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別冊雪の女王

作者: 野暮天

むかしむかしあるところに二人の子供がいました。

一人は女の子のゲルダ。天真爛漫で明るい子です。

もう一人はカイ。物腰が柔らかく知的な少年です。


そんなある日悪魔が作った鏡の破片がカイの心臓に刺さります。

それはすべてのものが歪んで見える呪われた鏡だったのです。


恐ろしいことにカイはその日から立派な中二病に成長してしまったのです。


「ねえねえカイ。一緒に遊ぼう!」

その日もゲルダはカイを遊びに誘いました。

「ふんっ小娘にはこの俺の尊さがわからないんだ」

もはや中二病というより不遜な少年に成長していました。

「どうして俺がお前なんかと遊ばなきゃいけない?」

俺は忙しいのだとゲルダは断られてしまいました。

「もうカイったら最近様子がおかしいよ」

一人ため息をついていると村である噂が聞こえてきました。

それは雪の女王が自分の相手となる王子を探しているという話でした。

「まさかとは思うけどカイが雪の女王に選ばれることはないよね」

ゲルダにとってカイは自分の兄のような存在でした。

そしていずれは恋人になりたいと思うほど強く慕っていたのです。

ですが肝心のカイはというと。

「くくっ。この俺が雪の女王の相手にふさわしいに違いない」

どこか自信に満ち溢れ見当違いの想像をしている辺り救いようがありません。

「なにせ雪の女王はちんちくりんのゲルダと違って大人だしスタイルはいいはずだし俺にとって相手に不足はない」

自分に釣り合う女は雪の女王くらいだろうと勝手に思い込んでいたのです。

「ねえカイ何をぶつぶつ言ってるの?」

「ふ、ふんっ。ゲルダには関係ない」

一応自分でも妄想を口にしていたのだが恥ずかしかったのか適当にごまかすカイでした。

それにしてもカイの暴虐はひどいものです。

もとが優しい少年だっただけに周囲の大人もこの変化をもて余していました。

ですがこれも一度は誰しもが通る道だと皆生暖かい目で見守っていたのでした。


それが後に彼を苦しめることとは知らずに。


そしてついにその日が来ました。

雪の女王は雪車に乗ってゲルダの村にやってきたのでした。

「私はカイを迎えに来ました」

なんと彼女はそう言ってカイを自分の雪車に乗せてしまいました。

「待ってカイ!」

ゲルダは必死に二人を追いました。

ですが雪のなかでは思うように走れません。

そしてついに雪車の行き先を見失ってしまいました。

「ううっ。ぐすん。私がカイを助け出さないと」

自分の目から涙が溢れるのを感じながらゲルダは固く誓いました。

「カイが雪の女王と一緒に暮らしていて無事に済むはずがないから」


かくしてゲルダは雪の女王のお城を探す旅に出掛けました。

時に親切な人たちの厚意に助けてもらいながら彼女は着実に目的の地へと近づいていきます。


一方その頃雪の女王のお城ではといえば。

「俺は小間使いかっ」

カイが不平不満を垂れながら城の床を雑巾がけをしていました。

気温が低く手が悴んでしまいそうです。

ですがこれも仕事と思えばカイは急いで掃除を終わらせることにするのです。

なぜならこれから雪の女王と食事だからです。

「俺も雪の女王の王子としてなかなか様になってきたんじゃないか」

様になってきたのは雑巾がけや掃除の技術だけでしたが彼は楽観的でした。

「雪の女王は優しいお方だからな」

ちんちくりんのゲルダはいつも要らない用事で俺を困らせてばかりだけど雪の女王は違う。

彼女と遊ぶときはもっと知的なことをしていた。

「またあの言葉遊びをするのかな」

雪の女王は永遠という言葉にこだわっていたのです。

「あらカイ今日もお仕事は終わったのかしら」

そう考え事をしていると雪の女王がやってきたのでした。

「はい。屋敷の雑巾がけは完璧です!」

胸を張って答えると雪の女王はカイを抱き締めました。

「よしよしいい子ですね」

すると心がまるで凍ってしまったようで今まで抱いてきた感情まで消えてしまいそうでした。

掃除に対する愚痴も含めて。

「食事を始めましょう」

食堂にやってくるとそこは二人きり。もちろんカイが準備をしなければなりません。

(ここはセルフサービスかっ)

内心そう突っ込みたかったのですがここは雪の女王の面前文句をいうことはかないませんでした。

(まあ俺もだんだん慣れてきたのだけれど)

