23.5時限目 狂乱の王様ゲーム【後編】
前編の続きになります。
お気を付け下さい。
その後、一進一退の攻防(?)が続く。
定番の尻文字、3回廻ってワン。
デコピンに、しっぺなどなど。
あらゆる罰ゲームが披露される。
とりわけしんどかったのは、お屋敷1周だ。
よりにもよって、ぼくに当たるなんて……。
そしてあっという間に時間は過ぎ、ラストゲームになった。
結構肉体系の罰ゲームが続いたからか、皆は疲労困憊だった。
ぼくも少し頭がぼんやりとしている。
そんな中、くじ引きが始まった。
「「「「「王様、だーれだ!?」」」」」
すると、1人の人物が立ち上がった。
「しゃああああああああああ!!!!」
全身でガッツポーズするかのように身体をくの字に曲げたのは、会長だった。
そういえば、ずっとこの人は王様役やっていなかったような気がする。
それはそれで良かったのだが、まさかラストゲームで引くとは。
はっ……。
まさかこれも策略。
ラストゲーム。
すでに穏便な罰ゲームの選択肢はなくなり、あとは過激なものしか残っていない。
つまり、会長はこの状況を想定した?
いやいや、考えすぎだろ。
そもそもこの王様ゲームは、王様に対して罰ゲームを実行するのは禁止されている(あらかじめ会長から説明されていた)。
このくじが意図的に決められたものなら、自分は王様から外れるはず。
だが、王様が命令を決められるところが、このゲームの醍醐味。
会長の思惑は、やはり過激な命令を行うことにあるのだろう。
ともかく、詩子さんに当たらないのを祈るだけだ。
会長はやがて口端を裂いていった。
「2番が、1番にキスをする」
きた――。
一同が息を呑む。
周囲を見回すが、誰も番号を申告しない。
「じゃあ、まずは詩子。君は何番だ?」
会長は尋ねる。
詩子さんはそっと棒を見せた。
「3番です」
よーし、よし!
なんとか危機は回避出来た。
「「チッ」」
まるで実の姉妹のように会長と理采は舌打ちする。
ふふん。残念だったね、2人とも。
「じゃあ、次は新氏くん」
鈴江は少し顔を赤らめながら答えた。
「えっと……。1番です」
な!
鈴江が1番か……。
「理采くんは?」
「4番です。残念ですけど、鈴江ちゃんにキスをする権利は、お兄様にあげますわ」
にやりと笑った。
そうなんだ。
ぼくが2番。つまり、鈴江にキスをするのは、ぼくの役割だった。
言うまでもなく、このゲームの参加者の中で、男はぼく1人だ。
もし、ぼくが当たれば、確実に異性と当たることになる(1人例外はいるけど)。
今思えば、会長の狙いってこういうことだったのかもしれない。
ぼくは横目で見つめる。
顔を背けながら、くつくつと笑っていた。くそ――!
けど、鈴江だったのが、幸いだったかな。
容姿はともかく、なんといっても同性だ。
まだ気軽に考えることが出来る。
「さあ、大久野くん。盛大にぶちゅーっといってくれたまえ」
人の気も知らないで。
いや、会長の場合、その気持ちをわかってて煽ってるから、余計太刀が悪い。
仕方なく、鈴江に向き直った。
幼なじみは顔を背けている。
「す、鈴江……。いい?」
「う、うん」
ようやく鈴江は振り返る。
すでにその顔は真っ赤になっていた。
顎を引き、大きな瞳をぼくの方へと向ける。
薄い胸に置いた手は、少し震えていた。
あれ?
ぼく……。なんでドキドキしてるんだ?
