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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第3ターン:バイトと友達
67/94

8 友達って楽しい!

ちょっと明日忙しそうなので、早めの更新です!

では、本編をどうぞ!!






 ――紅いエフェクトが、ブロッサムの視界を、四肢を染め上げる。

 人間の時間感覚は奇妙なものだ。気持ちひとつで数分が何10秒という短い間隔になるかと思えば、10秒が何分にも感じられる時がある。

 特に、VRMMOという、人間の体を飛び越えた世界に置いて、その感覚は敏感に反応する。


「『オラオラオラァ!!』」


 嵐が、ブロッサムの体を攻め立てる。

 猛攻という域を超えてしまった戦斧槍(ハルバード)の激しい攻撃は、普段であれば表現した通り嵐だ。風の軌道は視認できず、視認出来たとしても回避や抑制は不可能だ。

 だが、それでもブロッサムの体は、ずっとそれに対応し続けていた。

 ギリギリの所での回避と、神がかったパリィ技術が、ギリギリになってしまったHPを維持し続け、逆に〈バルカス〉のHPは減退し続ける。

 相手の攻撃の合間を縫って、ブロッサムが攻撃を続けているからだ。

 入り組んだ枝の間をすり抜け、獲物を手に入れる鳥のように。重苦しい武器を持っているとは思えない程素早く、隙間を突く。


「『くっ、小鼠がぁ!!』」


 〈バルカス〉の息は荒い。疲労などない体のはずなのに、額に汗が流れている。

 勿論、そのようにプログラムされて(つくられて)いるだけ。それでも、HPは確実に消失し、5割を切った所だ。

 あと少しで、勝てる。

 ――そこで、ブロッサムは賭けに出た。

 普段であれば、実に愚かしいかもしれない。普通に考えれば、馬鹿らしい考えかもしれない。

 それでも、ブロッサムの頭の中にあった知識と、出来るかもしれないという確信。そして、《嘲笑う鬼火(ウィルオーウィスプ)》で培われた『チャレンジ精神』が彼女をつき動かした。


「『潰れろ、開拓者女!!』」


 戦斧槍が力強く振り上げられる。

 タイミングなら、今。


「――ッ」


 増強された筋力で、振り下ろされた〈バルカス〉の戦斧槍を、パリィの応用で空中に弾く。

 重い武器は強力だが、重心さえずらしてしまえば余りにも簡単に無力化できる。

 それを、〈バルカス〉は知らない。


「なっ――」


 スローモーションになっている世界の中で、〈バルカス〉が一言だけ漏らしているのが聞こえる。

 それを聞き流しながら、


「だりゃあ!!」


 その武器に直接〈ベヒモス・ハンマー〉を振るった。

 一瞬の静寂。世界が止まってしまったかのような静止感。

 それを打ち破ったのは、鉄が砕ける鈍い音。




 戦斧槍が、破壊された音だった。




 ――ウェポン・ブレイク。

 プレイヤー・エネミーに関わらず、武器には耐久値というものが存在する。エネミーの持っている武器に関しては、さらに武器そのものに弱点が付いている。

 だからこそ、武器を持っているエネミーの武器を破壊するというのは、それほど難しくはない一般的な攻撃方法だ。

 しかし、想像できるか?

