再封印
アスタロトの背後に3つの魔法陣が浮かぶ。
魔力の反応からして、月属性の魔法だろう。さすが大悪魔といったところか・・・
俺は接近しながら相手の出方を待つ。
瞬動スキルを用いて1秒でアスタロトまで残り50mの所まで接近した。
しかし、接近した直後に足元に闇の鎖が生成され、俺の足元に絡みついた。
感覚からしてスタミナも少しずつ減っているな。
俺は「耐魔毒」、「耐月毒」を用いて足元の鎖と肌の間に空間を作って脱出した。
脱出の際に少し細工をするのも忘れない。
転がりながら脱出し、すぐに体制を立て直す。
そのまま再度接近するが今度は高質量の闇魔法を受けて壁に突き飛ばされた。
キヨシザウラス(化石)が完成したのに対して、アスタロトは微動だにしていない。
「勝手に殺すな!!」
誰に言うまでもなく清が叫ぶ。恐らく、ルインに対する牽制か何かだろうソウダロウ・・・
清は叫んだ後も今度は桜花を上段に構えて振りかぶって振り下ろす。
しかし、やっぱり大魔法を叩き込まれ、壁にめり込んだ。
めげずに何度も挑戦する清、無慈悲にキヨシザウラスを量産してゆくアスタロト。
はたから見ればただの一方的な暴力だ。しかし、誰も助けようとはせず、事実、清は圧倒的な防御力でほぼノーダメージだった。しいて言えば破損した装備品に対する金銭的ダメージだろうか?
しかし、防御力が高くても、今の清は単なる頑丈なサンドバック扱いだ。突っ込んでは吹き飛ばされ、突っ込んでは吹き飛ばされ・・・以降エンドレスに続いた
清自身数えるのが面倒になった何度目かの特攻。
今回は毒翼を用いた上空からの急降下唐竹割りだ。
腹部にいくつも月属性魔法によるの攻撃を受けたが、衝撃は重力加速度で上昇した加速力を相殺できず、清自身無視した。
振り下ろした刀はアスタロトの左腕を切り裂いき、黄緑色の血しぶきの様なものを巻き散らかせた。
「な!?アガァァァァァァ!!!?」
アスタロトの悲鳴を聞いて清はほくそ笑む。別にサディストなわけではない。
清の予想通り桜花はアスタロトに大きなダメージを与えた。
アスタロトなどの大悪魔は基本実体を持たないため物理攻撃が効かない。
魔法属性を付与すればある程度はダメージを与えられるがそれでもやはり、効率は悪いだろう。
アスタロトは今回も自身に攻撃は当たるまいと思ったが、実際に受けたのは予想をはるかに超える激痛。
しかし、桜花は実態を持たない存在への特効効果が存在する。
加えて、清はアスタロトの攻撃もいくつか桜花を使って弾いていた。
桜花は受けた攻撃や衝撃を自身の攻撃力に上乗せする効果も存在し、前述の特効効果は刀の攻撃力をn乗式に増えて行く。
分かりやすく言おう、本来の攻撃力を1とし、ダメージを溜めて2倍にした場合、特効効果は最低でも本来の攻撃力の4倍のダメージを与えるのだ。
「恐ろしいですね、その刀・・・」
アスタロトが端的に感想を述べる
「まぁな、あんたらにとっては天敵といってもいいだろうな。」(桜、大丈夫か?)
『問題ありません、キヨシさん。それよりも・・・』
(ああ。ダンタリオンの姿が見えない。お前は分るか?)
『無理です。全く場所が分かりません。』
清は桜花で防ぐたびに桜を心配した言葉をかける。
彼女の事をどれほど大切にしているか分かるだろう。
桜花は桜の固定技能である『復讐者』の他に、元々桜が持っていた危機察知スキルも使える。
使うのは桜だが、現在桜は清の所有物扱いで主人である清の身に攻撃が放たれた時や害意を向けられた場合気配察知スキルを用いて主人に害意のある存在の場所を特定することができる。
余談だが、清は基本的に向かってくる脅威は正面から無力化したため危機察知スキルは全然使えない。どこにどのような存在があるか位は下位互換の気配察知スキルで十分というのが彼の自論だ。
しかし、気配察知スキルはどこにどれくらいの大きさの存在がいるかが分かる程度で実は対象の強さは分からない。
端的に説明すると、危機察知スキルは自身に迫る危険を察知するスキルであって、気配察知はどこにどのような存在がいるかを察知するスキルだ。そこに強い弱いの概念は無い(大抵清は威圧スキルを使って雑魚を逃がした後に目的の強い魔物を探すため結果的に気配察知で事足りているだけだ)。
(桜、引き続きダンタリオンの気配を探っていてくれ。今この空間は気配察知を使うには都合が悪すぎる。)
『分かりました。』
桜に察知できないということは、ダンタリオンは別の場所で罠をしかけているか、そもそも戦いに参加していないということだ。
なぜ、主人であるはずのアスタロトが傷つけられたのに未だに助太刀しないのかは謎だが、とりあえず今は目の前の課題だ。
「どうした?『堕落のアスタロト』と呼ばれた大悪魔がたかが腕一本斬り落とされた位でもう戦意喪失か?」
とりあえず安っぽい挑発。この間にいくつかの仕掛けを続け、次の一手の準備をする。
「っ、五月蠅い!!!」
あ、やべ・・・予想以上に激昂している。
何?俺人を怒らせる才能でもあるの?それとも、挑発スキルが暴走しているの?
