妖刀に封じられていた者
オリヴィアが聖子の隣に接近し、身を挺して聖子を守ろうとしていた。実体を持った闇に叩き付けられて、ミンチになる仲間の姿を幻視したが、そうはならなかった。予想を裏切ってオリヴィアはダンタリオンの攻撃を体で受け止めたのだ。
「ウェ!?」
普段とは明らかに違う仲間の行動に妙な声を出す聖子、見るとダンタリオンも呆然としていた。
「よう、聖子何ぼ~っとしてんだ?」
加えて、聞こえてくるオリヴィアの声はオリヴィアの声ではなく、まるで男性の様な声だった。
「そ、その声、おじさん!?」
「ああ、そうだ。」
清は右手を左のあごに伸ばし、オリヴィアの変装マスクを脱いだ。
まるでどこぞの20の面を持つ怪人だ。
本来ここに居ないはずの人物が居るため、また聖子が驚いた。
「な、何でおじさんがここに・・・」
「何でって?こうなることを予想していたのさ。」
今度はダンタリオンが目を見開いた。
「驚きましたね。私は、なるべくバレない様に気を張っていたのですが・・・」
本人も隠蔽に関してはかなり高い自身があったらしく、少し悔しそうな顔をしていた。
「差し支えなければ、教えていただいてもよろしいでしょうか?一体いつから私を疑っていたのでしょう?」
「いつからって、自己紹介されたときからだよ。ああ、言い忘れてたが、セイリは既にルインに回収させて安全な場所へ移動させているから。」
これにはその場にいた全員が驚いた。
「ハッ、またまた・・・」
自分の完璧な策が初対面のころから見抜かれていたなど、信じられないらしく、ダンタリオンは即座に否定の言葉を話す。
「ど、どうして気付いたの?おじさん?」
清を盾にして状況の説明を頼む聖子。別に清に気があるわけではなく、単純に清が防げない攻撃は誰も防げないと諦めて潔く最高の盾を有効活用しているだけだ。
「あ?何言ってるんだ聖子?『ダンタリオン』といえば、ソロモン72柱が一柱だろうに。」
「そ、ソロモン72柱?」
「地球でいう旧約聖書に書かれている古代イスラエルの王様が使役していた72の神と悪魔の総称だ。その中でも『ダンタリオン』ってのはな、望む相手の思考を読み取り、その思考を自由に操れる能力を持ち、すべての人間を意のままに操る事も可能っていう異常なまでの精神操作が得意なんだ。大方、純血主義者をけしかけて、純血主義にハーフエルフを虐殺させ怒りや悲しみ、憎しみといった負のエネルギーを貯めてここに封じられていたそいつを現世に召喚しようとしていたんだろう。俺やルインにも精神操作してきたが、利かなかったようだがな。」
ルインが俺にNightmareをかけてくれたおかげで、俺達には精神操作系の技は一切効かない。
もっとも、そのせいで俺たちに精神操作が効かなかったことがダンタリオンに気づかれないように注意するのに苦労したがな。
ダンタリオンは俺達が付いてくると厄介だと判断したのか、俺達を遠ざけるような内容の精神操作をしていた。
俺たちも元々聖子達に付いてゆくつもりは無かったため、一度こいつの精神操作に乗った。おかげで、こいつが裏切ってもある程度対処が出来るよう準備が出来た。
「ルインに調べてもらったが、ここに封じられていたあの人、アスタロトっていうらしいな。」
「アスタ・・・ロト・・・?」
ソロモン72柱が一柱、『豊穣と堕落のアスタロト』ウガリット神話などに登場する、メソポタミア神話のイナンナ・イシュタルの系譜を受け継ぐ愛と豊穣の女神で、世界が作らられる際に大地と大地を耕す術を作り出したとされている神霊だ。
人々にも広く愛され、信仰も厚かった。彼女自身も人をとても愛していたらしい。しかし、キリスト教が広がって以降、(豊作による)堕落へと導く悪魔の烙印を押された。キリスト教徒はかなり禁欲的な人々だったことが原因だ。そして、キリスト教に取り込まれる際に身体を男とする屈辱を与えられ奈落へと叩き落とされ封印された。
