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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第3ターン:バイトと友達
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1 願いと金欠

あけましておめでとうございます、今年も一年宜しくお願いします。

今年も頑張って、面白いものを作っていこうと思います。


それでは、新年一発目の更新、どうか楽しんでいただけると幸いです。






 ――友達って、なんだったっけ?

 もう随分昔のことで、どういうものだったのか、どうやって作れるものだったのか、どうしても思い出せない。

 私はそんな当たり前のことすらもう忘れてしまったんだ。

 いや、もっと言ってしまえば、作りたい、とすら思わなくなっていた。

 だって、作っても意味がないんだもの。


 無視されて、

 裏切られて、

 痛い目を見るだけ。


 それなら一人の方がずっと楽だと気付いてから、私はその楽な方に流されていった。下の方ばかり見て、人と目を合わせないで生きて行く。

 実に楽で、安心な世界だ。

 ――でも、そこは薄暗くて、ちょっと寒い。

 温めてくれる誰かもいないし、照らしてくれる光もない。

 まるでキノコだ。ジメジメとしたところでひたすらに増殖だけを続けていく菌糸類。それはそれで、増殖出来るだけ幸せなのかも知れない。

 けど幸せという言葉の定義さえどこかに置き去りにされてしまったかのように、私の頭の中にはポッカリと穴が空いている。




 ――でも、光を見てしまった。




 それはたった一条だったかも知れないけど、暖かくて心地良く、光に慣れない私には鮮烈なもので。

 唐突で、私の中になかったはずの言葉が、泡クズのように吹き出す。




 あの人と、〇〇になりたい。








 のんびりとした午後の陽気……を再現した【ファンタジア・ゲート】内のとあるギルドタウン【ランプ・タウン】。

 そこはおそらく、他の人間が想像しているよりもずっと平和な様相を呈していた。

 いくらお祭り騒ぎと厄介事が大好きなギルド《嘲笑う鬼火(ウィルオー・ウィスプ)》だったとしてのも、そんな年がら年中騒いでいるわけではない。

 むしろ、自由人が多い所為で、全員が集まる機会はそう多くはない。大型イベントや、全員で何かしようという以外は、【ランプ・タウン】に足を踏み入れない人間もいる。

 少なくとも、毎日のように来ている人間など、マミとコウくらいなものだろう。

 そんな普段静かな【ランプ・タウン】ではあるが、今日はトーマとブロッサムもいる所為か、少し賑やかしさを取り戻しているかのように思える。

 勿論、多くは語らない時もある。

 今もトーマはアイスコーヒーを、ブロッサムは紅茶を飲みながら、のんびりと静かに過ごしている。響く音は、クシャが食器を洗っている音くらいだろう。

 そんな中、ブロッサムはゆうがなしぐさでそっとカップを置き、トーマにその穏やかな笑みを向ける。




