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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第3ターン:バイトと友達
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4 賑わい店内






 配膳の方法などの簡単な講習や、店の内装の整理、さらに小物の手配なども含めた開店準備を終え、いよいよ【喫茶・メイド亭】の開店初日という今日。

 日本のメイド流行りというのは、廃れて久しい。いくら本格派というブランドを謳っていようと、流石に最初は暇だろう。

 非常に失礼な話だが、ブロッサムはそうタカを括っていた。


「5番テーブル料理上がったよ〜」

「7番のご主人様方、レンジースムージー2つ〜」

「2番のお客様が、『萌え萌えキュン♡とかやってよ』ってしつこいです」

「〝執事〟に説明いかせるよ!」

「料理足りないよ何やってんの!」

「誰、こんな忙しい時にネタぶち込んでくるの」


 ――ところが、そんなブロッサムの甘い考えをよそに、店は大繁盛していた。

 ちなみに、執事とは問題解決専門の男性スタッフである。主に厳つい顔をしているプレイヤーが雇われている。

 もはやヤクザか、と言いそうになるが、それはさておき。

 ゲームをしている人間には、《嘲笑う鬼火ウィルオーウィスプ》の多くに所属しているような、ゲームとは縁遠い生活をしている人間も多い。

 VRというものがそれだけ娯楽としての集客力が優秀だという答えにも繋がるが、それはある一定、過半数はゲームに親しみを持っている人間達だ。

 つまり言い方に拘るならば、“オタク”が多い。

 オタクというのは不思議な人種で、自分の世代より前の世代で隆盛を極めたものにまで目を向ける傾向が強い。

 強いだけで全員ではないだろうが、とにかくここで何が言いたいかと言うと、




 古かろうと流行りでなかろうとも、男はメイドが好きなのだ。




 そりゃあ、綺麗どころが笑顔で料理を出してくれて、こちらを『ご主人様』などともて囃してくれるのだ。

 良い気分にならない男性は、ごく少数といったところだろう。

 だから、新人メイドであるブロッサムも、てんてこ舞いに店の中を歩き回っている。

 本当は走りたいところだが、食事処で埃を立てるわけにもいかない。店員は全員、良くて早歩きが推奨されている。


「ブロッサムちゃん、10番テーブルにこれ運んで置いて!」


 厨房と店内を繋げるカウンターに置かれたのは、綺麗なオムライスだ。

 薄焼き卵ではない。半熟に焼き上げた卵をケチャップライスの上で割る、ふわとろオムライスだ。 堅実にデミグラスソースをかけられているその姿は、見ているだけで喉が鳴る。

 ……もっとも、お客様の料理だ。ブロッサムが食べられるわけではない。

 賄いに期待しよう。


「はい、分かりました!」


 笑顔でそう答えると、お盆の上にそっとその皿を乗せ、歩き始める。

 店内は客の談笑の声と、店員達が忙しなく動く音と、明るい声。様々な料理や飲み物の匂いが混ざり合い、楽しげな空気にさらに彩りを与える。

 メイド喫茶というより、明るい喫茶店といても過言ではない。色物のように媚びたりしないのが、客の琴線に触れたのだろうか。

 ブロッサムはそんな空気を楽しみながら、



 足を滑らせた。



 床は雰囲気を出すためか、荒く削り出されたように見える木材が使用されている。

 勿論ワックスが塗られ光沢があるし、そもそもここはゲーム、目に見える風景として(グラフィック的に)デコボコでも、歩く時は普通の床と同じだ。

 こればっかりはどうしようもない。

 自分の足に自分で引っかかっているのだから、床の所為にも出来ない。

 不思議とこういう時は、そんなくだらない事を振り返りながら、空中に投げ出されるオムライスを見守る事が出来るくらい、時間がゆっくり流れるんだから、逆に笑えてくる。

 このままオムライスを撒き散らし、ただ醜態を晒す。そんなのを、固まった笑みでゆっくりと上へ流れる景色を眺める。


「――っととっ、大丈夫、ブロッサムちゃん!?」


 その流れていったはずの景色が唐突に静止し、柔らかい手がブロッサムの体を受け止めてくれる。

 驚いて視線を上げると、そこにはナンリの微笑みがあった。

 既に配膳を終えたのか、空いた手の片方がブロッサムの体を支え、片方が空中に舞い、無残な姿を晒すはずだった料理を崩さずキャッチしている。

 見事なキャッチに、思わず近くにいた店員・客問わず拍手が巻き起こる。


「え、あ、すいません! なんかちょっと縺れちゃったみたいで!」

「いいよ、気にしなくて」


 赤面しながら体を起こすブロッサムに、ナンリは優しく笑みを浮かべる。

 メイド服を着ているはずなのに、その中性的な姿も相まって、どこか王子様のような雰囲気さえ持っている。


「これ、10番だよね? 私が運ぶから、ブロッサムちゃんは先に休憩入りなよ、そろそろでしょ?」

「え、でも私が頼まれたのに……」

「良いの良いの、これでも前衛職で、体力は有り余ってるから」


 それは私もです、と言おうとしたのだが、ナンリはスタスタと料理を運んでいってしまった。

 ここで思い浮かぶのは、普通なら申し訳なさや罪悪感だろう。勿論、ブロッサムもそれは考えているし、心の奥底で「今度から気をつけよ」とは思っている。

 しかしそんな気持ち以上に強く、彼女の心の中に湧き上がったのは、




(か、格好良い!)