「しかし、封印された奈落に運が良いのか悪いのか分らんが、ピンポイントで時空の歪みが生じた。その歪みに巻き込まれた時に時空の流れを遡ることになったことでアスタロトは肉体が男から女へと戻ったらしい。」
故に現在、アスタロトの肉体は女性に戻っている。それでも、一度愛したものから裏切られた事実は彼女を狂わせた。
「そうだろう、アスタロトさんよ。」
今までずっと静観していたアスタロトに話を振る。
「よく分かったわね。資料なんて無かったろうに、ここまで調べられるなんてすごいわ。」
話を振られて、流石のアスタロトも無視するわけにはいかなかったのかニッコリと微笑んで清を褒めた。
実際の所、調べたのはルインで清はルインからの受け売りを話していただけなのだが・・・
「そこまで調べているなら、私たちの恨みも分かるでしょう。これ以上、関わらないでくれないかしら?」
「ああ。関係ないな。正直言って、あんたらがうちらにちょっかいを出さなければ何もするつもりもなかった。」
「え!?おじさん!??」
てっきり、助けてくれると思っていた聖子は、清の言い方に驚愕の眼を向ける。
ダンタリオンまでも、清の言葉は意外だったらしく、「何言ってんだこいつ?」みたいな顔をした。
「だが一つ言っておく。あんたらが抱いている憎しみの対象をこの世界の人々や俺たちに向けるのは筋違いというものだぞ。」
アスタロトが封じ込められたのはこことは別の世界だ。
現に、この世界にソロモン72柱など存在しない。
しかし、俺の意見を伝えた途端、柔らかな笑みを浮かべていたアスタロト周りに怒りの空気が満ちた。
「では、何故私がこのような屈辱を受けねばならんのだ!私は、人々に喜ばれるのが楽しくて、ただ人々に喜びを与えたかっただけなのに!!それなのに神々は我に悪魔の烙印を押し、人々に私を奈落へと押し込めたわ!!!ようやく復活した!永かった!苦しかった!この恨みを!今こそ晴らしてやる!!」
「それは別の世界の神々がしでかした不始末であってこの世界の人間に対して復讐をするのは筋違いだ。」
「関係ない!その程度の戯言で私が永い間苦しみ続けたのも事実だ!!今更止められるか!」
どうやら、何を言ってもこの世界に復讐をするつもりらしい。
「最後通告だ。この世界の復讐はよせ。」
「断る。」
どうやら、意地でも復讐を執行するようだ。
一つの世界に生まれた存在がどこへ行こうと、そんなことはどうでもいい。
それは、それなりに低位の存在だからだ。
物理的に強かろうと弱かろうと、実体を持とうと持つまいとその存在は神々が定めたルールに当てはまるほど高位の存在ではない。
しかし、世界を作る際に協力したアスタロトなどの力の強い存在が暴れてしまうと、多くの命が失われる。
そうなれば、世界の色々なバランスが崩れかねない。
昔転生神様の飲み会で愚痴を散々聞かされた時に一つの世界の大精霊が暴れて、世界のバランスが崩れてバタフライ効果で隣接する世界にも多大な影響を与えたって聞いた。
つまり、急な世界の崩壊は周りの世界にも影響を与えるということだ。
破壊神は手順を踏んで世界を壊すことで周りに影響を与えずにその世界だけを壊す。
ついでにいうと、神様関係が原因による世界の崩壊は神達の不始末という大義名分で統括神様が崩壊した世界の再構築を行って相対的にその世界の寿命を延ばすことが出来る。勝手に壊れた世界は修復もされずそのままエネルギーが世界と世界の狭間を漂う事しかできないらしくそうなれば色々と面倒なことになりやすいらしい。
