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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第1ターン:ゲームへの招待
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8 訓練、訓練、ちょっと雑談






 ――岩場と荒野が合わさってしまったような初級フィールド【ロックロックの丘】は、初心者が通い詰めるフィールドの中でも、ひたすらに防御力が高いモンスターが集まっているフィールドだった。

 甲羅が岩のようになっている〈ロックトータス〉という名の陸亀や、大小様々な石が手の形を作っている〈ストーンハンド〉などが多く、スキル上げに勤しむ初心者にはうってつけの場所だった

 防御力が高いモンスターばかりの場所が何故、と思うかもしれないが、それはこのゲームがモンスターを倒した経験値レベルアップするゲームではなく、スキルを何度も使って熟練値を貯めるゲームだからだ。


 レベル制ならばモンスターの数を、スキル制ならばスキルを使った数を。


 そうなれば、必然的に何度も攻撃する必要性がある防御力の高いモンスターの方が良いに決まっている。

 しかも、このフィールドのモンスターは全体的に攻撃速度や回避率に関わってくる敏捷が低いものが多く、受けるダメージも少なく済む。

 さらにここのモンスターはノンアクティブ――つまりこちらが手を出さなければ勝手に攻撃してこないモンスターばかりだ。

 だからこそ、プレイヤーの中にはここを【練習場】と揶揄してる者もいて、初心者にはまず紹介されるフィールドだろう。


 それはブロッサムも例外ではなかった。


「――《スマッシュ・ブロウ》ッ!!」


 岩石の手が放った石飛礫を気にせず、手に持ったハンマーを構え、技名を叫ぶ。

 形としては、ゲートボールのスティックを思い出すほどシンプルだ。重厚な頭はそれでも戦鎚の中では小ぶりで、自分の頭よりも一回り小さい。

 柄は片手で持っても両手で持っても良いような微妙な長さに調整されているが、ブロッサムは《両手持ち》のスキルを上げる為、両手でそれを振るう。


『――――――ッ!!』


 ギリギリと石を擦り合わせるような警戒音を鳴らしているが、避けられるようなそぶりは見せない。

 戦鎚はまるで引力引き寄せられるように『誘導され』、その威力をもろに受けた石の塊は、呆気なく弾け飛んだ。

 報酬は勝手にウィンドウで告知されながら、そのままアイテムボックスに入った。


「ハッ、ハッ、ハッ、」


 疲れも3分の1になっているはずなのに、息が上がる。

 極度の集中と緊張感がそうさせるのだ。


「――ほら、なにぼうっとしてる。さっさと次の奴」


 岩の上にいるトーマは厳しく言う。

 スキル上げは地味な作業になりがちだ。故に途中で断念する者もいるのだが、それをトーマは認めない。上に立ちながら、強い言葉で先を促す。

 それは良い、自分で選んだ道なのだから当然だ。

 ただせめて――、


「せめてお酒飲みながら言うのやめてくれませんか!?」


 信楽焼の狸が持っていそうな大きな徳利を傾けているトーマに、ブロッサムはそう怒鳴った。




 仁王が手渡してくれた装備は、二つ。

 まず今自分が持っている戦鎚《ぶちぬき丸》。

 名前はどうにも間抜けだが、必要スキルランクⅠ〜Ⅴと幅広く、おまけに攻撃力は高い。

 「中堅まで長く使われる」事を念頭に置い作ったらしい。実際、必要スキルランクが下位のものを使えば耐久値を下げてしまう結果になるので、ランクⅤまではお世話になるだろう。


