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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第1ターン:ゲームへの招待
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3 会話と勧誘






 戻ってきてからは、あっという間に、という言葉がぴったりな展開だった。

 さっきまであれ程迷っていたのが嘘のように【始まりの街】に戻ってきたのだが、トーマと名乗った青年はブロッサムをあらゆる場所に引っ張っていった。

 まずは、市場に並んでいる装備を物色。

 残念な事に、既に初期装備として与えられた剣も革鎧も、耐久値と呼ばれる装備の数値を減らし、使い物にならないレベルになっているそうだ。

 トーマはそれを把握すると、取り敢えずという事で簡単な装備の購入方法を自分に教えてくれて、自分好みの服を買わせてくれた。

 どうせ装備は別個で買わざるを得ず、しかも買った服は10Mにも満たないから大丈夫、というよく分からない助言を貰ったが、まさか下着インナー姿で歩き回るわけにもいかないので、無理矢理納得した。

 それから、トーマが教えてくれたのは【フレンドの登録方法】と【文字チャットを利用したアイテム交換方法】を行なってくれた。

 教えてくれているものの、終始失礼なトーマと友達フレンドになるというのは嫌な気分もしたが、それしか方法がないのだから仕方がないと、それを受け入れ、アイテムを貰った。

 〈ボアの毛皮〉2つと、〈ボアの牙〉1つ。

 これがどれ程のアイテムなのか分からない(トーマの言い方では、あまり良くはないのだろう)が、それでも初めて自分が手に入れたアイテムに、ブロッサムの胸は高鳴った。

 そこで終われば、親切な人だった程度の印象だっただろう。

 だが、トーマは「まだ話す事がある!」と言ってブロッサムを連れ出し、そのままよく分からないお店の中に入っていった。

 最初は南国にでもある建物そのもののように思えたが、メニューを見る限り、どうやら現実で言うところの喫茶店らしい。半分もメニュー名を理解出来ないが、それが少なくとも、自分が飲み食い出来る金額ではないと理解し、


「……お水でいいです」


 とだけ言った。

 自分の姿で何かを察してくれる事を期待したが、相変わらずトーマはマイペースだった。いくつかの料理らしき名前と、何かの飲み物らしき名前を店員に伝えて、好青年(そうに見える)らしい笑みを浮かべてメニューを返していた。


「……あの、……私、払えるお金全然ないです」


 椰子の木のような素材で出来た長椅子に身を小さくして座っていると、トーマは苦笑を浮かべる(ように見える)。


「初心者にたかるほど、金には困ってない。

 お前こそ何か奢ってやるから、食べたらどうだ? VRゲームの食事は基本美味い上に、実際の脂肪にはならない。小腹が空いているなら最適だぞ?」

「――っ……いえ、結構です」


 正直体を動かしてお腹は空いているが、目の前の胡散臭い青年に奢られたくはなかったので、少し慇懃に断る。

トーマはそれを見て「あっそ」と少し拍子抜けなくらいに引き下がってから、出された水を一口含む。


「ッ――さて。取り敢えず、無事生還おめでとう。あんな初期装備で、スキルすらまともに使えない状況、、よく生き残ったよ」

「ハァ、アリガトウゴザイマス」


 褒められて嬉しいはずなのに、上から目線の所為で素直になれず、言葉は棒になる。ほんの少しだけそれに苦笑すると、トーマは話を続けた。


「それでだ。お前に話しかけようと思ったのにはいくつか理由があってな。まぁ、罪滅ぼしって意味も強いんだが」

「? つみほろぼし?」

「ああ……実はな。お前と〈ファイティング・ボア〉の戦い。オレは最初の方から知ってた。見てたわけじゃなくて、木の上から音が聞こえてたんだがな」


「なッ!?」


 ブロッサムは勢い良く立ち上がり、トーマに食ってかかる。


「じゃ、じゃあどうして最初から助けてくれなかったんですか!? あの猪を一撃で倒せるなら、」


 捲し立てられているにも関わらず、トーマの態度は冷静そのものだった。


「音だけじゃ『どういう強さの奴が』『どういう風に』『どんなモンスターと』戦っているかは分からないからな。スキル上げやドロップ目的のプレイヤーなら、俺の助太刀はいらない。むしろ邪魔になるだろう」


