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絶対無理と思っていた学園一の美少女と付き合い始めたら、何故か甘々な関係になりました  作者: 延野正行
終章

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40時限目 わかれよう、ぼくたち

「え……」


 当然、驚いた。

 だけど、詩子さんは言葉を続け、経緯を話す。

 よどみもなく、迷いもない。

 時々、微笑む姿は、いつもの詩子さんだった。


 きっかけはぼくだった。


 以前行った進路相談で、詩子さんなりに真剣に考えたそうだ。

 その過程で自分には何もないことに気づいた。

 何かがやりたいということがない。

 だから、ぼくが将来の夢は小説家と話をした時、単純に羨ましかったという。


 仕方がないことだ。

 詩子さんの人生の大半は、如何に人から愛を断るかということだったんだから。


 詩子さんはそれも認めた上で色々と考えた。

 そして、つとぼくの顔が浮かんだらしい。

 それはぼくが美味しそうに詩子さんが作った弁当を食べる姿だった。


 やるなら自分の好きなことをやりたい。

 中途半端ではなく、徹底的に。


「だから、わたし……。海外へ行って、一から料理を学びたいって思ったんです」


 海外でなくてもいいと思った。

 でも、きっとそこでしか、詩子さんは落ち着いて学べないかもしれない。

 確かに最善の決断だ。


 話を聞きながら、様々な思いが交錯した。

 嬉しさもあったし、悲しさもあった。

 応援したい気持ちもあったし、その手を引きたくなる願いもあった。


 胸が一杯で、何を話せばいいのか。何が最善なのかわからなかった。

 泣き出さなかったことが不思議でならないぐらいだ。


「いつ?」


 そう尋ねるのが精一杯だった。


 軽やかに自分の将来を語っていた詩子さんの表情が固まる。

 その唇は震えていた。


「3学期が終わったら」


 ――――っ!


