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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第3ターン:バイトと友達
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22 優しい報酬






「――助けてください」


 《|嘲笑う鬼火〈ウィルオーウィスプ〉》が持っているタウン【ランプ・タウン】にあるギルドハウスの中は、いつもの喧騒とは打って変わって、妙に静まり返っている。

 頭を下げるブロッサム、そしてそれを見ているギルドメンバー達。

 彼らの表情は、どこか複雑だった。


「……つまりこうかい? 『君の友達を助ける為に、僕らも協力しろ』と?」


 コウの言葉に、頭を下げながら『はい』と返事をする。

 現実世界の1日、つまりゲーム内での4日間。これでブロッサム1人でナンリを見つけ出し、カネンリに致命的なダメージを与えられるのか。

 端的に言って、無謀だ。

 それはブロッサムにも分かっていた。少なくとも、自分だけではどうしようもない事は理解しているつもりだ。

 だからこそ、ブロッサムは助けを求めた。

 自分の狭いコネクションの中でも最強のプレイヤー達――《嘲笑う鬼火》に。

 ……それが分かっているからこそ(・・・・・・・・・・)、メンバーは非常に苦々しい表情を浮かべているのだ。


「……ねぇ、ブロッサムちゃん。それがどれだけ自分勝手な言葉なのか、理解しているかにゃ?」


 ギルドマスター、侍☆ガール・マミの言葉は、普段の気安さからはあまりにもかけ離れた、ひどく冷徹な色が篭っている。

 悪感情でそのような声が出ているわけではない。あくまで感情を殺しているだけの、標準的な大人の対応だ。


「はっきり言えば、今回の一件、《嘲笑う鬼火》は全く関係がない。どころか、部外者だ。

 私がコウとトーマを関わらせたのは、あくまで今回の一件が良くも悪くも『ブロッサムちゃんが』起点だったからに過ぎない。それ以上も以下もない」


 図らずも、ブロッサムが今回のイベントトリガーの一翼を担っていたのは、確かな事実。

 責めるつもりはない。偶然なんてそこら辺に転がっている。しかしそれはそれとして、責任は負わねばならない。

 だからブロッサムを直接援護するような事はしなかったし、逆に無謀な挑戦を止める事もしなかった。

この世界ではだいたいの事柄が〝自己責任〟だ。

 今回の一件で、《嘲笑う鬼火》が請け負う責任など、ありはしない。


「なのに、そんな関係のない私達に『助けてください』? ――ハァ、まだまだ新人とはいえ、ここまで身勝手とはね」

「――言い過ぎよ、マミ」


 隣で聞いていたマーリンが、どこか辛そうな表情を浮かべてカップを置く。


「彼女のゲーム内の人脈じゃ、私達が最高峰の人材だって分かっているでしょ? 頼るなという方が、無茶な話よ」

「いやいやマーリンさん、そこなんだよねぇ」


 ガリガリと頭を掻くと、マミは勢いよく立ち上がり、ブロッサムの目の前に進み出る。

 そのまま――彼女の鎧を掴んで、無理やり顔を上げさせた。




「頼るってのが、気に入らない」




 ――誰も、その言葉に否定を述べる事はしなかった。

 ここは【ファンタジア・ゲート】、仮想現実に作られたゲームの世界。

 そう、ゲームだ。


 例え、敵に殺されようと、

 例え、同じプレイヤーに殺されようと、


 例え、お金を稼げなかろうと、

