32時限目 劇中は秋です。
お待たせしました。
今日、明日に分けて、最終回まで投稿していこうと思います。
よろしくお願いします。
灼熱の太陽。
空の際まで広がる青い海。
押し寄せる潮騒と、白い砂浜。
あれ? えっと……。
なんだっけ?
どうしてこうなってるんだろうか。
確か今って、劇中は秋だよね。
てか、もうすぐ冬でクリスマスとか、お正月のイベントとか始まるはずだ。
なのに、あれ? なんで、ぼく……常夏の砂浜なんかにいるんだろうか。
ていうか、劇中ってなんだよ。
会長みたいなことをいっちゃった。
「みかどく~ん」
ぼくを呼ぶ声が聞こえた。
振り返らなくてもわかる。
詩子さんの声だ。
いつも以上に弾んでいるような気がする。
常夏の海。
砂浜。
恋人……。
ちょっと待って。
それってつまりあれだよね。
このシチュエーションで、ファーを首からかけて、スパンコールを着た詩子さんとか現れないよね(ちょっと見てみたい気もするけど)。
「詩子さん」
期待に胸を躍らせ、ぼくは振り返る。
素足で砂を蹴り、真っ白な肌をこれでもかと露出した詩子さんが、濡れた髪を振り乱し、ぼくの方へと走ってくる。
はうわ……!
一気に顔が赤くなる。
鉄のにおいを感じて、慌ててぼくは鼻を押さえた。
一体、なになに? なんなのこのシチュエーション。
確認するように、ぼくは目を滑らせた。
間違いない。
ぼくの方に今向かっているのは、水着姿の詩子さんだった。
美しい……。
何度も何度もいった言葉だけど、それ以外の言葉が思い浮かばない。
しっとりと濡れた二の腕。
手を入れたくなるほど、くびれたウェスト。
美しいバストも、今日はこれでもかと揺れていた。
ぼくの側にやってくると、息を整える。
それでも笑顔を崩さず、会えたことの喜びを噛みしめるように笑顔を振りまいた。
夏の太陽の下での詩子さんは格別に美しく、涙が出そうになる。
だけど……。
1つ不満、いや疑問を呈するなら、詩子さんの格好だ。
水着であるのは間違いない。
おかげで波打ち際で普段見ることができない肌の色を、堪能させてもらっている。
だが、その……。
なんで……スクール水着なんだろう。
そう。そうなんだ。
詩子さんはいわゆるスク水を着用していた。
オーソドックスな紺色に、胸の名札には「ひめざき」と子供が書いたような文字がでかでかと記載されていた。
悪くはない。
詩子さんだからというのも理由としてはあるだろうが、似合っている。
特にスク水は身体の線が出やすい。
ピッタリと貼り付いた感じが、一層えっちな感じがする。
「どうですか、帝斗くん。似合ってますか?」
「う、うん。似合ってるよ」
ふんふん、と頷く。
もはやぼくにとって似合ってるという領域を越えていた。
包み隠さずいえば、なんか……ああ……こうムラムラするというか。
スタイルが良くて美人がスク水を着るってこう……ね。
男に色々あるんだよ!
「うれしい!」
「――!」
すると、詩子さんはぼくに飛びついた。
顔を掴むようにぼくを抱きしめる。
ぐりぐりと自分の胸を押しつけた。
ちょ! 詩子さん!
その……あの……胸が! 胸が当たってます。
て――。
ちょっと待って。
すっごい柔らかい。
あれ? おかしい?
詩子さんってこんなに柔らかかったっけ?
いや、そういうことじゃなくて。
詩子さん、胸が大きくなってるような。
ぼくが知る詩子さんの胸の大きさって、なんというか大きすぎず小さすぎず。
手を置くにはちょうどいいというか。
好みの大きさというか。
ともかく、こんなに大きくなかったはずだ。
いつの間に??
