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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第3ターン:バイトと友達
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25 黒き影






 中は思ったよりも広かった。

 当然だ、ここは何十人というカネンリの部下が居座る場所であると同時に、非合法な品を保管する倉庫のような役割も担っている。その面積は当然広い。

 思ったより汚れてはいないが、雑然とはしている。何処かから盗んできたのかもしれない財宝の類や、 奪ってきたのかもしれない武器やアイテムの類が乱雑に置かれている。

 足の踏み場もないというわけではないが、足の踏み場を間違えれば、バランスを崩す事もありえるような屋内。

 しかしよく見てみれば、そこに置いてある物だけではなく、壁も破壊不能オブジェクトではない。

 中で戦闘を行う関係上、壁や柱、それに物が壊れないのはおかしいという考えで作られているのだろう。

 その中を、ブロッサム達は慎重に進んでいる。


 先頭を進んでいるのは、イワトビだ。

 足音も立てず、ゆっくりとした足取りで前を進んでいる。

 彼は視界の端に(トラップ)の警報が映らないか、常に警戒しながら歩いているのだ。どこに何が仕掛けられているか分からない以上、慎重にならざるを得ない。


 次に、トーマだ。

 彼も足音を殺しながら、静かに警戒し続ける。ブロッサム自身は見た事がないが、迷宮ダンジョン系のフィールドにおいて、彼は警戒役の1人だ。

 何せ、不測の事態、唐突な状況の変化に、物理的な意味で1番“速く”対応出来るのだから、その役割を負うのは当然と言っても良いだろう。


 そして最後は、ブロッサム。

 この3人の中で1番経験値が足りない彼女は、その立場にふさわしく、どこかおっかなびっくりな足取りで2人の背中を追いかけている。


「――妙でござるな」

「――ああ、妙だな」


 視線を混じらせる事もなく、イワトビとトーマは口を開いた。


「な、何がでしょう?」

「……ここに誰もいない事が、でござる」


 そう言われて、ブロッサムも周囲を見渡してみる。

 確かに、人気がない。どころか、人がいるような気配というものを感じない。

 確かに違うのは、ナンリと入った廃屋とは違い、ここには確かに人のいた形跡と、実際に人が存在するという結果がある。

 だが、それでも――今現段階において、この家の中には人の気配がしないのだ。


「えっと、でもそれは、陽動が上手くいっているって事じゃないんですか? 普通に皆、マミさんの所に向かったって可能性は、」


「「あり得ない」でござる」


 ブロッサムの希望的観測を、2人がほぼ同時に否定する。

 その言葉を引き継いだのは、トーマの方だった。


「このゲームはどうしようもなく現実的(リアル)だ。そこは、NPCの思考回路だって同じ。

 ただそこはAIだ。どこまでいっても、〝模範解答〟しか提示しない。つまり、」

「……あ、そっか」


 トーマの言葉で、ブロッサムはようやく納得する。

 彼らは所謂、悪党。人を誘拐し、ここに監禁している張本人達だ。

 監禁している間に襲撃してくる人間は、十中八九、誘拐した人間の仲間だろうというのが普通の解答だ。

 そしてそのまま普通の思考回路で考えるならば――その“原因”を奪われないように、守ろうとするはずだ。


「……なのに、1人も人がいないのは、おかしい」


 その言葉に、トーマも、イワトビも同意の首肯を見せる。




 そんな答えが導き出された時、凶刃がブロッサムに襲いかかった。




 唐突なそれは、普通の感覚しか持っていない人間には、本当に刹那の瞬間にやってくる刃など、全く知覚出来ない。

 ようは、カマイタチのようなものだ。

 一瞬の自然現象にも等しい、鮮やかな首元への一撃。受ければHPは一気に無くなり、ブロッサムはそのまま死んでしまう所だったろう。




「――おう、うちの新人に手を出さないで貰おうか?」




 その凶刃を、双槍が止めた。

 ブロッサム本人は勿論、彼女よりランクが高かった筈のイワトビすら、反応出来なかった短刀を、彼だけが受け止めたのだ。

 その探検の持ち主は、黒いボロボロの外套を着込んだ男だった。

 子供のような体躯でも男と分かったのは、口元に多くの髭を蓄えているからだ。まるで小人にも近しい外見だったが、その目付きは明らかに殺意を持っていた。

 ――いいや、それだけではない。

 大きな木箱が積み重なっている陰から。

 埃が積もっている家具の掛け布の中から。

 剣や槍が立てかけられている隙間から。

 様々な場所から、同じく黒づくめの男達が現れ、襲いかかった男と同じ探検を構える。

 まるで鎌のように歪曲した、両刃の短剣。


「――チッ、面倒な連中も関わってたって訳だな」


 槍を振りながら、どこか面倒そうにトーマが周囲を見渡す。

 ……道が全て塞がれているわけではない。頭数は4人、それなりに広いこの室内全てをカバーする事は出来ない。

 何人かで道を確保すれば、そのまま1人くらいは奥に進めるだろう。


「……良いな、イワトビ」

「……やれやれ、承知したでござる」


 アイコンタクトだけで意図を伝えると、イワトビは仕方なしと言わんばかりの態度で動き始める。

 この状況(・・・・)では、先に行くのはブロッサム以外にあり得ない。


「ブロッサム、合図したら走れよ」

「――はいっ」


 緊張で、ハンマーを持つ手に力が入る。

 そして、それは同時だった。


「――今だ!!」