 防具は《戦乙女の鎧(低)》。


 胸から上を防護するように金属で覆われ、金属の籠手と、脛当てと一体化したブーツ。おまけに羽のような意匠を持った金属鎧だ。

 ちなみに空いている腹の部分は丸出しで、下半身はミニスカートに、半透明のヴェールのような物が着けられている

 本来この装備は高ランク用の装備らしいが、それを仁王がマイナーチェンジし、下位ランクしか持っていない人間でも使えるようにしたらしい。

 重装スキルで装備出来る防具の中ではかなり軽く作られており、移動阻害や敏捷低下を招くことは無い。

 その代わり金属鎧特有の圧倒的な防御力とはいかないが、ダメージを必要とするブロッサムには、必要なものだろう。

 価格は、なんと破格の800M。本来ならば二つ合わせて2000Mを超えるところを、きのうてにいれたボアのドロップアイテム売却も含めかなり安くして貰った。

 仁王に申し訳なかったが、「先行投資だ」と笑みを浮かべられれば、今の自分に断る術はない。

 装備を体に合わせ、早速トーマに連れて来られたのが【ロックロックの丘】だった。



『今からログアウトするまで、きっちりここでスキル上げだ。頑張れ』



 責任感0な言葉でそう言われてから小1時間、ひたすらに甲羅を叩き石を砕き続けている。

 要領としてはこうだ。


 1まず敵を一回攻撃してこちらにターゲットさせる。

 2それからはひたすら戦鎚を使って攻撃。

 3相手の攻撃には《パリィ》を使用しても良いが、回避せず最低限のダメージは貰う。

 4貰ったら1割になるまで放置。1割を切れば《極地の猛攻》が発動するので、本当に死ぬ直前まで戦い続ける。

 5本当に死にそうな時は、攻撃の合間を縫って最低限回復し、2〜4をまた繰り返す。


 ずっとこの調子である。

 しかもそれを教えたトーマは、そのまま岩の上で「じゃあ俺は酒飲むわ」と言って飲み始めた。


「というか、お酒なんてこのゲームの中で飲めるんですか!?」


 〈ロックトータス〉の甲羅を叩き割りながら叫ぶ。


「飲めるぞ〜。もっとも、一応システム制限がかかっているから、お前は飲めないけどな」

 トーマはそう言って、徳利を景気よく煽る。仄かに赤い顔をしているので、きっと程々に酔ってはいるのだろう。

 ――ブロッサム達の世代から10年も前に、法整備は進み、選挙権、飲酒や喫煙、さらに性風俗関係も18歳へとその制限を緩めている。

 だから、お酒そのものは珍しくはないが、まさかVRの中でまでそれを飲もうという人間がいるとは思わなかった。

 頭の隅でそう考えているブロッサムに、トーマはどこかいやらしい笑みを浮かべる。


「結構何でも出来るぞ。酒もそうだし、喫煙だって年齢制限が解ければ出来る。

 ――あと、NPC相手やプレイヤー同士で、そういう事(・・・・・)だって出来るぞ?」

「そういう事…ってッ!!」


 一瞬なにを言っているのか分からなかったが、理解した瞬間手に力が入り、亀の甲羅が思った以上に勢いよく叩き割られた。


「せ、セクハラも良いところですトーマさん!!」


 怒っている自分を見て、トーマはけらけらと笑い声を上げる。これだから、酔っ払いは嫌いだ。


「そう言われてもなぁ……いや、どっちにしろ、まだ先の話だ」


 ――この【ファンタジア・ゲート】の中では年齢詐称は出来ない。

 まずゲームをする前に、身分証明書をコピーして会社の方に郵送しなければいけないからだ。

 これは昔、まだ完全没入型のVRゲームの時代に起こった事故や事件の名残りで、もし何か問題があれば直接個人を特定できる様にというのも含めたものだ。

 しかも、その時に送らなければいけないのは、身分証だけではない。VRゲームに必要な脳機能の診断書と、全身検査の結果を送らなければいけない。

 学生であれば、毎年身体測定と同じように診断されるので、手間はかからないが、アバターのデータに流用される事で、外見的な年齢変化を感じなくさせる。

 足の長さを変えて、ゲーム内での行動や現実での運動に支障をきたす。顔が違い過ぎるせいでリアルで問題になる。

 そう言った影響から、個人の骨格――つまり体型や顔の大幅な変更を行えないようにした。