 そう言うと都合の良いタイミングで店員が料理を運び込んで来て、ブロッサムは慌てて身を引いた。店構えに合った南国風の料理が並び、ブルーハワイのような色合いの飲み物が彼の手元に置かれる。

 それを持って一口だけ飲んで頷くと、トーマはもう一度口を開く。


「このゲーム【ファンタジア・ゲート】にはゲームシステム的なルール以外にも、ルールはある。まぁ、マナー程度の暗黙の了解だがな。

 『無断でプレイヤーを殺すな』とか、『交渉する時はお互い紳士的に』とかな。その中の1つが、『フィールド内での横殴り禁止』ってやつだ」

「……ずっと気になっていたんですけど、その、よこなぐり、ってなんですか?」


「他のPT(パーティー)やプレイヤーが戦っているモンスターに、勝手に攻撃する事だ。

 例えば、ある程度HPを減らした敵を別の奴が殺す。PT登録されていれば、そのプレイヤーの数だけ配布品が出る。俺とお前がPTを組んでいれば、お前の方にも毛皮なり牙なりがドロップしていたはずだ。内容は多少変化するがな。

 だがPT登録もしていないプレイヤー同士だった場合、モンスターから得られる素材やドロップ品は、『最後に攻撃した人間に』配布される。これだけで、意味はわかるだろう?」


「あ、そっっか……」


 自分が散々戦ってHPを削っていったのに、美味しいところだけ他人に取られれば、怒りを覚えて当然だ。

 特にどういう事情で戦っているのか分からなかったのだから、余計な手出しをするのは逆に相手に失礼になりかねない。


「何考えているかは分からないが、多分そういう事。

 このゲームは、MMOだ。人間同士群れれば当然諍いは絶えない。そこで、一定のマナーやルールを守るんだ。それで誰か死のうが何かを失おうが、それはあくまでそのプレイヤーの自己責任だからな」


 木で作られたガパオライスのような食べ物を掬って口に含むと、トーマは美味しさの為に目を細める。


「ん、やっぱ美味い……だがまぁ、見てみれば無料で貰った装備しか付けてない、あからさまな初心者が戦ってる。こりゃあいかんと思って助けたって次第さ」

「それは……ありがとうございます」


 改めて、今度は素直に礼を言う事が出来た。

 てっきり薄情な人なのかと思ったが、自分の勘違いだったようだ。


「別に良いさ。『初心者には優しく』も、マナーの一種だ。

 じゃあ、今度は俺の質問。アンタ1人でプレイしているみたいだけど、仲間とかいないのか? もしかして、1人でゲーム始めた口か?」

「ああ、いえ、……兄がプレイしているんですけど、」


 ブロッサムは少し困惑するように口ごもる。

 最初は初めてのVRゲームだ。やっているならば、兄にゲーム内での案内や助言を頼もうと思ったが、心優しい兄にしては珍しく、その頼みには難色を示した。

 『実は俺、結構大きなギルドに所属してて……もし俺と遊ぶようになっちゃったら、桜を縛っちゃう事になりかねないから』と言われたのは、今を持って意味が変わらない。

 それでも、その言葉の後に続いた、『でも折角なんだから、1人で試行錯誤するのも楽しいと思うよ』という提案に魅力を感じたので、その場では深く追求しなかったのだ。


「何か事情があるようで、大きなギルドがどうとか、縛っちゃうからって」

「……ああ、なるほど」


 我ながら、随分曖昧な言葉を使って説明したなと思っていたのだが、予想外な事にトーマは訳知り顔に頷く。


「え、何か知ってるんですか? もし良ければ、教えて貰えますか?」


 そう言うと、一瞬だけ逡巡するような仕草をしてから、木のスプーンを置いてこちらを見る。


「そうだな……ブロッサムは、流石にギルドって言葉の意味は分かるよな?」

「ええ、確かプレイヤー同士が集まったチーム、みたいなものですよね?」


 ギルド。

 仲の良いプレイヤー同士が集まって作られるチーム、組織のようなものだと、公式ページには書いてあった。

 然るべき方法で登録されたそれは様々な恩恵を得られると同時に、共通の友人を増やせる良い方法の1つと説明されているそれは、ブロッサムが興味を惹かれた要素の1つでもある。