激昂したアスタロトは構築途中だった魔法も途中で投げ出し、瞬時に腕を再生させて肉体を漆黒の闇が包み込みながら接近しだした。
闇が晴れた時、その身に露出の多い黒の鎧を纏い、元々豊かだった胸囲や腰回り、太腿がさらに強調されていた。
「ガキン!!『うぉぉう!?』」
再生された腕には鋭い爪が生成されており、速度も上昇していた。
清はとっさに桜花を斜めに構え爪の一撃を防ぐが、地面に日本の線を描きながら後方へ吹き飛ばされた。
「アイテテテ・・・予想以上の威力だな・・・」
『キヨシさん!次が来ます!!』
桜に返事もせず、瞬時に毒翼を展開し、上空へ飛行する。すると、さっきまでいた場所にアスタロトが鬼の形相で突っ込んできて、後ろの岩壁に大きな亀裂を入れていた。
「流石の俺もあれ食らえばヤバイかもな・・・」
珍しく清が真面目に考えて冷たい汗を流した。
労働の汗は素晴らしいぞ、主人公!!
その後も何度かアスタロトは腕を突き出して攻撃してきたが、早くて威力が高い反面、軌道がほぼ直線上なので、見切るのは容易かった。
接近戦が不利と判断すると、今度は魔法を放ってきた。火球や雷を放ってきたが、どういうわけか色が黒と白のモノクロカラーだった。あの黒い鎧の影響だろうか?実際、普通の火魔法や雷魔法とは一味も二味も違う威力だった。
「紅柱!」
ちょ、ヲイ!!これ火魔法じゃなくて上位互換の爆裂魔法じゃねぇか!!
爆裂魔法は厄介なんだよ・・・火球なら空中で斬り落とせるが、爆裂魔法は空中でいきなり爆発するから斬り落とす暇がない。
「やはり、あなたは座標を指定して攻撃する魔法に弱いのですね。」
アスタロトの口角が高く吊り上がり悪い笑みを浮かべる。
実際、その後も清は座標指定の攻撃である爆裂魔法や闇魔法、捕縛タイプの魔法でまた劣勢に追い込まれていった。
しかし、依然して清はノーダメージだ。
(ふむ・・・魔法は派手だが、それでも俺の防御力は突破出来てないようだ・・・もう少しやられたような演技続けるか?いや、あまり満身創痍の演技を続けても不審がられるだけか・・・?)
