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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第3ターン:バイトと友達
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13 不気味な変化






「はっ、えっ、ちょ、なんですって!? 捨てる!?

 冗談はその格好か、相反する純情さだけにしてくださいご主人様!」

「誰の格好と純情さが冗談だって!? つうか、純情言うな!!」


 〈マジシャンズ・マッシュルーム〉達の奇声。

 怒号のような戦闘の音。

 そこに2人の夫婦漫才位のような応酬が加わって仕舞えば、まさしくカオスと言わざるを得ない状況が出来上がる。

 もっとも、クレミーの絶叫は、理由あっての事だ。

 それなりのアイテムを用意し、時間と人員を割いたアイテムを捨てる。

 ゲームプレイヤー云々だけではない。店の経営者としても、また普通の社会人としても『あり得ない』という結論に至るのは、仕方のない話だ。

 実際戦闘を行いながら聞いていたナンリ、まだプレイヤー歴の浅いブロッサムさえ、驚きの表情を浮かべていた。

 ようは『ここまで来ておいてそれはないだろう』という話だ。それは、アース自身も分かっている。彼とて一端のプレイヤーなのだから。

 しかし、敢えてそれを選ぶ必要性のある妙案が、彼の頭の中に浮かんでいた。


「しょうがないだろう――それが〈マジシャンズ・マッシュルーム〉を呼び寄せる原因なんだから!!」

「ハァ!?」


 アースの明後日の方向へ向かうような解答に、クレミーは悲鳴のような声をあげる。


「ど、どうしてそうなるんですか!?」

「そうじゃなきゃモンスターがお前に集中している理由が説明出来ないんだよ!」

「そ、それは、ほら、私の方が《挑発系(タウンティング)》スキルの性能が高いから」

「にしたって異常だろう、8:2でお前の方に集まるなんて、《挑発系》スキルカンストしてたってそういう風にはならねぇよ!」

「ほ、他に理由がある筈です! わざわざ捨てるなんて!」


 クレミーの態度は頑なだ。

 〈椎茸モドキ〉は確かに重要だが、別の方法で手に入れられないアイテムではない。倍増しでプレイヤーから購入する事だって可能だ。

 それでもこの方法を選んだのは、コスト面・効率面でこちらの方法の方が断然安価で、早く、同時に楽しいからだ。

 別に深い拘りがあるわけではない。ただ、戦果をむざむざ捨ててしまうのを、惜しんでいるだけの話だ。

 しかし、その“ただ”でデスペナを食らってしまっては、本末転倒だ。


(――ったく、仕方がねぇ)


 アースは心の中で覚悟を決めて、口を開く。


「おい、クレミー、もしそれを捨てたら、




 お前の言うこと、何でも一つ、聞いてやるよ!!」




 ピクリッ、とクレミーの体が反応する。

 その反応のせいで、目の前にいた数体の〈マジシャンズ・マッシュルーム〉が予想以上の吹き飛び方をしたのは、もはやご愛嬌だろう。


「……本当ですね?」


 モンスターを戦斧で発生した風で巻き上げながら訊く。


「ああ、本当だ」

「何でも、と仰いましたね?」


 〈マジシャンズ・マッシュルーム〉を両断しながら訊く。


「っ……ああ、言った」


 少し躊躇しながら答えたアースに振り返りながら(それでもモンスターを蹴散らしながらなのは流石だ)、眩い笑顔で、さらに質問を繰り返す。




「つまり、普段ご主人様が恥ずかしがってさせてくださらない、街道でのイチャイチャや、夜の添い寝、いいえ、むしろ昼に膝枕をご主人様にしたり、触れる以上の濃厚なベーゼなど、各種様々な行為が可能に!?」




「何でだよ!? 一つだけだ一つだけ!!」


 ……別に、放送禁止用語のような危なっかしい言葉はどこにもないのに、妙に気恥ずかしい。

 これが俗に『砂糖を吐き出したい』と言ってしまうような気分なのだろうか。そう思いながらも、ブロッサムとナンリは戦いに集中した。

 そんな会話をしている今でもモンスターは待ってくれないし……何より、巻き込まれたくはない。


「とにかく、とっとと〈魔法の麻袋〉ごと放棄だ! それくらいなら、俺らだって普通に買えるだろうが!!」

「それもそうですね――では、」


 片手でメニュー画面を操作すると、何もない空間から〈椎茸モドキ〉の入った〈魔法の麻袋〉が現出する。


「おっし、良いぞ!!




 そのまま――採取ポイントの中心に向かって、投げろ(・・・)




