生首
「あ痛」
幸い矢は額に当たったため大事には至らなかった。
「大丈夫?」
「問題ない。それよりも、いったい誰だ?」
俺が西瓜しても誰かが出る気配はなかった。代わりにもう3本ほどの矢が今度はルインへ飛んできたが、俺はすでに毒障壁を展開していたため。矢は全て空中で溶けた。
「姿を現す気配なしか・・・ルイン頼む。」
「オッケー、Vision Extension(視覚拡張)」
ルインが視覚拡張の技を使った俺も「視覚強化の毒」を使って襲撃者を発見したが、特に何もしない。俺が何かしたら襲撃者が溶けて消えてしまう。だれの指示で動いてるかを聞く必要があるからな。
「見~つけた♪Trigger(射撃)」
ルインの指先から簡単な空気弾が発射される。特に属性が付いていたり物理的ダメージがあるわけではないが、Trigger(射撃)で弾速を早くした弾丸が避けられる訳もない。ピンポイントで襲撃者の胸部に着弾し、心臓の動きを狂わせた。
「ぐ、ぐぁぁぁ!!」
苦しみで悶えた襲撃者が隠れるのをやめて呻き声をあげて倒れた。俺は彼乃至彼女が死なないうちに。「治癒の毒」を使って心臓の動きを正常に戻した。ついでに尋問用に「腐食呪い」を、会話が可能なように頭以外に「麻痺毒」を使った。
「はあ、はあ、はあ」
息を荒くした襲撃者を見つめて俺は問いかけた
「何で俺達を襲ったんだ?俺とお前は初対面のはずだが?」
「け、答えるかよ。」
先ほど死にかけたというのに襲撃者は質問の内容を拒否した。
「まあいいさ。君が答えない代わりに君の四肢がだんだん壊死して崩れ落ちるけどね。」
「へ、そんな脅し効くか・・・」
俺は襲撃者の髪を引っ掴んで右足を見せた。すると、質問を拒否してから続いていた右足の壊死が終わってズボンが風でなびいていた。
「・・・・」
自身の無くなった右足を見て、襲撃者は顔を青くして黙り込んだ。
「安心しろ。会話が途中で止まらないように痛覚も麻痺させておいたから痛みは感じないぞ。あ、言い忘れてたが嘘を付いても壊死していくから気をつけろよ。それと、正直に話せば壊死した所は回復するからな。」
俺は努めて爽やかな笑顔で襲撃者に語り掛けた。
質問を続けたところ、襲撃者の名前はローグ。私たちの事を襲ったのは私たちを奴隷にするためだったらしい。ついでにぺヒさんの教え子達を行方不明にしてたのも。彼と分かった。どういう経緯で知ったか聞いたところ、ギルドに内通者がいたらしい。
「な、なあ。もう知っていることは全部話したから、早くこの状態を解いてくれ。」
自身の解放を要求するローグに清は無表情に近づき、右手に持つ短刀で首を切り裂いた。
「え?・・・」
自分の首が撥ねられたにもかかわらず痛みを感じず、さらに未だに意識がはっきりしていることに驚きを感じたのだろう。
「お、おい!俺に何をした!!」
「何って・・・「不死の毒」と「防腐毒」と「麻痺毒」をかけながら首をはねた。」
「は、はあ!?」
「安心してください。「不死の毒」が効いている限り死にはしません。「防腐毒」で傷の腐敗はしませんし、「麻痺毒」で痛覚は感じませんから。」
「そういう問題じゃねぇ!約束が違うぞ!!」
正直に答えたのに何故か激昂された。
「はて?俺はいつ質問に答えたら解放するといったかな?」
「私の記憶にもありません。」
「そ、そんな・・・」
呆然としたローグに清がさらに追い打ちをかける。
「お前は何のリスクもなしに人攫いが出来ると思っているのか?だとしたら相当おめでたい思考回路だな。安心しろ。俺は人殺しは趣味じゃないんだ。お前の事も殺さんさ。あ、肉体はあっても邪魔だから完全に溶かしといたぞ。」
清のその言葉にさらに男が絶望の顔になる。因みに清は男の首と一緒に「この人、人攫い。関わらないでください。」と書かれた木の板を一緒に持って移動している。途中何度か冒険者や門番たちが驚愕の表情で見てきたが、清たちは気にせず冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドに向かった清はとりあえず、受けていた依頼の解決報告をした。
「ありがとうございます。あそこにあんなトラップがあるとは気づきませんでした。」
「いや、気にしないでくれ。あのトラップに気づくのは難しいだろ。あのトラップは隠蔽の跡があった。よほど目がいい奴じゃなきゃそもそも入り口すら見つけられねぇよ。」
「そう言っていただけると助かります。ところで・・・その生首は一体・・・」
ギルドの受付嬢が恐る恐る聞いて来た。
「ああ、うちらの先生のぺヒさんの担当した新人冒険者を誘拐してた犯人だ。まだ生きているから尋問できるぞ。」
「い、生きているんですか?」
「不死状態にしているからな。尋問して正直に答えたら、体の部位を徐々に取り戻せるようにした。こいつに情報を流した仲間がギルドにいるらしい。早めの対処を頼む。」