「何を言ってるんですか、帝斗くん」
「へ?」
詩子さんは目を細める。
妖艶に微笑んだ。
「帝斗くんが、一杯わたしの胸を揉んだからじゃないですか……」
ぼくの手を取り、詩子さんは自分の胸に押し当てた。
柔らかい。そして温かい。
そのまま飲み込まれそうな感覚だった。
「あ……」
詩子さんが吐息を漏らす。
しまった。ちょっと力を入れすぎた。
「ご、ごめんなさい、詩子さん」
「いいえ。いいんですよ、帝斗くん」
すると、ぼくの手をさらに自分の胸に押しつけた。
「もっと揉んでください。詩子のおっぱいをもっと大きくしてください」
「はわわわわわ……。そんな――」
うそ……。
今日の詩子さん、ちょっと積極的すぎないか。
ああ。ダメだ。
理性が溶けそう。
このままでは、白い砂浜の上で一線を越えてしまう。
「いいじゃないですか? 詩子としましょう」
「え? な、なにを……」
「い・い・こ・と、です」
はうわ!!
ぼくはバッと起き上がった。
ゆっくりと焦点が合っていく。
初めに見えたのは、シートだった。
続いて、ごうという低音が耳朶を打つ。
顎を撫でると汗がびっしょりだった。
ぼくの顔より少し大きな窓からは、強い日差しが射し込み、直接肌を焼いていたらしい。
おかげで、ヒリヒリする。
窓外を覗くと、真っ青な海が見えた。
はあ、夢か。
また汗を拭う。
ぼくは一旦窓のシェードを閉め、シートに深く腰掛けた。
もう一眠り。
いや、夢の続きを堪能しようと考える。
――って、あれ?
ちょっと待って。
なんかおかしい。
もう1度、目を開ける。
常に耳朶を振るわす騒音。
微妙な震動。
時折感じる浮遊感。
ハッと横を見ると、美人の客室乗務員がニコリと微笑み返した。それもヨーロッパ系の外国人だ。
再びシェードを開く。
常夏の太陽のような光が差し込んだ。
下を見ると、真っ青な海が見える。
おそらくそれは高度1万メートルからの景色だ。
なんで、ぼく……。飛行機に乗ってるんだ?
「どうしたんだい、大久野くん。さっきから君、すっごく挙動不審だよ」
妙に聞き覚えのある声が聞こえた。
邪悪な悪魔の囁きのようだ。
「悪魔は邪悪と決まってるじゃないか」
ぼくの心の声を読んだばかりか、語句の重複まで指摘してくる。
やはり、ぼくの隣に座るこの人は、悪魔そのものらしい。
「やだな、大久野くん。私はこれでも主催者なんだぜ。君の旅費を肩代わりしてる人間だ。感謝こそすれ、悪魔呼ばわりされるいわれはないはずだけど」
光乃城学園生徒会長――姫崎亜沙央は、大きなサングラスを取った。
タンクトップにジーンズのホットパンツというファッションは非常に目のやり場に困るが、ぼくは勇気を出して睨む。
「いやいや……。だって、ここに来るまでの記憶がないんです。目の前にいる悪魔に食われたとしかいいようがありません」
「ほほう。なかなかいうようになったじゃないか」
「おかげさまで。悪魔が近くにいると、レベルアップでもするんですかね」
全く事情を聞こうにも、この悪魔ではダメだ。
余計に混乱してしまう。
他に人はいないのか。
この状況を的確に説明出来る人物は。
「大久野くん、起きたんですね。良かった」
春風のように聞こえてきたのは、今度こそ詩子さんだった。
キャビンアテンダントに簡単な英語で飲み物をもらう。
何事もなかったかのように、ぼくにオレンジジュースを渡した。
「あの? 詩子さん、これは?」
詩子さんは少々困った顔をしながら、こういった。
「突然すいません。……今から、大久野くんには」
わたしたちのお父様に会っていただきます。
続きは1時間後になります。




