていた。
俺は、宿屋の床に砕いた赤柘榴と翠玉をばら撒いた。
掃除が後々大変だがその時はその時だ。
「封印解除」
俺は、アスタロトを封印した禍々しい石に魔力を注ぎ、封印を解除する。
「・・・どういうつもりですか?」
開口一番、アスタロトは訝しむ様な目を清に向けた。
さっきまで殺し合っていた相手に封印されたのに、今度は封印を解除された。
ついでにいうと、アスタロトを封印した封印石は清のストレージに入っていたためアスタロトからすれば、封印された直後に封印をとかれたことになる。
普通に考えておかしいと思うのは当たり前だ。
「なに、お前の復讐を手伝ってやろうと思ってね。」
それは先ほどまでの自身の労力をドブに捨てるのに等しい行為だ。
アスタロトは清の提案に驚くを通り越して呆れた。
「あなたは馬鹿ですか?先ほど、あなたは復讐をされては困ると言って私を封印しておきながら、今度は私の復讐を助けると言う。矛盾した行動をとる趣味でもあるんですか?それとも、脳細胞まで自らの毒にでも侵されましたか?」
酷い言われ様である。
アスタロトは封印時に意識を手放しかねない激痛をズキズキと負わせられたので、大分清に対する態度が悪くなっている。
自業自得とはいえ桜もルインも擁護出来ないため、二人からの視線がどこか憐れみを帯びていた。
「俺は飽く迄この世界で復讐されると迷惑だと言っただけで、別にお前の復讐自体を止めるつもりはない。少し時間が掛かるが、お前が元いた世界へ連れていくことも可能だ。」
そんな周囲からの氷点下以下の視線を鋼の神経で無視した。
後ろから見ていた桜が清の背中にどこか哀愁が漂っていたのも気のせいだろう。キノセイキノセイ・・・
「私としては、今ここで暴れた方が手っ取り早いのですが?」
「なめるなよ。その可能性を考慮していなかったと思うのか?周りを見ろ。」
周りを見たアスタロトは驚愕の瞳を清に向けた。
部屋の中には先ほどまでいた祠より少ないもののアスタロトを封印するには十分な数の宝石が砕かれて散らばっている。ついでにいうと、清の右手には野球ボールなど比ではない、バスケットボールサイズの宝石が握られていた。
「ついでにいうと、この部屋の中の座標をルインにいじってもらったから、今ここで暴れても、この部屋が木端微塵になるだけだな。」
「・・・頭がおかしいとしか思えません。」
「今更だな。勿論、この提案を受け入れるかはお前の自由だ。その場合は再封印するだけだけどな。」
これ以上宝石を使いたくないため。出来れば受け入れてほしいな・・・
そんな清の考えなど露も知らず、アスタロトは思考にふけっていた。
(私としては、時間はかかるが神々への復讐の機会が手に入る。恐らく、戦った時の彼の性格からして悪逆非道をしたりせずにおとなしくしていれば、こちらが被害を被ることはないでしょう・・・あそこの二人の少女、人質にしようとしたところで、銀髪紅目の少女はともかく、長髪の方は捕まえられる自信はありませんね・・・銀髪紅目の少女の方も、あの男が何ら対策を取っていないはずがない・・・しかし、彼へのメリットは一体?)