 だから体格は殆ど変える事が出来ない。顔の雰囲気はだいぶ変えたりする事も出来るが、小顔にしたりは出来ないし、別人の顔にすると激しい違和感が生まれる。

 人の顔は、骨格に依存しているところがあるからだ。

 ……もっとも、表面に付いているもの、つまり筋肉や脂肪は変更可能要素なので、リアルで会ったらゲームよりも太い、などは無きにしもあらずらしい。


「まぁ、冗談はさておき、初期ブーストは貴重なんだし、今のうちにがんがん上げとけ~」

「……それなんですけど、初期ブーストってなんなんですか? 随分重要らしいですけど」


 小一時間戦闘をしていれば、いい加減慣れてくる。〈ストーンハンド〉の攻撃である石礫を数個パリィしながらでも、話が出来るようになっていた。


「そうだな~、簡単に説明するとだ。

 スキルってのは、ランクが上がれば上がるほど、必要熟練度が増えて上がり辛くなる。普通にやってれば、だいたいランクⅢで打ち止めって所だろう。

 だけど、初心者用アイテムを使えば、それも問題が解決するようになる」


 トーマにそう言われたからか、視線は右斜め上、設定されているHPの隣に移動していた。

 そこにはバットステータスや、逆に自分にとって良い効果を発するバフなどの項目が乗っているのだが、今記載されているのは一つだけ。人のシルエットが青白いオーラを纏っているアイコンだけが表示されている。

 《熟練値上昇》のアイコンだ。

 初期アイテムとして配られたアイテム〈増幅薬ブーストポーション〉の効果だ。飲めば一時間だけ得られる熟練値を1.5倍してくれる夢のようなアイテム。

 これを使ってスキル上げを行っていれば、初心者でもすぐにランクⅤのスキルを手に入れるのも、夢ではないらしい。


「もっとも、そう簡単に全部のスキルが上がる訳でもないし、スキルが上がった所で上手くアーツを使えなきゃ、意味ないけどな」


 ――そう。

 このゲームはスキルを上げさえすれば強くなるような、生易しいゲームではないのだ。

 スキルはあくまで、その武器や技能を操るための技能でしかなく、技をそのまま与えてくれる訳ではない。

 【訓練所】や各種イベントなどで得られる場合はあるが、それは少数。その大半が自分で生み出し、スキルと同じように保存しなければいけない。


 それがアーツ。先ほどブロッサムが放った《スマッシュ・ブロウ》もその一つだ。


 【訓練所】で取得出来るかなり基礎的なアーツで、戦槌を横薙ぎにして相手にぶつける攻撃だ。戦槌用のアーツであるだけに威力は高い。

 保存しておけば、半自動的に攻撃を放ってくれるこのアーツは、戦いに不慣れな人間でも武器を振るう事に困惑している人間にも、役に立つ。

 現実のように見えるこのVRゲームの中にあって、ゲームらしいシステムの一つを言えるだろう。

 ……しかし、ここにもいくつか制限がある。

 まず、アーツ保存枠は最大でも10個。それ以上はどんなに保存したくても、自分の体で覚えておくしかない。


 もう一つが、アーツの半自動化。


 《スマッシュ・ブロウ》の右から左への横薙ぎ攻撃なのだが、保存したアーツはそれ以外の挙動を許してくれない。何十発、何百発連続で振るおうとも、方向などは同じ。精々、プレイヤーに許されているのは、精々当たる場所を調整する程度だ。

 さらに、この保存アーツは連続で放つ事が出来ない。クールタイムという、一定時間使用不可の時間が設けられているのだ。

 技の難易度、必要スキルランクなどによって自動設定されるその時間は、最短で1秒、魔術師の使用する技などであったりする場合は、1、2分はざら。

 大魔法などになってくると、30分そのアーツが使用出来ない事もあるらしい。

 それだけの時間使用できないものを、いつも使うものとして考えるのは、1秒の判断すら結果を左右する戦闘では無理だろう。

 その他にも使っている間は回避や防御に移行し辛いなど、問題点は幾つもある。

 だから上位プレイヤーになればなる程、保存アーツは俗に言う『必殺技』や『挙動を覚えておくのが難しい』技に限り、それ以外はその場その場で臨機応変に、が一般的なのだそうだ。

