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鬼火遊戯戦記  作者: 鎌太郎
第1ターン:ゲームへの招待
29/94

28 真の仲間と驚きと






「なんなの!? 何でそいつばっかり!

 私がやった事の何が悪いっていうの!? 皆やってるじゃない! 私を責めるなら、そいう奴ら全員を捕まえてから言いなさいよ! 何で私ばっかり!!

 なんのよ、皆偉そうに!! 皆揃いも揃ってただの引きこもりゲームオタクのくせに、私に偉そうに説教してるんじゃないわよ!!」




 立ち上がり、絶叫する。

 リコリッタの取り巻きが慌てて手を差し伸べるが、それさえも振り払い、ヒステリックに怒鳴り散らす。


「私が上手かったからって、嫉妬!? 私がちょっと良い顔すればのぼせ上がるバカどもからお金貰って何が悪いっていうのよ!!




 たかがゲームでしょ!? こんなの遊びじゃない!! それなのに、皆真面目に――バカじゃないの!?」




 その言葉に、会場全員。

 《嘲笑う鬼火(ウィルオーウィスプ)》やアーサーに至るまで、殆どの人間の敵意と殺気が、リコリッタ1人に向けられる。

 それは、『そうなるように作られた』モンスターやエネミーなどの殺気とは訳が違う、本物の殺気。

 偽物本物の違いは、重さ。

 まるで山1つを背負うような重圧が、リコリッタを襲った。

 言ってしまえば、それだけだろう。視線と感情をいくら向けられようとも、殺すまでには至らない。

 しかし、幻覚を覚える。

 5000人以上集まっているこの場でたった1人でその感情を向けられているだけで、殺されると思ってしまうほどの殺気は、アバター(からだ)を傷つけずとも、莉子本人(こころ)を傷つけるには十分な威力を持っていた。