そう考えている間にもアスタロトの容赦ない魔法は迫ってきた。
「落雷!落雷!落雷!」
ただの初級魔法だが、込めた魔力の量が初心者の比ではない。
落下した場所の地面が抉れて、落下地点付近の石は溶けていた。
「雷誘導毒!」
桜花に毒を纏わせ天高く突き上げる。
清へ放たれた白黒の雷は全て桜花に着弾し、熱の余波が清に当たっただけだった。
しかし、雷というものは一時的にとはいえ2万℃を超えることもある。
雷が落ちた後にゴロゴロ鳴るのは一瞬で熱せられた空気が爆発的に膨張して音速を超えた空気の衝撃波だ。
魔法で作ったとはいえ雷であるため当然この雷も当てはまる。
「あ、やべ・・・」
雷の音の原理をすっかり忘れていた清は熱に対しては耐火毒で押し切ったが、衝撃波の方を防げず、吹き飛ばされて桜花を手放してしまった。
「もらった!」
愛刀を手放した清の心臓へ向かって、アスタロトの鋭い腕が放たれる。
咄嗟に右手を構えて防いだが、アスタロトの爪は清の腕を貫き、なおも加速を止めなかった。
「アガァア!?」
先ほどアスタロトが上げた悲鳴とほぼ同じ悲鳴を清が上げ、壁に叩きつけられた。
普段高い防御力を誇る清は実は痛みに対する耐性があまりない。
もちろん、皮膚に当たる攻撃の痛みは感じるが肉体を貫かれる激痛は片手で数えるほども無かった(そもそも、肉体を貫かれればおしまいとか言ってはいけない・・・)
『キヨシさん!!』
「痛覚遮断毒!!」
桜の悲痛な叫びが清の脳内に響く。しかし、清は直ぐに触覚を麻痺させて痛みを消し飛ばした。
「・・・終わりです・・・」
勝利を確信したアスタロトが、肘から先を漆黒の刃へと変化させ清の首を狩ろうとする。
しかし、その刃は清の首を狩れなかった。
「ガキン」
「なっ!?」
漆黒の刃は防御も何もしていない清の首に寸分違わず当たったが、その皮膚を浅く斬っただけだった。
清はほくそ笑み、固まったアスタロトの右手を掴む。
危険を察知したアスタロトは左腕を抜こうとするが、ちっとも抜けない。
実は、アスタロトの左腕が清の右手を貫いている間に治癒毒で肉体を再生させ、アスタロトの左腕が抜けないように固定したのだ。
「くっ、放しなさい!!」
「放せと言われて放すかよ!!桜!!」
『はい!』
桜花には持ち主のもとへ任意に移動する効果がある。
その移動法は瞬間移動か空中を浮遊する方法の二つで、自身の体制を変えて持ち手が清の手の中に入るようにもできる。
今回は、清に向かって空中を浮遊させ刃を向けた
桜花の刃はぶすりとアスタロトの腹を貫いた
「~っ!!!!!!?」
声にならない悲鳴が祠の中を響き渡る。
亜空間で戦いを見ていた聖子たちも、その悲鳴で思わず耳を塞いだ。
ルインがCycloneで音の振動効率を下げなければ、耳が大分遠くなっていただろう。
それでもアスタロトは反撃をしようと、口からモノクロカラーの火を爛々と燃やし清へ向かって吹いたが、清は両目を瞑っただけで一切痛みを感じていなかった。
「悪いが、お前の復讐をこの世界でやってもらうと困る。関係のないとばっちりを食らうのは御免だ。」
清は酸性の毒で後ろの石壁を溶かし、桜花の刀身を突き刺して固定した。
(桜、もう少し耐えてくれ。)
『はい、キヨシさん。』
耐えるも何も、刀状態の桜は痛みを感じないのだから、心配をする必要は無いのだが・・・
アスタロトは桜に腹部を貫かれたまま固定され、右腕と両足以外動かせない。後方へ向かおうにも、刀の鍔が邪魔をし、前方には清がいて身動きが取れない。
清は、左手でポケットを探り、野球ボール位のサイズを持つ紅と翠の石を取り出した。
「そ、それは・・・」
消えかかる意識の中で、何とか声を出すアスタロト。
アスタロトは元々「死」という概念とは無縁の神様なので、致死量のダメージを受けても死にはしない。
しかし、それはいくら痛みを感じても死ねないということでもある。
桜花は威力の上がったアスタロトの雷を全て受け、その威力を自身の攻撃力に上乗せして特効効果をアスタロトに与えている。
既に気絶してもおかしくはない激痛を感じてなお意識を保っているのは憎っくき神々への恨みかはたまた高い格を持った神としての意地か・・・
「これはな、赤柘榴と翠玉を融合させて俺の娘に作らせた封印石だ。これを作るのに、金貨10枚も使ったぜ。」
どこか遠い目をして清が説明をする。金貨10枚というと、日本円換算約100万円だ。
それをたった一回の封印に使うのだから、やるせない気持ちにもなる。
「フ、フン・・・たかが赤柘榴と翠玉如きに私は封印されませんよ・・・」
確かに赤柘榴と翠玉に退魔作用が存在し、既存の鉱石の中では一番高いのは確かだ。
