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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第3ターン:バイトと友達
76/94

17 挑戦






「「すいませんでした!」」


 お客も戻り、混乱した喧騒も一段落した頃、ブロッサムとナンリは同時に、深々と頭を下げていた。

 目の前の席に座っているのは、アース、オブザーバーとして席に着いたコウとトーマ、アースのすぐ横に、クレミーも立っている。


「2人が気にする事じゃねぇよ」

「でも、私達がイベントトリガーを引かなければ……」

「イベント情報を全部把握してるのなんざ、トップクラスの測量士(マッパー)でも少数だ。んなもん、気にする必要性はないさ」


 厳めしい姿とは相反する優しい笑み、優しい言葉をアースがかける。

 それでも申し訳なさそうな顔をしている2人に話しかけたのは、開かれたウィンドウを凝視しているコウだった。


「そこは、正直『不運だったね』と言うしかないね。

 外で待たされている間、知り合いの測量士と連絡を取り合って得た情報だ。皆メッセに送るから、目を通してみてくれ」


 そういったと同時に、ポップアップが目の前に現れ、それに沿ってウィンドウを開いた。


「……『カネンリ男爵の野望』?」

「ああ、今回のイベント名だね」

「随分、直接的な名前ですね……オチが分かりそうです」

「そう言うなよクレミー」


 画面を見ながら、全員が渋い顔をする。

 新人のブロッサムや、イベントを行なった経験が少ないナンリだけではない。コウも含め、全員がこのイベント名に聞き覚えがないのだ。


「概要を説明すれば、基本町の中を舞台にした“お使いクエスト”に近いものだろう。もっとも、内容はそれよりも過激だがね」


 お使いクエスト。

 街の中を走り回り、謎解き(リドル)や目的の物をゲットして物語を進めていくイベント形式だ。

 ゲームでは珍しくもなく、【ファンタジア・ゲート】にも似たようなイベントが沢山ある。


「条件は、3つ。

 『〈貴族位叙勲証明書〉を持っている事』、『店の売り上げが短期間で規定値を超える事』、『店従業員に登録されている人間が、〈盗賊長〉と付くエネミーを倒す事』だね」


「なんつうイベントトリガーだ……にしても、妙だな。

 これだけ愉快なトリガーなら検証好きの測量士が情報を公開してたっておかしくないだろうに」


 アースの言葉に、コウは肩をすくめる。


「そもそも、測量士だって自分の利益優先だ。情報を伏せ、偶然遭遇して困っている連中に売りつけるくらいはするだろう。その為の情報封鎖だって珍しくない。

 今回は、トリガーそのものも特殊だし、偶然発見されていなかった可能性も否定する事は出来ない」


「情報屋連中の手のひらで踊らされている訳か……ちくしょう、だから測量士なんざ嫌いなんだ俺は」


 どこか面倒臭そうに、アースが足を投げ出す。

 そこでちらりと、ブロッサムはトーマを見た。

 困った時は、いつも率先して彼が手助けをしてくれた。期待している訳でも、断定している訳でもないが、こんな状況でブロッサムが見てしまうのはしょうがない話だ。

 しかしそんな事は、トーマには関係がない。持ってこられたメロンソーダのアイスを掬い取りながら口を開く。


「ま、今重要なのは中身。攻略情報があるのか、なくても概要くらいはあるのか。そこら辺、コウさんなら分かってんだろう?」


 彼の言葉は、どこか断定的だ。コウならそれくらいやってくれているだろうという信頼に近い口調に、コウは笑みを浮かべる。


「僕がそれをやっていないとでも?

 ――と格好良く言ったけど、生憎掴めているのは概要だけだ。僕の知り合いも優秀だが、そういう攻略情報よりも、プレイヤー情報専門だからね。

 では、簡単に説明しよう」


 眼鏡の位置を直し、コウが説明を始める。


「先程言ったように、これはお使いクエストに近いが、それは近いだけであって『その通りである』という訳ではない。

 カネンリ男爵は、どうやらこの【始まりの街】の商売を牛耳ろうとしているらしくてね。出来るだけ多くの店を買収しようと考えている。

 簡単に言えば、この【喫茶・メイド亭】はその標的になったと言えるだろう。武力使用も含めた様々な妨害工作で、この店を苦しめるみたいだね」


「ゴールは設定されているのでしょうか? どのようにすればイベントをクリア出来る、みたいな」


 説明の途中で、クレミーが口を挟む。


「正直、攻略情報がないから、どこまでかは分からない。拘束期間も不明だ。

 ただ、カネンリも国に属する人間だから、その妨害工作の違法性を突き止める、みたいな流れになっているんだと思う」

「お使いつうか、もはや推理ゲーの話になってきたな」


 犯人と思われる人物の黒い部分を暴き、公的機関に通報する。これだけ抜き出してみてみれば、なるほど、確かに推理ゲームだ。

 ……もっとも、それ“だけ”のイベントを【ファンタジア・ゲート】が用意しているはずもない。


「……一番の問題は、『武力行使も視野に入っている』という点だろうね」


 そこで、喧騒の中にいるはずなのに、そこだけ妙な沈黙が流れる。

 街の中での戦闘。

 イベント限定で可能になる解除な訳だが、そもそも都市内、屋内での戦闘というのは難しい。

 迷宮(ダンジョン)に慣れている人間ならば当然それも難しくはないのだが、今回はそこに、『他のプレイヤーを巻き込むかもしれない』状況も付随するのだ。

 妨害工作を防ぐ、証拠探し、そして戦闘。

 この3つを同時にこなしながらというのは、はっきり言って難しい。勿論、分担すれば良いのだが、どこまで『連鎖』しているのか分からない。迂闊に分けるのは避けたい。


「百歩譲っても、妨害工作を防ぐ奴と、証拠探し・戦闘をするメンバーは分けられるな」

「店を守るって関係上、俺とクレミーはここを離れる訳にはいかないし、店員登録してないコウやトーマやなんかの《嘲笑う鬼火(ウィルオーウィスプ)》は関われなさそうだな」