雪の女王がほしかったのは王子ではなく自分のために働いてくれる手下だったようです。

それに気がついてから絶望するカイでしたがそこは開き直って働いています。

「雪の女王は美人だからな」

わざと相手に聞こえるようにいうと雪の女王はまんざらでもない様子でした。

この先二人で暮らすのも悪くない、そう思っていたのでした。

それには悪魔の鏡が影響しています。

それがカイの心臓に突き刺さっている限り彼の中二病は留まることを知りません。

「くっ邪気眼がっ」

「この俺の左手が疼くっ」

「俺にはわかる。このシックスセンス」

など村にいたら白眼視されるか生暖かい目で失笑されるかの二択です。

ですが雪の女王はなにも言わずにただうなずいてくれるのです。

やはり俺の居場所は村ではなくてこの城だなとカイは一人納得するのでした。


話をゲルダの方に戻りましょう。

彼女は別の国の王子や山賊に助けられてついに雪の女王の城にやってきました。

「カイ。どこにいるの?」

城にはいるために門を開けてもらう。

すると探し人はすぐに見つかりました。

「なんだゲルダか」

相変わらずカイは雪の女王の僕として雪車のメンテナンスをしていたのです。

ここでも仕事の不平不満が漏れてしまいます。

「いくら仕事だからとはいえ屋外の作業は凍えるぜ」

はあとため息をつくとその息さえも凍ってしまいそうです。

「カイ、どうしてこんなところで働いているの?」

久しぶりに会えた喜びにゲルダの瞳には涙がにじみましたがカイは気づきませんでした。

「それは当然俺は雪の女王の王子だからな」

得意気に言いますが本当はただの労働力として雇われたのでした。

雪の女王は秘密にしていますが。

「ねえそれは本当?婚姻届は出した?」

「バカっ。そんなことしなくても俺たちは夫婦なんだよ」

内心動揺しつつカイはゲルダの言葉を否定しました。

「こんな寒いところで働かされてそれでも自分は王子になったって言えるの」

心配してゲルダは彼に質問します。それが彼の心を追い詰めているとも知らずに。

「本当に雪の女王が優しい人ならそんなことさせないよ」

「でもっ」

鋭い指摘にカイは返す言葉を持ちませんでした。

「ああくそっ。ゲルダのちんちくりんにはわからない話なんだよ。俺のセブンスセンスがいっている」

正しくは第六感なのですが焦ったカイにはわかりません。

「そのセブンスなんとかって本当に当てになるの?」

それは中二病には言ってはならない言葉でした。彼らに必要なのは自己肯定感。疑いの眼を向けられたらすぐに自分のからにこもってしまうのです。

「ううっ」

ついにはカイは泣きべそを書いてしまいました。

「どうしたのカイ?涙なんか浮かべて」

そして救世主現れたり。ついにゲルダは雪の女王とご対面です。

「このお。なんでカイを連れ出したの?」

「それは彼が一番王子に相応しかったから」

正確には自分の僕としてです。優しかった頃の彼は村のなかで人助けが得意でした。その技術や経験をいかして城でも働いていたのでしょう。

「さあカイこちらに来なさい」

すると雪の女王は彼を抱き締めて心まで凍らせてしまうのです。

すると中二病で傷ついたカイの心はなにも感じなくなりました。

「ずるい。私だってカイとハグしたことないのにっ」

ついキイとなるゲルダでした。

そこが子供と大人の違いだと見せつけるように雪の女王は抱擁を続けました。

「カイは私のものよ」

「いいえ私のっ」

次第にゲルダと雪の女王は喧嘩し始めました。

「小さいお子さまにはしつけが必要かしら」

「おばさんにはきちんとした現実を見せないと」

二人はにらみ合い次第に罵りあいへと変化していきました。

「このちんちくりん」

「いけすかないお・ば・さ・ま」

二人の熱でヒートアップした城はついに溶けて崩壊しました。

「きゃあっひどい」

「いや自業自得ね」

ついでに二人の怒りの熱で凍っていた心が戻ったカイはというと。

「俺今気がついた。二人とも俺より強いんだな」

二人の喧嘩に恐れをなしたのかカイは引き気味に呟きました。

「俺ゲルダと一緒に帰るよ」

でも付き合うかどうかは別の話だからなと続けました。

「うんそうだね」

ゲルダは喜んでいました。

大事なカイが戻ってきたからです。

ですがそこで彼を傷つける一言。

「帰ったらその中二病直そうね!」

「お、おう」

かくして涙目になりながらも二人は村に戻りました。

二人は仲良く幸せに暮らせたかどうかは読者のみなさんが想像してください。

めでたしめでたし。

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