相手は鈴江で、しかも同性。
た、確かに可愛いし、ホントに女の子にしか見えないんだけど……。
でも、こうまで意識することは。
けれど拍動はぼくの胸を打ち続ける。
やがて、鈴江の方から口を開いた。
「や、優しくしてくれ」
きゅん……。
ちょ! なんか今、変な擬音が。
ぼくは流されるまま顔を鈴江に近づけていった。
場のムードが盛り上がっていく。
空気が熱く感じた。
綺麗な顔だ。
シルクのような白い肌を見ながら、ぼくは思った。
薄く光る唇が、どんどん近づいてくる。
やばい。
なんか変な気分だ。
その時、ぼくは視線を感じた。
ちらりと横目で見る。
詩子さんだ。
鈴江と同じく胸に手を置いている。
心配そうに――というよりは、明らかに嫌そうな顔で、ぼくたちを見つめていた。
――うん。だよね。
ぼくは鈴江に囁く。
「ごめん、鈴江」
ぼくは鈴江の顔から身をそらした。
女の子のような細い手首を掴む。
すると、手の甲にキスをした。
軽く触れると、ぼくはすぐに離す。
「あ……」
鈴江の吐息が漏れる。
「これでおしまい」
ぼくは苦笑いを浮かべた。
当然、会長はむすっとした顔で怒っている。
「なんだよ、もう……。面白くないなあ、君は」
「キスする場所を指定しなかった会長の落ち度ですよ」
ぼくは肩を竦める。
会長はぺんっと額を叩いた。
「なるほど。これは1本とられた」
苦笑いを浮かべたけど、ここまでが会長の思惑の1つなんだろう。
まったく……。この人はぼくを試して何がしたいんだろうか。
こうして姫崎邸での1日は終わった。
ぼくは詩子さんに連れられ、例のペギィがいる部屋にいる。
世界一果報もののマイクロブタは、ぼくと見るなり敵意をむき出しにした。
前肢を動かし、柵を跳び越えようとする。
確かに……。他人を見ると興奮するようだ。
詩子さんを守ってるつもりなのだろうか。
優しく労ってやろうとしたら、危なく噛みつかれた。
わかったよ、ペギィ。
お互い自分の仕事をしよう。
ペギィとも会え、ぼくは詩子さんに連れられ、玄関を目指した。
「今日はありがとう、詩子さん」
「いいえ。わたしの方こそありがとうございました。とっても楽しかったです」
満開の桜のように詩子さんは笑う。
雅やかな美しさを見ながら、ぼくは少し頭を下げた。
「あの……。ごめんね。王様ゲームの最後。心配させて」
「いいえ。……帝斗くんを信じてましたから」
よかった。彼女を裏切るようなことをしなくて。
たとえ、同性であっても、やっぱり恋人が目の前で他人とキスをするのは嫌だよね。
「帝斗くん。もし、あの時新氏さんじゃなく、わたしならキスをしました?」
詩子さんは少しもじもじしながら尋ねる。
少し頬を染める姿は、抱きしめたいぐらい可愛い。
ぼくは躊躇うことなくいった。
「したよ。……ただし、みんなの見ていないところで」
「ふふ……。今は誰もいませんよ」
ぼくは振り返る。
確かに姫崎邸の廊下には、誰もいなかった。
「だね……」
ぼくはそれだけいって、詩子さんに顔を近づけた。
詩子さんもまたそっと唇を差し出してくる。
艶っぽい音を立て、ぼくたちは唇を重ねた。
全身を抜けていく刺激。
頭がぼうとなる感覚。
何度やっても変わらない。
はじめてした時と同じだ。
「ん……」
詩子さんの吐息が漏れる。
1つ変わったことがあるとすれば、お互い少し慣れてきて、長い時間キスが出来るようになったことだろう。
やがて唇を離す。
お互い顔を熱くしながら、微笑んだ。
「じゃあ、また明日。学校で」
「はい」
詩子さんは笑顔で見送る。
今日はみんなと遊んだけど、明日は2人っきりになれる。
たった1時間だけ。
でも、ぼくはその1時間が待ち遠しかった。
姫崎邸のお話はこれにて終わりです。
ブクマ・評価・感想いただければ励みなります。
あらかじめ予告させていただいていましたが、
明日から1日1話投稿させていただきます。
時間は20時更新の予定です。
これからもよろしくお願いします。
 