「トーマさん――お金がありません」




 ……なんて穏やかな仕草で、真反対な事を言っているんだろう。

 思わずトーマはそう思ったが、何も言わずに、アイスコーヒーに刺さったストローに口をつけ、苦甘い味が口に広げる。

 トーマはブラックコーヒーが飲めないのだ。


「……トーマさん、私はお金がありません」


 反応が返ってこないのを確認してから、ブロッサムはもう一度トーマに言う。今度は椅子を少し前に引き出し、顔の距離を近づけて来た。

 それを意に返さず、トーマは口にアイスコーヒーを流し込み続け、徐々にコップから無くして、とうとうズゴゴという、少々下品な音を立てて無くなった。



「……トーマさん! お金です! マネーです! ミリヴァが足りません!! トーマさぁん!!」

「うるせぇな聞こえてるよ!!」




 とうとう耳元で叫び始めたブロッサムの顔を突き放しながら、トーマは面倒臭そうに顔を顰める。


「何言われたって金は貸さねぇし、クエストだって付き合わんぞ。お前が金策に行くフィールド、こっちには旨味ねぇんだよ」

「そんな事言わずに手伝ってくださいよぉ、肩揉みますし、お酌とかしますから!」

「お前、俺をエロ親父かなんかかと勘違いしていないか?」


 お互いに全く遠慮なく、近づいては押し返されるの繰り返し。それに反応を返す者も、やはりいなかった。




 〈ベヒモス〉を討伐し、《殴殺嬢》(不本意)ブロッサム。ゲーム内での生活にはもう慣れて来て、学校でのボッチ生活にもだんだん慣れて来てしまっている今日この頃。

 だったのだが、ここに来て新人プレイヤーの誰しもが辿り着く、いくつかの壁の一つにぶち当たってしまった。

 とどのつまり、金銭的な壁、財政難だ。

 初期のプレイヤーは何かと物入り。武器、防具、アクセサリーのみならず、移動手段や消耗品、あるいは美食や娯楽でついついゲーム内貨幣を消費してしまう。

 現実の買い物とは違い、ゲームではそれなりの金額を稼ぎ出せる分、羽目を外してしまう人間は珍しくないのだ。

 経験を積んでいけば、ある程度の自制や計算は可能だ。だが、これもあくまで本人の資質が関わってくる部分も強い。


 つまり、現実で浪費家な奴は、ゲームでもやっぱり浪費家だ。


 その所為で、ゲーム内でも金貸しみたいな方法で稼いでいる連中もいないわけでは無いが、それは閑話休題。

 少なくとも一度はぶち当たる壁に、ブロッサムは見事真っ正面から激突したのだ。

 新人の恒例行事といえば聞こえは良いが、本人にとっては大問題なのだろう。もはや言葉には泣きが入り、必死でトーマの腰にしがみ付く。


「お金稼ぐ方法教えてくださいよぉ! 先輩ですよねぇ!!」


 もはや、最初期にゲームをやっていた頃の、オドオドした、どこか微笑ましいブロッサムはそこにはいない。本来の彼女が現れているのは、果たして良い事なのか、悪い事なのか。

 少なくとも、トーマにとっては良い事ではなかった。


「ふざけんな、こっちだってスキル上げやら何やら、お前より面倒な事が多いんだよ!

