14 ご相談宜しいですか?
更新遅れて申し訳ありません。
楽しんでいただければ幸いです。
「ハァ……」
ブロッサム……いいや、桜の溜息は憂鬱だ。
クラス中に響き渡るのではないかと思えるほど大きいその溜息で、クラスメイト全員が振り返るが、彼女は未だ腫れ物扱い。気まずそうに全員が視線を戻した。
そんな様子の彼女達を、桜自身、やはり気にはしない。
そんな事を気にしていられないのだ。
(何が嫌だったんだろう……)
昨日、別れ際のナンリの様子は、今までと違っていた。
クールで、それでいてどこか優しげに微笑んでいた彼女のあんな暗い表情は、どのシーンでも見た事はない。
まだ短い付き合いではあるものの、そんな余裕のないナンリは、初めて見たのだ。
もし、自分が何かしたのであれば。
自分が何か、至らなかったならば。
そもそも相手が何を悩んでいるのか、その内容すら分かっていないのに、原因を見つけようとしたところで不毛だ。
……不毛だが、『不毛』だという結論で桜の気持ちに折り合いがつけられるはずもない。結局つい思考がそっちに流され、昨夜もあまり深く眠る事は出来なかった。
『私、そんな才能、ないから』
そう寂しそうに言っていた彼女の気持ちが、ブロッサムには分からない。
いや、分かる事には分かる。自分にないものを他人が持っているというのは、羨ましくなるし、見ていて辛くなるものだ。
――それでも、それが自分に向けられるべき感情なのかどうか、という点で桜は理解出来ていない。
(だって、私まだ全然強くない)
《嘲笑う鬼火》はゲームをより楽しむ事を目的とした集団ではあるが、そのメンバーの大半が何れかの分野でのトッププレイヤーだ。
その名を聞けば反応するプレイヤーは多いし、実際自分も、何度か街中で仲間の名前が噂されるのを聞いた事がある。
多くのプレイヤーに認められるプレイヤー。
そんな彼らの才能は偏執的な所もあるが、どれも一級品だ。そんな人達に比べてみれば、自分はまだまだ未熟。
雛どころか、生まれてすらいない卵かもしれない。
そんな自分を『羨ましい』と思われる事自体、桜には不思議で仕方なかった。
今まで憐れまれた事はあっても、この立場を羨ましがられる事のなかった、桜にとっては、理解出来ない事だった。
「あ、――香、――、」
しかし、分からないからと言って何もしないのも、問題だ。
せっかく出来た友達を訳もわからず傷つけたかもしれない、もしかしたら、それで気まずくなって関係が終わってしまう場合もある。
「あ、あ――、香納――、」
こういう場合、ゲームであれば『誰かに質問する』などのコマンドが出来るが、今回は難しいだろう。
何せ、ことは人間関係。そりゃあ、大人が多い《嘲笑う鬼火》メンバーだが、自分のスタイルを崩すぐらいならば友達やめるとか、素で言い出しかねない人間でもある。
「あ、あの、香納さん――」
ギリギリ、コウ辺りが妥当な所だ。彼らしい冷静な判断力と言葉で、アドバイスをくれるかもしれない。
よし、今日さっそく、
「あ、あの、香納さん!!」
「は、はい!!」
耳の中に唐突に入ってきた、怒号にも近い大声に、桜は思わず立ち上がりながら答えた。
授業中からずっと考え事をしていて、気付いて時計を見てみれば、もう時間は昼頃だ。
そうでもなければ、あんな大きな溜息注意されないはずもないのだが、桜はそれも気づかなかった。
視線をあげると、難波数葉が、何故か申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「あ、あの、すいません……なんか、憂鬱そうだったので……」
どうやら、物思いに耽っている桜を気にして話しかけてくれたようだ。そこで相手を気にして謝ってしまう所は奥ゆかしいというか、それとも謙虚すぎるというべきなのか。
……ん?
いや、少し待ってみよう。
もしかしたら、彼女に相談してみれば良いのではないか?
