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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第4ターン:ダンジョントライ!
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4 飢えた獣の誘い






「――で?」


 《嘲笑う鬼火(ウィルオーウィスプ)》の本拠地である【ランプ・タウン】。そのギルドハウスの中で溜息を吐いたのは、ギルドマスターであるマミ。

 そしてその目の前で正座させられている二人は、当然、トーマとブロッサムだった。


「なんで急に私達がそんな面d――くだらn――ややこしい話に首突っ込まなきゃいけないわけ!?

 こっち全然メリットないじゃん! やる気欠片も起きないわよ!」


「マミ、隠しきれてないよ、それ」


 拳を振るい上げ気炎を吐いているマミにコウは冷静なツッコミを入れるのだが、そんな事を気にしている余裕は彼女にはない。


「っつってもよぉ、別にこっちは受けるとも受けないとも言ってねぇんだ。あの状況で他にどうしろって言うんだよ」


 トーマの言い訳染みた(実際に言い訳なのだが)言葉に、隣にいるブロッサムも、宛らヘッドバンキングのように激しく同意するが、それも彼女の心には響かない。


「事はそう単純じゃないのよ……まったく。

 良い? この場合は受ける受けないじゃないの。『衆人環視の前』で『その話が上がった事』が問題なのっ」


 人の噂はあっという間に広がるものだ。

 ギルドとして有名な《紅姫様王国(キングダム)》から《嘲笑う鬼火》への宣戦布告。

 お祭り騒ぎ大好きであると同時に噂話が大好きな【ファンタジア・ゲート】プレイヤーがこんな話に食いつかない訳がない。

 実際、《紅姫様王国》からの正式な書面による宣戦布告が行われるまでの数時間で、SNSなどではこの話題で持ちきりだ。

 コウの知り合いの測量士(マッパー)プレイヤーなどは記事にしたいからと質問の嵐をぶつけてきているし、性質の悪い者ならばでっち上げで既に記事を作っているらしい。

 勿論、そんな輩は速攻で叩き潰す訳だが、そんな事をチマチマやっていてもしょうがない。


「この状況は頂けない……もう《嘲笑う鬼火》は、この話を断るという選択を選べない状況に追い込まれてるんだから、」

「えっ? そうなんですか?」


 VRゲームの世界でも、足の痺れは現実的(リアル)だ。足をもぞもぞさせながら不思議そうな顔をしているブロッサムの考えは、〝普通〟の人間であれば当然のものだろう。

 しかし、問題は矢面に立っている両ギルドが、どちらもこの世界ではかなり有名な部類に入るギルドであるという事だ。


「そうねぇ、じゃあ今回の対決。私達が断ったとしましょう。

 別に私達は普通のプレイヤー達の常識に反する行いを多々してきたし、実際自由がモットーなんだもの。理解ある人たちは、まぁそりゃそうだろう、と納得するでしょ。

 でもそうじゃない人間から見ればこう見える――『《嘲笑う鬼火》は《紅姫様王国》に勝てないから逃げた』――ってね」


 そうならそうで別に構わない。

 他人がどんな事を言おうと、こっちが気にしなければ良い話だ。大きな問題は出てこない。

 ――そう、大きな問題〝は〟ない。

 自分達を知らないプレイヤー達は、きっとこっちを舐めてかかるだろう。喧嘩を吹っかけたりする者も、もしかしたらいるかもしれない。

 火の粉としては、小さい。

 問題としても、小さい。

 だが、それが何十、何百と降り注げばそれは自然災害の一種だ。振り払うのにも限界というものがある。

 なにより、――。


「私、舐められるの、死ぬほど嫌い!」


 これである。

 そもそも、《嘲笑う鬼火》がどこかのギルドと揉めるのは、大概がこのような理由だ。

 もっともその揉め事で勝利を収めてきたからこそ、小規模ギルドである《嘲笑う鬼火》を有名足らしめているのだから、案外馬鹿には出来ないものだが。


「だから、この勝負はどう考えても乗っからない訳にはいかない……だぁ、もう! とっとと逃げるなり無視するなりしてくれりゃ良かったのに! トーマのアホ間抜け朴念仁!」


「最後の一言は関係ねぇだろうが!!

