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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第1ターン:ゲームへの招待
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5 現実なんて





「では、トーマさん、また明日」


 そう言ってブロッサムは、淡い燐光と共にその場から消えていった。

 ――この世界(ゲーム)の時間は現実世界の4倍。つまり現実での6時間が、こちらでの1日に相当する。

 時間の取りづらいプレイヤー達への配慮ではあるが、長時間プレイをしていれば時間感覚は狂う。だからゲーム時間で1日経過すれば、ログアウトを促すアイコンが現出する。

 勿論、ブロッサムはログインしてまだ数時間も経過していない。結局スキルを取得し、いくつか簡単なアーツを取得しただけで終わった。

 だが聞いてみれば(リアルの話を気楽に話すなと明日注意しようと固く誓った)、彼女は高校生。明日も学校があるのだから、現実の日付が変わってしまうほどゲームをさせるのは気が引けた。

 トーマからすれば多少徹夜してでもやり込むものだが、今日は彼女にとって波乱万丈の初プレイだっただろう。休息を取るのも、悪い事ではない。

 そう思い返すと、思わず口元に笑みが浮かんでいるのに気付く。


「……予想以上の逸材だったな」


 この笑みは、新たに優秀なプレイヤーが現れた事に対する喜びの笑みだった。

 ブロッサムに話した通り、トーマはこの世界が大好きだ。

 戦闘もそうだが、美麗な景色も、未だ見ぬ美食や興味深い品々、新たな冒険も大好きだ。

 そして、この世界に本気になってくれる新たな仲間も、だ。そういう意味で、ブロッサムは非常に優秀だと言えるだろう。

 敵に怯まない度胸。

 はっきりとした決断力。

 ゲームだと小馬鹿にしない態度。

 そして何より、変わる事への貪欲さ。

 それらはどれもトッププレイヤーと呼ばれる人間には必須とも言って良い素養だろう。それらをこの段階から持っているというのは、ゲーマーとして優秀だ。

 そんな彼女に、自分が道を指し示す。それもVRMMOの醍醐味と言って良い。後進を育てるのもまた勤めなのだ。


「問題は、いつの段階でうち(・・)に誘うかなんだよな……ギルマスや仲間の説得はさておき、『ギルドに入ったら縛られる場合もある』って言った手前、誘い辛いんだよなぁ」