 息を飲んだ。

 心臓が止まるかと思った。


「ず、随分、急だね」


「父の知り合いで、弟子を探してる人がいるんです。話をしたら、だったら来ないかって。高校を卒業してからだと、遅いみたいなんです。だから――」



 応援してくれますか、帝斗くん。



 詩子さんは笑った。

 何度も見た恋人のスマイル。

 悲しいほど綺麗だった。

 けれど、真っ直ぐに見られない。

 唇を震わせ、瞼をピクピクと動かし、明らかに無理に作っていた。


 きっとこれは、真具さんの差し金だろう。

 おそらく事前に転校することをぼくが真具さんから聞いていることを、詩子さんは知っている。

 ぼくが味わった苦しみ、悲しみ、つらさ。

 そして、詩子さん自身の感情。


 全部を飲み込み、理解し、心が壊れそうになっても、彼女は気丈に笑みを浮かべている。


 すべてはぼくを安心させるため。

 彼女の極上の優しさだった。



 ……ふざけるなよ。



 そんなの優しさなんかじゃない。

 単なる同情だ。

 つらさをいたわることが、本当に恋人といえるのだろうか。

 冗談じゃない。


 それじゃあまるで……。


 本当にぼくは君と恋人のふりをしていたようなものじゃないか。


 ショックを隠せなかった。


 色々な人たちがいった言葉。

 ぼくたちの関係は異様だ、と。


 だけど、ぼくたちは――いや、少なくともぼくは違った。

 幸せだった。

 たった1時間。

 詩子さんといられるこの時間が何より大切で愛おしかった。


 それが今――。


 彼女自身によって否定されたような気がした。


 そっと詩子さんを抱きしめた。

 唐突な行動に少し彼女は戸惑っていたけど、最後にはぼくの大きな身体に身を預けてくれた。


「詩子さんは、ぼくが好き?」


「当たり前です! わたしは絶対帝斗くんを嫌いなったりしません。例え、海外にいっても、ずっと……。ずっと帝斗くんのことが好きです!」


 自分で訊いて、赤くなってしまった。

 思っていた以上に、詩子さんから「好き好き」アピールが来たからだ。


 どんな形であれ、彼女がくれる好意は猛烈に嬉しい。


「詩子さんはぼくといて幸せ?」


「はい」


「わかった。ぼく……決めたよ」


 詩子さんを強く抱きしめる。

 そっと耳元で呟いた。



 別れよう、ぼくたち……。





 ◇◇◇◇◇



 次の日から、ぼくたちは他人になっていた。

 詩子さんはいつも通り登校し、ぼくは大きな声援に包まれる校門前を横目に、校舎の方に歩いて行く。

 教室では、どうしても目が行く。

 けど、少し目があっても、彼女の顔がほころぶことはない。

 まるで昔に戻ったようだった。


 昼休み。

 ぼくは会長に電話した。


『やあ、帝斗くん。久しぶりに私の声が聞きたくなったのかい?』


 相変わらず、会長は会長だった。

 妹が人生の岐路に立たされているのに、微塵も変化を感じさせない。

 ぼくは冗談を無視して、単刀直入にいった。


「お話があります。今から会えませんか?」


『今からかい? 随分急いでいるんだね』


「ぼくの質問に答えてください」


『ふぅ……。なら、円卓の教室で会おう』


「わかりました」


『帝斗くん』


「なんですか?」


『ベッドは用意した方が――』


 ぼくは電話を切った。


 数分後、ぼくは姫崎詩子告白管理委員会がある教室の前にいた。

 がらりと開ける。

 何度か来た事があるけど、ふとよぎったのは、初めてこの教室に来た時のことだ。


 ここからぼくと詩子さんのお話は始まった。

 そういっても過言ではないかもしれない。


 中は相変わらず薄暗かった。

 蝋燭のようなオレンジ色の光が、ぽつんぽつんと輝いている。

 学校ではどこにでもあるような机を円環状に並べられているのも、最初来た時となんら変わっていなかった。


「やあ、帝斗くん。適当に座りたまえ」


 円卓の奥の方に座った会長が、席を勧める。

 手近にあった席に座ろうとしたが、一旦立ち上がると別の席に移った。


 ぼくが初めて来た時に座った席だ。

 会長が「叛逆の騎士」といった席だった。


 口元の辺りで指を組んだ会長は、薄く微笑む。


「君が私に自ら会いに来たということは、詩子から話があったようだね」


「昨日、聞きました。料理人になるため海外に行くって」


「なるほど。ならば、私からは何もいうことはないよ。何かをすることも出来ない。父の決定は絶対だ。何せ姫崎グループの総帥だからね。やろうと思えば、今すぐにでも首相の首を変えることが出来るほど、影響力を持っている。私事とは言え、一高校生がその決定を覆すことは出来ないよ」


「わかってます。ぼくはそれを止めることはしません。その上で、会長に聞いてほしいことがあります」


「ほう――」


 会長は目を細める。

 立ち上がると、すぐ側までやってきた。

 デジャブる。

 これもまた初めてきた時と一緒だ。


「聞こう」


「ぼくと詩子さんは別れました」


 会長は無反応だった。

 怒りもしなかったし、悲しむこともしない。

 ただじっとぼくを見つめた。


「嘘はいっていないようだね」


「冗談でだっていいたくありませんよ、こんなこと」


「だけど、失恋した人間の目じゃない。むしろ、君の顔は昨日よりもたくましくみえる」


「そうでしょうか」


「『男子3日会わざれば刮目してみよ』なんて言葉があるけど、君の場合1日でも十分のようだ。まあ、それはそれとして……。聞こうじゃないか。用件はそれだけじゃないんだろ?」


「単刀直入に――」



 姫崎詩子告白審査試験を受けさせて下さい。



 会長はニヤリと笑った。


「そう来たか……。でも、試験なんて受けてどうするつもりだい? たとえ、君が試験を受けて、晴れて詩子と付き合うことが世間に認められても、父の決定は覆らないよ。今さら、試験を受けたところで無意味だと思うけどね」


「わかってます。だから、会長にはもう1つお願いがあります」


 ぼくは提案する。

 会長はすべての話を聞き終えた後、ケラケラと笑った。


「ふーん。何を考えているのかわからないけど、面白そうではあるね」


「提案を呑んでくれるんですね」


「いいだろ、それぐらい。ただし試験を受けるからには、いち受験者として扱うよ。ひいきはしないから、そのつもりでね」


 ぼくは大きく頷く。


 望むところだった。


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