「ああ、間違っていないが、説明不足だな。さすが運営」

「? と、言いますと?」


「システムとしてはそうだが、内実はもうちょっと複雑だ。

 ギルドってのは、ようは同じ目的や理由があって作られる。『楽しくプレイしたい』とか、『自分のやりたいプレイの仲間が欲しい』とか軽いのもある。

 中には、もっと厳格な理由で作られるギルドも中にはある。『マナーの悪いプレイヤーと戦う』とか、『攻略に真剣になる』とかな。そういうギルドは、あまり初心者向きじゃない」


「……兄のギルドも、そういうのだって事ですか?」

「可能性を言うならな。それに、大きなギルドって言ってたんだろう? このゲームの中でも大きいって事は、最低でも1000人規模はあるんじゃないかな?」


「せ、せんにん!?」


 驚きで声が張り上がる。


「そ、そんなに所属しているギルドもあるんですか……」


「まぁ、大手ギルドなら、数千人が所属している例は珍しくはないな。もっともトップギルド全部がそうだって訳じゃないけどな。

 それでだ。そういう人数が多いギルドに所属していれば、個人が勝手に動き回るってのは難しくなる。初心者には酷だし、アンタに付きっきりになる事も出来ないだろう。

 お前の兄さんとやらは、そういう所を危惧したんだろうな」


 なるほど、と口に出したいのに、驚きでただただ頷く事しか出来なかった。

 ゲームでの話とは思えない。ギルドの大きさもそうだが、折角遊びの場なのにそのように小難しい事を考えている人がいるんだという事に驚いた。

 ただの――、


「ただの遊びなのに、か?」

「――ッ」


 トーマの見透かすような言葉に、思わず息を呑んだ。

 図星だったから。

 それに対して気分を害した様子もなく、トーマは食事を再開しながら話を続ける。


「まぁ、遊びだからこそ本気になる奴らってのは一定数いるもんさ。本気でやるの方向性が違うだけでな。

 特にこの中は現実と違いはない。そりゃあファンタジーの世界観だから変化はあるが……実際の人間が集まってプレイしていれば、そういう事もあるのさ」

「……貴方も、そうなんですか?」


 思わず、疑問が口に出てしまう。

 ボアを倒した事だけではなく、目の前の人はきっとこのゲームを長くプレイしているのだろうという雰囲気を感じたからだ。

 一瞬だけ木のスプーンを止めると、トーマは笑みを浮かべた。

 子供のような――だけど、獰猛な獣にも似た笑みを。


「おう、全力で真面目に遊んでいるさ」


 その表情に、妙な羨ましさと悔しさが混じり合った複雑な感情を抱き、ブロッサムは黙って水を煽る。

 氷が浮かびひんやりしている水が通っていけば、爽快感が体の奥を突き抜けてく。どうやら自分が思っていた以上に、先ほどの戦闘で喉が渇いていたようだ。


「ッ――それで、なんで私に話しかけているんですか?」

「んだよ、助けてやったのに随分な言い草だな」

「いえ、感謝はしていますけど……もう、用はないんじゃないかなって」


 目の前の人は少々態度が軽いようだが、悪い人ではない。少なくともここまで話して、からかうような雰囲気はあっても、心の底から馬鹿にするような印象は持たなかった。

 だが、ここから先は別に用事がないのではないか、とも思っている。

 モンスターから助けてくれて、アイテムの買い方を教えてくれて、しかもドロップしたアイテムをくれた。

 それだけで、もう十分お世話になってしまっている。これ以上話しても、彼には益がないのではないか。少ない知識の中から考えうるのは、そのような結論だった。

 不安そうな表情でもしていたのだろうか。トーマは少し気まずそうに笑みを浮かべると、重々しく口を開く。


「ああ〜……俺はこのゲームが好きだ。結構長い期間プレイしているし、愛着みたいなものがある」

「はい、」


 何を言っているんだろうなどと考えながらも、トーマの言葉に素直に頷いておく。


「特に戦闘は楽しい。俺が戦闘系プレイヤーだからかもしれないが、この世界で戦闘を全く行わないってのは結構難しいんだ。

 生産系スキルを中心にして生きるにも、商売系のプレイに手をつけるにしても、最初は皆戦いのスキルを磨く。そうしないと、素材も元手も集まらないからだ。