「か、香納さん? 私の顔に、何か付いてますか?」
自分の顔をずっと見つめてくる桜に少々照れ臭そうにしているが、それでも構わず桜は難波数葉を凝視する。
今回の悩みは『同年代の女の子の逆鱗に触れてしまったのは何故か、解決方法は?』というものだ。
同年代の意見という意味ではネオなども話を聞いてくれるかもしれないが、数葉ももしかしたら何か理由を知っているかもしれない。
しかも、数葉は桜が知る限り、他の人の様子を見てちゃんと動く事ができる優等生。
話をすれば、ヒントのようなものもくれるかもしれない。
「――難波さん!!」
「は、はい!?」
いきなりの起立と大声に驚いたのは、今度は数葉の方だった。動揺している彼女の肩を、ガシッと掴む。
「お願い! 相談に乗って! 私友達との事で困ってて、誰に相談していいか分からないから!!」
「お、落ち着いてください、分かりました、聞きます、聞きますから、頭振るのやめて〜っ」
肩を掴んで振る勢いは、まるでシェイカーの如し。前後にブンブンと数葉の頭が振るわれるが、止める人間はいない。
桜が腫れ物扱いという以上に、「面倒臭そうだから」という理由が大きいが。
さて、桜の通っている学校は、そこそこ広い。
私立女子校なんて往往にしてそうだが、基本はお嬢様学校。それなりの施設を確保しなければならず、それなりの敷地も必要になってくる。
体育館も最新鋭、様々な施設も存在するが、その中でも渡り廊下上部に設置されているベンチは、日当たりが良く、天気の良い日は二脚しかないベンチを取り合う。
だが、今日は生憎の曇り空。
突然の雨にやられてはかなわないと思ってたのか、珍しく人通りも盛況さもない。
いるのは、紅茶のペットボトルを握りしめている桜と難波数葉だけだった。
「えっと、つまりゲームのお友達に、いきなり冷たくされてしまった、って事ですよね? 『才能がないの』と」
「まぁ、ざっくり説明すると、そうなんですが……」
暗い表情をする桜に反して、数葉の表情はどこか複雑そうだ。
「……でも、私ゲームに詳しくないし、」
「ああ、ううん、ゲームって言うより、人間関係的な! なんでも良いの、ヒントでもくれれば、今日会いやすいなぁって思ってるだけ!」
「ううん……」
何かしらの取っ掛かりが欲しい。
そう思って必死に言い募った桜に対して、数葉な眉を顰め、口に手を当てて考え始める。
「……あんまり、気にする事ないんじゃないかな?」
数葉の口から出てきた言葉は、意外なものだった。
「『気にしない』って、でも、それじゃ悪い気がするんだけど」
「そうかもしれないけど……もしかしたら相手も、なんとなく思っただけの失言だったかもしれません。
もしかしたら、言ってしまってから後悔しているかもしれません。相手から言ってくるまで、何事もなかったように接するのが良いかもしれませんよ?」
……そういう、物なのだろうか?
心の中で首を傾げてみるものの、違うと断言できるような根拠も、桜の中にはない。
何よりも、数葉の言葉はどこかストレートで、説得力のようなものを感じた。少なくとも、自分の推測よりもずっと、力強い肯定だ。
「そうかな……」
「そうです。逆に無理に話そうとするのも、相手に悪いですから」
「そ、そうだね……」
とりあえず普段通りに。前と同じようにそう心がけ始めた桜だった。
……答えを手に入れて安心したのは、桜だけではなかったわけだが。
◇
――学校が終わった後の通学路。
普段生徒が帰る時間にしては、遅い時間。クラスの事も含めた雑事や、塾などを済ませてしまえば、〝彼女〟の帰る時間などこんなものだ。
それが例え、担任や他の生徒に押し付けられた雑事だったとしても。
それが例え、親に強要され、行きたくもない塾だったとしても。
どちらにしろ行くしかないし、〝彼女〟にはそれ以外の選択肢が提示されていないのだ。
従うしかない。
争う理由がない。
「……だからダメなんだろうな、私」
従うからダメなんだ。
争わないからダメなんだ。
だから〝彼女〟は、香納桜と――ブロッサムとは違う。あまりにも違い過ぎて、だからこそ、一緒にいると悲しくなる。
それでも良い、それでも良いから彼女と一度話してみたい。そう思ったのは、自分自身だというのに。
携帯端末を開いて、自分のアカウント情報を確認する。
一通のメッセージ。
『今日も一緒にバイトだよね! 終わったら、一緒に遊ぼうね!!』
そんな健気なメッセージですら、自分には嬉しさと同時に、申し訳なさと嫉妬が湧き上がってくる。
どうして自分はこうはなれないんだろう。
どうして自分はこんなにしか出来ないんだろう。
メッセージに返事をする事なく携帯端末を閉じ、〝彼女〟は家路に着く。
家に帰れば、自分の部屋に戻れば、あの機械をつければ。
自分はまた、〝違う自分〟になれる。
そんな幻想に、〝彼女〟は未だに囚われていた
次回の投稿は、二月十五日を予定しております。
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