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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第3ターン:バイトと友達
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9 陽気な頃






「♪~」


 昼休み、本来ならば賑やかな教室は、しかし今日はやや困惑の騒めきになっている。

 それは当然だと言えるだろう。このクラスでも少々浮いているボッチである香納桜が、実に楽しそうに鼻歌を歌いながら、1人で昼食を取っているのだ。

 そりゃあ、暗い性格ではないのは分かっている。

 1人で楽しそうにしているわけではないものの、明るいし、必要に迫られ話しかけられるような時などは、物腰柔らかに話してくれる。

 だが、こんな風にたった1人でニコニコしている程、つまり、一種バカのような陽気さはなかったはずだ。


 何があったのか。


 彼女に聞こえないように、小さな声で噂する中でも、桜は楽しそうにお弁当を食べていた。

 高校に入って、初めての友達。それがゲーム内でのものだったとしても、桜にとっては嬉しいものだった。

 勿論、友達が出来たという事実は、それだけでおさまる物でもないのだ。


 ――もしかしたら、自分は友達が出来ない人間じゃないか。


 そのような不安すら心の奥に抱えていた桜からすれば、ちゃんと友達が出来たという事実そのものが大事なのだ。

 クラス内でも、友達を作っていきたいし、これから先だって様々な状況が待っているだろう。

 そんな中、自分はもしかしたらそういう意味では、全くの社会不適合者なのでは? という不安はあまりにも大きかった。

 しかし、その考えは杞憂に過ぎなかった。


(ちゃんとお話しできるし、仲良くだって出来るんだ。頑張ればきっと、現実リアルの中でだって上手くやっていけるかもしれない)


