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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第3ターン:バイトと友達
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24 お祭り騒ぎ






 ――ナンリの目の前にある扉が、軋む音を立てながら開けられる。

 入ってきたのは、黒づくめのローブを身に纏ったNPCノンプレイヤーキャラクターだった。

 そのローブの裾や袖口はボロボロで、何年も着古しているのか、ところどころ戦闘で開いたであろう穴や切れ込みまである。

 そんな街中を歩けば異質であろう彼の存在は、〝無〟そのものだった。

 視覚としては実存を確認出来るというのに、生きている人間特有の体臭はせず、衣摺れの音すら感じない。それどころか、存在感すら希薄過ぎる。

 ただ、そこにポッカリと空間が空いているような。そんな感覚さえ覚える。


「『――お前の友人達は、交渉に応じるようだぞ』」


 その声は、どこか無機質な青年の声。忘れもしない、ナンリをあの場所で誘拐したNPCのもので間違いなかった。

 ……ナンリは、その言葉に返事をしない。ただじっと敵である男を睨みつけているだけだ。それでも男は、気にせず言葉を続ける。


「『……情とは難儀なものだ。たった人間1人の命で、金を産み落とすガチョウを手放せる。それが良い事なのかどうかも理解出来ない』」


 青年の声は、平坦なものだった。感情が喪失しているかのように、何の色も乗っていない。

 それが侮蔑なのか、憐れみなのか、それとも単に事実を述べているだけなのか、それすらも、ナンリには判別が難しい。

 ただ1つ言える事は、男が、交渉に応じたアースやクレミーを、明らかに下に見ているという事だけだった。

 対してナンリは、それに対して何も答える事がなかった。

 そうだよな、とどこか納得しているからだ。

 見捨てれば良いのに、彼らは見捨てない。自分の大事なものを犠牲にしたって、傷ついたって、ナンリの身の安全を危惧しているのだ。

 アースもクレミーも――そして、ブロッサムも。


「『……まぁ、良い。どんな考えがあるにしろ、俺は俺の仕事を済ませるまでだ。

 彼らが何かしでかしてくれるならば……それはそれで、面白い』」


 不思議な言葉にナンリは眉をひそめるが、男はそれを気にした様子もなく、何も言わずに部屋を出ていった。

 男が出ていってしまえば、部屋は街中にあるにも関わらずあまりにも静かだ。せめて賑わいくらい感じさせてくれれば良いのに、と思いながら。




「……ブロッサム」




 ナンリは、数少ない友人の名前を呼んだ。







 どこにでも普通にある民家。それが、ナンリが監禁されている場所だった。

 最初の廃屋はただの囮。実際のそこは、どこにでもある、街の中でも違和感のない普通の建物だった。

 もっとも、外観はさておきその異質さは隠しようがない。見張り代わりに陣取っているゴロツキ連中は下卑た談笑に花を咲かせており、明らかに〝溜まり場〟だと分かる。

 もっとも、だからどうした、という話だ。

 彼らは確かにカネンリ男爵に雇われた人間だが、その証拠はどこにも残っていない。つまり彼らは、カネンリ男爵とは無関係。

 どう騒ごうが近隣住民は、『街のチンピラ』程度にしか思わないだろう。

 だから彼らは呑気に話をし、酒を煽り、賭けポーカーに興じるのだ。


 ――今日までは。


 彼らの目の前を、1人の女性が歩いてくる。

 雪をそのまま誂えたような上等な白いドレスを身に纏い、同じく白い日傘でその顔を隠しているが、その均整の取れた体を見逃す人間はいない。

 顔を見なくても、これが良い女と分かる。

 欲望だけで生きている男達には、特にだ。


「『よう嬢ちゃん、道に迷ったのかい? 俺たちが道案内してやろうか』」


 獣欲を隠しもしない笑みを浮かべながら、1人のチンピラが女に近寄っていく。他の男達も、それを止めようともせず、むしろ面白いとでも言うように笑みを深める。

 ここは既に、街の中とは別のフィールドになっている。他のNPCは見向きもしない。

 御都合主義に思えるかもしれないが、ここはそういう世界なのだ。


「あら、なんて優しい紳士なんでしょう。是非お願いいたしますわ」


 貴婦人は何も疑う様子もなく、涼風のような優しい笑い声を出すと、男の元に近づいていく。

 そのまま羽交い締めにすれば、女など簡単に捕まえられる。あとは好きにすれば良い。

 そんな事を考えながら、男は手を伸ばし、




 その手が切り落とされた(・・・・・・・)




