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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第3ターン:バイトと友達
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18 交…渉…?






「『ダリャ!!』」


 【始まりの街】の中に擬似的に発生した戦闘域(フィールド)の中で、〈ならず者〉というタグをつけたエネミーが、その短剣を振るう。

 ランクはⅡ、正直、敵としては大した存在ではない。


「てりゃ!」


 少なくとも、ブロッサムやナンリにとって、それくらいのエネミーは語弊な〝雑魚〟だ。たった一撃で、〈ならず者〉はそのまま燐光に変わっていった。


「……う〜ん」

「やっぱり、ハズレだった?」


 〈ならず者〉が死んでいくと同時に表示されたポップアップを覗いていると、ナンリが浮かない顔をして訊いてくる。

 それにブロッサムは苦笑いを浮かべた。きっと彼女のポップアップも、内容は同じなのだろう。


「うん……もうちょっと頑張ろうか」

「そう、だね」


 言葉は重苦しいが、それで行動が変わる訳ではない。

 彼女達はどんな事情であれ、自ら選択して事を行っているのだから。




 完全攻略情報というレベルの情報がある訳ではないが、しかしまるで何もなしという訳でもない。

 人の口に戸は立てられない。これは現実リアルでも仮想空間ゲームでも同じ事だ。どこまで攻略情報を独占しようとも、どこかで情報は漏れるというものだ。

 そもそも、今回の攻略情報は、コウ達が調べた限りにおいて、独占しても旨味にはならない。

 報酬が分からない以上断定してしまうのは早計というものかもしれないが、その性質上1回しか挑戦出来ない類のものだろう。

 どれ程最終的な報酬が破格だろうが、周回して利益を上乗せし続ける事が出来ないならば、情報を隠匿する意味がない。

 何故独占されているのか、情報操作の理由……は、今回にはあまり重要ではない。


 というかぶっちゃけ、どうでも良い。


 問題は『攻略の糸口があるかどうか』だ。

 そういう意味では――ある。微かなものではあるが、いちおう。


「今回のようなケースで1番大事なのは、〝物的証拠〟だ」


 作戦会議中、コウははっきりとそう宣言した。


「【ファンタジア・ゲート】の世界観は、多少の違いはあるものの西部開拓時代に近い。法律は上手く機能していないし、機能していても科学捜査なんてものは無いだろう。

 そういう場所では、決定的な証拠でも見せつけない限り、間違いなくしらばっくれられる」

「あの、そこまでする必要性はあるのでしょうか?」


 断定的な言葉に、否定の色を最初に示したのは、唯一の中堅プレイヤーであるナンリだった。


「えっと、皆さんがそういう風に言われるのを嫌っているのは、分かっているんですが……ゲームですよね? ある意味、そこらへんは御都合主義的な部分があるのでは?」

「まぁ、そこはそういう疑問が浮かんでしまうのも、しょうがない話だと思う。




 だが、考えて欲しい――この運営がまともなイベントをした事があるかい?」




 その言葉に、その場にいる全員が閉口する。

 強いて言えばブロッサムは混乱するように視線を彷徨わせているが、それもまだこの【ファンタジア・ゲート】というゲームをし始めて日が浅いからだ。

 この【ファンタジア・ゲート】の運営を務めている株式会社【ワンダーランド】の方針は、実に明確だ。

 社長曰く、




『現実に近い不条理を突破してこそ、勇者だ』だと。




 何を言っているんだと思われるかもしれないが、これは【ファンタジア・ゲート】発表記者会見で、本人が言った言葉をそのまま引用している。

 しかもこれを至極真面目な顔をして話すのだから、彼は相当の大物と言えるだろう。

 とにかく、【ファンタジア・ゲート】のリアリティは文字通り、『現実に近い』ものになっている。

 システムなど、ゲームとして必要な部分はさておき、ストーリーの色合いが強く出るイベントには、その特徴が色濃く表れる。

 理不尽を、理不尽でなくす。それこそ王道だという話だ。

 その言葉そのものは間違っていないが、巻き込まれるプレイヤーは堪ったものではない。

 それでもプレイヤー人口10万人を誇っているのは、それでもこのゲームが面白いという所作だろう。

 とにかく、『ゲームだから』という一言で安堵を覚える事こそ、早計と言って良い。


「集めた情報、現在見られる事実も重ねて見てみると、犯罪者系統のエネミーを総当たりして行くしかないだろうね。

 街に潜伏しているタイプを重点的にして、【シーフ・ロード】を探して行くのが、当面の狙いだろう」


「根拠はどこにあるんだ?」


 アースの言葉に、コウは眼鏡の位置を直しながら答える。


「情報によれば、どうやら犯罪者系エネミーは、カネンリの犯罪に関する証拠をドロップするらしい。

 ドロップ確率は低いんだろうが、店の従業員として登録されている人間が行えば、ドロップ候補に入るらしい」

「犯罪者系エネミーとは言え、街の中で戦闘を行わなきゃいけねぇって訳か……面倒だな」

「通行人などに関しては、インスタンスフィールド化で対応出来るかもしれないけど……さすがに、それ以外に糸口が見つからない以上、どうしようもないだろうね」


 コウの言葉は、どこか冷めている。

 《嘲笑う鬼火(ウィルオーウィスプ)》は、今回の県に関しては外様。

 ブロッサムが関わっている以上放っておく事はないが、最悪アースやクレミーが店を失ったとしても、問題にならない。

 冷めていて当然。


「まぁ、そうだろうな……じゃあ、後は頼んだぜ」


 アースの申し訳なさそうな顔が、どこか印象的だった。