 だから、戦闘に慣れる。戦闘の感覚を理解するってのが、初心者が最初にぶつかる関門なんだ。このゲームはリアルだ。モンスターやエネミー相手でも、恐怖を感じる。



 お前はその……大丈夫かなって」



 ――目の前の人は、想像以上に優しい人だった。

 モンスターとして、ボアと呼ばれる猪は弱かったのだろう。

 でも立ち向かっている時、怖かった。不思議なほど負けん気と勝気が湧き上がってきたからこそ戦い続ける事が出来たけど、恐怖心も不安感も、その間いなくなっていたわけではない。

 心の奥底で滞留していただけ。

 正直、あの感覚をもう一度感じてくれなんて、ゴメンだと思っている。

 誰だって怖い思いはしたくない。折角のゲームだから、楽しくしたいと思っているのだから、当然の考えだと思う。ブロッサムには、それを否定する事は出来ない。

 プレイヤーが10万人というのも、きっともっと多くの人が挑んで、それでも挫折していった結果の人数なのだろう。

 その何割かは、きっとここで諦めてしまった人達なのだろう。彼はそれを心配してくれているのだ。

 だからこそ、




「――大丈夫です。また戦います」




 怖いと思う自分を、恐怖心で身を竦ませてしまう自分を、何も出来ない自分を変えたくて、ゲームを始めてみたんだ。

 それを今更やめですとは出来ない。

 したくない。


「……そうか。まぁ、予想はしてた。あんた、中々度胸がある方みたいだったしな」

「そう、ですか? さっきの戦いでも、足がすくんでばっかりでしたけど」

「んな事ないって。ズブの初心者が〈ファイティング・ボア〉3体に一歩も引かずに善戦したんだ。立派なもんだ」

「え、へへ、そうですか」


 思っても見なかった賞賛の言葉に、頬が無意識の内に緩んでいく。


「おう。あとはしっかり自分に合ったスキルを取得して、ランクを上げながら、アーツを作る。頑張っていけば、それなりに上位のプレイヤーにもなれるかもな」


 その言葉に、瞬間接着剤でも塗りたくられたんじゃないかというくらい、表情が固まってしまった。


 スキル?

 …ランク?

 ……アーツ?


 聞いた事があるけど内実ほとんど分かっていない言葉に、頭の活動が急停止してしまったのだ。


「どうした、石地蔵みてぇに固ま……おい、まさか、冗談だろう?

 ――お前、公式ページ見たんだよな? キャラクターメイクの時のアナウンスちゃんと聞いてたんだよな?」


 頼む、見たと、聞いたと言ってくれ。

 暗にそんなニュアンスを含んでいるトーマの言葉に、今度はブロッサムが重々しく口を開く。


「す、すいません……公式ページは世界観ばっかり見て、システムは斜め読みで……アナウンスも、キャラメイクに夢中で……聞いていませんでした」

「………………」


 ああ、こんな所にもリアルになったVRの弊害が存在する。

 心底呆れたという表情がここまで綺麗に見えるなんて、理不尽だ。


「……ようし、お前が今世紀最高峰のバカだという事は理解した」

「うう、面目次第もございません」

「いや、そういうプレイヤーもいるし、あそこにいる時点で許容範囲ではあるんだがな……だが、渡りに船ってところだな」

「?」


 その言葉に申し訳ない気分で視線を下げていたのを、トーマに向けてみた。

 笑っている。

 笑っているけど、先ほどの優しい笑みやこちらを慮るような苦笑でもない……どこかの漫画で『計算通り』とか言いそうな表情だった。


「いや、あんたには結構な才能があるようだからな。今のうちに恩を売っておくのも悪くないと思ってたんだ……ハハッ、渡りに船、丁度いいって話だ」

「あの、すいません、なんか顔、怖いんですけど……お、お金はありません!」

「知ってるよ、人聞きの悪い事言うな。




 ブロッサム……お前、しばらく俺と組め」




 ――はい?







次回の投稿は11月2日の20時に行います。


『《勇者》ト《眷属》ノ物語』もどうかよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n0608du/

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