「あなたへのメリットが分かりませんね。苦労して封印した私を解放してまで得られるものとは?」
「さぁ?」
俺は、両手を上げて肩を竦めた。
さしものアスタロトも、予想外の反応だったらしく、目を見開いた。
対照的にルインと桜はヤレヤレと首を振っていた。
「メリットなんて、後々考えればいい。早くても80年、遅くても100年はかかるんだ。その間に見つかるだろう。もっとも、お前が受け入れる事前提だがな。」
「・・・何も考えていなかっただけよね?」
「言うな言うな。」
「キヨシさんらしいです・・・」
ルインは呆れ、桜は苦笑していた。
「はぁ、あなたと話していると何だか疲れますね・・・分かりました。あなたの提案を受けましょう。こちらへのデメリットもありませんしね。」
ふと、別の存在とはいえ、神様が仲間にいることを彼女が知ったら、どう反応するのだろうかと考えた清だが、面倒ごとを起こす必要は無いと判断し黙り続けることにした。
「了解、とりあえず封印したお前を聖子達の前で歩かせると面倒なことになるから、もう一回アイテムになってもらうがな。ルイン、これを触媒にして一本打ってくれ。」
「打つ、というよりは創るに近い気がするけどね・・・」
清はルインにアスタロトを封じていた赤柘榴と翠玉の混合石を預ける。一度アスタロトが入っていたため急げばまだ触媒としては十分使える。
「ちょっと、何をする気?」
「そこにいる桜と似たような状態にする。彼女は人だけど、いろいろあって武器になれるんだ。お前に激痛を与えたあの刀だよ。」
「え!?」
先ほどと同じくアスタロトの顏に驚愕の色が浮かぶ。
そもそも、意志を持つアイテム自体が超貴重なのに、人化するアイテムとなれば、基本的に値段など付けられない。そんなものが目の前にあるのだから、驚くのも当然だ。
「驚いていられんぞ。お前もじきにああなるんだからな。」
「は?ちょ、どういうことですか!?」
「ルインの能力の一つにアイテムの質を変化させる能力がある。それを使えば、お前のその鍔の状態から別のアイテムとして使えるんだ。この石を使うのは、慣れない素材をお前に使えばお前という精神がアイテムに定着するのに時間が掛かるが、この石にお前が入ったことでほんの僅かにお前の性質が存在するから定着しやすいんだ。」
さも始めから知っていたように言うが、実の所全てルインからの受け売りだ。アスタロトを封印したあとにどうするかをルインと話し合ったときにルインに桜と同じように武器にする提案をされ、その時にアスタロトを封印した混合石を使った方が便利と言われたため解説を求めた所そのような話を振られた。
「さ、ちゃっちゃと終わらせましょ。幸いにしてサクラの時みたいに大幅に内容を変化させる訳じゃないから、時間かからないし。ほら、さっさと出てって部屋からお父さん」
「は?どういうことだ?」
「何?アスタロトの裸体でも拝みたいの?私が弄っている間、アスタロトは力を入れられないから、服を維持できないのよ。」
「服?」
言われて気が付いた。戦っている間は終始裸体だったアスタロトに服が着せられていた。
黒と赤を基調としたミニスカートに白のワイシャツ・・・チキュウでいう所のセーラー服に近い造形の服を着ていた。思い出せば、封印を解除した時には既に服を着ていた感じがする。
「いつのまに服を着ていたんだ?」
「ああ、その石の中、封印石にしては比較的内部で好きに行動できたので、封印される前に私が気に入っていた服を作って着たんだすよ。終始裸なのも問題ですしね。私の魔素で作っているので、私が気絶でもすると維持出来ませんけどね。」
あれ?アスタロトって相当昔に封印された存在だよな?その時代に既にセーラー服ってあったの?ファッションの歴史は全く知らんから、今度ルインに聞いてみよう。
「そういうこと、さっさと出てって。」
「わ~ったよ。」
その後、ルインに部屋から追い出された清はアスタロトを一度封印する際に使用した赤柘榴と翠玉分のお金を少しでも補うために王都イルペウに存在する冒険者ギルドでいくつか依頼をすることにした。
元々魔物があまり存在しない国なため、雑用がメインなのだが、精力毒でスタミナを強引に回復させていくつもの依頼を連続で行い、あっという間に半日で銀貨7枚分の仕事をこなした。
「さて、邪魔な人もいなくなったし、さっさと始めるわよ。ベットに寝転んで。」
「ええ、お願い。」
部屋には現在桜とアスタロトしかいない。
別に桜は邪魔ではないのだが、特に出来ることも存在しないため、自分の得意な調合が清の役に立つだろうと清に付いていった。
「Gene」
ルインは黙々とアスタロトの封印されていた鍔に干渉して観察し始めた。
長い間封印されていた影響か、鍔はアスタロトの一部となりかけており、現在アスタロトは魂を鍔に移して核とし、肉体を構築している状態だ。
「ふむ・・・・・」
「・・・・・」
しばらくの間誰も喋らない無言が続いた。
「ねぇ、ちょっと聞いてもいい?」
「何?」
誰も喋らないこの空気に耐えられなくなったのか、唐突にアスタロトがルインに質問を始めた。