「店員の何人かを、捜査班として派遣するか……」

「それじゃあ、お店が回りません。人員確保を考えるなら、」

「途中から店員に登録してイベントが、」


 話が複雑な話になっていくにつれ、ブロッサムとナンリはただ立っている事しか出来なくなっていった。

 イベントは、店のオーナーであるアースと、店主であるクレミーのもの。コウとトーマはお客さんという形ではあるものの、2人に協力できる実力がある。

 理由も、実力もない2人には、到底入っていけない話だった。

 仕事に戻ろう、そう思ったのはナンリの方だった。


(このままここに立っていても、邪魔になるだけ)


 責任感や、罪悪感みたいなものがないわけではない。

 知らなかったとはいえ、彼女達がこの騒動を巻き起こしているの元凶の1つを起こしてしまったのだ。それに関心がないわけではない。

 でも、じゃあどうする?

 何も出来ない自分達がいては、本当に“邪魔”だ。

 そう、ナンリは考えていた。

 ――では、ブロッサムは?

 そう思って視線を向けると、想像していたような、ナンリと同じような、罪悪感で青ざめた顔ではなかった。

 それは、強い意志の表情。

 見ているのも気まずくなるような話し合いから目をそらさずに、真っ直ぐと、口を締め、いつもの彼女ではない表情。


(――ああ、やっぱり、)


 彼女は、そう(・・)なのだ。

 自分とは違うのだ。

 諦めてしまう自分とは。




「――証拠探しと、戦闘。私も加えて貰えませんか」




 割って入るように、机に強く手をつく。それだけで、話し合いをしていた全員が視線を向けた。

 アースとクレミーは動揺するような表情。

 コウは、『あぁ、これは』といった、諦めの表情。

 そしてトーマだけが、どこか鋭い目つきをしていた。


「……はっきり言えば、そりゃあ無理な話だ。

 イベント経験もない新人を、これを任せるのは不安材料がある。そもそも、罪悪感“だけ”で任せるのは、あまりにも無謀だ」

「ブロッサムさん、お気持ちは分かりますが、ここは堪えていただければ、」


 翻って、毅然とした態度をとるアース。どこか心配そうに見つめるクレミーに、ブロッサムは首を振った。


「それもありますけど、それだけじゃありません。

 確かにイベント経験はありませんけど、戦闘もある程度出来ますし、頭だって……優秀とは言えませんが、考えられるくらいは良いつもりです」


「それ〝だけ〟で、アンタを参加させる道理がねぇ。何より、これは失敗すれば店が無くなる可能性だってあるんだ。新人1人に任せられない」

「1人で、とは言いません。加えてください、というだけです」

「足手まといはいらない」


 アースの言葉は、強硬的なものだった。

 ……ここでもし、失敗すれば、またブロッサムに罪悪感を背負わせる事になりかねない、と思ったからだ。

 店がなくなるのは大きな痛手だし、悲しい事だ。だがアースもクレミーもトッププレイヤー、また始めれば良いだけだ。

 わざわざ、傷を負いにくる必要性はない


「――良いじゃねぇか」


 その言葉を遮ったのは、トーマだった。そのまま立ち上がり、ブロッサムの前に立つ。

 厳しい視線。説教でも始まるだろうと思っていたのだが、彼の言葉は意外なものだった。


「出来るんだな?」


 たったそれだけ。その中にどれだけの感情がこもっているのか分からないが、彼の一言は重かった。

 ブロッサムは、小さく頷く。

 これもまたシンプルな仕草だったはずなのに、どこか重苦しい。

 それを見届けると、トーマは振り返る。


「まぁ、サポートしてやりゃ上手くやれんだろ。出来る事はしてやりゃ良いだけじゃねぇか」

「……部外者の割に、随分勝手な言い草だな、《音速使い(ソニッカー)》」

「悪いな。でも、お前もここまで覚悟がある奴を外そうだなんて思わないだろう?」


 表情はどこか楽しげだったが、それはアースも同じ事だった。苦々しくではあるものの、笑みが混じっているのは間違いがない。

 ――そもそもが、ゲーマーだ。真面目に遊んでいる中で、たまにそういう博打を打つ事ぐらいあるのだ。


「――わ、」


 そんな中、ナンリはようやく口を開く。


「私も、ブロッサムちゃんと一緒に手伝わせてください!」


 一握りの勇気でようやく口に出された言葉に、ブロッサムは目を見開いた。


「ナンリちゃん、良いの? 私の我儘だから、無理しなくても……」

「ううん……私にも責任があるし、友達が頑張るなら、頑張りたいから」


 少し本心とは違った言葉。それでも本意を知らないブロッサムにとって、それは嬉しい言葉だった。


「……分かった、細かい話を詰めてくか。座れよ2人とも」


 アースの溜息混じりの言葉で、2人とも頷きあって、席に座った。







前回間違えててすいません。

次回、3月11日にお会いしましょう。

どうかこれからもご贔屓に。

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