3 ヒメの宣戦布告
お待たせいたしました!
長々お話しするのはあれなので、楽しんで読んでいただければ幸いです。
広場の全員、いいや、その周辺にある飲食店に入っていたプレイヤーも、なんだなんだと窓から顔を出している者が多い。
自分の身に付けているものを統一し、お互いの仲間意識高めると同時に、周囲に威嚇する。
歴史上、あるいは現代も制服という形で存在する文化だが、それはゲーム内でもよく見かけるものだ。
随分前にお世話になった《銀鎧騎士団》の主要メンバーや幹部が銀色の装備を着けているのもそうだ。
主流なのは、装備の何処かに紋章を入れる、《嘲笑う鬼火》でもやっている方法だ。
周囲の視線が集まっている一団もそうだ。
籠手、バンダナなど場所は人それぞれではあるが、彼らの装備のどこかに赤色を取り入れているのだ。
血のようという程ではないが、鮮やかな赤はVRの世界であっても陽光に照らされ、はっきりと自己を主張している。
――いいや、問題はそこではない。
彼らの視線を集めている理由は、そこではない。
太鼓と――1人の女性を乗せた神輿だ。
確かに、そもそも御輿とは人力の乗り物のようなものだ。昔のインドを舞台にした映画を見ればそういうシーンを見かけるし、日本にも『神輿を担ぐ』なんて言葉もある。
だが、実際にあんなのに乗って、周囲の視線に晒される……そんな状況など、ブロッサムであれば死んでもおかしくはない。
――しかし当の乗っている人間は、羞恥など全く感じないといった様子だ。
どころか、どこか勝ち誇っているようにも見える。
『皆、私のこの姿を見れて光栄でしょう? こうべを垂れて崇め奉りなさい!』
という言葉を背中に背負っているのではないかと思えるほど堂々としたその立ち振る舞いは、赤く、気品に溢れながらもミニスカという異種融合を果たした装備とマッチする。
そして、その胸元には金の刺繍でこう書かれている。
『Love me!』――ようは、『私を愛して!』と。
それへの返答のように、その群集の中にある紅い意匠の中には、どれもこれもまた金の刺繍でこう書かれていた。
『of course!』――ようは、『もちろん!』と。
その姿を見ると、野次馬の半分近くが、やれやれといった風に視線を逸らしたり、関わりたくないと言わんばかりに視線を逸らしている。
とどのつまり、こんなに目立つ存在な筈なのに、この場にいるほぼ全員が、この集団を無視するという、異常な状態が広がっている。
そう、ほぼ全員――ブロッサム以外は。
「……トーマさん、何なんですかあれ」
その表情はもはや、能面と言って良い。あまりにもリアクションする事が多すぎて、顔面が処理し切れていないのだ。
運営が悪い訳ではない、目の前の異常事態が悪いのだ。
「……ほっとけ。ありゃ、視線を合わせちゃいけないタイプの開拓者だから、いや、マジで」
対してトーマは、実に冷静だった――冷や汗をかきつつ、コーヒーのカップが軽く震えていなければ。
「トーマさん……まさか、お知り合いじゃないですよね?」
頼む、知り合いじゃないと言ってくれ。そんなオーラを背負っているのだが、
「変な連中だが、このゲームの中じゃそこそこ優秀で、そこそこ有名なギルドだ。
……ギルドっていうか、ある意味一人の為のファンクラブって感じだがな」
その願望は無残にも砕かれた。
仕方ないと諦め、能面の表情を崩さぬまま席に座り直すブロッサムに、トーマは説明を続ける。
「あのギルドは……まぁ、俗に言う〝姫プレイ〟の極地って奴だ。
ギルメンにあらゆる方法で稼がせて、まぁシステム的なものなんだが、上手く〝上納金を払わせて〟るらしいな。」
「おっしゃっている意味が良く分からないんですが」
「俺だって分かってねぇよ……いや、まぁ周りから不満が出ないんだから、それはそれで良いんだろうさ」
トーマが語っている通り、実際、不満など出ていないのだ。
当の本人は勿論、ギルドメンバーからも、そこに間接的に関わるプレイヤーも、その全員から文句が出ないのだ。
目立つ姿と裏腹に、このギルドは概ね他のギルドやプレイヤーに何か悪い影響を与えるどころか、むしろ良い噂しか聞かないくらいだ。
曰くマナーが良いだの、むしろ奉仕活動や、自警団の真似事をしているくらいで、評判は上場と言っても良いだろう。
そこが、糞女と違う点と言って良いだろう。
「はぁ、そうなると目立つようですが、悪い方々ではないという事ですね」
「ああ、悪い連中じゃない……一部を除いてはな」
「一部、ですか、
――それって、こっちに来てるのと、何か関係がありますかね?」
太鼓の音も、御輿も、目に痛い紅に金の刺繍も。
それほど遠くはなかったが、しかし近くもなかったその距離は、少しずつではあるがその感覚を縮めていた。
というか、視線がこっちに向いている。
御輿を担いでいる男性陣は勿論の事、御輿に乗っている女性――クレンも、またこちらに熱い視線を向けている。
ブロッサムに……というか、主にトーマに。