 勿論魔術師プレイをしている人間には、また別のメリットデメリット、保存方法もあるのだが……ブロッサムには余り関係がない。


 スキルランク。

 アーツ。

 そして、自分自身の技量。


 特に物理系戦闘職プレイを行うのであれば、この三つは重要なのだそうだ。


「じゃあトーマさんのッ! 保存アーツはッ! 《トライデントアタック》!!――フウッ、いくつあるんですか?」


 三連撃のアーツを釣った〈ロックタートル〉に叩き込んで倒しながら訊くと、トーマは少し言い辛そうに、


「……今は7つだな」


 と言った。

 意外と多い。

 そんなブロッサムの心の感想を察したのだろう。徳利を傾けながら苦笑を浮かべる。


「俺の場合、魔術スキルもここ一年で取ってな。あくまで補助だから保存アーツにしておいた方が、戦闘では有利なんだ。

 じゃないと、呪文やらなんやらで面倒だからな」

「――魔術!?」


 ファンタジックの塊、おそらくファンタジー作品を好んでいる人間にとっては一番使いたいであろうスキルの名前が挙がって、ブロッサムの反応が色めき立つ。

 しかし、そんなウキウキという擬音が出ていそうなブロッサムに、トーマは懐疑的だ。


「やりたいなら止めないが、魔術と近接戦闘の併用は結構な高等スキルだ。それこそかなりのプレイヤースキルが求められる。

 魔法剣士とか皆憧れて、結局断念する奴が多い……まぁ、少なくとも初心者が手を出すようなスキル構成じゃないな」


「そうなんですか〜」


 一度現実を頭の中に押し込めて見たところで、残念に思う気持ちを押し隠す事は出来ない。

 ゲームであっても、厳しい部分は厳しいのだ。

「……あれ? トーマさんはなんで魔術を始めたんですか? 見た感じ、普通に戦闘でも強そうですけど」


 彼が戦っているのを見たのは一度だけ、しかも一回の攻撃だったが、その姿から近接戦に慣れているように感じた。

 ゲームに関しては素人のブロッサムだが、あの気迫と素早さは今でもはっきり思い出せるほど華麗だった。

 ならば何故、魔術を?