 最初はフレンド登録くらいで済ませ、これからゆっくり間合いを詰めようと思っていたのに、大誤算だ。良い意味でも、悪い意味でも。

 もしこれで拒否されたりしたら、割と自分が凹むのは目に見えていた。

 ブロッサム自身が思っている以上に、トーマはブロッサムを気に入っているのだ。

 さて、これからどう教え、どう説得しようか。広場の中心でそう悩んでいると、音声通話の着信音が彼の耳元で鳴り響く。

 表示されている名前は――まるでタイミングを見計らったかのように、彼女だ。

 少し通話画面を開く事に躊躇するが、ずっと耳元で鳴り続けるこれを無視するのは至難の技だ。

 小さく溜息を零してから、通話ボタンをタップする。


「……お久しぶりです、マミさん」

「[やあやあ久しぶり〜……じゃないよ。そろそろ件のXデイなのに、君はいつまで私のところに顔を出さないつもりだい]」


 耳元で聞こえる声は、いつも通りだった。ハスキーでしっかりしているように聞こえるのに、妙に力が抜けている。

 相変わらずの様子に、トーマは少しだけ笑みを深める。


「すいません。本当は今日挨拶に行こうかなと思ってたんですけど……面白い逸材を見つけまして。候補としては良いかも」

「[ほう、逸材……トーマが言うからには、それなりなんだろうね。プレイ歴は?]」


「0です」


「[………………]」


 トーマの言葉には、通話相手は絶句しているようだ。


「[……聞き方が悪かったな。どれくらい【ファンタジア・ゲート】をプレイしているプレイヤーなんだい?]」

もう一度聞かれた質問に、トーマは微笑み、こちらももう一度答える

「0です。正しくは、今日の20時から始めたって言ったんで、現実時間で2時間程度。VRゲームはこれが初めてって言ってましたから、本当にこれだけです」

「[………………]」


 トーマの言葉には、また通話相手は沈黙する。

 その事に驚きはしない。何せ新人を見つけてきましたと言われているのだ、いくら無軌道を絵に描いたような彼女であっても、意外というか予想外だろう。


「[……そこまで才能がある子なの?]」

「ええ、間違いなく。あれは化けるなぁと思いました。少しこっちで鍛えてから会わせますよ」

「[ああ、うん、そうだね……どちらにしろ面接しなきゃいけないのは確かだし……]」


 いつも他人を動揺させている張本人が、動揺している。

 その様を実際に見れないのが悔しいが、その反応を聞けるだけでも十分だろう。


「[――それで? 私に会いに来なかったのは、やはり例の件を気にしてかな?]」


 ……どうやら、逸らす事は出来なかったらしい。


「……あれには、俺にも責任があるから」

「[君は……相変わらずヘラヘラしてる割に、ちょっと自意識過剰よね、悪い意味で]」


 この【ファンタジア・ゲート】の音声通話にノイズが入る事などあり得ない。今声に混じって聞こえたのは、間違いなく溜息だろう。

 きっと苦笑でも浮かべながら吐いたのだろうな、と少し申し訳なくなる。


「すいません。性分なんで」

「[それは分かっているけどね……だが、君が戻ってくる上に新人候補がいるなんて、良い話を聞いたな。

 ふむ……来たるXデイはそれはもう派手に、]」

「絶対辞めてください」


 言葉を遮って拒否する。

 ――マミは、それはもう暴れ牛もかくやと言わんばかりに暴走する。

 他人の迷惑などというものは度外視。勿論よっぽど大きな被害にはならないが、精神的被害は甚大な場合が多い。

 吉凶どちらに転ぶか分からないが、分からないからこそ最初から起こさないが正解だ。


「[え〜、良いじゃん。復帰第1事件は派手にしないと]」


 既に『事件』と言っている時点でアウトだ。


「ここで止めなきゃ、俺がコウさんに怒られるんですよ。いっつも尻拭いするのは俺らなんですから」

「[ムゥ……コウも君らもつまらない性格してるよねぇ。ゲームなんだから派手で楽しくいかないと]」

「ルールを守らないのとは違うでしょう?

