表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/49

8時限目 彼女に触りたい。

突発的に思いついた回なので、若干完成度が低いかもですが……。

ともかくよろしくお願いします。

「ひ――じゃなかった。詩子さん」


「なんですか? おお――失礼しました――帝斗くん」


 今日も、ぼくたちの1時間が始まった。

 名前で呼び合うのは、まだ苦手だ。

 意識しないと、上の名前で呼びそうになる。


「前から聞きたかったことがあるんだけど、いい?」


「はい。なんでも聞いて下さい。わたしも帝斗くんに自分のことを知ってもらいたいです」


 素直に答えてくれる。

 やっぱり良い子だなあ。

 でも、この質問は気が引ける。

 詩子さんを傷つける事になるかもしれないからだ。


 それでも、ぼくは好奇心を抑えられなかった。


「もしかしたら、気分を害するかもしれないけど」


「かまいません」


 詩子さんは穏やかに微笑む。

 天使のようだ。

 ぼくは一瞬、天に召されそうになる。


「あのね。聞きたいのは、その――。告白のことなんだ」


「告白?」


「詩子さん、毎日告白を受けてるでしょ? それをどう思ってるのかなって」


 詩子さんの明るい笑顔が急速にしぼんでいく。

 ぼくは慌てた。


「ごごご、ごめん! やっぱり聞くことじゃなかったね。やっぱ話題を――」


「いいえ。帝斗くんが気になるのも当然だと思います。恋人が毎日、誰かしらから告白を受けているのは、あまり見ていて気持ちがいいものじゃないですもんね」


「え……。あ、ううん」


 ぼくは返事を濁した。

 実際、その通りだ。


 こうして1時間だけ会うようになってからも、詩子さんに告白する人間は後を絶たない。

 1週間に3度ぐらいのペースで、円卓の包囲を突破し、野良告白を強行する生徒がいる。そのたびに、詩子さんの舌鋒が轟くといった状況は、まるで改善されていない。

 未だに彼女に許された自由は、この1時間だけなのだ。


「有り体に申し上げて、迷惑と思ってます」


 やっぱり……。


「でも、同時に申し訳なくも思っています」


 詩子さんは上目遣いでぼくを見る。

 言葉通り、申し訳なさそうに言葉を継いだ。


「帝斗くんに告白してわかりました。告白って大変なんだなって。自分でするまでは知らなかったんです。わたしにとって、呪いの言葉でしたから。それまで、すごく嫌でした」


「その気持ちが、あの辛辣な返しなの?」


 反射的にぼくは尋ねる。

 実は、1番聞きたかったのはそこだった。

 詩子さんは頬を染める。


「はじめはあんな感じじゃなかったんです。でも、遠慮をするとつけあがる人がいて」


 なるほど。

 曖昧に返事しちゃうと、勘違いする人がいたんだな。


「いつからあんな感じなの?」


「子供の時からですね。はじめは冗談だと思ってたんです。特に意識はしなかったんですけど、小学5年生の時、担任の先生に告白されて……。そこでやっと、みんなが真剣だってことに気づいたんです」


 大変だったね。

 その言葉が出かかって、ぼくは慌てて口を噤んだ。

 そんな安っぽい言葉では測れないほど、詩子さんは地獄を見てきたんだと思う。


「帝斗くん……。もしかして、わたし怖い人だと思ってました?」


 ぼくは首を振る。


「全然……。入学式の時に、詩子さんの笑顔を見てたから、本当は優しい人だって信じてたよ」


「良かった。嫌われていたりしたら、どうしようとずっと悩んでたんです」


 心底ホッとしたように息を吐く。


 嫌ったりするものか。

 ずっとずっと好きだったんだ、君のこと。


「でも、ああいう言葉をいうのって辛くない」


「辛いですけど、ちょっと楽しいです」


 え? 意外……。


「その人がどんな言葉を投げかければ諦めてくれるのか、いつも考えるんです。最近は、顔を見るだけでわかるようになりました」


 顔を見るだけで!

 詩子さん、変なスキルを体得しつつあるな。


「はじめは凄く嫌でした。でも、中途半端が1番人を傷つけるっていわれて」


「もしかして、会長?」


 詩子さんは頷く。

 あの人、やっぱり腹が立つぐらい有能だな。

 会長が男じゃなくて良かったと心の底から思うよ。


「あの……帝斗くん。わたしからもお願いがあるのですが」


 詩子さんは話題を変えた。

 ぼくは首肯する。

 だが、目の前の彼女はすぐには切り出さなかった。


「もしかしたら、気分を害するかもしれませんが」


「え? 詩子さんも……。ううん。いいよ。なんでも来い!」


「あのですね。出来ればでいいんですけど……」



 帝斗くんの顎を触らせてもらっていいですか。



 パチパチ……。

 ぼくは2回瞬きをした。

 え? うん? ちょっと何をいっているかわからない。


 詩子さんが……ぼくの……顎を…………触る?


「え? えええええええええ!!??」


 思わず叫んだ。

 詩子さんはぴくっと肩を寄せて縮こまった。


「だ、ダメでしょうか?」


 いや、ダメとかじゃなく。

 むしろ触ってほしいぐらいだけど、一体どうして?