故に、俺はいまアスタロトを野放しにすることは出来ない。
大抵神様たちに厄介ごと押し付けられるんだから、これ以上はごめんだ。
「悪いが、こっちもあんたに暴れさせるわけにはいかないんだ。」
別に世界に満ちる営みなんてどうでもいい。
ただ自分に面倒ごとが来てほしくないだけだ。
「よかろう、ならば我を止めてみるがいい。我の怒りは止められんぞ!!」
一人称が「私」から「我」になっていた。
「言われなくてもそのつもりだ。ルイン、結界を張って、みんなを隔離してくれ!」
「もう張っているわよ!」
ルインに結界の展開を頼んだら半分キレ気味に怒鳴られた。
きっと、早く結界を展開するのに神経をすり減らしていたんだろう。
「聖子、ルインが張った結界の中に入ってろ。」
「う、うん・・・でも、ナタリーとハルキが・・・」
聖子が遠くにあるナタリーとハルキによく似た死体を見て、目元に涙を浮かべる。
ああそうか、言っていなかった。
「ナタリーとハルキは無事だぞ。お前とダンタリオン以外全員ルインの結界の中に入っている。」
「・・・・・・は?」
どうやら本気でナタリーとハルキが死んだと思ったらしい。
まるで鳩が豆鉄砲を食ったようだ。
「俺がオリヴィアに変装していたんだぞ。他のみんなもそうだと思うのが普通だろう。俺達は毎晩聖子の仲間を亜空間の安全地帯へ隔離していたんだ。あそこに転がっているのは魔物の肉を加工してルインが糸で操って腹話術で話していたんだ。
ああ、ちなみにルイン自身ガイアに化けていたぞ。操る人が近くにいた方が操りやすいらしくてな。」
さらに聖子の目が見開か、セイリとガイアがいた方向をみる。
そこには不可視の結界に守られた聖子とアンタリオンを除く仲間の顔があった。
実は聖子はナタリーとハルキが生きていたことよりもルインがガイアに化けており、その上ナタリーとハルキも一緒に演じていたことに驚いたらしい。
オリヴィアが清だったのはまだわかる。基本無口な人になり切るのは別に難しいことではない。思い返せば、祠を攻略する作戦会議でオリヴィアがいつになく饒舌だったきがする。
しかし、ハルキはともかく、ガイアはそれなりに喋るし、喋り方がおっとりしている。
ナタリーに関しては粗野な口調も数十分間続いたあの説教も全てが演技だったというのか?
普段のクールだが、清と比べて礼儀があるルインとは似ても似つかない性格なため、意外だったようだ。
ナタリーの説教が長かったのはルインがなるべく本人を完璧に演じたかっただけで、決して聖子を叱っている時、普段清に対して言えないフラストレーションを発散させるために聖子へ八つ当たりして説教が長くなった訳ではない。ケッシテナインダ・・・
「おい、早くしないと流れ弾喰らうぞ。ルイン、隔離してくれ。」
すでにアスタロトは幾重もの弾幕を張っていて、一つでも当たればかなり危険だ。
ぱっと見600mは離れているであろうに、ルインは清の言葉が正確に伝わったらしく、清がルインに呼び掛けた途端、空間がねじ曲がり、聖子が足元から落ちていった。
「さて、足手まといも邪魔者も居なくなった。さっさと肉体言語を始めようか。」
古今東西、話をしてもわかんない分からず屋には殴り合って説得するという方法がる。
え?スポ根漫画限定だって?知らんがな!!
俺は愛刀を下段に構え、上空にいくつもの魔法陣を展開しているアスタロトへと正面から接近していった。
なお、ダンタリオンは派内の途中で何処かへ消えていたので、清は完全に存在を忘れていた。
物語の中に登場する神話や神々の話は全て清の地元の話でフィクションです。
実際の神話などには一切関係がございません。
面白いと思ったら評価、ブックマーク登録をお願いいたします!(*・ω・)*_ _)ペコリ




