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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第3ターン:バイトと友達
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12 茸の暴走






 暴走(スタンピード)というのは、MMORPGの用語で簡単に説明すると、『トレイン』という迷惑行為に近い。

 多すぎるモンスターを大量に引き連れフィールド内を駆け回り、モンスターを利用したPK、通称MPKや、狩場の独占などに利用される手法。

 その姿は、さながら連結された電車。故に『トレイン』。

 では、何故このゲーム、【ファンタジア・ゲート】では〝暴走(スタンピード)〟と呼称されるのか。

 それは、プレイヤーの迷惑行為だけで起こるものではないからだ。

 運営側からの故意な暴走。

 それらを総称して、このゲーム内ではスタンピードと呼ぶのだ。




「――ハァ!!」


 【ピリッヅ・フォレスト】の中で、血染めの大輪が咲き乱れる。

 戦斧は豪快な音をたてながらクレミーを中心に一周し、その周囲にいる〈マジシャンズ・マッシュルーム〉を殲滅していく。

 まさに、嵐そのもの。

 豪風を生み出し、血の雨を地面につけながら、クレミーの装備には一切血を寄せ付けない。その暴力的な姿は、一種の戦乙女のような美しさまで内包する。

 しかして戦乙女は、一人だけではない。


「セイッ!!」


 その斬撃の嵐の中を這うように、ブロッサムとナンリが前に出る。

 クレミーのような派手さはない。

 それでも、確実に1匹ずつ、彼女達は〈マジシャンズ・マッシュルーム〉を倒していっている。


「ナンリちゃん、跳んで(・・・)!!」


 その言葉に、ナンリの体は即座に反応する。ゲーム特有のあり得ない滞空時間を生み出す跳躍を行なった。

 その瞬間、ブロッサムの周囲は無人になる。


「ッ、《ラウンド・スマッシュ》!!」


 叫ばれたアーツが起動する。

 クレミーのそれよりも一回り小さい、だが素早い鈍撃が、普段ではあり得ない速度で旋回する。

 物理範囲攻撃。3回の高速回転によって放たれるそれは、遠心力も加わって威力は数段上回っている。


「『キシャシャ!?』」


 周囲に群れていた数体の〈マジシャンズ・マッシュルーム〉がその鈍痛に悲鳴をあげ、満遍なくダメージが与えられる。

 それでも、まだ倒れない。

 異常に興奮した彼らは防御力も上がっているのか、それともHP《体力》が多く設定されているのか、ブロッサムの《ラウンド・スマッシュ》だけでは死に切れなかった。

 ――そこに、剣戟の雨が降り注ぐ。


「――《散突ばらづき》!!」


 光に煌めく二刀が、ブロッサムで削りきれなかったHPを一気に喪失させ、消失エフェクトが彼女達を彩る舞台装置のように広がる。


「ナイス、ブロッサムちゃん!」

「うん!」


 お互いハイタッチする事もなく、視線と言葉で肯き合う。


 だが、油断してはいけない。

 〈マジシャンズ・マッシュルーム〉は、何も物理攻撃だけがメインではないのだから。


「「――ッ!?」」


 空から轟音が舞い降り、二人は上空を見上げる。

 光る鱗粉が、無数の弾丸のように二人に襲いかかってきたのだ。

 〈マジシャンズ・マッシュルーム〉が使える魔術《菌弾(ウィルス・バレッド)》だ。

 威力は大した物でもないが、その発動速度と弾丸そのものの速度は通常魔術よりも速い。回避型に成長(ビルド)しているプレイヤーでも避けきれない場合がある。

 しかも命中すれば、ほぼ確実に〈毒〉、〈麻痺〉、〈衰弱〉のBS(状態異常)に陥ってしまう。

 効果の内容そのものはランダムだが、確定で受けるそれを、二人では防ぎきれず、またかかれば治す手段はない。

 治癒系の《魔術》スキルを持っている人間がいないし、アイテムを使う間も無く、大量の〈マジシャンズ・マッシュルーム〉に押しつぶされてしまうだろう。

 ――そこで、守る人間がいなければ。


「〔仲間の二人を守護せよ――《ドーム・オブ・アース》〕!!」


 短縮された詠唱とともに、地面から岩のドームが生えてくる(・・・・・)

 瞬く間に二人を包んだそれは、見事に鱗粉の弾幕を防ぎ、終わったと見るや、直ぐに崩れて二人の視界を広げた。


「てめぇら、警戒を怠るな! 〈マジシャンズ・マッシュルーム〉の魔術は面倒なんだからな!」

「は、はいっ」

「す、すいません!」


 少し距離の空いた場所で魔術を放ち続けるアースの言葉に、二人は返事をしながら戦闘に戻る。


「〔岩の爪、岩の(つわもの)、汝の一撃で両断しろ、《ストーン・オブ・フェランクス》〕!!