 例え、お金を奪われようとも、


 例え、イベントに失敗しようと、

 例え、罠に嵌められようとも、




 全ては、自分で解決しなければいけない事なのだ。




 自分1人で出来ない事は、他人に協力してもらう。なるほど、それもゲームの醍醐味の1つだ。何よりここはVRMMO、そのような要素は必須と言っても良いだろう。

 だが、そこになんのリスクも発生しないはずがない。

 共通の目的、あるいは報酬などを手に入れられるからこそ〝〟する場合があるだけ。

 現実(リアル)での延長線上に存在する仲間だったならば、もしかしたら無報酬でも良いと言うかもしれない。

 それでも、何かのリターンがあるものだ。有形無形に関わらず。

 その点から見れば、ブロッサムの今の頼み方は、不正解だ。報酬はない、ただ助けてくださいというのは、あまりにも情けない。

 ブロッサムの時、関わったトーマやマミにも“責任”のようなものがあった。助けたいと思ったから助けたのだ。

 しかし、なんの関係のないプレイヤー1人を助ける為だけにリソースを切り崩すほど、《嘲笑う鬼火》メンバーは甘くはない。

 アースやクレミーの為に、と考えれば少し違うが、あの2人は自分たちと同じトッププレイヤーだ。要請されてもいないのに助けるのは、お門違いも良いところだろう。

 つまり何が言いたいかと言うと、


「――なんの対価も無しに、私達の手を借りようだなんて、甘過ぎる」


 冷たい声でそう言うと、ブロッサムを突き放した。

 物理的にも、心情的にも。

 その行動に、マミ以外の仲間。主にトーマを中心に思った事は、1つ。


『……やりすぎだバカ!!』


 そして、不機嫌そうな顔をしているマミも、裏ではこう考えていた。


『……やべぇ、言い過ぎた』


 ――はっきり言おう。

 《嘲笑う鬼火》は、トップギルドの中でも異質な集団である。

 ある程度の目的と信念を持って行動する場合が多いトップギルドの中にあって、彼らは普通のギルドのように『自由に楽しむ事』をモットーにしている。

 その中にはそのようなVRMMOの不文律、暗黙のルールをある程度無視する事も含まれる。

 ようは、100%嘘とまでは言わないが、ブロッサムの言葉に割と簡単に「良いよ」と返事できるくらいの準備があるのだ。

 何より、自分達のギルドに所属する新人が、初めて自分からやりたいと言った事なのだ、全力で応援してあげたいに決まっているじゃないか。

 ……だが、そう簡単に頷いてはいけない。

 自分達〝が〟そうだというだけで、他のプレイヤーに感情論だけで通用するわけがない。むしろ、鼻で笑われておしまいだろう。

 この世界で生きていくならば、このようなプレイヤー同士の交渉術なども磨いていかなければいけない。

 これからも、彼女1人で事にあたる事態が、ないわけではない。


『よっし、じゃあ丁度いいし気持ちを確認するためにも、ちょっとドッキリやっちゃうか!』


 そんなマミの一言で始まった一連の会話な訳だが。

 思わず熱が入ってやり過ぎてしまった。

 ここまで言うつもりはなかったのだ。

 俯いていて周囲が見えていないブロッサムの目の前で、メンバー全員がマミに非難の視線を送り、彼女はどこか困ったように苦笑いを浮かべる。


(だけどま、これくらいが妥当なのかもしんねぇな)


 そんな中で、トーマだけは冷静にブロッサムを見つめていた。

 語調は強いが、言った事は正論だ。ゲームだからこそ、そういう所が非常にシビアに出来ているのだ。

 そして、だからこそ、




(ブロッサムなら、乗り越えられんだろう)