「[ああ言えばこう言う〜]」」


 アンタにだけは言われたくねぇと思いながら、親切心で言わないでおいた。


「じゃあ、また都合合う時に連絡します」

「[了解。今度はちゃんと連絡するように]」


 その言葉を最後に、通話は終了される。

 ……しばらくその画面を感慨深く見つめてから閉じ、空を見上げる。

V Rゲームとは思えない……いや、VRゲームだからこそ広がる綺麗な星空に笑みを浮かべてから、トーマは歩き出した。

 これから忙しくなる。

 まず必要なのは武器防具の調達。そしてスキル上げに必要な狩り場の選定。1度面倒を見ると決めたのだから、やるべき事はしなければいけない。

 ……初心者に何かを教えるという事が無かったからこそ、慎重に事を進めなければ。

 そう思って、トーマは目的地に向かった。







 ――昼間の時間がこれほど楽しいのはいつぶりだろうか。

 昼間の学校。しかも授業中ではなく、誰もが自由に話しかけられ、しかも教師の目の届かないお昼休みという時間帯が、これほど心穏やかなのはいつ以来だろうか。

 誰に話しかけられる訳でもないのに、桜はニコニコと笑みを浮かべている。

 言った通り、既に教室は昼休みの雰囲気で賑わっていた。

 30人の生徒を入れている教室では、クラスメイトの女子達が友人と楽しく弁当を摘んでいたり、または仲の良い友人と学食や中庭に出ている。

 桜の通っている学校は、ここら辺一帯ではそこそこ有名な女子高で、クラスに男子がいないのは勿論、教師陣の中にも男性は片手で収まる人数しかいない。

 そんな群れるのが大好きな女性の園の中にあっても、桜は1人で母親から今朝受け取った弁当を食べている。

 机はガタガタ、鞄は辛うじて無事だが、その中に入っている教科書や私物は、既にボロボロだ。

 自分が何も言わない、誰にも言わない事を分かっているようで、あえて目につくような所は狙われていないのだ。

 だが、それすらも今は都合が良かった。

 大好物のミートボールを口に運びながら、空いている手に持っている携帯端末の画面を見て、また口元が緩む。

 ――VRゲームである【ファンタジア・ゲート】では、当然VR専用機材を使用しないとプレイ出来ない。しかし、まるで何も出来ないと言えば、違う。

 例えば個人成績のランキングや、オークションで何が出品されているか、イベント告知のチェック。

 そんな、ゲーム本編をプレイするのとは直接的には関係ないものがチェック出来る。

 桜が今見ているのは、自分のキャラクターのステータスだ。自己紹介画面などの編集したりも出来るが、今見ているのはスキル構成。

 何せトーマと一緒に悩んで決めた自分だけの力。それだけで、とても興奮するものだ。

 画面には、このように簡素に表示されている。



・アクティブ

《戦鎚術Ⅰ》

《パリィⅠ》

《両手持ちⅠ》

《空き》

《空き》

・パッシブ

《剛力Ⅰ》

《頑強Ⅰ》

《重装Ⅰ》

《見極めⅠ》

《窮地の猛攻Ⅰ》



 ……名前だけでも相当物騒で、それでいて全く可愛くないが、偶然出会っても初めて取れた特殊スキルを活かす事が出来るのであれば気にはしない。

 桜はもう一度、トーマに説明されたスキルの内容を、頭の中で呪文のように唱え始める。


 スキルとは、つまりその名前の通りの技能を自分が取得している証である。


 剣を使う為には《剣術》が、という風に、装備を着る時はそれにあったスキルを持ったりしなければ技を生み出せないし、ダメージも適応されない。

 逆にスキルを持って入ればその分野の能力が向上し、システムからのアシストを受け、時には特殊な効果も与えてくれるというのが、【ファンタジア・ゲート】のスキルシステムなのだそうだ。

 スキルにはランクⅠからⅩまでの10段階が設定され、使えば使うほど、効果を発揮すればするほど熟練値というのがたまり、上位のランクに上がっていく。

 ランクが上がれば効果は上がっていくが、それに応じて要求熟練値も上がっていく。それなりに長く【ファンタジア・ゲート】をプレイしているプレイヤーでも、ランクⅩのスキルなど、1つ持っていれば良い方らしい。