 そう思って聞いてみたのだが、トーマは徳利の中にある酒を回しながら、視線を逸らす。


「まぁ、色々事情があって、な」


 ――えも言われぬ微妙な空気が、その場に流れる。ブロッサムにとっては特に何か重要な話ではなかったのだが、トーマにとっては大事な事だったらしい。


「そう、ですか」


 それだけを返すと、ブロッサムはまたスキル上げに戻る。

 ……それでも気まずい雰囲気は、なおもそこに滞留する。もしこれが物理的な匂いやナニカだったならば、出来れば誰か突風で吹き飛ばして欲しいと思える程の。


「――あぁ〜、なんだ、他に聞きたい事はないか? 思えば、ブロッサムはまだまだ知りたい事が山ほどあるだろうし、今のうちに聞いておけ」


 気を取り直したようなわざとらしい提案に、ブロッサムも乗っかる事にした。わざわざこのまま気まずい状態でいる事もあるまい。


「そ、そうですね〜……あ、トーマさんは、《銀鎧騎士団(シルバーナイツ)》ってギルド知ってますか?」


 慌てて出したのは、昼間自分を虐める榊原莉子の話を思い出す。


 《銀鎧騎士団》。総勢5000人いる事と、それなりに有名な事以外知らない。そもそもブロッサムは、まだギルドを正確に理解出来ている訳ではないのだ。


「《銀鎧騎士団》? そりゃあ当然知ってるが……なんだ急に。もしかして入りたいのか?」

「ち、違いますよ! クラスメイトが噂しているのを小耳に挟んだだけで、どういうギルドなのかなぁ〜って」


 ブロッサムの動揺した態度に、トーマは「ふぅ〜ん」と言うだけで、気にした風もなく話を続ける。


「そうだな……話をするなら、まずギルドの話をもうちっとしないとな」


 居住まいを正しながら、野外でも聞こえるようにはっきりと話し始める。


「ギルドにも色々目的によって種類が別れる。

 《銀鎧騎士団》は所属人数5000人弱の、このゲーム最王手のギルドにして、『自警団ギルド』って呼ばれる種類だ」

「自警団?」


 何かを守るのだろうか。


「……このゲームのシステム上、PKや詐欺、金目のものを奪う盗賊プレイ、迷惑行為やなんかも禁止されていない部分が多い。

 PKは分かるか?」

「はい……人を殺す事、ですよね?」


 こちらと意思疎通が取れない獣、モンスター。

 開拓を嫌う原住民として登場する、エネミー。

 プレイヤーの戦う上での明確な敵だろう。

 だがこの世界では、プレイヤー同士が戦う事が出来るPvPがある。そして同時に街の外、今ブロッサムがいるようなフィールドで、人を殺そうとする行為――PKがある。

 PKをすれば、殺した相手の所持金の10%と、任意のアイテムを強奪する事が出来る。システム的な宣言が必要なPvPとは違い、PKは無許可で人を殺す事も可能なのだ。

 倫理的には判断が難しいが、システム的には許されている。


「そうだ。人を殺して金とアイテムを強奪する。システムで禁止されているわけじゃない。

そういう、PK以外にも『倫理的には微妙だが、システム的にセーフ』って事をするプレイヤーやギルドを、俺達は『グレープレイヤー』とか『グレーギルド』って呼んでる。

 ――まぁ、システム的に許されているからって好き放題出来る訳じゃない」


「もしかして、それを止めるのが自警団ギルドですか」


 モンスターを倒して手を止めて話すブロッサムを咎める事なく、トーマは頷いた。


「そう。マナーがなっていない連中、その他傍迷惑な連中を倒す、未然に防ぐ、時には改心させたりする。

 その中でも、【始まりの街】を中心に様々な場所に範囲を広げているのが、《銀鎧騎士団》だ」


「……ようは、この世界の警察、みたいなものですか?」


 ――少し、ほんの少しだけ、ガッカリする。

 あんな人を傷つけて笑っていられるような人がそんなギルドに所属出来るならば、正直そのギルドには失望してしまう。

 何かが違うのではないか。そう思って期待していたのに、それが裏切られたような。

 ギルドに対してかなり理不尽な事を思ってしまった。


「あぁ〜、まぁそこまで大仰なものじゃない。さっきも言った通り、システム的なもんじゃないから、やっぱり自警団レベルだ。

 実際最近じゃ、あんまり良い噂聞かないしなぁ」


「そう、なんですか?」


「ああ。なんでも最近新人やペーペーの連中が、人に難癖つけたり狩場独占したり、ちょっと横暴になってきているらしい。

 5000人規模になれば、ギルマスが直接指揮を取るわけにもいかないからな……大体、副ギルマスか、ギルマス本人が任命する『幹部』が基本的に取り仕切っている。

 同じギルド内でも派閥が生まれたり、争いが起きたり……まぁ一筋縄じゃいかない」


「……まるで、実際の組織みたいですね」


 現実にある会社や学校、そういう集団と同じだ。

 人数が少ない時は、純粋に理念を守りやすく、全体に目が行き届きやすい。しかしそれが徐々に大きくなればなるほど、問題が増え、誤魔化しやすくなってしまう。


「MMOだからな、そういう事もあるさ」


 人が集まれば、いろんな考えが集まる。

 真剣に物事を考えている人間もいれば、そうではない人間もいる。

 人を貶める事しか考えない人間もいれば、そうではない人間もいる。

 違いがあるからこそお互いに理解しようと努力する事もあれば、相容れなずに争いを起こす事だって中にはあるのだ。


「勿論、だからって擁護する気も、甘んじる気もない。

 お前も、PKに襲われるようだったら容赦なく戦え。難癖付けられたら……その時は、自分が1番良いと思う判断をしろ」


 トーマの言葉に、ブロッサムは頷く。

 ――理不尽にな目に遭ったら、全力でそれを否定する。そもそも、その勇気を得られるように、このゲームを始めたのだ。

 ……そこでふと気づく。彼はギルドに入っているのだろうか、と。

 友人がいるのは仁王がいる事で知っているし、自分と違って人と話す事に不安感を持っている様子もない。自分が考えている以上に人間関係の輪は広そうだ

 何より、新人の自分にもここまで親切で慣れている節がある。もしかしたらどこかのギルドで新人を教えていたりしていたのかもしれない。


「トーマさんは、ギルドには、――」


 頭に浮かんだ疑問を口に出そうとした瞬間、携帯端末の着信のような音が、脳の奥で鳴り始める。それと同時に、目の前に自動でウィンドウが展開された。

 現実時間ではすでに9時。そろそろログアウトしなければいけない時間だった。







次回の投稿は11月5日の0時に行います。

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