 経緯は凡そこんなものだ。

 とにかく、〈ならず者〉系統のエネミーを片っ端から倒し、証拠となりうる品をドロップさせる。

 それがブロッサムとナンリが現在行なっている“任務”だ。


「ふぅ、ドロップしないね、アイテム」

「だねぇ」


 そろそろお馴染みになってきた【始まりの街】の中央広場で、2人はどこか黄昏たように視線を彷徨わせていた。

 少し視線を下げれば、潜伏しているという設定フレーバーが付いているエネミーが、街のどこに、どのような身分で潜んでいるかが記されたマップが浮かんでいる。

 全て、コウが中心になって調べたものだ。


「《嘲笑う鬼火》の《智脳(ブレーン)》……看板に偽り無しって感じだね。ここまでの情報を集められるなんて」

「私も、そこはビックリだよ」

「ブロッサムちゃんが、《嘲笑う鬼火》期待の新人、《殴殺嬢》だってのもそれなりに驚きだけど……」

「それは言わないで」


 嫌いな二つ名が友人の口から溢れるのは、流石のブロッサムも耐えられない。


「アハハ、ごめんごめん……でも、このままだと、時間かかりそうだねぇ」


 タイムリミットが存在するのか。コウが集めてくれた情報が本当に正しいのかは、分からない。

 もしそれらが存在しても、間違っていても、自分達がやると言い出したのだ。やらない訳にはいかない。

 ……ただ、もっと効率の良いやり方はないだろうか。2人で虚空を見つめながら、頭の中はそんな事ばかり考えている。

 消耗品の心配はしていない。クレミーから活動資金を強引に押し付けられたからだ。

 体力もそれほど下がっていない。敵はそれほど強くはなく、戦闘はそれほど長期戦にはならないからだ。

 いくら頑張ろうとしても、膨大な数の総当たり戦は体力ではなく精神力を削って行く。

 どれくらいの確率で出るものなのか分からない物に挑めるほど、ナンリもブロッサムも根気良くはない。


「ドロップ情報が嘘、とまでは言わないけど、ここまで来るとよほどレアリティが高く設定されているのかもしれないね」


 アイテムドロップの確率は、全てが運営任せ。スキルなどで出易くする事は可能だったとしても、そこに〝絶対〟なんて言葉は付かない。

 確実に、カネンリの尻尾を掴むには、どうすれば良いか。

 憂鬱そうに、ナンリはガリガリと髪を掻きむしった。


「あ〜、リアルみたいに交渉したり出来れば良いのに!」


 ……交渉。

 勿論、普通のゲームであればそんなものが通用するとは思えない。

 通用するとしても、そういう物に関わるスキルなりアイテムなりが必要で――、


「――ん?」


 思わず、ブロッサムは焦点の合っていなかった眼を見開く。

 【ファンタジア・ゲート】は、『現実に近い理不尽』を抱えた異色のVRMMORPGだ。それはさんざん、作戦会議の時にも語られた。

 ブロッサムにはいまいち理解出来ない話ではあったが、トッププレイヤーの面々があれだけ渋い顔をするのであれば、きっと間違いではないのだろう。

 だとすれば、


「――ねぇ、ナンリ。1回だけ試してみたい事があるんだけど、良いかな?」


 いきなり立ち上がってそういうブロッサムの後ろ姿を、ナンリはどこか不思議そうに見てから、慌てて頷いた。


「う、うん、それは構わないけど……なにか、良い案が思いついたの?」


 ブロッサムは、良くも悪くも新人だ。

 本来ならば、きっと的外れなものだったはずだろう。

 ――だが、ブロッサムは、あの常識はずれで有名な《嘲笑う鬼火》の、期待の新人《殴殺嬢》だ。

 その考えも当然、




「うん――ちょっと“交渉”をしてみようと思って」




 常識外れなものに違いない。




「『な、なんだテメェら! お、脅そうとしたってそうはいかねぇぞ!!』」


 NPC……いや、犯罪者系エネミーの声が、路地裏に小さな木霊を生む。

 使い捨てられた木箱や樽が散乱し、その中で男は埋まるように倒れている。コメカミ辺りから生えている角が、彼がこの大陸の現地民だというのを示している。


「脅すなんてとんでもない。私は貴方に商談をしたいと思っているだけですよ」


 その向こう側、光差し込む場所をバックに、ナンリはそう言った。

 顔には、普段は見る事は出来ない不敵な笑み。そこに控えるように、ブロッサムが立っていた。

 ただハンマーを杖のように持っているだけでありながら、その威圧感はエネミーを威嚇するのに十分だった。


「『しょ、商談?』」

「ええ、商談です」


 それだけ言うと、ナンリは小さな袋を実体化させ、エネミーの目の前に放り投げた。金属が軽く擦れ合う音と共に、袋から何か溢れた。

 それは、黄金色の貨幣。

 【ファンタジア・ゲート】で、普通に流通している通貨だ


「貴方が私達の求めるモノ(・・)を提供していただけるならば、その袋の中身をそのまま差し上げます。

 私は欲しいモノが得られて、貴方はお金を手に入れる。これほど公平な交渉はないと思いますが?」


 まるでデメリットはないと言わんばかりだが、エネミーからすればとんでもない話だ。

 彼女達が欲しがっているモノ――つまり情報だが――それを教えて仕舞えば、彼は無事にこの街で暮らしていけるはずもない。

 だから、その情報を出す事に、彼は抵抗感を示す……のがあからさまに表情に出ている。

 プログラムとは思えないほど、彼の表情は生々しい。


「『……断ったら、どうなるんだ?』」


 唾を飲み込むような音と共に吐かれた言葉に帰ってきた返事は、




 ガンッ、とハンマーが地面に穴を開ける音だった。




 ……男の思考回路(プログラム)がどのような結論に達したのか、想像にお任せしよう。






次回、3月18日にお会いしましょう。

どうかこれからもご贔屓に。

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