 これがスキル全体の説明。ここからが、桜が取ったスキルの説明だった。

 《戦鎚術》は、そのまま。戦いで使う鎚、ハンマーを扱うスキルだ。鎚を使った技を編み出せるし、その攻撃力は物理攻撃力の中でも上位。

 おまけに攻撃属性が〈粉砕〉。装甲の厚いモンスターや硬い装備を持った敵の装甲や防具、武器を破壊する事が出来るらしい。

 ……もっとも、重いし振り回しづらいしデザインが大体ダサいので、使い手はそれほど多くないとか。

 《パリィ》は武器で相手の攻撃を弾いたり、逸らしたり出来るスキル。これはスキルを取っていなくても出来るけど、スキルを取っておいた方がいいらしい。


 『スキル取らなくても使えるんですね!』と驚いて聞いてみると、トーマは呆れ顔で『いや、お前やってたじゃん』と言われて、さらに驚いた。


 今を持ってしてどれがパリィなるものだったのか、桜はいまいち分かっていない。

 アクティブ最後のスキルは《両手持ち》。これは武器を両手に持つようにする事で、攻撃力を上げてくれるスキルなんだとか。パワープレイには必須らしい。

 そして、パッシブにセットされている《剛力》《頑強》それに、《見極め》は、かなりゲームの中でも変わっているらしい。

 まず【ファンタジア・ゲート】では、力がいくつあるとか、素早さがどれくらい、なんていう、所謂『ステータス』というものは表示されない。

 いや、存在はしているらしいのだが、それは全体が隠しステータス扱いにしていて、プレイヤーには開示していないらしい。

 トーマが、というか運営が言うには、『より現実感を味わってもらう為』であって、数値で表示する事は今後もないらしい。

 ただ、存在してはいて、それをプレイヤーが上げたりする事は可能だ。それが、パッシブスキルの大半なんだそうだ。

 《剛力》は筋力を、《頑強》は耐久力を、《見極め》は攻撃のクリティカル値を(これも桜はいまいち分かっていない)を上げるのだとか。

 パッシブは常時効果が発動しているから、体を動かしていれば自然と熟練値が溜まっていくそうだ。

 《重装》は、重装備。重い金属鎧などを装備する為に必要らしい。

 ……全部トーマからの受け売りの所為で、ちゃんと理解しているか不安である。

 だが理解が何もないわけではない。トーマは出来るだけ桜にも分かるように噛み砕いて説明してくれていたし、大凡やる事は教えてもらった。


 ようは技を覚えて、ひたすらぶん殴る。


 簡単なように思えるが、リアルに作られたゲームの中で何十回と戦闘を続けるのは、大変なんだろうなぁと思うと同時に、楽しさが増していく。

 昨日の【訓練所】だけでも相当楽しかった。

 初期装備から初めて〈訓練用戦鎚〉を持たせて貰った時の喜びは一入だった。

 重さで重心が逸れ、最初は武器に振り回されていたが、慣れていくとその自分よりも重く強いであろう武器を自由自在に出来ているという事実が桜の喜びをより大きいものに変えた。