 という感想だった。

 いくら女子校出身とはいえ“そういう趣味”はないブロッサムだったが、それでも思わず照れてしまうくらい様になっていた。

 開店する前から、ナンリとは話していたわけだが、その時からずっと格好良いと思っていた。

 恋ではない、憧れ的な意味でだ。

 基本的に格好良さとは縁のないブロッサムではあるが、そういうのに憧れを抱かない訳ではないのだ。

 《嘲笑う鬼火ウィルオーウィスプ》で顔を合わせるマミやマーリンのような『出来る女性』の格好良さと同じような雰囲気を、ナンリには感じたのだ。


(なんとしても、仲良くならなきゃ!)


 ギルメン以外には、ゲーム内でも知り合いがいないブロッサムだ。

 強いて言えば兄がいるが、兄はこの世界では有名な自警ギルド《銀鎧騎士団》のギルマスだし、ゲーム内では話さないのでカウントしない。

 友達が欲しい。

 現実リアルでも欲しいが、まずはゲーム内で、対等な友人というのを作ってみたい。

 ブロッサムがそう思うのも、無理からぬ事だろう。


(とりあえず、バイトが終わったら、話しかけてみようかな……)


 そう思いながら、ブロッサムはその場を後にする。

 ……ブロッサムを見ている別の視線に気付かずに。







「……案外しっかりやってんだな、あいつは」


 その視線を辿っていけば、それがいったい誰のものだったか、ブロッサムは直ぐに察する事が出来たはずだ。

 もっとも、この忙しさと、慣れないバイトに緊張している状況では、気付かないのも仕方がない。

 ……それに、そもそも視線の主であるトーマは、あまり見つかっても良いもんじゃないと思っている。

 現実でもそうだが、バイト先で知人と顔を合わせる事ほど、気不味い事はないからだ。


「にしても、お前がそんな過保護だったなんて、意外だな」


 向かいに座っているこの店のオーナー、アースはそう溜息を溢しながら、目の前に置かれているメロンソーダを食べる。

 飲み物を食べる、というのは不思議な事のように思うだろうが、アイスが付いているのだから、間違ってはいない。

 相変わらず自分の外見アバターのイメージを自然と外す男だ。


「過保護? 俺は別に、あたふたしたブロッサムを笑いに来てやっただけだよ」

「嘘つけ。コケそうになったのを見て、身を乗り出すような奴が、過保護じゃないわけがない」

「……うるせぇ、ドウテイ」

「俺の二つ名は《震動帝》だ!」


 異議を申し立てる! などと机を叩くアースの姿は、トーマにとっていつもの事だ。特に反応する訳でもなく、アイスコーヒーに突き刺さったストローを加える。

 ――いや、そりゃあ心配していない訳ではない。

 いくらこの世界ゲームに慣れて来たとは言え、まだ彼女の知らない事は沢山ある。特にこういうバイトは、経験が一切ないと本人も言っていた。

 何か面倒事に巻き込まれやしないかなどと思って、店にきて見たのだが、……どうやら、杞憂だったようだ。

 さっきは危なくも転びそうになったが、それ以外に目立った失敗はない。やや緊張気味で硬いが許容範囲、変に絡んでくる店員も店側で排除してくれる。

 そういう意味で、この店はバイト初経験の人間にとって良い店だ。


「そういや、お前がこんな店のオーナーなんて、意外なのはこっちだよ。

 お前はこれからも戦闘だけでやっていくのかと思ったんだがな」


 トーマはそう言いながら、軽くアースに微笑む。

 トッププレイヤーとは、何も戦闘面で有名というだけではない。仁王のように生産職で目覚ましい活躍をしているプレイヤーも多い。

 ――そんな中で、《震動帝》アースと言えば、魔術師プレイヤーでもそこそこ有名なプレイヤーだ。

 戦闘系の中でも魔術師とも慣れば、手っ取り早い武器使いよりも、なお厳しい目で見られる。

 それなりにスキルを上げて武器を振るっていれば一定の実力を見せる事が可能な武器職とは違い、魔術は極めるのが難しいスキルだ。

 だから《嘲笑う鬼火》にいるコウやマーリン、そしてサマサなどもその枠内だが、トッププレイヤーとして見れば少数派だ。

 つまり、アースもそれなりの実力者。魔術師プレイヤーとして一流の中に数えられるのだ。


「ああ、まぁ俺もそう思ったんだが……これを有効活用したくてな。それならクレミーの為に、って思ったんだよ」


 そう言って懐から取り出したのは、一枚の羊皮紙。

 よく見えるようにかざされたソレを凝視したトーマは、思わず目を見開く。


「――これ、〈貴族位叙任証明書〉じゃねぇか。よく手に入ったな」


 〈貴族位叙任証明書〉。一種の限定効果アイテムにも近いこれは、その名の通り貴族としての地位を貰った証明だ。

 設定上、ここは開拓地。つまり、海の向こうには本国があるという設定になっている。勿論あくまでフレーバーではあるが、貴族という階級も存在する。

 タウンやシティを手に入れる、言わば領主とは違う。領地運営・商売なども含めたものに補正がつく特殊アイテム。

 絶対数はそもそも少ないので、持っている人間はそう多くはないが。真面目な領主プレイヤーや、商人プレイをしているプレイヤーならば、喉から手が出るほど欲しがるだろう。


「とあるクエストで手に入れてな。

 クレミーは『ご主人様が貴族とはますます良い』ってテンション上げていたが、どうせなら有効活用したくてね」


「なるほど、それでオーナーねぇ」


 その言葉をきっかけにしたのか、アースさっと懐にしまい込む。一応奪われる事はないとは言え、見せびらかすもんじゃないだろう。


「まぁ、これ以外では、特に使い道がないんだがな。

 俺はほら、お前が言う通り、戦闘やクエストがメインだから」

「違いない」


 そう言って、二人は笑い出した。

 ――二人は気付かない。その他に使い道がないアイテムが、大きな意味を持ってくるという事を。






次回の投稿は、一月十三日を予定しております。

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