 トーマが叫ぶのと、


「――ッ!!」


 ブロッサムが走り出すのと、


「――ほいなっ」


 イワトビが煙玉を投げるのは。


「『!?』」


 一瞬の出来事であるにもかかわらず、黒づくめのNPC達は反応し、その煙の中に刃を突き立てる。

 本来であれば、ステータスと装備の所為で鈍重にならざるを得ないブロッサムは、文字通り蜂の巣状に穴が開いただろう。


 ――それは、間一髪のところで、ブロッサムはヤイバの雨をすり抜け、そのまま前に進んでいった。


 もし、彼らがNPCではなくプレイヤーであれば分かっていただろう。

 その煙玉はただの煙玉ではない。相手の攻撃速度と命中率を下げてしまう、状態異常を与える煙玉だった。

 即座にアイコンを確認出来るプレイヤーではない彼らには、どうしようもない話だった。


「その黒い服と、曲がった短刀……こんな場所に《黒の猟団(ハーミッシュ)》がいるとはね」


 そんなトーマの言葉に、男達は何も返さず、ただその鋭い眼光と短剣の切っ先を向け、こちらの隙を伺っている。

 ――《黒の猟団》。

 この大陸の現地民を中心とした、潜入と暗殺のプロ達。一説では開拓者達に反抗する《反乱軍》の資金源であると同時に、主戦力とされている。

 その力量は総じて高く、ただ1人だったとしても、ブロッサムでは勝てる存在ではなかっただろう。

 それが4人……当然だが、トーマとイワトビだけでも、苦戦するレベルの話ではない。殺される可能性も、当然ある。

 それでも、ブロッサムを前に進める為、ナンリを助ける為に、ここで足止めすると決めたのだ。


「やれやれ、これじゃあ食事一回じゃ割に合わないでござるな」


 珍しく短剣を抜き、開いている片手でアイテムを取り出しながら、イワトビは小さく溜息をこぼしている。

 そんな彼に、トーマはどこか苦笑を浮かべながら、槍を構え直した。


「まぁそう言うなよ。

 そんな事より――こういうのも、楽しいもんだろう?」


 そう言っているトーマにも、背中合わせに構えるイワトビにも、笑顔が浮かんでいた。

 ……このゲームをしている理由は様々だ。

 現実からの逃避もそうかもしれないし、ただ単純に趣味としてやっている者達も、当然いる。それでも、共通点が無いわけではない。




――〝ヒーロー〟になる事。




 攫われたお姫様を助ける。理不尽に襲われる村人を救う。多くの命、多くの心を守る。

 賞賛される為に、いや、賞賛されなくても。

 見返りの為に、いいや、無かったとしても。

 むしろ不利益を被ったとしても、それでも他者の為に、何かをする。

 そういう英雄に、どこか憧れているのは変わらない。

 それが面白おかしくゲームをしよう、というギルドに、このゲーム1はた迷惑なギルド、《嘲笑う鬼火(ウィルオーウィスプ)》のメンバーだったとしても。




「さぁて、そんじゃいっちょ、格好良く行きますか」








「――――――」


 息を潜めながら、建物の奥に進む。先ほどよりも狭くなった通路の中では、頑丈な鎧を見にまとっているブロッサムは余計に動きづらそうだ。

 いっその事、壁を破壊してしまいたい……そう思いながらも、どこに何があるのか、どこに誰がいるのか分からない状態、グッと堪える。

 もう、イワトビもトーマも側にはいないのだ。

 自分を助けてくれる人は、誰もいない。それがよりブロッサムの神経をすり減らすが、それでも、彼女は前に進む。

 薄暗い通路を通り抜けると、いくつかのドアがある。


「えっと、どれだろう……」


 視線を彷徨わせると、思わず口からそんな言葉をこぼしてしまう。

 扉は多いわけではないが、それでも1つ1つ警戒しながら開けて調べるのには、あまりにも時間が足りない。

 ただでさえ、他の仲間を、少なからず危険に晒しているのだ。とても、そんなに時間をかけていられない。

 ブロッサムは近くの扉に駆け寄ると、ほんの少しだけ扉の下に目がいった。

 廊下そのものは人が頻繁に通っている所為か、埃は綺麗に払われている。しかししっかり見てみれば、廊下と扉の間には、分厚い埃が積もっている。


「――もしかして、」


 ブロッサムはそのまま視線を下げながら、他の扉の下も見てみる。

 他の扉の下も、同様に埃が見て分かるほど積もっており、とてもではないが、ここを人が通ったとは思えない。

 ――たった1つの扉を除いて。


「っ、ナンリ!!」


 現れているポップアップで、その扉が普通の方法で開かない事は分かっていても、必死さのあまり扉を叩き、声を荒げる。


『……ブロッサム?』


 声は篭っていて聞き取り辛いが、それでもその声は間違いなく、ナンリのものだった。


「待ってて、今助けるから、」


 扉を開く条件は、イワトビがやったように《解錠》スキルを使用するか、一定のダメージを扉に与えるしかない。

 ブロッサムは息荒げに、戦鎚(ハンマー)を振り上げる。


『待って、ダメ、やめて、




 これは罠よ《・・・・・》!』




 その言葉と同時に、横っ腹を突き抜ける衝撃が、ブロッサムの体を貫いた。


「――かはっ」


 鉄パイプで殴打されるのにも似た攻撃――蹴りに、ブロッサムは腹に溜まった息が吐き出されるのを感じながら、その場に崩れ落ちる。


「『ほう、まさか救いに来たのがこんな小娘だとはな……これはなかなかに、』」


 背後に立った黒づくめの男は、無感情にも感じるその言葉に、密かに喜びの思いを忍ばせていた。







お読みいただきありがとうございます。

次回更新は5月13日になります。

どうかこれからもご贔屓に。

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