「――まぁ、そうだなぁ」


 その敵愾心の嵐の中で、トーマの声だけが静かに響く。


「ここは所詮ゲームの中。仮想で、現実じゃない。所詮、遊戯(あそび)だよ。

 でも、遊びの中にも本物があるってのを、アンタは理解出来ていなかったんだな」


 ……どこまで言っても、現実にここが存在する訳ではない。

 顔を合わせるプレイヤーがその通りの姿である訳ではないし、性格だって偽る事が出来る。スキルランクを上げたところで、所詮それはここの中だけの強さ。

 だが、本物はあるのだ。

 スキルを上げる為の努力や熱意、一緒に苦難を乗り越えた仲間との絆、作られた世界であっても、世界を救ったという達成感。

 全部が全部、偽物ではないのだ。

 殆どの人間にとって偽物であったとしても、この世界で起こった事全てに価値がある。

 アクティブアカウント10万人を誇る【ファンタジア・ゲート】をプレイする大多数が思っている事だろう。


「――それすら理解出来ないから、アンタはそこにいるんだろうな」


 本当のコミュニケーションを必要とするMMOだからこそ感じる本心。

 口には出さなくても、真摯に受け止めている者と、小馬鹿にしている者との違いは大きい。そういうのは、雰囲気に出るものだ。


 だからリコリッタの周囲には、そういう人間しか集まらなかったし、今敵の中で膝を抱えている。

 だからブロッサムの周囲には、そういう人間が集まり、勝利の中で真っ直ぐ立っていられる。


 ゲームの中から、現実へと何を持って帰れるのか。

 逃げた先で何を得られるのか。

 それは本人の向き合い方と、努力の方向性次第なのだ。



「つまり――ゲーム舐めんなよ、クソガキ」




 トーマのその言葉で、リコリッタの心は本当の意味で挫けた。







「ハァ、終わった終わった」

「で、これから祝勝会かい? 実際に戦っていなかった僕らが参加するのは如何なものかと思うけど」

「気にする事ないんじゃない? 結構お金も入ったし」

「いくらくらい入ったンスか?」

「………………興味」

「んふふ〜、1億M」

「へぇ〜、アーサー、大盤振る舞いね」

「……お肉何個分でしょう?」

「サマサ殿、いちいちお肉換算するのはどうかと思うでござる」

「ガハハ! とにかく動いたから腹ぁ減ったわい!」

「仁王は逃げ回ってただけでしょう! 私は歌いまくったから疲れた!」

「では、イワトビさんの所で食事でも」

「それ拙者が苦労する絵面しか見えねぇでござる!」


「「「「「「「「「「頑張れ、《卑怯ペンギン》」」」」」」」」」」


「その二つ名嫌いだって言ってんでしょ、爆破するでござるよ!!」


 皆、楽しそうに談笑するのを、ブロッサムは後ろから見ていた。入るのに、気後れしてしまったのだ。

 今回、自分は助けて貰ってばかりだったように思える。いいや、ゲームを始めてからずっとそうだった。誰かに助けてもらい、背中を押して貰ってばかりだった。

 そんな自分が、我が物顔でその輪に入って良いのか分からなかった。

 そんなブロッサムの肩が、ポンと叩かれる。


「なにしてんだ。お前も入ってけよ。祝勝会、出るんだろ?」


 トーマの優しい笑顔に、ブロッサムは視線を下げる。

 申し訳なくて、目を合わせられなかったから。


「……私、このまま、このギルドでお世話になっても良いんでしょうか?」

「……は?」

「いえ、その、また自己評価が低い事を言っている訳ではなくて、私まだ初心者で、皆さんの役に立てる事がないんです。それなのに、仲間面して、一緒にいて良いのかなって」

「………………ハッ、」


 トーマが息を吐く。

 溜息でも、ついでに言えば咳でもない。


「アハハハハ!!」


 大爆笑の始まりでしかなかった。


「え、ちょっとなんで笑うんですか!?」


 真面目に言った言葉の返事が大爆笑で、思わず怒りに染まった顔を上げる。それもまた他人からしてみれば、ちょっとふくれっ面程度なのかもしれないが、ブロッサムにとっては真剣な講義だ。

 そんな彼女に、必死で笑いを堪えながらトーマは口を開く。


「だって、フッ、役に立たないとか、お前、どこをどう見ればそんな考えに……ブフゥ、アハハハダメだめっちゃ面白い!」


 トーマの笑い声を聞きつけ、なんだなんだと、先を歩いていたはずのメンバーがこちらに近づいてくる。


「だ、だって私、最初から迷惑かけて、きっとこれからも貰ってばっかりになるんですよ!? 良いんですか!? 私わりと面倒ですよ!?」

「力強くそんな宣言する人、僕初めて見たんだけど」


 ブロッサムの力説を、コウが思わず笑いながら突っ込んでしまう。

 それを聞いて、ブロッサムは周囲を見渡した。

 誰もその言葉に同意しているものはいない。むしろ皆困惑し、隣にいる人間と見合っている。まるで『何言ってんだこいつ』というように、それを隠しもしない。

 ……え、違うの!?