「……トーマさん、」
「やめろ、そんな目で俺を見るんじゃない……いや、確かに《嘲笑う鬼火》として色々やっているのは事実だが、俺個人として悪い訳じゃないっ」
「片棒担いでいる時点で、既に充分悪いと思います」
どうせ、なんやかんや言いながら嬉々としてそれに参加していたに違いない。この人の性格であれば、やりかねない。
――などと考えている間に、その集団はもはや目と鼻の先にいた。
流石に御輿を担いで入ってくるのは躊躇われたのだろう。窓の外、丁度ブロッサム達と御輿に乗っている女性の視線が、丁度良く混じり合う場所に陣取った。
露天を開いたりしていた者達はやや迷惑そうにしていたが、それすらも意に返さないほど尊大な態度で、玉座にふんぞり帰っている。
「――ふぅ、暑い」
わざとらしく、その豊満な胸元を揺らしているが、んな事はない。
【ファンタジア・ゲート】内での気温調節は万全だ。そりゃあ、マグマが噴出しているような場所であれば暑さも感じるだろうが、ここはごく普通の街。
そんな場所で暑さなど感じるはずもない。
だが呆然とするブロッサム、そして呆れ帰るトーマを余所に、御輿の下に屯していた彼女の部下の動きは実に早かった。
アイテムボックスから南国を思わせる鮮やかな青の飲み物を取り出すと、即座に女王に手渡した。
トーマ程ではないにしろ、その動きは俊敏と言って良いだろう。
そんな動きにも動じる気配は一切なく、その女性は飲み物を受け取り、ストローに口をつける。
その所作だけ、だいぶ扇情的に――というか、ブロッサムから見ればあざとく――に見えるのは、きっと間違いではないだろう。
「……フゥ、久しぶりですわね、《音速使い》。復帰して私の所に挨拶に来なかったのは頂けないですが、《嘲笑う鬼火》が復帰したのは、実に喜ばしい。
素直に、おめでとう、と言って差し上げても良くてよ?」
言葉とは裏腹に、まるで喜ばしいといった感じはない。
そんな彼女の言葉に対して、トーマもどこか仏頂面で答える。
「そりゃあご丁寧にどうも。姫プレイ通り越して〝女王〟プレイを素でこなせる、《紅姫様王国》の紅姫にそう言っていただけるとはね」
――ここでギルド名に戦慄したのは、ブロッサムだけではなく、この広場にいる新参者の多くのプレイヤーもだった。
ダッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッサ!!!!
彼らの心の中は一つだった。
が、中堅、古参と称されている(実際プレイ暦も長い)プレイヤーは、何の反応も示していない。
――《紅姫様王国》。
名前はあまりにもダサいが、しかし【ファンタジア・ゲート】の中でも、上位ギルドに食い込んでいるギルドであり、ギルドマスターである紅姫自身もトッププレイヤーだ。
領地経営と軍団戦のプロフェッショナル。
彼女の指揮下に入ったギルメン達の動きは実に機敏で正確、一種の機能美さえも彷彿とさせる彼らの動きは、ギルド間戦争で一定の評価を受けている。
……もっとも派手な見た目とその功績以外にも、このギルドが有名な理由がもう一つ存在するのだが、それは今説明出来る事はない。
というか、それは自ずと分かっていく事だろう。
「で? そのトップギルド様が俺らに何の用だ? まさか、『挨拶してこなかったな』って皮肉を良いに来た〝だけ〟じゃないんだろう?」
「ええ、それは、――ッ、勿論その通りですわ」
南国風の飲み物を一気に飲み干すと、紅姫は優雅に背凭れに寄りかかり、こちらを見据える。
――ゾクッ、と背筋が寒くなり、自然と手が腰……武器に反応してしまう。
ただそれだけの所作であるはずなのに、まるで飢えている獣の目の前に晒されたような恐怖と威圧感を受ける。
その目を見れば、きっと彼女もこんな風でありながらもプレイヤーなのだな、と察する事が可能だろう。
「新迷宮の噂を聞いているでしょう? 貴方達がこんな楽しそうな事を見逃すはずがありません。
そこで、その迷宮を使って私と一勝負しません事?」
「――条件は?」
もはや訊くことはない。そう言わんばかりに、トーマはその野獣の双眸から目を逸らさず、彼の得物である槍のように真っ直ぐ視線を刺す。
当然、彼女はそれに物怖じしない。
「双方から4人のパーティーメンバーを選出、逸早く迷宮の最奥にいる迷宮の主を殺す事。
もし貴方達が私に勝利したら、お金でも何でも、報酬はそちらの望むものを差し上げましょう。
でも、もし其方がこちらに敗北したら、」
聖女と野獣。
純粋さと獰猛さ。
その両方が混ざり合った奇怪な笑みを浮かべながら、
「《嘲笑う鬼火》には私の下僕――もとい、傘下になっていただきますわ」
異常な条件を提示した。
如何だったでしょうか、ちょっと休養期間が長かったので、心配ではありますが。
さてさて、これからは一週間、ないし二週間に一回は最低でも更新していきたいと思います。
これからも、どうかよろしくお願いいたします。