しかし、その効果は基本幽霊に向かって使う効果であり、悪魔に対してはあってないようなものであるほど低いものだ。
余談だが、赤柘榴と翠玉意外では「聖石」なるものが世界で最も退魔効果が存在し、悪魔の侵入を許さない聖域の結界の大半に使われているが、そもそも絶対数が圧倒的に少なく、市場には出回っていないため、一般的には赤柘榴と翠玉が一番退魔効果が高いという認識らしい。
「ああ、そうだな。たかが赤柘榴と翠玉10個ずつなら、その程度だろう。だけどよ、それが1千も1万もあればどうだ?」
「?何を言っているのです?」
確かに、複数の退魔効果を持つ物質を使えば効果が上昇することは確かだが、そもそも退魔効果のある宝石は高い。
わざわざたった一回の封印に使うには軽くてもゴルフボールサイズが500は必要だ。
入手するとすれば白金貨100枚(=一億円)は財力が無いと集められない。
普通に考えて最上級神聖魔法を放つ方がコストも効率も良い。
しかし、なんと清はリーフレスト連邦国の王都中の赤柘榴と翠玉を買い漁って、大量の宝石を入手していた。
擁護すると、清は神聖魔法が使えないし、ルインは勇者パーティを討伐するために結界の維持に集中していて、セイリは最上級神聖魔法を放つことは可能だが魔力消費が激しく、一度しか使えないため何度かチャンスが存在するこの方法をとったのだ。幸か不幸か、清はリーフレスト連邦国の王都中の赤柘榴と翠玉を買い漁るほどのお金を持っていたため実行は可能だった。
「周りを見てみろ。」
「?っな!?」
清に促されて、周囲を見回したアスタロトは驚愕した。
なんと、自身の周りに翠と紅の光が空中に瞬いていたのだ。
「こ、これは・・・」
「アンタの攻撃を回避したり吹き飛ばされるたびに赤柘榴と翠玉を周りにばら撒いていたんだよ。美味い具合に攻撃のタイミングと合わせたから気付かなかったみたいだな。」
「はぁ、どうやら既に詰んでいたようですね・・・」
自身の動きは封じられ、攻撃は効かず、腹部には耐えがたい激痛が走る。
そのような状況にさすがのアスタロトも敗北を認めたようだ。
「ああ、そういうことだよ。再封印!!」
すぐさま清は魔力を流し、アスタロトの再封印を試みる。
左手に握られた翠と紅の石に刻まれた魔法陣と魔力回路が眩しく輝き、光が空中に漂う光にも伝わって拡散されて更に伝わり拡散される・・・
光がアスタロトと清を包む位まで拡散されると、アスタロトが左手に持った石に吸い込まれはじめた。
「あきらめませんから、私は・・・」
最後にアスタロトはそのように清へ囁いた。
死という概念の存在しないアスタロトは、封印から解放されれば何度でも復讐の機会が存在する。
例え今封じられようとも、次の機会に復讐を成し遂げる。
そういう意味だろう。
「そうは問屋が卸すかよ。」
しかし、清はストレージスキルが存在する。
ストレージスキルに関わらず、亜空間へ物を収納するタイプのスキルの多くは第三者による中身への干渉がほぼ不可能だ。中身に干渉するには、時空を操るのに特化した時空神様か、よほどのチートを与えられた転生者や転移者でなければ不可能だろう。
アスタロトを封じた封印石は翠と紅に暗い血の色が混じり、かなり禍々しくなっている。
すぐさま清は封印石をストレージ内へ収納した。これでもう、清がストレージから出さない限りアスタロトの封印が解かれることは無いだろう。
一仕事終えた清はその場に倒れ込んだ。
紅柱
一万℃を超える業火が天を焦がすほど燃え盛りありとあらゆる物を焼く。
足元から発射するため、素早い対象には避けられやすい。
もっとも、素早い敵は大抵紙装甲なため、余波で吹き飛ばせば問題ないが。
本編では白と黒のモノクロカラーの攻撃になっている
爆裂魔法
火魔法の上位互換で火属性魔法の中だけでなく全ての魔法の中で攻撃力が群を抜いている攻撃特化の魔法。
名前の通り爆発による攻撃が多く、威力も高い。
魔力効率は低くはないが、威力が高く膨大な魔力を要求するため、一説では火を扱うのに慣れた古代竜が作ったとされている。
痛覚遮断毒
分かりやすく言うと超強力な麻酔
麻痺毒は肉体の動きを阻害するが、痛みは感じるのに対し、こちらは触覚に影響を与える。
普段高い攻撃力を誇る清はいざという時痛みに耐えられるようにとあまり使っていなかった。
常人に使えば気付いたら死んでましたとかいう状況になりえる
ブックマーク登録30件超えました。ありがとうございます!これからもよろしくお願いいたします!!
面白いと思ったら評価、ブックマーク登録をお願いいたします!(*・ω・)*_ _)ペコリ