 ブロッサムが困惑しながら周囲を見渡しても、誰もブロッサムの考えに共感する人間はいない。


「あのなぁブロッサム。『役に立つから仲間にする』んじゃねぇんだよ。逆に『迷惑かけないから仲間になる』でもないんだよ。

 迷惑かけんのも、かけられんもの〝当たり前〟なんだよ」


 そのトーマの言葉に、全員が頷いて口を開く。


「そんな事言いだしたら、1番迷惑かけてるのはギルマスだよな」

「そうですなぁ…………あまり言いたくはありませんが」

「………………同意」

「俺ぁ戦闘で弱いから迷惑かけっぱなしだぞ?」

「あ、私も、歌しか鍛えてないから戦力にならない」

「ギルマスの所為で、何度解散の憂き目にあったか分からないっス」

「偉そうにしてるイワトビも、何度も迷惑かけてきたし」

「過去の話はしないでくださいでござる!」

「キャラぶれてるわよゴザル……まぁ、私は別にブロッサム…さんが、入るかはどうでも良いんだけど」

「マーリンちゃん、それツンデレよ……私も、結構皆に迷惑かけてるし」

「あ、私も〜」

「「「「「「「「「「「お前は迷惑〝しか〟かけてない」」」」」」」」」」」

「ちょっ、そんな一斉に言わなくても良いじゃん!」


 マミの言葉を最後に、皆で破顔する。

 まるでコントのような一連の流れに置いていかれたブロッサムに、トーマは話す。


「ギルドの仲間ってのは、『迷惑かけても許せる奴ら』の集まりなんだよ。『役に立つとか関係なく仲良くしたい』って連中の集まりなんだ。

 だから、ブロッサムに直であった奴はそう判断したんだし、会わなかった奴らだって、お前の話を聞いて、そう思えるかもって思って仲間になる事を受け入れた。

 まぁうちは、良い意味でも悪い意味でも有名ギルドだが、だからって敷居が高いって事はないんだぜ?」


 ――本当に?

 何もいらないの?

 だって私は、何もないから、嫌われていたのに。

 何もない、むしろ邪魔だと思われたから――一人ぼっちだったのに。

 1人でいる事が、当たり前だったはずなのに。今そこにいる全員――《嘲笑う鬼火》のメンバー全員が、ブロッサムを優しい目で見ている。

 誰も、彼女を厄介者だと扱う人間は、ここににはいない。

 それが分かったからなのだろうか、心の中に温かい何かが入ってくる。それは、学校にいる時には絶対に感じた事のない、“安堵感”だった。


「……良いんだよ、私達は皆で決めたの。ブロッサムちゃんにいてほしいって」


 そっとマミの指が、ブロッサムの頬を撫でる。

 知らず知らずのうちに、涙が溢れていた。

 もう1人じゃないという安心感だったのか、それとも、理由なく必要とされた事が、ただただ嬉しかったのか。

 きっと両方だ。

 この感動は……この喜びは、きっと両方だ。


「で、どうする?」


 ウィンドウが目の前に開く。涙で歪んでいても、不思議と画面の文字ははっきりと見えていた。


『《嘲笑う鬼火》に招待されました。

 所属しますか? YES/NO』


 ……これは、きっと始まりだろう。

 自分がようやく1人でなくなる始まり、なんだろう。

 勿論、待っているだけでは何も得られない。強請るなら、手に入れる努力をしなければいけない。逃げた場所でもそれは変わらない。

 でも、皆がいてくれるならば。

 こんな優しい人達が隣にいてくれるならば――自分は、どんな事だって頑張れると思えるから。




「――よろしく、お願いします」




 ブロッサムは、涙に濡れた笑みを浮かべながら、『YES』の部分をタップした。






「……そういや、まだ金の確認してないじゃん、お前」


 一通り泣きはらした後トーマに言われて、ブロッサムは手に持っていた皮袋を見る。随分重いはずなのに、それを感じなかったのは、よっぽど目の前の事が大事だった証拠だろう。


「ほら、タッチすれば金額が見れるから、確認してみろよ」

「え、あ、はい」


 早く早くと妙に急かすトーマに従って、皮袋をタップする。開いた画面には、〈金須袋〉というアイテム名、『内容金額:100万M』という大金。

 そして、持ち主が自由に設定出来るフレーバーテキスト(説明文)が載っていた。


『今回は、気付いてあげられなくてごめん。

 これで埋め合わせ出来るとは思っていないけど……ゲームでは(・・・・・)こういう形で。

 現実での(・・・・)埋め合わせはまた今度。

 アーサーこと、




 香納朝也』




「――エェエエェエエエェエェェエェエェ!?」




 本日何度目かになるブロッサムの絶叫が、街中に響き渡る。

 ――その後、実はブロッサムのリアル情報をマミ達に教えたのが兄だったり、兄はつい最近までブロッサムがトーマと一緒にいるのを知らなかったり、現実で兄から色々話を聞いたりした。

 したのだが……これはあくまで、蛇足だろう。

 彼女にとって、ゲームの本番が終わっても……まだ現実での本番が終わっていないのだから。







次回の投稿は11月15日の0時に行います。

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