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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第4ターン:ダンジョントライ!
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2 待ってる間の過去話






 ――迷宮(ダンジョン)

 フィールドとは違い、入り組んだ壁に囲まれ、殆どの場合地下や建造物の形を取っている。

 RPGとしてはオーソドックスな物だが、その内実は他のゲームとは大きく異なる。何せ【ファンタジア・ゲート】には便利なマップ機能などないのだ。

 なので、自然とダンジョンに潜る場合には、測量士マッパーを連れ立っていく事が多い。

 大きなギルドであれば組織の中に、そのようなスキルを持っているプレイヤーが所属している場合も多いが、パーティー単位だったなら外部から雇うしかない。


 もっとも、そう難しい話ではない。


 ダンジョンの中を潜り地図製作のスキル上げに利用したい者も多いし、何より新しいダンジョンは情報の宝庫。

 その中を狙わない手はないのだから、真面目に測量士役を買って出てくれる人間は、意外といるのだ。

 だからまず、専属の測量士がいないパーティーやギルドは、その測量士を探すのが、ダンジョン攻略の始まりと言っても良いだろう。

 大半は、共通に使われる掲示板などを使って募集するのだが、その方法はギルドやパーティーによって様々だ。

 掲示板に募集の広告を貼り付けるだけの人間もいれば、パーティーメンバー全員で声を張り上げたりしている人間もいる。

 そんな中、《嘲笑う鬼火(ウィルオーウィスプ)》がやっていた方法は、


「まだですか、トーマさん!」

「まだですよ、ブロッサムさん……今日は、お前やけに張りきってんな」


 その掲示板のすぐ傍にある喫茶店。そこで鼻息荒く、落ち着きのない様子でクリームソーダを飲んでいるブロッサムと、苦笑いを浮かべながらコーヒーを飲むトーマがいた。

 ここで、コウがいつも世話になっている測量士がやってくる手筈になっているのだ。


「にしても、お前急に乗り気になってどうしたんだ? そもそも、お前みたいなタイプにゃ、ダンジョンに向かないだろう?