「『ギッ――!?』」


 絶叫を上げる事も出来ず、チンピラは【欠損】のBSバッドステータスを受け、その傷口には粒子のようなエフェクトが舞う。

 日傘は、いつの間にか武器に変わっていた。

 貴婦人の身の丈を大きく超える野太刀。それが普通の武器でないのは、その刃が山吹色(・・・)なのを見ればわかるだろう。

 一瞬の出来事に何も言えない男達も、それだけでは済まなかった。

 腕、足、首。体の一部分が切断され、それによりHPが再起不能なレベルまで削られる。

 実力(スキルランク)に大きな差があるのだ、彼らにその凶行を止める術はない。

 音もない、まさに〝一瞬〟。


「『ひ、ヒィ! おい誰か、誰か助けてくれ!!――ガハッ!』」


 最初に傷つけられた男が、その血飛沫の中で必死に助けを求める。

 白い服が血に染まり、汚されてしまった服を無視し、女性はそれを一度見逃してから(・・・・・・)、その男の背中に刃を突き立てた。


「うん、そうそう、そうやって仲間を呼びんでくれよ。そうしてくれると私達も、手間が省けるってもんでしょう?」


 消失する男の体を見下しながら、空いている手でウィンドウを操作する。

 紅く染まった服が瞬時に消え去り、裸を見せる間も無く普段着ている着物が纏われる。

 現出した眼鏡をかけ、その視線を家屋に向けた。


「はい、じゃあ皆、戦闘準備だよ〜」


 言葉としてはたったそれだけ。それだけの筈なのに、すぐ近くに隠れていた者達が飛び出してくる。


 全身鎧の大男。

 (ほぼ)全裸の男。

 魔術師然とした女性。

 弓矢を携えた狩人の少女。

 神官のような服を着た女性。

 マイクスタンドの独特の杖を持った女性。

 そして学士の姿を持つ、今まさに魔道書を開く青年。


 侍ガール☆マミも含めた《嘲笑う鬼火(ウィルオーウィスプ)》のほぼ全員がそこに集中していた。


「さて、皆、いつも通り頼むよ。




 今日の私達は賑やかし。せいぜいメインの連中の背景を華やかせましょう」







〝お祭り騒ぎ〟作戦。名前の通り、実にシンプルな作戦だ。

 まず、大部分のメンバーが騒々しくけたたましく暴れまわり、エネミーやモンスターを引きつけ、陽動する。

 その隙に隠れていた少数のメンバーが倒さなければいけない敵将を倒し、あるいは必要なモノを奪い取る。

 騒がしい彼ららしい集団戦法、分かりやすい作戦そのものだ。

 そして、今回のメインは、


「――始まったな」


 まずアジトの裏口付近にある草むらから飛び出したのは、いつも通りの本気装備を持った双槍の戦士、《音速使い(ソニッカー)》トーマだ。

 槍使いというのは室内戦には向いていないように思われるかもしれないが、狭い部屋の中でも細かく早く動ける上に、短槍は室内での取り回しにも向いている。

 戦力としては十分機能するのだ。


「――数分でこじ開けるでござる、少々お待ちを」


 次に出てきて、裏口の鍵を弄り始めたのは、《卑怯ペンギン》のイワトビだ。

 彼のプレイスタイルは〝ニンジャ〟。鍵開けはお手の物だし、一流の(トラップ)使いである彼は罠の有無や敵の気配に敏感だ、。

 敵地に侵入するのに、これ以上の適任はいないだろう。

 そして、


「――――――ッ」


 最後に唇を噛み締め、緊張したような面持ちで戦鎚を持ち、飛び出してきたのは、《嘲笑う鬼火》の新人、《殴殺嬢》ブロッサムだ。

 室内では扱い辛い長柄の戦鎚、そして彼女には経験すら皆無だ。

 それでも、彼女が今回の件において主役なのは言うに及ばずだろう。


「いけるな、ブロッサム?」


 トーマが振り返らずに聞いたのは、たったそれだけ。

 しかも、答えが分かっているのだから、笑いすらブロッサムには浮かんでいる。




「ええ、行きましょう――早く、助けないと」




 たったそれだけの返答は、戦鎚を重くするには十分だった。






お読みいただきありがとうございます。

次回更新は5月6日になります。

どうかこれからもご贔屓に。

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