 それだけの可能性が、今の桜には嬉しい。

 誰に向けているわけでもない和かな笑みを浮かべながら、目の前にある小さなお弁当箱(2代目)の中から、ミートボールをフォークで突き刺し、口に運


「あ、あの、香納さん!」

「うひゃぁ!?」


 かけられたいきなりの声に、思わず跳び上がり、その表紙にフォークに刺さったミートボールも飛び上がり、そのまま地面に無情にも転がっていった。


「あぁ! 私のミートボールがぁ!!」

「あぁ、すいません!!」


 思わず2人してしゃがみこむが、洋風餡がかかっているミートボールでは、さすがに3秒ルールも適用出来ない。

 そもそも、適用出来たとしても、あまり褒められたことではないが。


「うぅ、ミートボール……」


 どこか口惜しそうにしながらも、ポケットに入っていたティッシュで包み始める。


「す、すいません、いきなり話しかけちゃって」


 原因であるクラスメイトがワタワタしながら、申し訳なさそうに眉をひそめる。


「あ、ううん、別にいいの……で、どうしたの、難波さん」


 ――難波数葉。

 大きめの眼鏡に黒い三つ編みという、よく言えば清楚、悪く言えば地味な少女。このクラスでは委員長を務めている。

 このクラスでは地味な存在だが、桜と違って友達もいるし、委員長という立場上、桜とも話す機会は多い。

 遠巻きにしない数少ないクラスメイトだ。


「え、えっと、提出用のノート、今回収してもいいかなって、」


 どこか気まずそうに話す数葉に、桜はあぁと思い出す。そういえば、物理の先生がノート提出を要求していたのだった。

 電子機器などが進化している現代においても、学生が扱うのはノートなどの普通の筆記用具なのだ。


「そういえばそうだったね。ちょっと待ってね」


 そう言いながら、カバンの中からノートを取り出す。綺麗にまとめられたノートを、数葉に差し出した。


「はいこれ、どうぞ」

「あ、ありがとう……」


 ノートを受け取り、なんとなく見つめ合う。

 見つめ合う。

 ……見つめ合う。

 …………見つめ合う。


「……え、えぇっと、他に、何か用事なのかな?」


 沈黙に耐えきれなくなり、桜は気まずそうに口を開く。


「あ、いいえ、特別な事はないんですけど……その、楽しそうだったから、何か良い事でもあったのかなぁって」

「ああ、」


 そこでようやく、自分の様子が普段通りでない事に気づいて、なんとなく恥ずかしくなって首を竦める。


「べ、別に対した事じゃないけど、ゲームで良い事があって、」


 ほんの少しゲームという話題を話して良いものか分からなかったので、声は自然と小さくなる。

 桜の言葉に、数葉は得心いったと言わんばかりに、数葉が頷く。


「そうなんだ……わ、私ほら、ゲームとかよく分からないから、」

「あ、そうなんだぁ」


 説明されなくても、少々納得してしまう。失礼な話だが、印象を裏切らない。

 普段でもあまり積極的とは言いづらい彼女だ、もしかしたら、ゲームなどというものが好きではないのかもしれない。

 ……自分のことを棚に上げている事を実感しながら、桜は口を開く。


「私も最近始めたばっかりなんだけど、面白いよ?」

「そ、そうなんだ……わ、私には縁遠いなぁ、あはは」


 どこか気まずそうに笑うと、彼女はその流れで桜から離れていってしまった。

 簡単に言ってしまえば、ファーストコンタクト失敗である。ファーストではないが。


「むぅ……なかなか難しいなぁ」


 自分の席に座り直してから、桜は小さく溜息をつく。

 それなりに人と話すのは上手く出来るようになってきたが、まだまだ上手くいく事ばかりではない。

 勿論、焦ってはいない。ゆっくり頑張っていけば良い話だ。


「よっし!」


 気合の入れた声を上げると、桜は小さく声を上げてから、一個だけミートボールが無くなってしまった弁当を食べ始める。




「おかえりなさいませ、旦那様方! 空いているお席にどうぞ!」


 お客の案内をするブロッサムの声は、いつも以上に元気そうで張りがある。

 学校を終え、必要な事を済ませれば、あとは彼女の自由時間。その中で、ブロッサムは【喫茶・メイド亭】の仕事を楽しんでいた。

 バイトとして金銭が発生するものだとは言え、あくまでこの世界はゲーム。それらの仕事に関しても、ある程度の娯楽性を感じるものだ。

 特に、仲の良い友達が出来れば、尚更だろう。


「ふふ、今日はいつも以上に元気いっぱいだね、ブロッサムちゃん!」


 近くでその様子を見ていたナンリが、ブロッサムの手が空いたのを見計らって話しかけてきた。そんな言葉に、ブロッサムは笑顔で答える。


「えへへ、そうだね! こんなに楽しくてお金も手に入るし、ナンリちゃんとも一緒だし」

「あはは、嬉しい事言ってくれるね。あ、じゃあ仕事終わったら、今度こそどこかに遊びに行こうか?」

「あ、良いね! 《クラン・食い倒れ》のお店に行かない? あそこのパフェが私好きで」

「あ、それは私も気になってたんだ!」


 女子高生らしい会話、と言えばそうなるだろう。

 ゲーム内なのもあって少々かけ離れたものなのかもしれないが、同じ年代の女の子が集まれば、自然とそのような空気は生まれる。

 そんな会話をBGMに、微笑ましい気分で食事をしているお客も少なくはなかった。


「お二人とも、少々よろしいですか?」


 そんな所に、妙齢の女性の声が入ってくる。この店の店長――否、メイド長であるクレミーだ。


「あ、すいませんメイド長、雑談なんかして、」


 思わず姿勢が正される2人だったが、そんな2人の姿を、クレミーは微笑ましそうに見つめる。


「いいえ、大丈夫。貴女方の微笑ましいお話は、私達にも癒しになっていますわ。

 それより、大変心苦しいんですが、お二人にお願いがありまして」

「お願い、ですか?」


 クレミーは、心苦しいと言わんばかりに頷く。


「実は、昨日から材料などの補給をお願いしていたNPCショップから食材搬入がされていなくて。

 今日の分は大丈夫ですし、他の食材などはプレイヤーの方に任せているんですが、何日か、業者を切り替える分を揃えなければいけないんです……」


 ――その話で、なんとなく先の話は読めた。

 ようは、その食材を取りに行くのを、ブロッサムとナンリに任せたいのだろう。


「勿論、私とご主人様も行きますし、臨時報酬をご用意したいと思っているのですが、今日から出来ますでしょうか?」

「えっと……」


 ブロッサムは視線を泳がせ、ナンリを見る。

 つい先ほど、一緒に街を巡ってみようと言ったばかりだ。こんな状況で、自分が二つ返事で答えて良いものではないだろう。

 そんなブロッサムの視線に、ナンリは苦笑しながらも頷いた。


「パフェはいつでも食べれるし、食材回収にも興味があるから、私は大丈夫だよ。そういうブロッサムちゃんは?」

「わ、私も興味があるかなっ」


 ナンリも、それなりにこのゲーム世界を生きてきたプレイヤーの1人。戦闘が嫌いでもない彼女にとって、戦いも街巡りも一種の娯楽なのだ。

 そして、ブロッサムも同じだった。いくつかクエストも経験してきたし、行った事があるフィールドも増えてきたものの、まだまだ彼女には知らない事が多い。

 今回のこれも、良い経験になるだろう。


「快いお返事、ありがとうございます。では、シフトが終わったら行きましょう」

「はい、分かりました!

 あっ、でもクレミーさんって、」


 そこでブロッサムの言葉が止まった。

 ブロッサムが見ているクレミーという人物は、『メイド』としての彼女であって、他の彼女を見たことがない。

 ましてや、戦闘を行っている姿など、想像が出来ないのだ。


「うふふ、ブロッサムさんが困惑するのも、無理はありません。ここでの姿しか見ていなければ、私は生産系プレイヤーと同じに思えてしまうでしょう」


 クレミーは穏やかな笑みを浮かべる。

 だが、この店の何人が、その目に気付いただろうか。

 トッププレイヤー特有の、怪しげな戦闘意欲が、彼女の目の中に灯ったのを。




「でも、ご主人様の身をお守りするのも、メイドの務めですから」







次回の投稿は、一月三十日を予定しております。

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