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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第2ターン:初イベントとベヒモス
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26 蛙鳴蝉噪






 ――店内は時間帯もあって、大変な賑わいを見せていたが、それでも、桜は直ぐに仲間がどこに座っているのか分かった。


 まず見えたのは、2人分の小山だった。


 1人は、30代そこそこといった年齢の男性だった。

 顔が隠れてしまうほど長くされた髪の毛を一括りにし、あまり変化に乏しいその表情は、まるで厳しく、悩ましく顔を顰めている仏像のような雰囲気を持っている。

 筋肉は服の上からでも分かる程、しっかりとついていた。


 1人は、もっと年齢を重ねた、あともう一歩で老年と呼ばれるような男だ。

 片方の男とは、10センチほど差があるように思える。年齢の事を考えれば、もっと衰えてもおかしくはないのだが、隣の男に負けずしっかりとした筋骨をしている。

 灰色がかった白髪の坊主頭をボリボリと書いているその手は、まだ夏でもないのに、こんがりと焼けていた。


「――ビックさん、と、仁王、さん?」


 《嘲笑う鬼火(ウィルオーウィスプ)》の中でも、大柄な体格をしている2人の名前をあげてみると、その2人はほぼ同時にこちらを見た。


「………………ブロッサム、か?」


 若い方の男――ビックマウンテンが、少し驚いたような顔をする。


「お、おお! 本当だ! ブロッサムちゃんか!? こりゃあ驚いた、結構なべっぴんさんだな!!」


 老齢な男――仁王は桜を見ると、ゲームの中と同じように、ガハハと笑いながらこちらを見ている。

 2人とも、ある意味想像通りの姿だった。


「やっぱり! 2人とも、現実でもきっとムッキムキだと思いました!」

「……嬢ちゃん、気持ちは分かるがなぁ」


 興奮気味な桜の言葉に、仁王もビックもどこか苦笑いだ。そりゃあボディービルダーや一部のスポーツ選手でない限り、ムキムキと呼ばれて喜ぶ人間も少ない。

 だが、1つ予想外だった事がある。仁王の年齢だ。

 VRMMOの歴史がそれなりに積み重ねられているとは言え、ゲームと呼ばれる物には何とはなくでも年齢制限のようなものがある。

 法律でもなんでもない、そういう空気があるし、実際現代でも、仁王のような老齢な人物がゲームをしている事例は、そう多くはない。


「ん? なんだ嬢ちゃん、やっぱり俺の年齢が気になるかい?」

「あ、いえ、それは……すいません」

「気にすんな。こんな爺さんがゲームやってるなんて、なかなか無いもんな」


 下げられた桜の頭を、仁王は少し乱暴ながらにも撫でる。


「俺はちいと早期引退ってのをしてな。体が資本の仕事だったから、どうしても年取ると現場に立たなくなる。

 余った時間つうのを潰したくてな。それに、武器作りが出来るゲームにも、興味があったからな!」


 目に写っている光は、まるで子供のそれのように輝かしい。


「なるほど、そういう事ですか……お仕事は何を?」

「おう`――戸隠で刀鍛冶やってたんだ」

「刀――えぇ!?」


 桜の驚きの声が、賑やかな店の中でもはっきりと響く。

 ゲームの中で武器を作っている男は、ゲームの中でも武器を作っている。想像していた仕事よりも、少し異例のものだった。


「まぁ、つっても現在じゃ刀より包丁作ってる事が、多いんだがな。

 それより、ビックの方が意外じゃ。トラック運転手やっとってどうやってゲームにログインしてるんじゃ」

「…………最近は、無線Wi-Fiでも、可能」

「よく処理能力保ってるのぅ」


 仲良く話し合っている2人の間に、今度は統児が入っていく。


「言い方は悪いが、まぁ想像出来ないよな。それより、俺とも挨拶してくれお二人さん」


 桜の隣に統児が進みでると、2人と握手を交わし始める。


「おお、お前さんか。そういうお前さんは、ちいと予想外だったぞ、トーマ」

「なんだ、やっぱり足がないと、」

「いや、………………思ったより、素直そう」

「ガハハ! そうそう! もっと捻くれた顔しとるかと思っとったわ!」


「うるせぇほっとけ!」


「うちらへのコメントも! コメントくれくれっス!」

「ちょ、ネオさん引っ張らないでください巻き込まないでください!」


 いっきに場は賑やかになっていく。

 ビックマウンテンと仁王がひたすら、新しく対面した面々へのリアクションをし、そのリアクションに一喜一憂する。

 きっとオフ会ではよく見られる光景なのだろうが、桜にとっては新鮮な光景だった。


 知っている筈なのに、知らない。

 知らない筈なのに、知っている。


 現実では滅多に巡り会えない状況に、桜の胸は高まっていた。


「――楽しいですか?」


 不意に声をかけられる。

 振り向いて見ると、短髪の男性が立っていた。

 ブラウンの角刈りで、身長は先ほどの2人と比べれば随分小さい。それでも、桜よりは大きかったが、何より特筆すべきなのはその体だろう。

 ビックの体とは違い使い熟されたその体は仁王にも違かったが、仁王のそれとは違いこちらはどちらかと言えば力を出すだけの物のようには見えない。

 桜も専門外だからよく分かっていないが、印象はどちらかと言えばトーマに近いだろう。

 ある目的の為に体を鍛え、現役で使っているような印象、とでも言えばいいだろうか。