 一度決めれば、あとは簡単な話だった。

 もはや、捨てるアイテムに未練など、あろう筈がない。アースの指示から1秒と掛からず、クレミーは片腕だけの膂力とは思えないほど勢いよく、〈麻袋〉を投げる。

 袋が飛び上がったところで、アイテムとして作られているそれから、〈椎茸モドキ〉が溢れる事はない。袋は袋のまま、宙を飛ぶ。

 しかし、効果は劇的だった。


「『キシャッ!?』」

「「キシャシャ!?」」


 クレミーの周囲に溜まり続けていた〈マジシャンズ・マッシュルーム〉はその袋に視線を向けられるだけではない。

 多くのモンスター達が、着地予定である採取ポイント中央に疾走したのだ。

 最初に表現した波は、そのまま盆地のようになっている場所に溜まり、まるで雨水が用水路に流れ込むような勢いで渦を巻き始める。

 ――集まってしまえば、あとはアースがどうにでも出来る。


「〔――大地よ鳴動せよ、鳴らせ、揺らせ、我こそが大地の盟主、貴殿らの王〕」


 呪文詠唱が、生まれぬはずの木霊を作る。目に見えぬはずの、巨力を生み出す。


「〔地に埋まりし精霊の王、地の底に眠りし太古の地母神よ、〕」


 空気が変わった所で、〈マジシャンズ・マッシュルーム〉がその動きを止める事はない。

 ただ漫然と、ただその本能に身を任せている。

 それに、アースの魔術が牙を剥く。

 文字通りの意味ではない。

 アースから放たれた魔術は、




「〔その鉄槌を振り上げよ――《アース・オブ・クラッシャー》〕!!」




 ()だった。

 黒曜石のように黒々とした拳が、地面から放たれる。




 もはや、地中から放たれる流星のようなものだ。その威力と範囲は絶大で、そこにいた〈マジシャンズ・マッシュルーム〉の大半が一瞬のうちに殺される。

 あとは、


「おっしゃ皆、――逃げるぞ!!」


 逃走しかない。

 いくら大半のモンスターを倒せたとはいえ、こちらはリソースも含めかなりギリギリだ。

 そんな中、戦闘など続けていられるはずもないのだ。


「ちょっ、ブロッサムちゃん早く、」

「待って、私そんなに早く走れない、」

「なんだったら背負って差し上げましょうか、ブロッサムさん」

「そ、それは流石に、」

「んな事良いからとっとと走れ!!」


 逃走というには、あまりにも和気藹々としているが、結果として、彼らはうまく逃げ果せた。

 ――それを、


「――ちっ」


 忌々しげに睨みつけている男がいる事を、誰1人として気付かなかった。




『今日は申し訳ありません、報酬はお支払いしますから』


 そんな丁寧な申し出を、ブロッサムとナンリはこれまた丁寧に断った。

 儲けとしては0どころかマイナスになってしまっている以上、そんな状態で金銭など貰えるはずもない。

 それでもなお渡そうとするクレミーから逃げるようにして、2人は街に繰り出した。

 とはいえ、ゲーム内時間でもそこそこ遅い時間といえばそうだ。店は殆どが閉まっており、買ってこれたのも、簡単なジュースを1本ずつ。

 それを片手に、ブロッサムとナンリは【始まりの街】の中央広場に腰を下ろしていた。

 地面に直接座り込むのはどうかとも思ったが、そこはゲーム。多少の汚れなど気にしなくなっている2人にしてみれば、今更な話だった。


「ふぅ、今日は本当に災難だったねぇ」

「そう、だね。ああいう事、本当にあるんだ」


 2人で冷たい飲み物を口にしながら、疲れを蕩かすように溢す。

 ――だが、よく様子を伺ってみれば、その態度が少し違うのが分かるだろう。

 ブロッサムはどちらかといえば、晴れやかな表情だ。

 彼女にとってみればこれくらいの問題は、割りかしある話だ。

 《嘲笑う鬼火(ウィルオーウィスプ)》所属だからというのはあるが、この状況を彼女自身が楽しんでいるというのもあるだろう。

 そこでナンリを見てみると、どこか表情は暗い。

 まるで何かに対して落ち込んでいるようだが、ブロッサムには彼女がいったい何に落ち込んでいるのか、分かりはしなかった。

 彼女の戦いの行動に、落ち度はなかった。クレミーやアースなどのトッププレイヤー達の足を引っ張る事もなかったし、ブロッサムとの連携も完璧だった。

 いや、むしろ助けられた部分が大きかったように思える。


「ねぇ、何かあったの? もし何か気になっているなら、教えて欲しいんだけど……」


 だから、ブロッサムは気になって、質問してしまった。

 ――そう、してしまった。

 それが、ダメだったのかもしれない。


「……羨ましいな、って」


 ナンリは一瞬躊躇いながらも、すぐに決意したように頷くと、ゆっくりと口を開く。


「ブロッサムちゃん、すぐに暴走スタンピードに気づいたんでしょ? やっぱり、その才能は凄いなって」

「え、でも、あんなの偶然だから、」


 たまたま、空気が変わったのを察しただけ。

 たまたま、運が良かっただけ。

 たまたま――。

 そんなブロッサムの言葉を、ナンリは首を振って否定する。


「ううん、そんな事ないよ。

 あんな風に気付けるのは、才能だと思う……私、全然そんな才能、ないから」


 手元を見てみると、ナンリの手が小さく震えているのが分かった。

 伏せた顔に浮かんでいるのは、

 怒りなのか。

 悲しみなのか。

 それとも、悔しさなのか。

 ブロッサムには伺い知る事は出来ない。


「……ナンリ、ちゃん?」


 ブロッサムの戸惑いに、ナンリは答える事なく立ち上がった。


「……ごめん。今日は落ちるね、また明日」


 せき立てられるようにそう言うと、彼女は燐光とともに、その場から消えていった。


「ナンリちゃん……」


 ――ブロッサムからすれば《・・・・・》あまりにも唐突な変化。

 その理由が分かるのは、ほんの少し、先の話。






次回の投稿は、二月十一日を予定しております。

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