 そう思っていた矢先、ガシャンと金属が床を打つ音で、全員の視線が吸い寄せられた。

 ブロッサムが、床にハンマーを投げたのだ。怒り……ではない。彼女の表情には怒りなど浮かんでいないのだ。

 あるのは、一種の覚悟だけ。

 全員が何も言えない所為か、彼女の手が止まる事はない。

 目の前の現出ウィンドウを操作し、アイテムボックスからアイテムを取り出す。

 それこそ、普段使いのポーションから、つい最近手に入れたドロップ品、さらに実体化した金貨や銀貨まで、実に多種多様。

 それは、もはや彼女が今持っている全てのアイテムだった。


「あ、あの、ブロッサムちゃん?」


 ネオの声にも、ブロッサムは答えずに手を動かし続ける。

 驚くのはそこからだ。




 ――脱いだのだ。装備を全て。




 彼女の姿はもはや、初期装備として着けられているアウター……つまり、下着一枚だった。

 現実の体から変化させる事がなかった肢体が露わになる……《嘲笑う鬼火》メンバー全員の前で。


「って、わーわーわー!! ブロッサムちゃん何やってるっすか!?」

「お、怒ると服脱いじゃうタイプなの!? ちょ、クシャちゃん何か隠すもの持ってきて!」

「ほら、男ども見るんじゃないわよ!!」


 必死に彼女の姿を隠し始める女性陣と、慌てて視線を逸らす男性陣。静かだったギルドハウスの中は一転して騒々しいものになってしまった。


「もう、いったいどうしたって言うのブロッサムちゃん……」

「……これで全部です」

「え?」




「――これが、私が持っているもの全てです。

 倉庫を探せばもっとありますし、【喫茶・メイド亭】から支払われるお給金も含めれば、もっと出せます」




 装備、アイテム、貨幣。

 彼女の持つもの全てを手放し、本当の意味で何も持っていない少女は、この場にいる誰よりも、先先程のマミよりも強い視線を向ける。

 全てを支払う。

 このゲームでそんな事をすれば、これから先何も出来なくなる。装備を1つも持っていない状態では、最弱モンスターですら倒す事は本来出来ない。

 善良のような特殊なプレイヤーならば話は別だが、ブロッサムは典型的な武器使い、どう考えても、無理だ。


「勿論、それだとこのイベントが出来ませんから、後払いになります。でも、必ず全部渡します」

「……そこまでか?」


 誰も答える事が出来なかった中、トーマだけが口を開いた。


「そこまでする義理がテメェにあんのか?

 友達だかなんだか知らねぇが、そこまで賭ける理由が、テメェにはあるって事か?」


 見捨てても良い。

 暗にそう諭されるような言葉に、ブロッサムは何度も首を横に振った。


「あり得ません。


 私の、友達ですから」


 今回、彼女は三度覚悟を問われた。

 それでもなお引き下がらなかったのは……彼女がそれでも、前に進むことを諦めない人間だったからこそだ。

 そういう人間だから、ここにいる全員が、何かをしたやりたいと思えたのだ。


「だいたい、そんな事言い出したら、トーマさんだって、なんで私を助けたんですかって話になりますよ?」

「……ま、それは言えてるな」


 苦笑を浮かべながら、トーマは寄りかかっていた壁から背中を離し、マミに視線を向ける。


「なぁ、マミさんよぉ、腹へらねぇか?」

「は? ちょっと、いきなりなにを、」

「俺は空いた、もう腹ペコペコだ。




 あ〜あ、誰か奢ってくれる奴いねぇかなぁーー奢ってくれりゃ何でも《・・・・・・・・・・》するんだがなぁ《・・・・・・・》」




 その言葉1つで、ブロッサム以外の全員が察する。

 まったく、キザな事言ってる、などと笑う者もいれば、ああ、そういう事ねというしたり顔をするような者まで、様々だ。

 それでも、全員がその話に乗っかった。


「良いねぇ――じゃ、報酬はそれだねブロッサムちゃん」

「え、えっと、それって」


 困惑するブロッサムに、マミは笑顔で答えた。



「【喫茶・メイド亭】での打ち上げ代、全部ブロッサムちゃん持ち。

 今回はそれで手を打ってあげる」


 ――ああ、なんてみんな、優しいんだろう。

 ほんの少しの羞恥と、それ以上の嬉しさが、心の中に熱を入れる。

 これが、自分の仲間。

 彼らが、ブロッサムの大切な“仲間”なのだ。


「はい、よろしくお願いします!!」






お読みいただきありがとうございます。

次回更新は4月22日になります。

どうかこれからもご贔屓に。

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