 まぁ、オレも人の事は言えないが」


 必然的に狭い通路を進むプレイヤーにとって、ダンジョンは鬼門のようなもの。そういう意味では、戦鎚を振るうブロッサムや、二槍使いのトーマには相性が悪い。

 最初――というか昨日までのブロッサムは、


『はぁ、ダンジョン、ですか……出来れば、広い所が良いなぁ』


 などとぼやいていた程だ。

 勿論、彼女自身も楽しくない訳ではないが、折角貯めた熟練値やアイテム、そして金を無駄にしたくないという気持ちが働いたのだろう。

 良くも悪くも、プレイヤーらしくなったものだ、とその時のトーマは苦笑いしたものだ。

 しかし日を改めてみれば一転、昨日までのブロッサムは一体なんだったのかと思えるほど、その態度は変わった。

 測量士との合流も、本当はコウとトーマで行くはずだったのを、彼女が無理矢理手を上げたのだ。

 トーマからすれば、『なんなんだコイツは』といった感じなのだろう。


「い、良いじゃないですか、やる気になって悪い事はない筈ですっ」

「……まぁ、確かになぁ」


 気まずそうに、ブロッサムはクリームソーダを啜る。

 対するトーマは、どこか視線を逸らしながらコーヒーを飲む。




「……《エンジェル・ハンマー》」

「何で知っているんですか!?」




 クリームソーダが零れそうになるのも気にせず、ブロッサムは力強くテーブルを叩いた。

 そんな動揺する彼女に、トーマはどこか意地悪な笑みを浮かべながら、暢気にコーヒーを飲んでいる。


「新聞に出回っている情報程度、俺らが知らないわけがないだろう?」

「むっ……言われてみれば、まぁ」


 少し冷静になったのか、大人しく座る彼女に、トーマは話を続ける。


「それに、別に責めている訳でもないのさ。

 俺達はお祭りギルド! 自分達の目的があったって別に悪い事じゃないさ」


 《嘲笑う鬼火》は、自己中心的なギルドだ。

 全体攻略に寄与する事もない、街の為に何かする訳でもない。むしろ、他人の迷惑をかける可能性すらあるギルドだ。

 良い事も起こす事は起こすが、悪い事も起こす。

 自分達が楽しい事しかしないギルド。

 だから、ブロッサムの行動はまるで間違っていない。むしろ、自分達からすれば正しい行いだ。


「そういう意味じゃ、今回の一件だって、マミの独断だしなぁ。

 『久しぶりにダンジョンとか入ってみようよ! ノリで!!』って」

「……そのモノマネ、ちょっと似てますね」

「気にする所そこかよっ……ま、とにかく、そういうもんなんだから、お前が気にするなって」

「そういう、ものですかね」


 クリームを掬って舐め取りながらも、どこか釈然とはしない。

 良い意味でも悪い意味でも、自己主張し過ぎないのが彼女の性格……まぁ、それもだいぶ改善というか、少し愉快な方向に自己主張が激しくなっているが。


「あ、そういえば、ついでにちょっと気になる事があるんですが、」

「あ? この際だ、質問や相談、あと要求はどんどんしていけ」

「ええ、じゃあ遠慮なく……うちって、測量士系のスキル上げてる人っていないんですかね?」

「――――――」


 コーヒーのカップが、口に運ばれる途中で止まる。

 ブロッサムとしては、『コウさんとかイワトビさんとか、取得してそうなもんなのになぁ』と思っただけのはずだった。

 ――だから、意外だった。

 トーマの目の中に、ほんの少しの罪悪感というか、それにも似た悲しさのようなものが見えたのが。


「えっと、あの……、まずかったですか?」


 気まずい空気にそう言うと、トーマは静止をやめて、ゆっくりとカップをソーサーの上に置いた。


「いや、そういう訳じゃねぇんだが……まぁ、そうだな。お前ももう俺等の仲間だし、話しても良いだろう。

 昔うちのギルドから抜けた奴がいたってのは、お前も聞いたよな?」

「ええ、はい、それはまぁ……」


 亡くなったセラという仲間。

 そして、亡くなった事に、助けられなかったギルドの仲間に、絶望して抜けていった仲間の一人。

 自分の前にそういう人達がいるのは、ブロッサムも知っている。


「で、そいつは、所謂〝銃〟使いって呼ばれるタイプのプレイヤーでな。後ろから狙撃する関係上、地形把握がしやすい測量士系スキルは、重要だったんだ」

「……え、銃、ですか?」


 トーマの言葉を、思わず聞き返してしまった。

 【ファンタジア・ゲート】はファンタジー作品だ。故に、現代技術というのは出来るだけ排除している。

 空飛ぶ船なんていうものは一応存在するが、それも魔術を応用して造られている(という設定(フレーバー)がある)というものだ。

 銃、と一言に聞いてしまうと、どこかしっくり来ない。


「あぁ、お前は知らないか。

 んじゃ、久しぶりに講釈を――この世界には、そもそも黒色火薬が存在する。イワトビが使う爆弾もその類だが、とにかくその火薬の威力で物を飛ばす技術は存在するんだ。

 奴は《銃術》ってスキルを使うプレイヤーだったんだが……まぁ、これがまた非常に使い勝手が悪いスキルでな」


「? と、言いますと?」


「あぁ~、まず、金が掛かる。銃に火薬に弾丸、どれもこれも普通に手に入らないもんだ。だから、手に入れるのに苦労していたな。

 それに、ほら……お前ら今まで戦ってきた奴らに、銃が通用すると思うか?」


「それは……、」


 今までの敵を思い出す。

 スキル上げに戦ってきたモンスターや、ベヒモス、NPCとして登場した黒い男。

 どれもこれも、仮に現実に存在する高性能な銃を持っていても、勝てるとはとても思えない。

 硬い皮膚や、俊敏な動きは、とても対応出来ないのだ。


「まぁ、現実の銃とは少し違った物ではあるんだが、それでも、どうしても使い勝手が悪いもんなのは事実だ。

 せめてもって色々工夫してたよ。俺らは、それに便乗して貰っただけ」


「……えっと、なら、私はその穴を埋めたほうが良いですかね?」


 出来るだけ、ギルドに貢献したい。そう思っていったのだが、トーマはどこか苦笑しながら身を乗り出し、ブロッサムの頭を軽く撫でた。


「別に、気にしなくたって良いさ。お前には向いてないしな」

「……随分失礼ですね、あと、セクハラです」

「頭に触った程度で何がセクハラだよ」


 トーマに触れられた部分を自分でも撫でながら、少し不満げな表情が浮かんでしまっているのが、自分でも分かった。

 誤魔化された。

 彼にはそんな気はさらさらないのだろうけれど、それでもブロッサムには、なんとなくそれが気に入らなかった。

 頼られていない。

 自分ばかりが助けられている。

 そんな罪悪感と、力になりたいという気持ちが、ブロッサムの中に渦巻いていた。

 ……けどそれを、ブロッサムは溶けかけたアイスの混じったメロンソーダと共に、喉の奥に飲み込んだ。

 自分から助けてと言われない限り、助けようがない。自分はそう教わったからだ。

 ――だからこそ、もしトーマから手を貸して欲しいと言われたら、全力で助けよう。

 胸にそう刻みつけていると、




 軽快な太鼓の音色が、広間一杯に響き渡った。






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