 そんな男性は、柔和な笑みを浮かべて話を続ける。


「ビックさんは『大山 猪三郎』、仁王さんは『後藤寺(ごとうじ) 阿吽(あうん)』というお名前だそうです。まるで時代劇で登場するような名前ですね。

 あの2人に比べれば、私の名前など変わっているの範疇には入らないでしょう」


 その話し方は、その雰囲気は、その笑みは、どこか見覚えがあった。


「……善良さん、ですか?」


 そう聞いてみれば、柔和な笑みはさらに深くなる。


「その通り。こちらでは大豊(たいほう) 善和(よしかず)と申します。警察官をやっています。どうかよろしく」

「あ、はい、香納桜です、女子高生をやって……え?」


 頭を下げられ、こちらもそれを返そうとして――途中で静止する。

 何かさらっとそんな事を言われたが、ものすごく重要な情報が入っていたような気がして、もう一度善良を見る。


「……警察官、ですか?」

「? はい、警察官ですが?」


 警察官。

 法律違反を取り締まり、治安を守る国家公務員。捕まえる犯罪者の幅も大きい。

 それこそ、変質者から殺人犯まで。

 ……そう、変質者、とか。


「……ああ、皆さん僕の職業を言うと、同じような反応をされてらっしゃいます」


 不思議そうに言っているが、そりゃあそうだ。

 現実では捕まえる側に立っているのに、ゲーム世界では捕まる側になっているなんて、誰も想像してはいないだろう。

 本当にアレ――全裸になる事は、趣味ではないのだろうかと疑ってしまう。


「おっと、それよりも、貴女をこちらにお招きしようと思って声をお掛けしたんでした」

「? こちらとは?」




「ええ、《嘲笑う鬼火》の、妙齢女性の会、とでも言えるでしょうか」






 ――席の片隅には、3人の女性が座っている。

 1人は、紫のメッシュが入ったベリーショートを持つ、パンクな服装に身を包んだ女性だ。こちらはゲームの中と大きな違いはない。

 というより、敢えて合わせているような気さえしてくる。

 もう1人は、優しげな笑みを浮かべている女性だ。軽く天然パーマが入っている栗色に染められたショートヘア。

 女性らしい体型を、赤茶色のロングスカートと、カスタード色のニットで彩っている。

 そして最後の1人は……どちらかと言えば、厳しい表情をしている。

 赤茶色の長いロングヘアで、きっと『高嶺の花』という表現は彼女のような女性に使うのだな、と思えるほど凛とした美人だった。

 ばっちりメイクされているせいか、3人の中でも1番華やかだ。

 1人目がクリアリィ。

 2人目がサマサ。

 そして3人目がマーリンである。

 3人とも自分より年上、20代。善良が言うように“妙齢女性”だった。

 そんな彼女達は桜への挨拶もそこそこに、彼女を取り囲むように座り込んだ。状況がよく分からない中、サマサが口を開いた。


「それでは、第一回『《嘲笑う鬼火》恋愛会議』を始めたいと思いま〜す」


 まるで緩い声色だが、内容はなかなかどうして謎めいている。


「えっと、どういう事でしょう?」

「いや、どういう事もへったくれもないわ!」


 困惑した桜に対して、マーリンはビシッと完璧にマニキュアも整った、綺麗な指先を向ける。


「トーマとはもう会ってるってのは聞いてたけど、距離感が近い、近過ぎる! 私の乙女センサーにビンビン反応しているわ!」

「ハァ、乙女センサー、ですか」

「あ、乙女って年齢じゃないでしょ、とか思ってるなら怒るから」


 理不尽だ。

 どこか引き気味になっている桜に、隣に座っているクリアリィは優しく肩を叩く。


「ああ、あの絡みは面倒だから無視してね。

 でも、ちょっと興味があるのは本当。ゲームの中でも思ったけど、2人ともかなり仲良さそうだよねぇ」


 肩を寄せてくる彼女は、ゲーム内と変わらず優しそうだが、今は少し意地が悪い。

 女性はどんな年齢になっても、恋愛話というのが好きらしい。


「ほらほら、どうなってんのぉ? どこまで行ったのぉ」

「言い方が酷いです! というより、私とトーマさんとは何でもありませんから!」


 テーブルを力強く叩いている桜に、3人の女性は楽しそうだ。


「う〜ん、でも見ていると、『何でもない』って事はないと思うけど」

「うっ……」


 そう言われて、視線は勝手に統児の方に向く。

 男性陣の中で楽しそうに話している統児は、確かに良い人だ。


 大事な部分ではしっかりしているし、男性として格好が良いと思う。いやでもそんなに時間が経っていないというのもあるが、そもそも桜はそういうのが想像出来ないというかいやけして興味がない訳ではないんだがそういうのに目を向ける余裕がないので、


「ブロッサムちゃん落ち着いて、なんか顔が赤くなって目が泳いでるよ?」

「ハッ」


 クリアリィに話しかけられて、ようやく我に返る。

 どうやら、考え込みすぎていたようだ。


「うん……これはアレだね、ツッコミ過ぎると不味いやつだね」

「ゆっくり育ててかなきゃいけないやつか……チッ」

「マーリンちゃん、嫉妬が漏れてる」


 ――宴はこうして、騒々しい中から始まった。

 というか、この先が不安になる始まりだった。






次回の投稿は11月29日の20時に更新を行います。

あと2、3回の更新は、リアルの都合で一日一回になりそうです、申し訳ないです。

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