 だいたい、そんなに言うんだったら、アクセなんて買ってんじゃねぇよ! 耳元のそれはなんだ!」


 そう言って指差したブロッサムの耳元には、可愛らしい兎の意匠が施されたイヤリングが付けられている。

 アイテム名〈ラビット・イヤー〉

 上昇効果は微々たるものだが、敏捷とジャンプ力、後は《聞き耳》スキルなどの一部耳に関わるスキルに補正が付くアイテムだ。

 初心者ではオーソドックスと言って良いアイテムだが、ブロッサムのプレイスタイルには合わないだろう。

 それを指摘されたブロッサムは、耳元を抑えながら後ずさる。


「だ、だって――可愛かったから!」

「言うと思った、ぜってぇ言うと思ったよ」


 ――可愛いものには判断が鈍ってしまうのも、またブロッサムの悪い癖だった。

 しかし、実際問題、割とピンチであるのは事実だ。

 生産職系のスキルを取得していないので、その方面で金銭を稼ぐ事は出来ず、今から取得するにもまた金と時間がかかる。

 クエストに行くにも、高額なものではブロッサム1人で手に負えるものではないし、そう言うものにも補償金としてお金がかかる場合が大半だ。

 今のブロッサムでは、金銭を稼ぐ方法など限られるのだ。


「お前が辛い気持ちはわかるよ、俺も経験あるし。

 でも、そこで俺に頼られてもなぁ。俺なんて、上級でも稼いでる方じゃないし」


 席に座り直すトーマの目の前には、クシャが用意した新しいコーヒーが置かれていた。それを手に取りながら、話を続ける。


「だけど、地道な節制と稼ぎが大事だと思うぞ? スキル上げだと思えば、そうきつい話ではないだろう?」

「はぁ、まぁ私もそうは思うんですけど……早く武器を変えたいと思いまして」


 片手で器用に武器を取り出すと、それを口惜しそうに眺める。

 〈ベヒモス〉線で手に入れた〈ベヒモス・ハンマー〉は確かに使い勝手も良く、性能抜群だったが、それにしたってこのデザインは頂けないし、これ以上の武器は多い。

 早く取り替えて、〈ベヒモス・ハンマー〉は予備として使っていきたいと、ブロッサムは考えたのだ。

 ……考えただけで、先立つものがないのが、今回の問題だった。


「贅沢な奴だなぁ、そのレアドロ、結構良い値が付く装備だぞ。それを交換したいなんて、ゲーマー失格だなぁ」

「トーマさんみたいに、強さだけを追い求めているわけじゃありませんから」

「お、言うねぇ《殴殺嬢》」

「その名前呼んだらぶん殴りますよ!」

「名は体を表す、だな、まさしく」


 いつでも武器を抜きかねない会話ではあるのだが、表情は明るい。やはりいつものじゃれ合い程度で、両者とも本気ではないようだ。

 そんな様子はきっと、仲の良い兄弟などを連想するのだろう。


「まぁ、いくつか方法がないわけじゃないのは、確かだけど……聞きたいか?」


 投げやりな言葉に激しく首肯するブロッサムに、トーマは一回だけ溜息を吐いてから続ける。


「まずは、普通に地道に稼ぐ事だ。少なくとも節制すりゃ、お前レベルのプレイヤーなら多少の金は稼げるだろう。幸い、ギルドに入ってりゃ飯は出して貰えるしな」


 イワトビに頼めば、きっとなんやかんや言いながらも、何か食べさせてくれるだろう。憎まれ口を叩くが、根は優しい男だ。

 武器のメンテナンスは仁王に任せてしまえば、安価、上手くすればタダでやってくれる。彼もまた年齢から来るのか、面倒見の良いタイプの男だから。

 ……ただ、彼女の求めるところはこういうものでないと理解しているので、トーマはそのまま話を続けた。


「あとはそうだな……ギャンブルかな」

「ギャンブル、ですか?」

「ああ、闘技場やなんかに行けば、それこそ毎日何かしらやってるもんだ」


 PvPからPTvPT、PvMからPvEまで、種類は豊富だ。時期などを合わせれば、ランキング戦などの大会も開かれている。

 オッズや掛け金にも寄るが、運が向けば一瞬で1億M、リアルマネーで100万稼ぐのも夢ではない。

 もっとも、所詮ギャンブル。王道な稼ぎ方ではないのは確かだ。


「他にもいくつかあるが、」


 そうしていると、居間の奥にある執務室の扉が開き、コウが顔を覗かせる。


「なんだい、ずいぶん楽しそうじゃないか。なに、ブロッサム、お金ないの?」

「あ、は、はい、お恥ずかしながら……」


 先ほど間の抜けた彼女は何処へやら、恥ずかしそうに言うブロッサムに、コウは特にツッコミを入れず、近くに座った。


「そう恥ずかしがらなくて良いよ、金策はプレイヤーにとって身近な問題だからね。

 でも、そうだな……生産職もない、戦闘職前提のプレイヤーの金策になると、種類もそう多くはないけど……うん、君なら頼みやすいかな?」


 1人でなにやら話しているが、内容がわからず、思わずトーマとブロッサムはお互い見合って首を傾げてしまった。

 コウは頭が良いのだが、良いというのは必ずしも喜ばしいものではない。頭の中で整理しているものを、他の人間が理解出来ない事も稀にあるからだ。

 それでも彼の指示に従えるのは、そこに信頼関係が存在するからだが、今回はそも『何に悩んでいる』のかがはっきりしない。

 少しの間そうして唸ってから、コウは顔を上げた。


「ブロッサム、君が良ければ、




アルバイトしてみない?」






次回の投稿は、一月四日を予定しております。

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