「よく園市くんとじゃれてるでしょ?」


 そのじゃれているというのは、なんとも控えめな表現だけど、言わんとしていることはわかる。


「その時、よく帝斗くんの顎……その…………ぽよぽよしてるじゃないですか」


「う、うん」


「それを見ながら、触ってみたいなって」


 言っちゃった――という感じで、詩子さんは小さく悲鳴を上げる。

 一方、ぼくは呆然としていた。


「ダメでしょうか?」


「いやいや……。むしろホントにそんなんでいいのって感じだよ」


「はい。わたしは触りたいと思うので」


「ちょっと汗を掻いてるよ」


「わたしは気にしません」


「顔を洗ってこようか」


「お構いなく。じゃ――早速」


 詩子さんは腕まくりをして、はっと息を吐く。

 今から果たし合いでもするかのような気合いの入れようだ。

 表情も嬉しそうだし。

 無下に断ることもできない状況だった。


 仕方ない。

 彼女がそこまでいうなら、触らせて上げよう。

 そもそも嫌じゃないんだ。

 むしろ、触ってほしいというか(ぽっ)。


「では――」


「は、はい!」


 ばっちこい! という感じで、ぼくは頬を張る。

 もちもちっとした肌は絶好調のようで、ぷるるんと波立った。


 詩子さんはそっと手を差し出す。

 ピンと真っ直ぐに伸びた細い指は、段々と近づいてきた。

 緊張に耐えきれなくなり、強く目をつぶる。


 ぷるん……。


 目の裏を見ながら、詩子さんがぼくの顎を撫でる感触だけを感じる。

 さらに――。


 ぷるん……。ぷるぷるん……。


 子猫の顎でも撫でるようにもてあそぶ。

 この時のぼくの心境はというと――。



 はあああああああああああ……。

 きもちえええええええええ!!!



 普段、園市に撫でられているのとはまるで違う。

 無数にある顎の痛点が、まるで稲妻のようにぼくを刺激し、詩子さんのしっとりとした指の腹は、絶妙なタイミングでぼくの顎を押しつけた。

 極上の羽毛で撫でられているかのようだ。


「柔らかい……」


 一方、詩子さんはぼくの顎を撫でながら呟く。

 明らかに目の色をかえ、一心不乱にぼくの顎をなで続けた。


 このまま詩子さんの猫になって、嬲られたい。


 あまりの多幸感に、ぼくの精神はドロドロに溶けていった。


「ふおおおお……」


 まるでオ〇ムの啼き声のようなものを上げる。

 詩子さんは慌てて手を離した。


「ご、ごめんなさい。わたしったら、つい――」


 全然いいんだ。

 気持ち良かったし。

 何なら1時間ずっと撫でてもいいんだよ。


「え?」


「いや、なんでもない」


 あれ? もしかしてぼく、無意識のうちに喋っていたのだろうか。

 完全に精神と思考がぐちゃぐちゃになってるな。

 自分の意識がどっちにあるかわからない。


 そんなぼくの意識を一瞬のうちに固まらせた魔法の言葉を、詩子さんは放った。


「帝斗くんは、わたしのことも触りたいですか?」


「え?」


「どこでもいいですから。お好きなところを……」


 お好きなところ……。


 ぼくは見た。

 姫崎詩子の首筋を。

 姫崎詩子の唇を。

 姫崎詩子の太ももを。

 姫崎詩子のお尻を。


 そして――。


 姫崎詩子の胸を――。



 触りたい!



 単純にそう思った。

 神の奇跡。

 55億年の1人の美少女。

 クレオパトラと楊貴妃と小野小町を足しても無理!

 宇宙一の美少女。


 それに触ると言うことは、地球上にある偉大な文化物より重大なものを触ることと同義といっていい。はっきり言って、恐れ多いことだ。


 それでも、ぼくは彼女に触りたい。

 ぼくの恋人を。

 彼女にふれたい。


「い、いいの?」


 ごくりと喉を鳴らす。

 詩子さんは気恥ずかしそうにしながらも、頷いた。


 恋人の了承は得た。

 あとは触るだけだ。

 でも、どうしよう。

 どこを触ろう。

 触りたいところはいっぱいある。

 いや、もうこの際、全部……。

 いやいや、それはやりすぎだろう。

 ……でも、詩子さんが許してくれるなら。


 ぼくは大きく深呼吸する。

 心を落ち着け、なるべく冷静にいった。



 じゃあ、手を……。



 自然と口に出ていた。

 何か考えがあったわけじゃない。

 ただぼくの視界に映った詩子さんの手が、何故かその時、宝物のように映った。


「はい」


 静かに詩子さんは返事した。

 腕を伸ばし、手をぼくの方に向ける。

 ぼくも恐る恐る伸ばした。

 開かれた彼女の手を、指を絡めるように握る。


 柔らかい……。

 そして熱い。


 指先に回る血液の循環から、詩子さんの拍動がわかる。

 ドキドキしていた。

 きっと、詩子さんもぼくの鼓動を聞いているだろう。


 同時に、ぼくたちは顔を上げる。

 視線を交錯させた。


 詩子さんは微笑む。

 ぼくも倣った。


 幸せな1時間(じかん)

 いつまでも続けばいいと思った。


日間ジャンル別7位まできました。

夢の5位まで行きたい!


引き続き、ブクマ・評価・感想をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