「あなたの方が彼よりも圧倒的に強いのに、どうして彼に言われるままにしているの?」
「あの人の指示が間違った事がないってだけよ。」
「そんな風な言い方をするってことは、やっぱり本当の親子って訳じゃないのね。」
「ええそうよ。それが何?」
「分からないのよ。私の封印されるまえは強い者が正義の時代だった。それなのに、あなたより強い彼があなたに指示を出してあなたが一切反抗しないのが。」
「・・・ふん!!」
「ひゃ!?」
ルインがアスタロトの腹部で力を入れ始めた。
唐突だったのと、どこか力を抜かれる感覚がして、アスタロトの口から変な声が出た。
「ちょ!な、何を!?」
ルインへ抗議の視線を向けるアスタロト。
しかし、その顔は紅くなっており、どこか迫力が無かった。
よく見れば、着ていた服も無くなっている。これが、ルインが弄っている間服を維持出来ないということなのだろう。
まさか、この様な感覚がするとは思いもよらなかったが・・・
「安心しなさい。この感覚は一瞬のはずだから。」
そう言って、ルインはアスタロトの腹部だけでなく脚部、腕部、首などなどいろいろなところをまさぐりはじめた。
「や、ちょ、そこは・・・らめぇ・・・」
抵抗をしようとしたアスタロトだったが、既にルインが見越していたのか、指一本動かせない状況になっていた。
「ちょっと静かにして。今一番難しい所操作しているから。」
酷い言いようである。元々はルインが原因であろうに・・・
様々な場所を弄られて恥ずかしい声を上げながら赤面しているスタイルの良い美女、対する少女は真剣な顔で美女の肉体の隅々をまさぐっている。
非常にシュールな光景である。
幸いにして、ルインがCycloneをあらかじめ使っていたため音が外に漏れるようなことは無かったが、逆にいえば、アスタロトにとっていくら叫んでも助けのこない地獄の様な状態が続くことになる。
約3時間後にルインによるアスタロトの改造は終わったが、その時には既にアスタロトの眼の焦点は合っておらず、一糸纏わぬ姿が、さらに拍車をかけてどこか艶めかしさがある。
「さっきの質問の答えだけど、キヨシは私なんかよりもずっと強いわ。私は、彼に勝てたことは一回も無い。でもね、私は例え彼に勝てたとしても、彼の指示に従い続けるわ。彼は、私のお父さんなんだし。娘は父親の言う事は聞いた方が色々と便利だしね。」
ルインは決して、清に対して一切不満が無い訳ではない。それでも、清の事を大分信頼している。
面倒ごとを嫌うなどと言いながら、強引に押し付けられただけの自分の面倒をみてくれたのだ。
普通の人間ならば理由もなく押し付けられた世間知らずの子供(見た目だけは)の面倒を見ようと思うだろうか?それも、初対面の相手だ。
当初こそ、好き勝手に生きる清に対してストレスの溜まっていったルインだが、スプリウム帝国で清と殴り合った結果、自分一人で抱え込むなと言われた。
あの時、色々と抱え込んで若干暴走気味だったルインは、清の拳骨と叱責により、大分吹っ切れて、ルイン自身も好きに動くようになった。
その後、何度か清の人となりを見て、口は乱暴だが面倒見のいい清へ好感を持ち始めた。
勿論、そこに恋愛感情などない。どちらかといえば、真面目な生徒が人生の先生へ向ける尊敬の念の様なものだ。
そう思ってから、清への考えも大分変化した。
彼のおかげで桜も救えた(同時に自分は叱られたが・・・)。
今では、清と桜と一緒にする旅が楽しくてたまらない。
勿論、恥ずかしいので清の前でそのようなことは言わないが・・・
「あなたもいずれ分かるわ。私のお父さんがどんな人か。」
その言葉にアスタロトは答えず、未だに一糸纏っておらず、危険な状態に変わりはないので、とりあえず宿の毛布を上から纏わせた。
「キヨシ、聞こえる?」
先ほどとは逆に今度はCycloneで遠くにいる清へのみ空気を振動させて言葉を伝えはじめる。
『あ?ルインか?どうした?』
どうやら、無事届いたようだ。
「アスタロトの服用の布を買ってきて。色も肌触りも適当でいいわ。私が勝手に改造するから。」
『おう分かった。ついでに何か甘いものでもいるか?何か今、焼き団子?みたいなものを売っている屋台の前にいるんだ。一つ食ってみたんだが、意外にもタレじゃなく蜂蜜みたいなものを使ってたらしく甘かったんだ。』
「美味しそうね。お願いするわ。10本」
『多すぎるわ!夕飯食えなくなるぞ。一本までにしなさい。』
「は~い。」
帰ってくる清(とお土産)に心を躍らせながら、清達が帰ってくるまで、部屋の中で亜空間にしまっていた盆栽を取り出して愛で始めた。
Puppeteer
破壊不能の糸を操る。物体を自在に操ることも可能ちなみに、破壊不能ではあるがこの糸を切ろうとしても弾かれるだけで別には鋏や剣が折れることはない
人形をひっかけた後に糸を出して某クモ男さんみたいにぶら下がることは出来るが壁には貼り付けない。
糸を破壊することは出来ないが、力はあまりないので、子供でも十分抵抗できる。
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