 先程まで攻撃され、相手も気を張っている状況にいる中で、それを弾いて壊そうと考えられるだろうか。

 ブロッサムと同じランク・プレイ歴のプレイヤーだったら、真似出来ないだろう。


「『なっ――てめぇ!』」


 武器が失われた事に一瞬茫然自失とするが、すぐに怒りの声を上げると、その勢いのまま拳を振り上げる。

 《格闘》スキルを持っているのか、あるいはそれもまた人間らしいプログラミングの結果なのか分からない。

 そんな姿を見ても、ブロッサムは何も動かない。

 次のターンは、自分の出番ではないと察していたから。




「――スイッチ」




 その言葉とともに、一つの影がブロッサムの横を通り過ぎ、影の中で怪しく光る。


「――《ギロチン》!!」


 二刀がハサミのように、振り上げられた腕を中心に交差する。

 俊速と鋭利。その両方が噛み合わさった鋭い斬撃は、1拍の遅れを越えてから、〈バルカス〉の片腕を喪失させる。

 代わりに【部位欠損】と【出血】のBSバッドステータスを彼に与えながら。


「『グァアァアァアァアァ!!?』」


 絶叫が街道の中を木霊するが、誰もそれを助けようとは思わないはずだ。武器を失い、片腕を失い、なおかつもう彼の部下である〈ならず者の盗賊〉はいない。

 それほど長くはない時間の間に、ナンリが全て倒したのだ。


「……ナンリ、ずっと手加減してたんだね」


 どこか退屈に感じていたクエスト中、単純に彼女は全力を出し切っていなかっただけだったのだ。

 見抜けなかったのは、ブロッサムの経験の浅さが原因なだけ。

 そんなブロッサムの言葉に、振り返ったナンリは微笑みを浮かべる。


「ふふ、安全マージンを取っとくのは、堅実なゲーマーの習性みたいなもんだから。

 それより、ブロッサムちゃんこそ強いよ」

「ううん、そんな、私なんてボロボロで、」

「それも、スキル起動する為でしょ? あんなギリギリの計算している人、初めて見た!」

「え、えへへ、そうかなぁ」


 2人は、安心しきったように微笑み合う。


「『て、てめぇら、こんな事してタダで済むと思ってねぇだろうなぁ!』」


 そんな2人を前に、〈バルカス〉は腕の断面を抱えながら、悲鳴を上げる。もはやそこには、先ほどの下卑た笑みや、盗賊の長らしい自信はどこにもない。

 HPは【部位欠損】のボーナスのお陰で、残っていた分の半分以上を喪失し、2割を下回ったそれも、【出血】のおかげでどんどん削れていっている。

 彼に、出来る事はない。


「『俺は貴族とのコネもあるんだ! 俺に何かあれば、その貴族が黙っていないんだ! おい、聞いているのかクソアマ共!』」


 そんな設定(フレーバー)をBGMにしながら、ブロッサムとナンリは、どちらとも言わずに武器を構え直す。

 ラストアタックボーナスは、コンマ何秒のレベルで感知され、その刹那の時間の中で早い方が得る。

 そのシステムのお陰なのか、『誰かにするか事前に決め、調整する』というのが普通で、大概新人などに譲られたりする場合が多い。

 パーティーを組んでいるプレイヤー同士の実力などが拮抗している場合、




「「――せ〜の!」」




 ……『同時に攻撃して、取った相手に文句を言わない』などという、極めてギャンブル性の高い方法が採用される場合も、まま存在する。

 ナンリの突きが〈バルカス〉の胸を食い破るのと。

 ブロッサムの戦鎚が〈バルカス〉の頭を叩き潰すのは。




 ほぼ同時だった。




「うんうん、ボーナス頂き……まぁ、壊れちゃってるのはちょっと痛いけど」

「うっ、ごめんなさい、調子に乗っちゃって……」

「ああ、気にしない気にしない。どうせ手に入ったところで、売りに出しちゃうだけだから」


 【始まりの街】の街道を見ていれば、申し訳なそうにしているブロッサムと、どこか困ったように笑い、画面を見るナンリの姿が視界に入るだろう。

 画面の中には、彼女が手に入れたラストアタックボーナスが映っている。


 その名も〈壊れた盗賊長の戦斧槍〉。


 ……そう。ブロッサムがウェポン・ブレイクをした影響が、ボーナスアイテムにも反映されているのだ。

 壊したからって、こんな所までリアルにしなくても、と普通は思うのだが、そこは【ファンタジア・ゲート】だ。そこを気にしていては、こんなゲームやっていられない。


「ハァ、結構遅くなっちゃったし、ご飯はまた今度だね。今度は普通に、街をブラブラしたいなぁ」

「そうだね、どこか行きたい所とかある?」

「そうだなぁ、ブロッサムちゃんはどこかいいお店とか知ってる?」

「えへへ、実はライブハウスの常連なのです!」

「ライブハウスって、【おんがくのあな】って店? 有名だけど、私は行った事ないんだ!」


「じゃあ、バイト終わったら行ってみよう!」

「うん!」


 もう別れる段になっても、話は尽きない。


(あぁ、そういえば、)


 同性同士の会話など、こんなものだったかもしれない。

 中学校時代にも感じた懐かしい感覚が心地よく、ブロッサムの顔にはより深い笑みが浮かんだ。


「じゃあ、またね、ブロッサム!」

「うん、またね、ナンリ!!」


 手を振ってそう挨拶をすると、ナンリと同時に、ブロッサムもログアウトした。




 最初に見えるのは、見慣れた天井。いつも通りログイン用のダイヴギアを外して枕元に押しやってから、ブロッサム――桜はもう一度天井を見上げた。


「……ともだち、」


 確認するように呟いてみる。

 頬がピクリと、微かに震えた。


「……友達、」


 もう一度、今度は少し大きく呟いてみる。

 今度はハッキリと頬が動き、慌てて真顔に戻した。


「……友達っ、」


 もう一度、今度は普通の声で言ってみる。

 もはや顔はニヤけるようになり、嬉しそうに手足が動く。


「――友達だー!」


 自分に、周りに言い聞かせるようにはっきりと叫んだ。

 手足は自然とばたつき、ベッドの上で桜は楽しそうに暴れまわる。

 友達だ、友達なのだ。ゲームの中とはいえ、もう友達0人を卒業したのだ。しかも自分よりもしっかりしていて、格好良く、一緒に冒険してくれる友達だ。

 それにこれをきっかけにして、リアルでもちゃんと話しが出来るようになるかもしれない。

 練習台と言ってしまうのはナンリに失礼だが、最近は同性同年代の女の子と話す機会の少なかったブロッサムにとって、幸せな事この上ない。


「うっしゃあ! 頑張るぞー!!」


 歓喜に染まった宣言。

 果たしてそれがいい方向に転がるのか、それとも逆なのか。その場で無粋なツッコミを入れる人間はいなかった。




 ……強いて言えば夜遅くなので、母親に「うるさい」と叱られた事以外は。






次回の投稿は、一月二十六日を予定しております。

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