 ――まぁ悪いとは思うが、どっちみちこうなってたと思うぜ? 何せ相手はあの紅姫。【ファンタジア・ゲート】始まって以来の最強我が侭女王だ。

 あんなのから逃げる手段、流石の俺にもねぇよ」


「むぅ、まぁそうだよねぇ」


 欲しいものは手に入れる。

 拒むならば奪い取る。

 それが彼女の信念であり行動理念。

 女王様、最強の姫プレイヤー、選別する偶像(アイドル)

 様々な二つ名を持っているものの、それらとは一線を画す名が、たった一つだけある。

 本人の前でそれを口にする者は、多くはない。何せそれを言ってしまったら最後、草一本すら残らないほど蹂躙され、奪い取られる。




「何せあの子は、」


 その名は――、







「――で? こんな方法で良かったのか?」


 《紅姫様王国》の本拠地。ギルドキャッスル【レッド・マーベラス】の奥。玉座の間に置かれた豪勢な玉座に座っている紅姫の声は実に不満そうだ。

 部屋には誰もいない。別に部下(ファン)を信頼していない訳ではないが、耳に入る人間は少ない方が良い。


「私としては、もう少し上品(エレガント)に誘いたかったのだが……あれではまるで、野良試合を挑む武者のようではないか。

 気品や品性というものを、貴様は良く分かっていないようだがな」


『――それはボクの知る所ではないよ』


 紅姫しかいないこの王座で、しかし答える者がいた。

 目の前には、ポップアップウィンドウが一つ。そこには映像も何も写しこまれず、ただ音声通話をしている事だけを示す表示がされているだけで、名前すら表示されない。

 ただ、感情に薄い青年だという事しか、声だけでは分からないのだ。


『実際、ボクがこのようなモノを心得ていたとしても、君は信じてはくれないだろうね』

「当然だ。あの者ら(・・・・)の同類である貴様に、そのようなものを求めるほど、私は愚かではない」


 紅姫の険のある言葉にも、青年の感情が揺さぶられる事はない。

 もはや、そんな売り文句で発露するほど、彼の怒りは安くはないし、売りつける相手も、とっくのとうに決めている。


『まぁ、どちらにしろこれで彼らも話に乗らざるを得なくなった。あとは、煮るなり焼くなり好きにすれば良い。

 実際、君や子飼いのファンには、実力では彼らに迫るものがあるんだ。そう難しい戦ではないはずさ』


「――確かに、な」


 《嘲笑う鬼火》は、一人一人がその道のプロフェッショナルだが、しかしそのレベルに達するとは言わなくとも近づいている人間は多い。

 紅姫のギルドにもそういう人間は多いし、ダンジョンアタックという限定された状況下であれば、良い勝負をするだろう。


「だが、解せぬのは貴様の考えよ。

 これで貴様に利益(メリット)があるのか、否か」


 どちらが勝つにせよ――勿論、紅姫自身は絶対に勝利を疑わないが――通話の向こう側にいる男に、好都合な状況など訪れはしない。

 どのような理由があるのか。ついぞそれを訊く事はなかったし、今も別に答えてもらうつもりはない。

ただの好奇心。


『――ああ、確かに、君から見ればそうか……、』


 ……ところが意外にも、今まで揺れなかった言葉が、ほんの少しだけ一種類の色に染まった。


『ボクの願いはたった一つ、




 《嘲笑う鬼火》には、最高に惨めになってもらいたいだけさ』




 それは、憎悪。




 煮詰めたように濃く、刺激臭すら感じかねない感情の波に、紅姫は眉間に皺を寄せる。

 自分からすれば、そこまで憎悪を溜め込める気持ちが良く分からない。苛立っているのであれば、吐き出せば良いものを、と。

 持つ者は、持たざる者を理解し得ないのだ。


『そこをいくと、君は理想的だ。君は一度喰らいついたら、欲しいものは何でも引きちぎってくれるからね』


 欲しいものは手に入れる。

 拒むならば奪い取る。

 それが彼女の信念であり行動理念。

 女王様、最強の姫プレイヤー、選別する偶像(アイドル)

 様々な二つ名を持っているものの、それらとは一線を画す名が、たった一つだけある。

 本人の前でそれを口にする者は、多くはない。何せそれを言ってしまったら最後、草一本すら残らないほど蹂躙され、奪い取られる。


『あぁ、〝あの〟二つ名らしいよね、君の行動理念は、』




「――それ以上口を開けば、貴様の喉笛とて引き裂くぞ、駄犬が」




 ミシリッ、と握り締められた肘掛けが悲鳴を上げる。本来破壊不可能なオブジェクトが、彼女の怒りに呼応するように悲鳴を上げる。

 それが彼女の力。

 彼女の本性。


『……ああ、失礼。それじゃ、事が終わったら連絡をくれ』


 それだけを言って、青年は通話を一方的に切った。いや、尻尾を巻いて逃げたと言うべきか。

 犬では、狼には勝てないのだ。


「――フンッ、待っていろ、鬼火。

 その灯火、私の力で吹き飛ばしてやろう」




 王座の間で1人――《飢狼姫》はただただ、舌なめずりをする。






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