「しょ、少々お待ちください!!」
受付嬢がギルドの建物内へ急いで駆けてった。
数分間、生首が唸っているのを無心で見ていたら、ギルド長とぺヒさん、そして先週俺たちにいちゃもんを付けてきた細っこい男が慌てて来た。というか、あいつギルド職員だったんだ。言動がチンピラ風だったから少し意外だ。
「な、なんだこれは!?」
見たことのない男が驚愕の眼差しで生首を見た。
「清君、説明してくれるかね?」
ギルド長が説明を求めてきたので事の説明をした。犯人を捕まえたと言われたぺヒさんは驚き、細っこい男と初対面の男は俺のした行為に驚いて、ギルド長はギルド内に個人情報を流出させた犯人がいると知るや渋い顔になった。なお、初対面の男は副ギルド長だったらしい。
「まったくとんでもないことをしたね。」
「本当だぜまったく。人の命を何だと思っているんだろうな。」
ギルド長はおれの行為に対して言ったのだろうが、俺はそれを軽くスルーして襲撃者と情報漏洩者をディスった。気付いていないと思ったギルド長が更に渋い顔になり、副ギルド長は怒気をあらわにして叫んだ
「あんな生首を作った貴様が言うか!!」
「?抵抗されると面倒だったし、体は重いから生首にしたけど?罪人とはいえ、生きる権利はあるし、尋問と肉体の再生には脳さえあれば問題ないからあの状態にしましたけど何か?」
「大ありだ!!人を生首にしたまま死ねなくさせるとは、何事だ!!貴様はそれでも人間か!!悪魔ですらそのようなことはしないぞ!!」
当たり前だ。悪魔の存在意義は人を殺すことではなく、死後の裁判の参考にするためだ。
「では、あんたは「罪人に生きる価値はない」とおっしゃいたい過激思想者なんだな。だったたら尋問が終わったら言ってくれ。「不死の呪い」を解除するから。」
「そういう問題ではない!私は道徳の話をしているんだ!」
?人を殺さなかった道徳の塊である俺に何が言いたのだろうか?何故かルインも呆れているし。
「お父さん、さすがにやりすぎだよ。普通人は生首を見たら引くから。」
「ああ、知っている。今回のは飽く迄牽制だからな。」
俺は俺たちに手を出したら生首になるぞと暗に示して周りに警告したのだ。今回、たまたま襲ってきたローグを利用しただけだしな。
「はぁ、自分のしたことがやりすぎであることは理解しているのか?」
ぺヒさんがため息交じりに聞いて来た。
「それは勿論。もっとも、命云々に関しては本気ですし、誰かが俺達にちょっかいをかけてきたら新しい生首を作るつもりでもあるけどな。」
「こいつは・・・本当に恐ろしい新人だな・・・」
細っこい男が呆れ顔で俺たちを見て来た。
「まぁ、尋問終わったら言ってくれ。聞いたと思うが、こいつが正直に答えたら。体は再生していくが、一応麻痺させているから襲われる心配はないぞ。」
「そいつは助かるよ」
「ま、待てまだ話は終わって・・・」
「とりあず、まずはあいつの尋問だ。あの状態だから洗いざらい話してくれるだろ。こいつ(清)に対しての問題はその後でも十分間に合う。」
「し、しかし・・・」
「清、今後こういうのはなるべく控えてね。私たちも心臓に悪いから。」
それは俺たちを心配して心臓が悪いのか?それとも目の前の状況で心臓が悪いのか?
「分かった。なるべく控えるよ。」
俺がそう言ったら副ギルド長もそれ以上追及できなかったのか黙った。その後、ギルド長がローグに尋問を行い、数日後に副ギルド長がギルドから姿を消した。
初使用技
視覚強化の毒
視覚を強化する
下手をすれば失明する
治癒の毒
対象を治癒する毒
治すためには一度対象の体液に触れ適応させる必要がある。なお、治せるのは肉体的な傷のみで失った血などは戻らない。
腐食呪い
尋問用の技。
嘘を付いた場合。または約束をほごにした場合、体の一部が腐食していく。
前者は徐々に腕や足が、後者はピンポイントで心臓が腐食していく
お互いが了承している状態しか使えない。
相手の意識がないと単なる嘘発見器にしかならない。
・・・もっとも、かけられる相手はたまったものではないだろうが。
不死の毒
対象を不死にする毒
対象を死なせないだけであり、別に五体満足で復活できるわけではない。
防腐毒
対象の腐敗を防ぐ毒
腐食毒と対になる毒。
Vision Extension(視覚拡張)
Zone,Xanadu,Geneの力を内包した技
その気になれば地平線にある米粒に書かれた字が読める
弱点としては見えすぎて明るいものは直視できない。
Trigger(射撃)
飛び道具の威力を底上げする
速射性能も付与させ魔法発動時の消費魔力量を減少させる。
指の先から空気弾を発射できるが、この弾丸は多少ノックバックがあるのみ。
もっとも、心臓に当たれば心臓の鼓動を狂わせるほどの威力はあるが。
Gene(遺伝子)と併用すれば弾丸無限のRPG連射も理論上は可能。