 パッシブスキルを取得する時はまるで現実で行う筋トレと同じような事をさせられたが、運動部に所属した事もない桜には、そんな単純な事でも新鮮さだった。


 新しきを楽しむ。


 ゲーマーがゲームを楽しむ上で最も大事なものを、ブロッサムは持っている。そうトーマに言われれば、そこに誇らしさすら混じってしまう。

 現実時間にしてたった2時間近い繋がりしかないのに、不思議と桜はトーマを気に入っていた。


「今日はお買い物と、フィールードに行くって言ってたっけ……」


 誰も聞いていないだろうという事を少し周囲を見渡して確認してから、これからログインした後の予定を考える。

 桜の(正しくはブロッサムのなのだが)スキルに合った装備を見繕う事と、戦い方に慣れておかねばならないそうだ。

これから起こる新しい経験にワクワクしながら箸を、



「え〜、莉子(りこ)、《銀鎧騎士団シルバーナイツ》に入ってるの!?」



 その言葉で止めてしまう。

 自分が嫌いな声を聞いて、有頂天になっていた気分はあっという間にドン底に突き落とされていた。直ぐに携帯端末を閉じて、見つからないように鞄の底に滑り込ませた。


「そーそー、ギルメンの人にどーしてもって言われちゃってさぁ、ほら、あたしぃ、魔術師プレイヤーでも結構優秀だからぁ」

「凄いじゃん莉子、《銀鎧騎士団》っていったら、5000人規模の、【ファンタジア・ゲート】でも最王手だよ!?」

「まぁ本当は乗り気じゃなかったんだけどねぇ、頼まれちゃったからさぁ」

「さすが莉子だよぉ」


 ちらりと視線を上げれば、丁度トイレから帰ってきた3人組が教室に入ってくるのが見えた。

 今日も彼女達の容姿は、完璧と言えるだろう。金髪やブラウンに染められた髪の毛はパーマをかけて、まるで何処かのお嬢様のような姿をしている。

 容姿も悪くないのだからそれは当然だが、それと反比例するように口調は酷く、あまり頭を使って喋っていないのを、クラスの善人が理解している。


 榊原莉子。


 クラスの中でも中心的な人物である。悪い意味で。

 自分が愛される事に全身全霊をかけ、それ以外の事に興味がない。同じく容姿が整っている人間と自分に傅く人間には優しいが、それ以外には理不尽な態度しか示さない。

 そんな女性が好きという男性もいるのだろうが、少なくともクラス内では問題児扱いされている。

 しかし、そうであっても簡単に逆らえない。

 その容姿と上手い口で、教師陣から関係ないクラス外の人間まで丸め込んでいる彼女は、敵も多いが味方も多い。逆らえば学校生活に支障を来たすのだ。

 だから、誰も彼女たちに文句を言わない。

 味方になっている連中は言うに及ばず、嫌っている人間達も遠巻きに見ているだけ。

 ――だから、虐められている桜を、誰も助けようとしない。

 そんな彼女も自分と同じゲームをやっていると知って、思わず身を硬直させてしまう。


「そんな事ないよぉ〜――ねぇ、香納、あんたどう思う?」


 いきなり呼ばれて、桜は慌てて箸をおいて視線を上げる。

 気付けば、3人はこちらを取り囲むように立っていた。ニヤニヤと、さも桜が格下だと言わんばかりに、容姿からは想像出来ないほど下品な笑みを浮かべている。


「な、なにが?」

「もう、香納は相変わらずバカだなぁ。【ファンタジア・ゲート】よ。あんた知ってんでしょ?」


 小馬鹿にするようにそう言われて、思わずいつものように媚びるような笑みを浮かべる。


「え、えへへ、ごめん、知らない。名前は聞いた事あるけど、」

「え〜ダッサ。皆やってんのに、香納おっくれてる〜」

「しょうがないよぉ莉子、ほら、香納って鈍臭いからさぁ、あんな激しいゲームなんて出来ないって」

「それもそうだねぇ!」


 庇うような事を言いながらこちらをバカにすると、彼女達は大きな声で笑う。



「――あ、あはは、そう、だね」



 ――ああ、まただ。

 またこうやって言い返せない。

 ゲームをやっている事を知られたくないし、この場で言い返して襤褸を出したくないから。そんな弱腰に出て良 い言い訳を、自分に言い聞かせながら。


「あれ、香納、美味しそうなもん食べてるねぇ」


 そう言いながら、莉子は桜が食べていた弁当を手に取って眺める。


「誰が作ってくれたの?」

「えっと、お母さん、」

「へぇ、お母さん料理上手いんだぁ。




 でもさぁ、頭も使わない、運動も出来ないアンタが食べる資格、無いでしょ?」




 どういう意味ですか。

 そう質問する間も無く、莉子は半笑いを浮かべ、その弁当を、丁度開いていた窓の外へ放り投げた。

 外は丁度学校の敷地を守る壁の間近。殆ど人が通る事もないそこに、弁当箱は虚しく落ちていき、小さな音を立ててコンクリートの地面に打ち付けられる。

 ――きっと割れてしまったな。

 ショックを受けて静止している頭では、その程度の感想しか浮かばなかった。


「キャハ、何その顔、おっかし〜」


 その言葉で、莉子と取り巻き2人はゲラゲラと笑い始める。

 ……その言葉に何も言い返せず、桜はそっと立ち上がって、外に落ちていった弁当箱を拾いに行く。

 莉子達はそれを見咎めない。きっと弁当箱を拾い集めている自分を見て、また笑いたいが故なのだろう。

 諦めにも近い感情の中に微かな悔しさを含ませながら、桜は振り返らずにその場を立ち去った。







次回の投稿は11月3日の20時に行います。


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