 ――さぁて、こっからどうするかな」


 逆さの氷柱石がモンスターの集団を蹂躙していく様に目を向けながらも、アースの頭の中には混乱しかなかった。

 自分達は、戦闘は殆ど行わずにこの森を進んでいた。

 当然、進む上で必要な戦いはあったが、それだって時間をかけずに一瞬で処理した。スタンピードが起こる可能性がないほど。

 ところが、目の前の状況はどうだ? 実際、モンスターは次々と菌糸類の樹林から湧き出てくる。いつ終わるのかすら、アースには分からない。

 他のプレイヤーが起こした物という可能性がないわけではない。

 モンスターの再出現(リポップ)頻度を上昇させる〈獣蒐香〉と呼ばれるアイテムなどを使えば、擬似的にスタンピードを起こせなくはない。

 が、それもないわけではないだけで、ほぼあり得ない。

 だとすれば、他のプレイヤーの所にも似たような現象が起こっていても良いはずだし、ある程度力の差を見せると、モンスターはプログラム通りさっさと逃げる。

 今のモンスター達に、その兆候はない。どころか、まるで恐慌状態かのように真っしぐらにこっちに向かってくる。


(つまり、こいつはもっと面倒な可能性――運営側のイベントだって事だ)


 その結論は、到底信じられるものではない。

 だってそうだろう? 自分達はイベントを踏んでしまうようなヘマはしていないはずだ。

 そもそも、スタンピードが発生するようなイベントは数少ないし、【ピリッヅ・フォレスト】で起こるようなものはなかったはずだ。

 いったい、今の状況がどのような原因で発生したのか。

 どのような方法で打開出来るのか。

 それを見つけない限り、モンスター無限湧きにいつまでも閉じ込められる事になるかもしれない。

 笑えない状況だ。


「ご主人様、援護をお願いします!」


 クレミーの叫び声で、アースの思考がようやく外に向かう。

 戦斧だけでは払いきれない程の〈マジシャンズ・マッシュルーム〉が、クレミーの周囲に群がっていた。


「チッ――〔貪れ地の魚よ、群れる獲物を狩るが良い、《ロック・オブ・シャーク》〕!」


 詠唱が発動された瞬間、大地から巨大な口蓋と刃が出現する。

 それは名の通り、〝鮫〟。

 岩を荒削りして作ったヒレと牙を持つ土塊の鮫が、クレミーの周囲にいるモンスター達を蹂躙する。

 もはや捕食行動だ。

 ――だが、それでも終わらない。

 森の奥にいる茸達がさらに溢れ、再びクレミーに群がり始めた。

 これでは、堂々巡り――、


(――いや、待て。おかしくないか、これ)


 小さな違和感に従って、アースは静かに周囲を見渡した。

 まず自分だ。自分の周りにモンスターは群がっていない。ブロッサムやクレミーが、ひたすら《挑発系(タウンティング)》スキルを使っているからだ

 次にナンリとブロッサム。《挑発系》スキルの影響でモンスターは多いが、2人で対処出来ないほどではない。

 ……しかし、クレミーの周囲には多い。

 次から次へと溢れ出てくる茸どもは、その7割ほどがクレミーに向かって行っているのだ。いくら恐慌状態とはいえ、異常だ。

 何か、引き寄せる要因があるとしか思えない。


「なんだ、何が、いったい何が原因なんだ?」


 シングルアクションで発動できる魔術を連発しながら、思考回路を忙しなく働かせる。

 どうして、何故。

 ブロッサムやナンリと違う点。

 クレミーにしかない原因。

 森の中に入る前と後で、違う部分。


「――ああちくしょう、そういう事かよ!」


 アースの苛立ちの声が、響く事なくその場に篭った。







「クレミーさん、手伝います!」


 〈マジシャンズ・マッシュルーム〉の大群を武力で掻き分け、その中心にいるクレミーの元に、2人は到着した。

 茸の壁。

 不気味な色の繊維が、蠢く壁に見えるほど、お互いを押し合い踏みつけ合い、殺到する。

 3人は背を合わせながら、その壁に傷をつけ始めた。


「っ、ブロッサムさん、ナンリさん、リソースは後どれくらい残っていらっしゃいますか!?」


 茸の壁を一瞬だけ切り崩しながら放たれたクレミーの声には、随分疲労が浮かんでいた。

 たった十数分。しかし長時間の戦闘は弱い敵相手であっても厳しい。肉体に疲れがなくても、精神が影響を与えるこの世界では、十分な脅威だ。

 それでもリソース……HPの残量やアイテムの消耗率……を聞ける余裕があるあたりは、流石トッププレイヤーに数えられるだけはある。


「……治療薬(HPポーション)が残り3つ。ブロッサムちゃん、はッ!?」

「セヤッ!!……こっちはまだ余裕があって5つ、でもギリギリで戦ってるからきついかも……」


 背後にいるお互いに声をかけながらも、ブロッサムとナンリの声は辛そうだ。

 ナンリは回避型にもかかわらず回避する場所がなく、ブロッサムは先程からHP1割の状態で戦い続けている。

 2人とも、もう限界といったところだろう。


(……最悪、私が囮になって3人を逃すしかありませんわね)


 1人死ぬのと全滅では大きな差がある。

 デスペナリティは辛いが、それでもただ死ぬだけよりも、よっぽど有意義だ。

 斧の持ち手を力強く握りしめてから、そう覚悟を決めていると、


「――捨てろ、クレミー!!」


 壁の向こうから、クレミーの主人であるアースの声が聞こえる。

「っ、何をですか、ご主人様!!」


 壁に遮られないように、大きな声で返事をする。

 それから、彼が言った言葉は、




「――〈椎茸モドキ〉が入った麻袋だ!!」




 ゲーマーとしては、ちょっと信じられないセリフだった。







次回の投稿は、二月八日を予定しております。

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